推しの隣に俺がいるのは解釈違いですっ!

丸井まー(旧:まー)

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2:まさかの申し出

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 医務室の硬いベッドで目覚めたアルッティは、近くのトイレに向かった。
 おしっこをして手を洗い、ついでに顔も洗う。なんとなく鏡を見れば、短く整えている癖っ毛の淡い茶髪の男が映っている。
 顔立ちそのものはそこまで悪くないと思う。が、鋭い三白眼なので、目つきの悪さで色々台無しになっている。
 アルッティは溜め息を吐いた。


「俺って不細工~。こりゃ、結婚資金があっても結婚は無理だな」

「誰が不細工なんだ?」

「うぉっ!? イーヴォ先輩!? おっ、おはようございます!!」

「おはよう。アルッティ。お前、別に不細工なんかじゃないだろ」

「いやあの、目つきヤバいですし?」

「ちょっと鋭いだけだろ? 不細工じゃないぞ。十分男前だ」

「あ、ありがとうございますっ!」


 まさかの推しの降臨に、アルッティのだだ下がりしていたテンションが一気にぎゅんっと上がった。
 しかし、何故こんな朝早くにイーヴォが詰め所の医務室近くのトイレにいるのだろうか。
 アルッティが疑問に思っていると、イーヴォから小さめの袋を手渡された。


「あの、これは?」

「髭剃りセットとか歯ブラシとか。住んでた官舎が火事になったんだろ。大変だったな」

「あ、ありがとうございます! 本当に助かります!!」

「住む家の当てはあるのか?」

「全く無いので、給料を前払いしてもらって、不動産屋に行って探すしかないですね……実家は妹一家も住んでるので部屋に余裕がないですし」

「ふぅん。なら、いい家が見つかるまで俺の家に住むか?」

「へ?」

「俺の家は死んだ爺さんから継いだ家だから古いけど、空き部屋があるし、そこそこ広い庭があるから庭で鍛錬もできるぞ」

「えっ。でも、イーヴォ先輩って恋人さんいらっしゃいますよね?」

「いないぞ。そんなの。生まれて一度も恋人なんてつくったことがない」

「そ、そうなんですね」


 アルッティは超高速で頭を動かした。
 イーヴォの申し出は素直にありがたい。が、一緒に暮らすとなると、推しの供給過多で壊れないだろうか。
 イーヴォの快適な生活のために、やれることはなんでもやりたい気はする。幸いにも官舎で自炊していたので、炊事洗濯掃除は一通りできる。
 一番の問題は、間近に推しがいる生活でアルッティが壊れないかだが、そこはなんとか誤魔化していけばいいような気もする。

 いつもは遠目から眺めていることが多いイーヴォと接する機会が増えるのは素直に嬉しい。
 住む家の当てもないし、アルッティはありがたくイーヴォの申し出を受けさせてもらうことにした。

 その日のうちに追加の制服が支給され、前払いの給料も渡された。
 上司から『仮住まいを整えるか、本格的に住むところを探してこい』と言われたので、仕事は午前中で切り上げ、午後休を取ってくれたイーヴォと一緒に、イーヴォの家へと向かった。

 イーヴォの家は第二地区にあり、本当に庭が広く、二階建ての家も大きかった。
 警邏隊の詰め所や市場がある第一地区とも近く、通勤や買い物に便利そうな立地だ。ちなみに、焼けた官舎は第三地区の端っこにあった。

 イーヴォが鍵を開け、玄関のドアを開けてくれた。


「散らかってるけど、まぁ気にするな」

「おっ、お邪魔します!」


 散らかってると言っていた割に、イーヴォの家の中はすごくきれいだった。埃の匂いはしないし、物が散乱していたりもない。
 居間に通され、すすめられてソファーに座ると、イーヴォがニッと笑った。


「珈琲は飲めるだろ?」

「はい。好きです」

「砂糖とミルクは?」

「俺は何も入れない派です」

「あ、よかった。俺もだよ。だから、実は珈琲用の砂糖もミルクもない。ちょっと待ってろ。珈琲淹れてくる」

「あ、ありがとうございます!」


 推しが淹れてくれる珈琲なんて何かしらの方法で永久保存したい。アルッティは口の内側を噛んで、嬉しすぎて壊れそうな自分をなんとか抑えた。
 イーヴォが居間から出ていくと、きょろきょろと居間を見回した。古ぼけたソファーが二つ、その間にはローテーブルがあり、ちょっと年季が入っている感のあるテーブルクロスが敷いてある。素朴なデサインだから、もしかしたら手作りのものかもしれない。

