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傷んだ身体が横になったまま動きませんが、あまりに悔しすぎて涙だけは絶えず流れて床を濡らしています。
私が望んであの人達について行った事など一度もありはしないのに。
「クロエちゃん!大丈夫!?」
ステラさんが駆け寄って来ました。ステラさんも涙を流しながら「誰か回復職の方はいませんか!」と取り乱した様子で叫んでくれています。
幸いなことに、数名の回復職の人がいて私の身体の傷は全て癒えましたが、受けた心の痛みが癒えることはありません。
茫然と横たわる私をステラさんが助け起こして抱きしめてくれました。
「見ているしか無くて、助けられなくてごめんなさい!」
ステラさんは細身なのにとても柔らかくて優しい匂いがして、お母さんに抱きしめられているみたいでした。
震えて泣きながらそう言ってくれるのですが、あの状況では無理もないと思います。
「ステラさんは助けようとしてくれたじゃないですか。それにあの状況だとステラさん達に迷惑をかけていたかも知れません。いつもの事ですから私は大丈夫です」
「いつもの事って……」
そう、いつもの事なのです。
私はお母さんが亡くなってからずっと我慢してきました。
大好きなお母さんが亡くなったことも、知らない家に引き取られて使用人のようにこき使われたことも、罵倒され叩かれて辛かったことも、無理矢理迷宮に連れて来られて死ぬより辛い目に遭ったことも。
いっぱいいっぱい我慢してきました。
それなのに結局、妾腹だの使用人だの乞食だのと、私だけでなく大好きだったお母さんまで馬鹿にされ、踏み躙られてゴミのように捨てられたのです。
そう考えていると悔し過ぎて涙がますます流れてきて、嗚咽が止まらなくなりました。
「うわああああああああああ!悔しい!悔しいよお!私だって頑張ってるのに!」
終いには人目も憚らずに号泣してしまいました。ステラさんがお母さんみたいに抱きしめてくれているのもあるのだと思います。
ステラさんはよしよしとさすりながらずっと抱きしめてくれました。
ひとしきり泣くとステラさんのおかげもあって、溢れていた感情も収まってきました。
「ステラさん、ありがとうございます。もう大丈夫です」
声を詰まらせながら、なんとかステラさんにお礼を言うと、ステラさんは目を潤ませながら首を横に振りました。
「あんなのがいつもの事だなんて、全然大丈夫なんかじゃないわ」
「流石にそれは言葉の綾と言うか、毎日あれだと私もいくら命があっても足りないというか」
私がごにょごにょと言っていると、ステラさんは決意したような目をして私の両手を握ってきました。
「程度なんて問題ではないわ。貴女はあんな人達と一緒にいては駄目」
そうは言われても私には他に帰る場所がありません。確かにこのままお姉様達と鉢合わせるのは恐くて仕方がないですけど。私は俯いてしまいました。
「貴女、私の家に来なさい。私の実家は長期滞在する冒険者向けの宿を営業しているのよ。部屋ならいくらでもあるから」
「え、でも……」
シリウス男爵家から逃げた私をステラさんの実家が匿ったりしたら、みんなどんな目に遭わされるかわかったものじゃありません。私は返答に詰まってしまいます。
「なあクロエの嬢ちゃん、咄嗟のことで俺達も手を貸してやれなくて済まなかったな。貴族相手じゃ俺達は殺されても文句は言えないんだ」
グレースお姉様に詰め寄るステラさんを止めていた冒険者のおじさんが申し訳なさそうに言いました。
「でもな、俺達にも正しいことをしたいって気持ちはあるんだ。あんなのを当たり前と思っちゃいけねえ。勇気を出してステラちゃんに頼ってみねえか」
「そうよ、クロエちゃんは何も心配することないの。嫌なことにずっと付き合う必要はないのよ。私は決して迷惑に思ったりはしないからどうか頼って欲しいの」
そんな二人の言葉に、あそこを逃げ出していいのかな、自由に生きていいのかなって思い始めてきました。
もう何年我慢して生きてきたのでしょうか。そんな選択肢を考えたこともありませんでした。
「お前らも、次にあんなのを見かけたら腐れ貴族なんざ摘み出してやるよな!」
「おお!」「たりめーだ!」「お前が仕切るな!」などと建物の中にたくさんの大きな声が響きました。
ステラさんは優しい目でずっと私を見ています。私も決心がつきました。
「そういうわけだから、来てくれるわね?クロエちゃん」
