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お姉様達は冒険者協会に入ってくると、ステラさんに乱暴に冒険者カードを渡しています。冒険者協会は国の組織では無いため、貴族でも贔屓しないステラさんは自尊心の高いグレースお姉様と特に相性が悪いのです。

「さっさとしてね、おばさん」

ステラさんはまだ20歳になったばかりですが、グレースお姉様はたった2歳違うだけなのにそんなことを言います。

ステラさんは慣れたもので顔色ひとつ変えずに仕事をしていきます。
一応こんなのの身内なので申し訳ない気持ちでいっぱいです。

ステラさんが黙々と作業していると、2枚目のカードに移った辺りでグレースお姉様は露骨に不満そうにしています。

「地下4層に最速で到達した私達に何か言う事はないのかしら?おばさんさあ、そういうところが気が利かないっていうか、その歳で結婚できないのが良くわかるわ」

後ろでレイラお姉様とルーナお姉様が下品な笑い声を上げました。
周りには私が来た時より少し人が増えていて、ステラさんは冒険者のおじさん達に割と人気があるので、少し雰囲気がおかしな感じになっています。

「お生憎様。4層は今朝がたグラジオラス伯爵家のパーティーが到達しているわよ」

ステラさんがそう言うと、どっと周りで笑いが起きました。

「まあ!!」

グレースお姉様が顔を真っ赤にして怒り始めました。ステラさんがそんな話の間に作業を終わらせていたのでカードを差し出すと、それをグレースお姉様は渡した時より乱暴に引ったくりました。

「私は不愉快よ。協会本部に抗議させていただくわ」

「ご勝手にどうぞ。ふふ」

ああ、本当に恥ずかしいからもうやめて欲しいです。家名がバレているのに、よくこんなことが言えるものです。耐えきれなくてステラさんも吹き出していますし。

しかし、踵を返して外に出ようとするので、私は声をかけざるを得ませんでした。いつもなら奥の休憩所で戦利品を分けたりするのです。
家ですればいいのに、微々たる戦利品を周りに見せたいみたいで。

「お姉様」

私が声をかけましたがグレースお姉様は無視して外に出ようとしています。他の二人はチラッとこちらを見たので聞こえていないはずはないのですが。どうやら、最初から私がいることに気づいた上で無視していたようです。

「お姉様!」

私が声を大きくしてもう一度声をかけると、グレースお姉様は小蝿でも見つけたかのように不愉快そうな顔で振り返りました。

「あら、クロエじゃない。生きていたのね」

やはりあれは殺すつもりでやったのかと血の沸き立つ思いになりましたが、そこはいつもの事なのでなんとか抑えます。

「帰還の魔石を持ってたんじゃない?クロエってばお金持ちね」

レイラお姉様がいやらしい口調でそう割り込んできました。グレースお姉様はステラさんとのやり取りで機嫌が最悪です。私は仕方ないとはいえ声をかけたことを後悔しました。

「それでクロエ、何か用?」

「あの、今日の探索の戦利品を……」

そこまで私が言いかけたところで、グレースお姉様が満面の笑みを浮かべて笑い始めました。

「あはは!聞いた?クロエってば先に逃げ帰っておいて分け前だけは欲しいとか言ってるわ!」

グレースお姉様はとんでもないことを言い始めました。貴女のせいで帰る羽目になったというのに。

「あれはお姉様が……」

その瞬間、私は頬に強い衝撃を受けて床に倒れました。先程の苛々もあって、憂さ晴らしのように平手を叩きつけられたようです。ここまで叩かれたことはなかったので、一瞬気が遠くなりそうでした。

「貴女達も聞いたわよね?クロエが帰りたいってしつこく言っていたのを」

レイラお姉様とルーナお姉様が口々に肯定しました。

「先に逃げた卑怯者に分ける報酬なんてないわよ。恥を知りなさい。妾腹の使用人風情と思っていたけど、貴女の母親は物乞いのやり方しか教えてくれなかったの?」

あまりの言い草に、殴られた頬と倒れた時に突いた手の痛みに耐えていた私は、つい激昂してしまいました。

「私は貴女に最後の部屋を追い出されるまでは我慢して役目を果たしたわ!卑怯なのはどっちよ!」

「はあ!?」

グレースお姉様は眉を吊り上げると、倒れ込んだままの私を思い切り踏みつけて来ました。罵詈雑言を吐きながら何度も何度も。お母さんの事や私の事を悪様に罵りながら。

「貴女みたいなのがいたから、他のパーティーに出し抜かれたのよ!」

更にはそんな事まで言いながら、執拗に蹴られました。
前衛職にそこまでされては私はひとたまりもありません。凄い力で顔や腹まで何度も踏みつけられ、私は声を出すこともできないくらいに痛めつけられました。

「ちょっと何してるの!冒険者同士の戦闘行為はご法度よ!」

ステラさんが慌てて駆け寄ってきました。それを見た他の冒険者がステラさんを止めに入ります。

「ステラちゃん、気持ちはわかるが貴族相手はやめとけ!殺されるぞ!」

「でも!」

グレースお姉様は私への虐待をやめて、ステラさん達の方に向き直りました。

「人の家庭のことに口出ししないでくださる?躾を戦闘行為だとか馬鹿なんじゃないの。まあいいわ、帰ったらこんなもんじゃ済まないわよ」

そう言って、グレースお姉様は倒れている私の頬をもう一度踏みつけました。

「クロエ、今日で貴女を私達のパーティーから外すわ。こんな愚図の足手纏い、最初から連れ出さなきゃ良かった」

グレースお姉様はそう言って最後に私の頬を踏み躙ると、足を離して外に出ていきました。

レイラお姉様はすぐに後を追いましたが、ノーラお姉様は少し遅れて出て行く時に、小さな声で「もっと上手く生きなさいよ」と青ざめた顔で言ったような気がしました。
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