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35:完治!

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季節は春を過ぎ、初夏になった。
カールの骨折していた右腕が漸く完治した。暫くはリハビリと衰えた筋力・体力の回復の為に、ひたすら筋トレ祭りだ。船の修理はあと1ヶ月はかかるので、その間は机仕事や訓練をしつつ、ひたすら身体を元に戻すことに集中することになる。

カールは久しぶりに右手をわきわき動かして、自分の身体の衰えっぷりに肩を落とした。握力もかなり落ちている気がする。完治はしたが、以前のようにはまだ力が入らない。それでも完治は完治である。これで漸く駄目人間脱却である。この3ヶ月、セガールとシェリーに甘やかされまくった。セガールにオナニーの手伝いをしてもらうのにもすっかり慣れてしまい、今ではお互いのペニスをくっつけて、2本まとめて扱かれたりしちゃってるくらいである。
右腕が完治した以上、セガールに手間をかけさせることは無くなる。心底よかった!と思うが、ほんの少しだけ、寂しい気もする。セガールに風呂で身体を洗ってもらうのは、本当に気持ちよかった。セガールのごつい手はいつだって優しかった。また洗ってもらえないかなぁと自然と思ってしまうあたりが、もう駄目人間になっている気がする。

何はともあれ、右腕は治った。カールは軽やかな足取りで、報告の為に病院から海軍の建物へと移動した。

報告が終わり、明日から勤務再開になった。リハビリの為に病院に通わなくてはいけないので、半日勤務になる。副隊長のアーバインから休暇中の諸々の引き継ぎをしたり、溜まっている書類仕事を片付けたり、身体を元に戻す為に筋トレに励んだりと、忙しくなりそうだ。

カールは海軍の建物から出ると、途中でお気に入りのお菓子屋でジャムクッキーを買ってから、足早に丘の上の家へと向かった。
マルクに指導してもらったが、結局左手では、まともに読める字を書くことはできなかった。己の不器用さがちょっと悔しい。マルクには、お礼として焼き菓子の詰め合わせを買った。孫がいるそうだから、孫達と一緒に食べてもらえばいいだろう。

家に帰り着くと、シェリー達はちょうど休憩時間だった。


「ただいま!完治!」

「おかえり!やったわね!」

「よかったですなぁ」

「ありがとうございます。マルク先生。これ、よかったらお孫ちゃん達と一緒に召し上がってください。ご指導いただいたお礼です。俺のオススメのお菓子屋さんの焼き菓子なんです」

「これはこれは。ありがたく頂戴しますね。孫達も喜びます」


マルクに焼き菓子の詰め合わせを渡すと、マルクが嬉しそうにおっとりと微笑んだ。シェリーにジャムクッキーを渡すと、シェリーも目を輝かせた。シェリーもこのジャムクッキーがお気に入りになったらしく、カールとしても嬉しい。

もう小半時で、午後のお茶の時間になる。今日は少し早めに切り上げることにして、3人でお茶をすることになった。シェリーにはホットミルクを作り、カールとマルクの分は珈琲を淹れた。いつもカールとマルク監督の元、シェリーにやってもらっていたので、久しぶりに自分で出来るのが嬉しい。
カールはいそいそとお盆を持って、居間へと運んだ。
ジャムクッキーを右手で掴んで口に放り込み、もぐもぐ咀嚼してから、珈琲を一口飲む。程よい甘さのクッキーが珈琲に絶妙に合う。
何より、右手が自由に使えるのが最高に嬉しい。


「完治ばんさいっ!右手が使えるっていいなぁ」

「もう、あーんができなくなるのは、ちょっと残念だわ」

「ははっ。甘やかされまくってマジで駄目人間になるところだったわ。俺」

「ふふっ。甘えたりできる方がいるのはいいことですな。甘えたり、甘やかしたり、過ぎればよくない時もありますが、それが家族というものですからね」


マルクの言葉に、カールはちょっと照れくさくなって、少し伸びた後頭部を掻いた。『家族』という響きが擽ったい。シェリーは当たり前みたいな顔をしているし、シェリー達にとっては、カールももう家族なのだろう。実家とは絶縁して久しい。自分だけの家族が欲しくて結婚を焦っていたが、ここにもカールの家族がいる。その事が嬉しくて、胸の奥が温かくなる。

マルクを見送ると、カールはシェリーを誘って走りに出かけた。軽く走ったり、左腕だけでもできる軽い筋トレはしていたが、左腕に負荷をかけ過ぎて今度は左腕を傷めるといけないので、思うようにはできなかった。やっと思う存分、身体を動かすことができる。
カールはシェリーと一緒に、夕方まで家の周りをぐるぐる走った。