 近くにはテーブルと椅子が四脚ある。食事はそこでするのだろう。壁際には棚があり、酒と思わしき瓶がたくさん並んでいる。
 窓の方を見れば、窓が大きくて、ちゃんと手入れがしてある庭が見える。窓には品のいい淡い青色のカーテンがついていた。

 お盆を持ったイーヴォが戻ってきて、マグカップを差し出してくれた。お礼を言って受け取ると、ふわっと珈琲のいい香りが鼻を擽った。
 皿に盛られたクッキーをすすめられたので、ありがたくいただく。サクサクのクッキーは甘さ控えめで、珈琲によく合う。


「珈琲もクッキーも美味しいです」

「口に合ってよかった。クッキーは家政婦さんが作ってくれたやつなんだよ」

「家政婦さんを雇ってるんですね」

「あぁ。流石に不規則な仕事をしながら家を維持管理するのはちょっとキツいからな。庭は定期的に庭師に来てもらってる」

「なるほど」

「家政婦さんにお願いしてるのは家の掃除と洗濯、こういう日保ちする菓子類の作り置きだけだ。基本的には外で飯を食ってる」

「勤務が不規則ですもんね。下手したら十日くらい帰れない時もありますし。何度魔導冷蔵庫内の野菜を腐らせたことか……」

「そうそう。俺も最初は自炊してたけど、それでやめた」

「あー。その! もしよければ、俺が飯を作ってもいいでしょうか!?」

「ん? 違う班だから一緒に飯が食える日は多分少ないぞ?」

「イーヴォ先輩が帰れない日は弁当にしますし、できるだけ食材が無駄にならないようにします!」

「んー。じゃあ、頼んでいいか? 珈琲が好きだから珈琲だけは淹れられるけど、あんま料理上手ってわけでもなかったし」

「はい! 毎食気合を入れて作ります!」

「程々でいいぞー。お前の部屋に案内したら買い物に行こう。私服とか細々したものがいるだろ。あと食材。調味料もいるな。食器類はちょっと古いやつならいくらでもある。あ、シーツは買い足した方がいいな。出かける前にお前の布団を庭に干すか」

「あ、俺がやります!」

「じゃあ、とりあえず部屋に案内するわ」

「はい!」


 珈琲を飲み終えたタイミングだったので、ソファーから立ち上がり、イーヴォの後ろを歩いて階段を上がる。
 イーヴォが左の部屋を指差した。


「こっちが俺の部屋。で、反対側がお前の部屋な。あと二部屋あるけど、物置になってんだよ。客室として定期的に掃除してもらってるから問題なく使えると思うぜ」

「ありがとうございます!」

「じゃあ、布団を干すか」


 アルッティの部屋となる部屋は、ベッドと古ぼけた衣装箪笥、書物机と椅子、本棚だけがあった。
 イーヴォに手伝ってもらって掛け布団と敷布団を庭に運び、太めのロープに干す。
 今日はよく晴れているから、夕方まで干せば大丈夫だろう。

 家の中に戻って台所へ行き、使ったマグカップを洗ってから調味料類を確認する。魔導冷蔵庫の中も見てから、頭の中に買い出しリストを作った。
 制服の内ポケットに財布が入っているのを確認してから、イーヴォと一緒に家を出た。

 先に服屋に行って私服を三着とパンツなどを買い、シーツやタオルも買った。髭剃りセットや歯ブラシは今朝イーヴォから貰ったものがあるので買わなくていい。
 次に調味料類を扱っている店に行き、その後市場へと向かった。
 歩きながら、ふとアルッティは思った。

 推しの隣に俺がいるのおかしくね? ていうか、解釈違いぃぃぃぃ!!

 めちゃくちゃ格好いいイーヴォの隣に立つに相応しいのは、同じくらい格好いい男前かイーヴォにお似合いの美女でなくてはならない。
 目つきが悪い不細工が横にいてはならない。

 アルッティはギリギリと歯ぎしりをしながら、今すぐにイーヴォから距離をとりたいのをぐっと堪えた。
 イーヴォに美味しいものを食べてもらいたい。あわよくば、イーヴォの好きなものを知りたい。

 解釈違いに発狂しそうになるのをぐっと堪えて、アルッティはイーヴォが食べたいものを聞きつつ、なんとか無事に買い物を終えた。

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