7 / 39
7
しおりを挟む
目が覚めると私はベッドに寝かされていました。ここは助けてくれた親子の家でしょうか。
窓が無いので昼か夜かもわかりません。
それから、なんだか懐かしい匂いがします。
これは、お母様が王宮から帰られた時によくしていた消毒液の匂いだと思います。
私は立ち上がってドアから外に出てみました。指輪を使った疲労も取れて、調子は元に戻っていました。少し足が筋肉痛ですけど。
狭い廊下を抜けると、少し開けた場所に机と椅子が置いていて、椅子に男性が座っていました。机には緑色や赤色の液体が入った瓶が所狭しと置かれています。
「起きたのか。随分と疲れていたようだな」
その男性は私に気付いたようです。歳は私よりはだいぶ上のようですが、青年と言っても良いくらいでしょうか。細身の整った顔立ちの人ですけど、目が鋭くてちょっと恐そうです。
「助けていただいてありがとうございます。私はフリージアといいます」
連れてきてくれたはずの親子の声とは少し違う気がしますが、とりあえずお礼を言いました。泊めていただいたことには変わりありませんから。
「私はライラックだ。君を助けたのは私ではない。ここは君のような者が運び込まれる場所なだけだ」
「ライラックさんはお医者様ですか?」
いろいろと合点がいきました。消毒液の匂いがしたりカラフルな小瓶、恐らくポーションが置いてあったり。
「私は治癒魔法が使えるわけではないから医者というより薬師になる。この診療所で薬を使った医者の真似事をしているんだ」
「薬師ですか。ポーションを作る人には初めてお会いしました」
「そうは言っても簡単なものしか作れないがな」
治癒魔法を使える者は限られているので、身分が高くないと魔法による治療はなかなか受けられません。庶民の間ではポーションの様な薬品の投与や、消毒等を用いた処置で怪我や病気を治します。
とは言っても、私達貴族も軽い怪我や病気くらいなら薬を飲んだり包帯を巻いたりしますけど。
それと、ポーションを作れる薬師は都会では引っ張りだこの人気職です。辺境の村に薬師がいるなんて意外でした。
「君を連れて来たのはマルクという男だから後で礼を言いに行くと良い。マルクの娘がしつこく様子を聞きに来ていたからな」
元気の良さそうな女の子でした。顔は見れなかったけど会ってみたいです。早めにお礼を言いに行きましょう。
「調子はどうだ。軽く診た感じだと、君は魔力の枯渇による衰弱状態だったようだ。放っておけば元に戻るが念のためマジックポーションを処方しておいた」
私が魔力を使ったということは、あの指輪は使うと魔力を消費するものだったのですね。使うと脱力していたことに納得がいきました。
マジックポーションは高価なものです。私は慌ててお礼を言いました。
「自分で作ったものだから原価は大したことはない。しかし、君は魔法を使うのだな。こんな辺境の村に何をしに来たんだ」
マトリカリアに知れたらまずいので、親に殺されそうになって家を飛び出したとは口が裂けても言えません。どう答えましょうか。
「事情があるなら無理に答えることはない。これからどうするんだ?行き倒れていたようだがアテはあるのか」
どこかに行くアテはありません。とにかく逃げて、その先にある村で暮らすというのが目的です。逃げて来たとは言えませんがそう伝えると、ライラックさんは難しそうな顔をしました。
「こういう小さな村は誰かにタダ飯食わせる余裕は無いから、全員が働いて役に立たないと成り立たないんだ。君は力仕事には全く向かなそうだし何か出来ることはあるのか」
「私に出来ることですか……家事全般と、一日一回だけなら簡単な治癒魔法が使えますけど」
指輪の事は言わないでおきました。ライラックさんは大丈夫でしょうけど、治癒魔法が使える指輪なんて、誰かに知られたら盗られるかもしれませんし。
そう言ってから、私はこの診療所で働かせてもらえないかと考えました。どうやらライラックさん一人でされているようですし、何より指輪の力が役に立つ気がします。試しにそう伝えてみました。
「私もほとんどボランティアのようなものだから給料はほとんど払えないぞ」
「それでも構いません。どうせ行くアテもないので居場所をいただけるなら充分です」
ライラックさんは少し考えてから、了承してくれました。
「部屋はいくらでもあるから住み込みで家事をしてくれないか。あとは食費がかかるから、君の治癒魔法で治療した客の治療費の半分が君の給料、という感じでどうだ」
願ってもない条件だったので私は二つ返事で了承しました。
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
私はその日から診療所で働くことになりました。
窓が無いので昼か夜かもわかりません。
それから、なんだか懐かしい匂いがします。
これは、お母様が王宮から帰られた時によくしていた消毒液の匂いだと思います。
私は立ち上がってドアから外に出てみました。指輪を使った疲労も取れて、調子は元に戻っていました。少し足が筋肉痛ですけど。
狭い廊下を抜けると、少し開けた場所に机と椅子が置いていて、椅子に男性が座っていました。机には緑色や赤色の液体が入った瓶が所狭しと置かれています。
「起きたのか。随分と疲れていたようだな」
その男性は私に気付いたようです。歳は私よりはだいぶ上のようですが、青年と言っても良いくらいでしょうか。細身の整った顔立ちの人ですけど、目が鋭くてちょっと恐そうです。
「助けていただいてありがとうございます。私はフリージアといいます」