2人揃って汗だくになったので、順番にシャワーを浴びて、洗濯物を取り込む。自分で頭や身体を洗えるって素晴らしい。着替えも自分で全部できる。洗濯物を取り込めるし、畳むことだって出来る。本当に完治ばんざいである。
久しぶりに2人で家事をできるのが嬉しいのか、シェリーもご機嫌だ。
シェリーが洗濯物を畳みながら、楽しそうに笑った。


「やっぱりカールと一緒にやった方が楽しいわ」

「うん。俺も楽しい。完治ばんざいっ!」

「もう少ししたら、パパを迎えに行くんでしょ?今夜は『至福亭』だもの!」

「えっへっへー。俺の完治祝いでセガールさんの奢り!……むしろ、俺が奢らなきゃいけない気もするんだけど」

「なんで?カールの完治祝いじゃない」

「いやぁ。ほら。散々面倒かけちゃったからさぁ。そのお礼?」

「別に楽しかったからいいわよ。カールのお世話」

「マジかぁ。シェリー」

「なに?」

「改めて、ありがとう。本当に助かったし、嬉しかったよ」

「ふふっ。まだ暫くは陸にいるんでしょ。また一緒に色んな事やりましょうよ。それでいいわ」

「ははっ!最高。いっぱい楽しい事をしよう」

「うん!」


カールはシェリーと顔を見合わせて、ニッと笑った。

洗濯物を畳み終えたら、お洒落をしてから、家を出た。久しぶりにシェリーの髪を結ってやると、シェリーがすごく喜んだ。
セガールを迎えに、シェリーと手を繋いで海軍の建物へと向かう。海軍の建物の入り口の前でセガールを待っていると、定時を少し過ぎた頃に、セガールが出てきた。


「お疲れ様です。セガールさん。完治いたしました!!」

「ありがとう。よかったな」

「今日は2人で洗濯物を畳んだのよ!」

「そうか。ありがとう。2人とも。それじゃあ、カールの完治祝いだ。『至福亭』に行こうか」

「「はぁい」」


セガールが嬉しそうに笑って、シェリーの手を握って歩き出した。3人で並んで『至福亭』を目指して歩いていく。


「カール。今日は好きなだけ飲めよ。俺も飲む。折角の祝いだ」

「ありがとうございます!」

「いや、お酒は程々にしてよ。酔っ払い面倒くさい」

「流石に一晩中飲まない限り、新年の時みたいにはならないって」

「そうそう。ちょっと楽しくなるだけだ」

「ほんとにぃ?」

「ほんとに。ちゃんと節度を持って飲みますとも!」

「ははっ。デザートにケーキを頼んである。2人ともそのつもりで食べろよ」

「やったわ!あそこのケーキ、すっごく美味しいもの!」

「よっしゃ!ありがとうございます!!」


3人でわいわい喋りながら歩いていると、すぐに『至福亭』に到着した。2階の個室に案内してもらい、飲み物や料理を頼んで、すぐに運ばれてきた酒やジュースで乾杯をする。
シェリーが、んんっと咳払いをしてから、弾けるような笑顔で乾杯の音頭をとった。


「それじゃあ、カールの完治にかんぱーい!」

「「乾杯」」


カチンカチンと軽くグラスをぶつけ合って、久々の上等なブランデーを口に含む。ふわっと鼻に抜けるいい香りと心地よく喉を焼く酒精が大変美味しい。
カールは満面の笑みを浮かべた。


「うまー!完治ばんざいっ!やっと酒が飲めるぅ!」

「ははっ!一人酒は少し味気なかったから、やっと2人で飲めるな」

「はい。久々の酒が染みます。うんまー」

「お酒ってそんなに美味しいの?」

「大人になったら分かるさ」

「ふーん。カール」

「んー?」

「あーんする?」

「それはもう大丈夫です!」

「ちぇっ。されたくなったら言ってよね。私がしたい時は問答無用でするけど」

「するのかよ」

「するわよ。だって楽しいもの」


シェリーが楽しそうに笑った。カールもセガールも笑いながら、料理が運ばれてくるまで、酒を片手にわいわいお喋りを楽しんだ。

デザートのケーキまでしっかり食べた後、『至福亭』を出て街を抜け、カールはほろ酔いの状態で、シェリーと手を繋いで、丘を上っていた。

シェリーが空を見上げて、歓声を上げた。


「星がすっごくキレイだわ」

「おー。今日はよく晴れてるもんなぁ」

「今度、3人で夜の散歩をするか?星を見に」

「行きたい!」

「いいですねぇ」

「暖かくなってきたし、休みの前の日の夜に行けば大丈夫だろう。その日は昼寝でもすればいいし」

「ふふっ。楽しみだわ!」

「温かい飲み物とお菓子も持っていきましょうよ。夜のピクニックってことで」

「カール天才。採用」

「ははっ!ありがと」


カールは楽しそうに笑うセガールとシェリーと一緒に、家へと帰った。


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