伯爵令嬢は身の危険を感じるので家を出ます 〜伯爵家は乗っ取られそうですが、本当に私がいなくて大丈夫ですか?〜

超高校級の小説家

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38 ノーラ視点 後編

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翌日、寝過ごしてしまった私が叩き起こされて朝食を取ってるところに、ライラックさんが迎えに来た。
村では水汲みとかあるからもっと早起きなんだけど、ベッドが柔らかすぎて寝過ごしちゃった。

「念のため早く来ただけだから、ゆっくり食べると良い」 

待たせるのも悪いし慌てて食べていたら、ライラックさんはちょっと呆れたように見えたけど、そう言ってくれた。

食事が終わると昨日のドレスに着替えてから、生まれて初めて化粧してもらった。
それが本当に凄くて、自分が生まれ変わってお姫様になったみたいに仕上がっているんだよね。

「ノーラはなかなかの器量だな。もしかしたら何処かの貴族から声がかかるかもしれないぞ。それはそれで困るのだが」

ライラックさんまでそんな事を言ってくれて、柄にも無く顔が熱くなっちゃった。所詮平民の娘とは縁のない選択なんだけど。

それから馬車で王宮に向かったんだけど、このドレスって服は裾が地面ギリギリにある上に慣れない靴なもんだからものすごく歩きにくくて、何度も転けそうになった。馬車の乗り降りはライラックさんが手を貸してくれて、そういうのを含めて今回はライラックさんがエスコート役というものをしてくれるらしい。

私はライラックさんの縁者ということで結婚式に呼ばれる形になるみたい。初めて聞いたんだけどライラックさんは平民上がりの貴族で、最近出世して男爵って地位になって姓を貰ったらしくてらしくて、カウベリー男爵かライラック卿なんて呼ばれていた。

私はノーラ・カウベリーと名乗るように言われて、ノーラ嬢かカウベリー男爵令嬢と呼ばれるんだって。なんだか凄くくすぐったいよね。

会場に入ると、眼鏡をかけた綺麗な顔の男の人がライラックさんに話しかけてきた。一通りライラックさんと挨拶というか、あまりにも話し方が砕けていて平民の友達みたいな感じだったけど、そんなのを終わらせてから、私を興味津々と言った感じで見てきた。

「ライラック、いつの間に子供を作っていたんだ?」

「白白しい事を言うな。これは私の知人の子で、フリージアとルピナス様が呼んだ賓客なのだ。君は知っているだろうに。ノーラ、丁度良いから挨拶の練習をしておきなさい」

え!?いきなりそんなの言われてもわからないよ。
私があたふたしていると、その人が身振りで教えてくれたから見様見真似でやってみたら、二人とも吹き出していた。なんだか失礼しちゃうんだけど。

「まあフリージアから聞いていたから知っているんだけどね。かなりの器量だから一見平民には見えないけど、ノーラって名前はちょっと厳しいかな。エレオノーラ・カウベリー男爵令嬢を名乗ったらいいんじゃないかな」

名前が短いのは平民の名前の特徴らしい。お貴族様だとノーラは愛称みたいになっちゃうんだって。エレオノーラならフリージアがノーラって呼んでも仲が良いんだくらいにしか思われないとか。

「フリージアとはそこまで詰めて無かったな。ではそう名乗りなさい」

ライラックさんも適当なのかどうでも良さそうで、今日に限り私はそんな名前になった。

そうこうしているうちに会場には人が溢れて、結婚式が始まることになった。壇上には国王陛下と王妃様が座っていた。その辺りの人間関係はライラックさんに教えてもらったんだけど。

私達が入ってきた入り口からそこに向けて長いカーペットが引かれていて、沢山の燭台が灯されていた。

「本日、神々に祝福されしルピナス・ウルスラ・アドニス王太子とフリージア・マトリカリア・アドニス王太子妃のご入場です」

そして入り口が開いて、煌びやかなウェディングドレスに包まれたフリージアと、これまた見目の良い王子様が並んで現れて、みんなの声が合わさって「おお……」なんて感嘆の声が会場に響いていた。それだけフリージアは綺麗過ぎたんだよね。

「これはライラックはもったいない事をしたね」

なんてさっきの男の人に小声で耳打ちされた。この人はフリージアの気持ちに気づいていたんだろうけど、ライラックさんに聞かれたらと思うとヒヤヒヤするよ。

フリージア達はそのまま私達の近くを通り過ぎて壇上まで登っていった。チラッと目が合ったかな?それから、なんだかあんまりよく聞こえないけど難しい言葉で壇上ではいろいろとやりとりされているみたい。

「我が息子ルピナス・ウルスラ・アドニスとフリージア・マトリカリア・アドニスが晴れて夫婦として結ばれたことをここに宣言する」

国王陛下が最後にそう言うと、会場は大歓声に包まれた。フリージアは顔を高揚させて王子様と寄り添っていて本当に絵になる二人だった。
私も感激しちゃって少し目が潤んでしまった。

「エレオノーラ、泣くと化粧が流れるから気をつけなさい。良く言われるのが貴族は感情を表に出してはいけないのだそうだ。私は知ったことではないがな」

一瞬誰の名前が呼ばれたのかわからなかったけど、ちょっと目が合ったライラックさんにそう言われてしまった。

それからは会場は社交会の場となっていたんだけど、ライラックさんのところにはさっきのフレグラント子爵様以外は誰も来る気配が無かった。

そもそもライラックさんの立場だと呼ばれる事自体が異例みたいなんだよね。露骨に嘲るような素振りの貴族までいて、足でも踏んでやろうかと思った。もちろんしないけどね。逆にちょっと睨んでいたのがライラックさんにバレて、私が怒られる羽目になっちゃったけど。

