【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

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 マディア公爵邸にて

105話 高カロリー食は遠慮したいです

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 有言実行クロヴィスすげーって思いました。おはようございます。次の日の朝です。

「なにやったん、ソノコ?」

 早朝交代でやってきたアベルがあきれたような感心したような声で言いました。わたしなんかやっちゃいましたか? とりあえず寝る前にクロヴィスと話したことをかくかくしかじかしました。「それでか」とアベルが疲れたような苦笑を浮かべます。

「深夜勤の准士官以下がたたき起こされてマディア領全域に走らされた。ふさわしい医者をみつけて招集して、医師団を作るんだと。朝イチで布告を出すそうだ。俺はこっちがあったから免れた」
「ふへぇぇぇぇぇ‼」

 すごい! わたしと話したあと即行動したってことです! びっくり! たぶんクロヴィスも、うすうす問題意識は持っていたんでしょう。じゃなきゃこんなに早く決断できませんよね。……それだけメラニーの状況がせっぱつまってるのかもしれないけど。
 みんながどうしているのかも尋ねました。ミュラさんのクロヴィスへの働きかけは夜討ち朝駆けっぽいみたいです。わたしを解放するためにとにかく接触を図ろうとしてくれているみたいで。感動。ありがとうございます。わたしは元気です。

「和平協議は……どうなりそうなの?」

 アベルは困ったような笑顔を作って、でもはっきりと伝えてくれました。

「難しいだろな。現状では。――昨日昼、マディア軍が軍事境界線を越えた」
「え⁉」

 わたしは思わず声を上げて立ち上がりました。そんな重大な情報は、賓客という名を着せられた軟禁状態のわたしに届くわけもありません。わたしも聞いてもむだだと思って、だれにも尋ねませんでした。後悔しつつも、これを聞いたのが今でよかったとも思いました。そうでなかったら、気もそぞろでメラニーのことだけを考えてクロヴィスに意見するなんてことはできなかったかもしれない。「状況は、どうなの」と言う自分の声が低く聞こえました。「王国軍が前線を下げている。あくまで正面衝突は避けたいという意志表示だ。戦闘はまだ起きていない」はっきりとしたアベルの言葉に、胸をなでおろしつつもう一度椅子に腰かけました。

「おまえは、とりあえず自分のことだけ考えてろ。外のことは俺たちでどうにかする」
「それができれば悩みませんな!」
「だろうよ。だから、おまえがいかに平和的に解放されるかが今後のカギだと思ってそれ悩んでおけ」
「なるほど?」

 遠回しに余計なことしないでおとなしくしてろって言われた気がするぞ? でも直接そう言われたわけじゃないぞ? これはあれか、あれじゃないか? 「押すなよ、押すなよ!」じゃないか? そういうことか? よくわかんないぞ? とりあえずお言いつけ通り全力でくよくよしましょうか。そしたら見えてくるものもあるかもしれない。
 朝食はわたし専属メイドさんが持ってきてくれました。いたんだ。なんとなくちょっとだけ礼儀正しくなった気がします。なにがあったんでしょうか。エッグベネディクトみたいな玉子が乗ったマフィンとサラダでした。おいしかったです。
 ごはんを食べ終わって、さて今日はマディア公爵邸内探索、もとい聖地巡礼をしようか、と思いました。ちょうど見張りさんがまだアベルだし、少々の奇行は目こぼししてくれるでしょう。よかったです。
 グレⅡクロヴィスサイドシナリオで、一番クロヴィスがいたのは自分の執務室みたいなところなんですが、わたしが二度呼び出されたお部屋は違うところでした。きっと居住スペースではなくて、軍の施設の方にあるんだと思います。さすがにそこには巡礼できなさそうです。メラニーのお部屋は言うまでもなく。レアさんがたびたび登場する廊下があるはずなので、そこをみつけたい。ぜったいみつけたい。グレⅡオタとしても、レアさんファンとしても。これは現在奇跡的にマディア公爵邸に潜入できているわたしの使命です。
 が、突然の見知らぬおじいちゃんの来訪があって、もう一歩で部屋を出るというところを阻まれました。だれやねん。