連れてきてくれたはずの親子の声とは少し違う気がしますが、とりあえずお礼を言いました。泊めていただいたことには変わりありませんから。
「私はライラックだ。君を助けたのは私ではない。ここは君のような者が運び込まれる場所なだけだ」
「ライラックさんはお医者様ですか?」
いろいろと合点がいきました。消毒液の匂いがしたりカラフルな小瓶、恐らくポーションが置いてあったり。
「私は治癒魔法が使えるわけではないから医者というより薬師になる。この診療所で薬を使った医者の真似事をしているんだ」
「薬師ですか。ポーションを作る人には初めてお会いしました」
「そうは言っても簡単なものしか作れないがな」
治癒魔法を使える者は限られているので、身分が高くないと魔法による治療はなかなか受けられません。庶民の間ではポーションの様な薬品の投与や、消毒等を用いた処置で怪我や病気を治します。
とは言っても、私達貴族も軽い怪我や病気くらいなら薬を飲んだり包帯を巻いたりしますけど。
それと、ポーションを作れる薬師は都会では引っ張りだこの人気職です。辺境の村に薬師がいるなんて意外でした。
「君を連れて来たのはマルクという男だから後で礼を言いに行くと良い。マルクの娘がしつこく様子を聞きに来ていたからな」
元気の良さそうな女の子でした。顔は見れなかったけど会ってみたいです。早めにお礼を言いに行きましょう。
「調子はどうだ。軽く診た感じだと、君は魔力の枯渇による衰弱状態だったようだ。放っておけば元に戻るが念のためマジックポーションを処方しておいた」
私が魔力を使ったということは、あの指輪は使うと魔力を消費するものだったのですね。使うと脱力していたことに納得がいきました。
マジックポーションは高価なものです。私は慌ててお礼を言いました。
「自分で作ったものだから原価は大したことはない。しかし、君は魔法を使うのだな。こんな辺境の村に何をしに来たんだ」
マトリカリアに知れたらまずいので、親に殺されそうになって家を飛び出したとは口が裂けても言えません。どう答えましょうか。
「事情があるなら無理に答えることはない。これからどうするんだ?行き倒れていたようだがアテはあるのか」
どこかに行くアテはありません。とにかく逃げて、その先にある村で暮らすというのが目的です。逃げて来たとは言えませんがそう伝えると、ライラックさんは難しそうな顔をしました。
「こういう小さな村は誰かにタダ飯食わせる余裕は無いから、全員が働いて役に立たないと成り立たないんだ。君は力仕事には全く向かなそうだし何か出来ることはあるのか」
「私に出来ることですか……家事全般と、一日一回だけなら簡単な治癒魔法が使えますけど」
指輪の事は言わないでおきました。ライラックさんは大丈夫でしょうけど、治癒魔法が使える指輪なんて、誰かに知られたら盗られるかもしれませんし。
そう言ってから、私はこの診療所で働かせてもらえないかと考えました。どうやらライラックさん一人でされているようですし、何より指輪の力が役に立つ気がします。試しにそう伝えてみました。
「私もほとんどボランティアのようなものだから給料はほとんど払えないぞ」
「それでも構いません。どうせ行くアテもないので居場所をいただけるなら充分です」
ライラックさんは少し考えてから、了承してくれました。
「部屋はいくらでもあるから住み込みで家事をしてくれないか。あとは食費がかかるから、君の治癒魔法で治療した客の治療費の半分が君の給料、という感じでどうだ」
願ってもない条件だったので私は二つ返事で了承しました。
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
私はその日から診療所で働くことになりました。
16
あなたにおすすめの小説
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「婚約破棄された聖女ですが、実は最強の『呪い解き』能力者でした〜追放された先で王太子が土下座してきました〜
鷹 綾
恋愛
公爵令嬢アリシア・ルナミアは、幼い頃から「癒しの聖女」として育てられ、オルティア王国の王太子ヴァレンティンの婚約者でした。
しかし、王太子は平民出身の才女フィオナを「真の聖女」と勘違いし、アリシアを「偽りの聖女」「無能」と罵倒して公衆の面前で婚約破棄。
王命により、彼女は辺境の荒廃したルミナス領へ追放されてしまいます。
絶望の淵で、アリシアは静かに真実を思い出す。
彼女の本当の能力は「呪い解き」——呪いを吸い取り、無効化する最強の力だったのです。
誰も信じてくれなかったその力を、追放された土地で発揮し始めます。
荒廃した領地を次々と浄化し、領民から「本物の聖女」として慕われるようになるアリシア。
一方、王都ではフィオナの「癒し」が効かず、魔物被害が急増。
王太子ヴァレンティンは、ついに自分の誤りを悟り、土下座して助けを求めにやってきます。
しかし、アリシアは冷たく拒否。
「私はもう、あなたの聖女ではありません」
そんな中、隣国レイヴン帝国の冷徹皇太子シルヴァン・レイヴンが現れ、幼馴染としてアリシアを激しく溺愛。
「俺がお前を守る。永遠に離さない」
勘違い王子の土下座、偽聖女の末路、国民の暴動……
追放された聖女が逆転し、究極の溺愛を得る、痛快スカッと恋愛ファンタジー!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる