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7:山賊

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山の中の細い道を慎重に移動している。勾配はキツくないが、道が細く、何より山賊がよく出ると噂になっている場所だからだ。短槍を片手に持っているキャラウィルを先頭に、ジョルジュを一緒に乗せているホセ、弓を片手に持っているラコタの順で進んでいる。もし山賊に襲われた場合、弓を使えるラコタは援護に回った方がいい。短槍はリーチが長いので馬上での戦闘に有利だ。ホセは獲物が警棒とナイフだけなので、中遠距離戦闘向きではない。警邏隊の者としては、山賊の捕縛に貢献できた方がいいが、ここは違う警邏隊の管轄だし、今は幼い身体のジョルジュがいる。仮に山賊に襲われたとしても、捕らえるのではなく逃げ切りたい。逃げ切って一番近くの街の警邏隊に行き、警邏隊に捕縛隊を派遣してもらった方がより確実だろう。手練とはいえ、こちらは実質3人だ。危険な橋は渡りたくない。

キャラウィルが短槍で蹴散らし、ホセがジョルジュを守り、ラコタが弓で援護する。そういうことになり、現在、ジョルジュはホセの前に座り、一緒に馬に揺られている。ゆっくり進んでいるとはいえ、流石に今は針仕事はできない。ジョルジュはさっきからずっと眠気に堪えていた。山賊が出るという山に入って3日目だ。多分あと少しで山から出るが、山に入る頃からずっと気を張っていて、正直疲れている。ラコタ達は流石なもので、今もピリッとした緊張感を漂わせている。そのラコタ達の前で寝る訳にはいかない。
ついつい癖でホセの身体に寄りかかっていると、ホセがジョルジュの腹を支えている手に、少しだけ力を入れた。ホセの顔を見上げれば、ホセが真剣な顔で前を見ていた。


「隊長」

「あぁ。おそらく5人だ。キャラウィル」

「はい。いけます」

「ホセ。キャラウィル。手筈通りに」

「「了解」」


どうやら、山賊が来ちゃったらしい。3人の緊張と闘気が高まる気配がした。
パッとキャラウィルが馬を走らせた。視界が悪い曲がり道を塞ぐように馬に乗って待ち構えていた汚い格好をした男達の元へ突っ込み、男達が手を出す前に、キャラウィルが1人の男を馬上から叩き落とした。山賊の男達の怒鳴り声が響く中、もう1人を馬から殴り落としたキャラウィルが馬から飛び降り、短槍を構えた。剥き出しの剣を持っている男が馬の影から飛び出し、別の男の相手をしているキャラウィルに、背後から襲いかかろうとした。次の瞬間、その男の両足の膝裏に矢が生えた。男の汚い叫び声が上がる。ラコタが射た矢だ。キャラウィルとラコタが連携して、次から次へと山賊の男達を無力化させていく。強いと思っていたが、本当に強い。
最後の1人が地に伏した次の瞬間、山の中からもう1人出てきた。12、3歳くらいの女の子を抱え、ぐったりしている女の子の首に汚れた剣先を突きつけている。


「お前ら!こいつがどうなっ……ぎゃぁぁぁぁ!」


山賊の言葉の最中にラコタが矢を放ち、矢は男の剣を持っている方の肩に深く刺さった。男が剣を落とした瞬間、キャラウィルが短槍で男を殴り飛ばし、捕まっていた女の子を抱き寄せる形で保護した。
あまりの手際の良さに、ジョルジュはホセと一緒に拍手をした。敵を蹴散らしたキャラウィルもめちゃくちゃすごいが、的確に援護をしていたラコタもすごい。俺のダーリンは格好いいなぁと思いながら、馬から降りて念の為持ってきていた縄で山賊を縛り上げている2人を、ジョルジュはホセと一緒に馬上から眺めた。