でもライラックさんの話とは別に、フリージアの悪口を言っている人がいて、ライラックさんも珍しく顔色を変えていた。後から聞いたんだけど、フリージアのお父さんが何か悪いことをしたらしくて。フリージアがあの時行き倒れていたのと関係あるのかな。

でも、露骨に憤ったライラックさんが声をかける前に、何処かで見たことのある髭の生えた恐そうなおじさんが悪口を言った人に声をかけていた。
その人は青ざめて何処かに行ってしまったけど。

今度は恐そうなおじさんがこちらに近づいてきた。

「ライラックではないか。あれから元気にしていたようだな」

「ハイペリカム侯爵様もご機嫌麗しく」

ライラックさんにハイペリカム侯爵様と呼ばれたおじさんが私のことも観察するように見ているから、凄く緊張しちゃった。

「そう畏まらなくてよい。しかし、あのような輩は一定数いてな。それなりに騒がれた事件だったから仕方ないのだが」

「サージェント様が来てくださって助かりました。私も思わず血が昇りかけてしまいまして」

二人ともフリージアの味方で、彼女はいろんな人に好かれて助けてもらっているんだね。

「それより、この娘がフリージアが言っていた娘か。村で最初になんとなく見かけた記憶があるな」

その恐い顔は忘れようもないけど、やっぱりあの時のおじさんなんだね。私はライラックさんに押されてご挨拶しました。

「なるほど、美しい娘だな。ライラックの養子として何処かに出せば嫁の貰い手はあると思うぞ」

「ご冗談を。そんな事をしたら私がこの子の父親に恨まれて村を追い出されますよ」

ハイペリカム侯爵様はとんでもない事を言って、ライラックさんを困らせていた。私はお父さんやお母さんと暮らして幸せだけど、今回のことでいろんな生き方があるんだと知ったから、そういうのをライラックさんみたいに頭から否定したくはないんだよね。
流石に素性を偽ってお貴族様と結婚てのは行き過ぎだけど。

「舞踏会になる前にフリージアに挨拶にいこう」

ハイペリカム侯爵様が立ち去って少ししてから、ライラックさんがそう言うので、私達は壇上のフリージアの所に向かった。なんだか緊張するね。

まだ少し順番待ちの列が残っていたからその後ろに並ぶと、フリージアは気付いたみたいで手を振ってくれた。私も思わず手を振り返すと前にいた人がそれに気付いて、声をかけてくれた。

「王妃様のお友達かな?先に行くと良い」

ライラックさんと顔を見合わせたけど断るのも失礼だし、その人もフリージアが私達と話したくてそわそわしていたら嫌だろうからお言葉に甘えることにした。
恭しくお辞儀をすると、その人は目を細めてくれた。

私達の番になったので壇上に上がってライラックさんから順にお祝いの気持ちを伝えた。

「両殿下に置かれましては、御成婚誠におめでとうございます」

ライラックさんが他人行儀に言うので、フリージアが目を驚かせているように見えた。

「ライラックさんに殿下なんて呼ばれたらちょっと淋しくなりますね」

やっぱり気のせいじゃ無くて、「ありがとう」とちゃんと返した王子様と違ってそんな事を口にしていた。まあ気持ちはわかるけどね。

「公式の場では仕方ないだろう。君が許すなら外では今まで通りにさせてもらうから今は我慢しなさい」

横で王子様が吹き出していた。良かった、二人の親しい感じに気分を害したりしないんだね。懐の深そうな旦那様で良かったねフリージア。

「ノーラは本当に綺麗だわ。私の目に狂いは無かったね」

私もお祝いの気持ちを伝えたら、フリージアがそんなことを言ってくれた。そう言うフリージアは近くで見るとますます綺麗なんだけどね。

「いつぞやはありがとう。君が村に案内してくれたから、こうしてフリージアと結ばれたんだ。いつかお礼を言いたいと思っていたんだ」

王子様、えっとルピナス様って言ったっけ、が私にそんなことを恩義に感じてくれていたのを聞かされて驚いた。でも、あの日のこともつい最近のことのように感じる。

私は感激したのと、フリージアと遊んだ日々がなんとなく懐かしくて、昨日から感じていた淋しさもあってつい涙を流しちゃった。

するとフリージアがやってきて、私を抱きしめてくれた。

「ノーラ、私も貴女には感謝しているの。最初に声を掛けてくれたのは貴女だったし、私の人生で一緒に遊んだ初めてのお友達だわ。これからも仲良くしてくれたら凄く嬉しい」

フリージアまでそんな事を言うもんだから、私の顔は涙でぐちゃぐちゃになってしまった。ライラックさんは横で呆れているに違いないね。

「ライラック卿、フリージアの使用人に言っておくから、会場を出てすぐの部屋で整えて来たらいいよ。舞踏会まで少し時間もあるし」

笑顔でそう言うルピナス様の言葉に甘えて、私達は一旦会場を後にした。別に怒られなかったし、あんな事言われたら仕方ないよね。

でもすっごく嬉しかった。結婚式に呼んでもらえて良かったと思う。
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