「はい、よろしくお願いします」
私が望んであの人達について行った事など一度もありはしないのに。
「クロエちゃん!大丈夫!?」
ステラさんが駆け寄って来ました。ステラさんも涙を流しながら「誰か回復職の方はいませんか!」と取り乱した様子で叫んでくれています。
幸いなことに、数名の回復職の人がいて私の身体の傷は全て癒えましたが、受けた心の痛みが癒えることはありません。
茫然と横たわる私をステラさんが助け起こして抱きしめてくれました。
「見ているしか無くて、助けられなくてごめんなさい!」
ステラさんは細身なのにとても柔らかくて優しい匂いがして、お母さんに抱きしめられているみたいでした。
震えて泣きながらそう言ってくれるのですが、あの状況では無理もないと思います。
「ステラさんは助けようとしてくれたじゃないですか。それにあの状況だとステラさん達に迷惑をかけていたかも知れません。いつもの事ですから私は大丈夫です」
「いつもの事って……」
そう、いつもの事なのです。
私はお母さんが亡くなってからずっと我慢してきました。
大好きなお母さんが亡くなったことも、知らない家に引き取られて使用人のようにこき使われたことも、罵倒され叩かれて辛かったことも、無理矢理迷宮に連れて来られて死ぬより辛い目に遭ったことも。
いっぱいいっぱい我慢してきました。
それなのに結局、妾腹だの使用人だの乞食だのと、私だけでなく大好きだったお母さんまで馬鹿にされ、踏み躙られてゴミのように捨てられたのです。
そう考えていると悔し過ぎて涙がますます流れてきて、嗚咽が止まらなくなりました。
「うわああああああああああ!悔しい!悔しいよお!私だって頑張ってるのに!」
終いには人目も憚らずに号泣してしまいました。ステラさんがお母さんみたいに抱きしめてくれているのもあるのだと思います。
ステラさんはよしよしとさすりながらずっと抱きしめてくれました。
ひとしきり泣くとステラさんのおかげもあって、溢れていた感情も収まってきました。
「ステラさん、ありがとうございます。もう大丈夫です」
声を詰まらせながら、なんとかステラさんにお礼を言うと、ステラさんは目を潤ませながら首を横に振りました。
「あんなのがいつもの事だなんて、全然大丈夫なんかじゃないわ」
「流石にそれは言葉の綾と言うか、毎日あれだと私もいくら命があっても足りないというか」
私がごにょごにょと言っていると、ステラさんは決意したような目をして私の両手を握ってきました。
「程度なんて問題ではないわ。貴女はあんな人達と一緒にいては駄目」
そうは言われても私には他に帰る場所がありません。確かにこのままお姉様達と鉢合わせるのは恐くて仕方がないですけど。私は俯いてしまいました。
「貴女、私の家に来なさい。私の実家は長期滞在する冒険者向けの宿を営業しているのよ。部屋ならいくらでもあるから」
「え、でも……」
シリウス男爵家から逃げた私をステラさんの実家が匿ったりしたら、みんなどんな目に遭わされるかわかったものじゃありません。私は返答に詰まってしまいます。
「なあクロエの嬢ちゃん、咄嗟のことで俺達も手を貸してやれなくて済まなかったな。貴族相手じゃ俺達は殺されても文句は言えないんだ」
グレースお姉様に詰め寄るステラさんを止めていた冒険者のおじさんが申し訳なさそうに言いました。
「でもな、俺達にも正しいことをしたいって気持ちはあるんだ。あんなのを当たり前と思っちゃいけねえ。勇気を出してステラちゃんに頼ってみねえか」
「そうよ、クロエちゃんは何も心配することないの。嫌なことにずっと付き合う必要はないのよ。私は決して迷惑に思ったりはしないからどうか頼って欲しいの」
そんな二人の言葉に、あそこを逃げ出していいのかな、自由に生きていいのかなって思い始めてきました。
もう何年我慢して生きてきたのでしょうか。そんな選択肢を考えたこともありませんでした。
「お前らも、次にあんなのを見かけたら腐れ貴族なんざ摘み出してやるよな!」
「おお!」「たりめーだ!」「お前が仕切るな!」などと建物の中にたくさんの大きな声が響きました。
ステラさんは優しい目でずっと私を見ています。私も決心がつきました。
「そういうわけだから、来てくれるわね?クロエちゃん」
「はい、よろしくお願いします」
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