ラコタから声をかけられたので、ジョルジュもホセと一緒に馬から降りた。山賊は一纏めにして縛ってある。
ジョルジュは真っ先に人質にされていた女の子に駆け寄った。女の子は酷く薄汚れた格好をしており、顔にも手足にも殴られたような痕がいくつもあった。酷く怯えており、山賊の男達が地に伏した後すぐに、キャラウィルからすごい勢いで離れ、隠れるように木の下に蹲り、今は頭を守るように両手を頭につけ、小さくなって震えている。
男達を縛り上げる前に、キャラウィルやラコタが声をかけたが、益々怯える様子だったので、先に不安材料である山賊達を縛り上げることにした。
もしかしなくても、大人の男が怖いのかもしれない。ジョルジュはホセに小さく声をかけてから、1人でたたっと女の子の前に移動し、小さくしゃがんで声をかけた。


「怪我の手当をしよう」


女の子がビクッと震えて、少しだけ顔を上げて、ジョルジュを見た。女の子のぱっちりとした大きな目が驚いたように見開かれた。


「なに……?ガキンチョ?」

「ガキンチョじゃねぇし」

「……なんでガキがこんなとこにいるんだよ」

「それはこっちの台詞だっつーの。それより先に怪我の手当。ちょっと待ってろよ。薬とか取ってくるから」

「え……あ……」


女の子が戸惑うような顔をした。ジョルジュはニッと笑ってから、やんわりと小さくなった手で女の子の頭を撫でて、ラコタに声をかけた。ラコタがすぐに荷物から薬箱を取り出してくれる。たたっと走ってラコタの所へ向かい、薬箱を受け取る。
ラコタがジョルジュの頭を優しく撫でてから、ホセとキャラウィルに声をかけた。


「ホセ。キャラウィル。此処に急いで天幕を張ってくれ。治療の間だけでも必要だろう。俺は近くに水場がないか探してくる」

「「了解です」」

「ジョルジュはあの子の治療を頼む」

「りょーかいでっす!」


ピシッと敬礼したジョルジュに小さく笑い、ラコタがジョルジュの頭を撫でてから山の中へと消えていった。ホセとキャラウィルが天幕を張ってくれるのを女の子の隣に座って待ち、ホセに声をかけられてから、女の子の痩せた手をやんわりと握った。女の子が一瞬ビクッと震えたが、ジョルジュの顔を見ると、少しだけ怯えの色が薄まった。

ジョルジュは女の子の手を引き、ゆっくり歩いて天幕の中に移動した。ジョルジュには応急処置くらいしかできないが、何もしないよりマシだろう。
ジョルジュ達が天幕の中に入った時点で、外からホセに名前を呼ばれた。ビクッと震えた女の子の手を優しく撫でてから、一度女の子から離れて天幕の入り口から顔だけを出す。


「ジョルジュ。僕のものだが、着替えのシャツだ。ちゃんと洗濯してある。それから隊長が水場を見つけてくださった。キャラウィルと水を汲みに行っている。すぐに水を持ってきてくれるだろう」

「あざーっす。あ、ホセ先輩。俺の荷物から裁縫箱と布取ってきてもらっていいっすか?パンツ作ってやりたいんで」

「あぁ。分かった」

「お願いしまーす」


ホセから着替えのシャツを受け取り、ジョルジュは天幕の中に引っ込んだ。女の子は天幕の奥の方で、小さく蹲り、怯えた顔で震えている。
ジョルジュはとととっと女の子に駆け寄り、女の子の前でしゃがんだ。


「俺はジョルジュっす。今から怪我の手当をします」

「え……あ……ガキじゃん。そんなん、できないでしょ」

「できるんだな。これが」

「……うそだろ」

「嘘じゃねぇし。お嬢ちゃん。名前は?」

「……お嬢ちゃんじゃねぇ。俺は男だ」

「あ、そうなの。じゃあ、坊っちゃん。名前は?」

「……シーリーン」

「シーリーン。もうちょいしたら俺の仲間が水を運んできてくれるからさ。身体をキレイにして、怪我の手当をしよう」

「……うん」


ジョルジュがニッと笑うと、シーリーンが泣きそうに顔を歪めた。顔にも酷く殴られた痕がある。おそらく、山賊の男達にやられたのだろう。パッと見で女の子と間違う程華奢で小柄な体格をしているし、何より、シーリーンはワンピースを着ていた。できれば考えたくないが、山賊の男達の慰め者にされていた可能性が捨てきれない。
ジョルジュはシーリーンの汚れた頭をやんわりと撫でながら、腹の底に沸く山賊達への怒りに目を細めた。

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