「――元帥閣下をたばかり、要らぬことを吹き込んだのはあなたかい、お嬢さん」

 静かながら怒りのこもったその言葉に、それがだれなのかわかりました。白衣も着てましたし。
 メラニーの、主治医さんです。

「はじめまして。ソノコ・ミタです。お会いできて光栄です、先生」
「ごていねいにありがとう。わたしがだれだかわかったみたいだね。メラニー・デュリュフレ嬢の専属医、グザヴィエ・ヴィゴという者だ。あなたと親しくするつもりはないから覚えてくれなくていい」

 一度聞いただけじゃ覚えられない名前だったのでちょっとよかったです。とりあえずお部屋に入っていただきました。全身よろいのアベルも中に入って戸口に立ちました。

「茶もなにもいらないよ。もてなされる気もないからね」
「承知しました」
「――なにもわからぬ小娘かと思って来たけれども……心得くらいはあるようだね」

 さっと部屋の中をご覧になって先生はおっしゃいました。なんのことを言っているのでしょうか。とりあえず椅子を勧めましたが、それも断られました。

「言いたいことはひとつだけだ。わたしはこれまでデュリュフレ嬢を十一年診てきた。昨日今日やってきたなにも知らない者が、あの子のことをとやかく言うんじゃない。あの子の病状はわたしが一番よく理解している。なにが最善かはわたしが判断する。以上だ」

 そうおっしゃると、さっと身をひるがえして出ていかれました。怒鳴り散らされるかとも思っていましたけど、想定していたよりずっとわたしに対して冷静に応じてくださいました。きっと、メラニーの病状を一番理解しているというのは本当のことだし、ずっと支えてきたという自負もあるのでしょう。わたしはその矜持を傷つけるしかたでしか物事を運べなかったことに軽い後悔を覚えました。この訪問でわかりました。メラニーの主治医の先生は、本当にご自身のできる最善を尽くしてこられたんだ。ヤブ医者なんて思ってしまってごめんなさい。
 クロヴィスはあの先生を今後どのように扱うつもりなのでしょうか。罷免? それとも続投でしょうか。今すぐ尋ねに行きたい気持ちがありましたけれど、そんなことをしたところでいたずらに物事をかき回すだけです。気を取り直して、巡礼の旅に出ることにしました。先ほどよりはちょっとだけ気持ちが沈んでいました。

「心得って、なんだろう」

 メイドさんはやっぱり姿が見えないので、見張りさんアベルと気兼ねなく邸内を歩きます。わたしが疑問をつぶやくと、かぶとをかぶった姿のままアベルは「タツキのことだろう」と言いました。

「タツキは、根が滋養強壮に効く薬として用いられて、葉は鎮痛効果がある。花の部分も、たしかなにかの薬の材料になるはずだ。飾ってあったろ、部屋に」
「へえー! 知らなかった」
「普通は知らない。そもそも、雑草として扱われる地域だってあるからな。それをわざわざ飾っていたから、それなりの薬学知識でもあると思われたんじゃねーか」
「おお! ひょうたんからコマ!」
「ヒョウタンコ? なんだそれ」
「なんでアベルは知ってたの」
「そりゃー、いろいろあってだよ」

 いろいろあったみたいです。
 レアさん出没廊下は午前中うろついただけではみつけられませんでした。また今度アベルが見張りさんのときに探そうと思います。はい。
 で、お昼ごはんを食べに部屋へ戻りました。交代の方がもうみえていて、アベルと交代しました。「よろしくお願いいたします」と頭を下げたらちょっと戸惑っている感じの気配がありました。そして部屋へ入りかけたときに家令さんがいらっしゃって、これまでのどのときよりも低い腰でおっしゃいました。

「ミタ様。主が昼餐にご招待したいと申しております」
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