【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

文字の大きさ
26 / 248
王都ルミエラ編

26話 興味深い女性だった

しおりを挟む
「明日、宰相殿の講演聴きに行くらしいっす」

 スパイ容疑のある異国人女性に張りつかせていた諜報員が、実に面白くなさそうに報告した。どういうことか。説明を求めると、どうやら交通局員として経団連フォーラムに一般参加するらしい。その上、どうやら目的は私の講演のようだ。

「なぜ?」
「さぁ? 宰相殿のファンなんじゃないっすか。以上です。じゃあ風呂借りますねー」

 以前はそんなことはなかったのだが、彼女につけてからというもの、この諜報員は私の私室の風呂を使っていくようになった。
 減るものではないし特に問題はないのだが、以前理由を尋ねたら「ソノコ、あんた並みに綺麗好きなんですよ。暇さえあれば風呂に入りに行く」とぼやいた。ターゲットに自分を合わせているのだろう。仕事熱心で良いことだ。

 経団連フォーラムへ来ることにどういう意図があるのかまるで読めないが、現段階では当該女性自身について危険な要素はないという情報しか上がってこない。頭に入っている講演内容にも機密事項はなんら含まれていないため、諜報員をつけたまま泳がせることにした。

 当日、彼女は群衆に紛れ込もうとすることもなく、実に堂々と最前列に姿を表した。私が見ても泰然としたもので、ずっとこちらを見たまま、ただノートになにかを書き付けている。講演中折々に視線の端で確認しても、その姿勢は一切ぶれることなくそのままであった。その上、私の話の内容に呼応するかのように何度もうなずいている。その様子に、面には出さずただ困惑した。
 その上、講演が終わるころには泣いていた。その事実にも驚いたが、彼女に対する見方が一変したのは、フォーラムの終盤だった。

 私の友人でもあり、アウスリゼにおいて並ぶもののない商社である『リュクレース』のオーナー、シリル・フォール氏が述べた「もしかして外国の方かい?」という問い。「はい、そうです」と響いた、高すぎない澄んだ変声期前の少年のような声。
 それに続いた「あなたにとって、アウスリゼとはどんな国?」という漠然としながら内面を探る質問へ、彼女は拙い言葉を繰りつつも懸命に答えた。

「――美しい国です。とても。それぞれの人が、それぞれの立場で、必死に生きていて。富んでいる人も、貧しい人もいます」

 必死に告げられるそれらの言葉は、私の中に幾重もの層になっていた警戒心をいくらか……いや、その大部分を融かした。本心から出た言葉であろうことは、その場に居た者すべてが感じたことだろう。これが演技だと言うならば、彼女に突然質問したフォール氏のことも疑わなければならない。そんな疑問は湧かなかった。少し震える声は、確信を持って我が心アウスリゼへの愛を語っていて、私はそれを信じるに足る、と感じたのだ。

 昼餐の席でも、彼女は自らのことよりも赤の他人の心配をして、それらの福祉が満たされることを望んでいた。この女性はなんなのだろう。一体何者で、異国の人でありながらなぜここまで深くアウスリゼを愛しているのだろう。
 私の講演内容を、私が込めた願いを、あそこまで深く感じ入って聴いてくれた者が他にあっただろうか。いや、演壇上から見えたのは、早く終わってほしいと願っていそうな顔ばかりだった。眠っている者が視界に入らなかったのは僥倖で、真剣に聴いている者など新聞社の速記者くらいのものだったと思う。
 講演が失敗だったとも無駄だったとも思わないが、それでもこの度の私の言葉は、異国の女性がその全身で受け止めてくれた以上に、自国の民に届いたという手応えはなかったというのが実情だった。

 午後からの交流会では、彼女がアウスリゼへ向ける情愛以上の熱はなかった。私欲や自分の益のため私に取り入りたい者ばかりで、辟易する。これまではそういうもの、と特段疑問にも思わなかったのに、彼女の言葉にあてられた私は愚かだ。
 早々に引きあげて、私は通常業務に戻った。若年労働者の現状を把握するように秘書に申し付けて。

「オリヴィエ、素敵な講演会だったらしいじゃないか」

 リシャール殿下が夕方に内務省内の私の執務室へといらした。諜報員から報告が行ったのだろう。その瞳はどこか楽しげだ。

「思わぬ状況ではありましたが、つつがなく終わりましたよ」
「で、君の見立てでは、『ソノコ・ミタ』は真っ白な人間なんだ? ――こんな書類作っちゃうくらいに」

 私の手元の書類束に指を走らせておっしゃる。可否を仰ぎに行くところであったからちょうどいい。

「移民査証ねえ……まあ落とし所としてはいいんじゃないかな」
「我が国には大使館がない遠方の小国なのでしょう。どこに預けるわけにもいかないので、私が法務省へ提出します」
「おお、宰相自ら。入れ込んだねえ。君ああいう感じが好きなんだ? 女っ気ないと思ったら、そうか、そうか」
「誤解されませんよう。あなたの『友人』としてふさわしい待遇にしようというだけです」
「あー、心配しなくていい。たしかにお人形みたいにかわいいけどね。僕はもうちょっと凹凸ある方がいいんだ」
「そのような話ではありませんよ」

 ため息をつくとリシャール殿下は笑った。

「わかってる。君が私情でそんなことをするわけがない」

 興味を失ったようにふらりと戸口へ向かうと、振り返り「ジルはどうする? 引き揚げる?」と思い出したように述べる。

「そうですね――そのままで」

 得体の知れない、注意人物であることには変わりない。
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~

チャビューヘ
ファンタジー
※タイトル変更しました。 「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。 「……お前の声だけが、うるさくない」 心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の物語。 ----- 感想送っていただいている皆様へ たくさんの嬉しい言葉や厳しい意見も届いており一つ一つがすごく嬉しいのと頑張ろうと感じています。ご意見を元に修正必要な部分は随時更新していきます。 成長のため感想欄を閉じませんが公開はする予定ありません。ですが必ず全て目を通しています。拙作にお時間を頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

処理中です...