上 下
1 / 1

こんなつもりじゃなかったのにっ!!

しおりを挟む
 はぁはぁと荒い息を吐きながら、アレクシオは必死で走って大通りを抜け、人気のない路地裏に飛び込んだ。身体が熱くて堪らない。悔しくて情けなくて、今にも泣いてしまいそうだが、泣いたら負けだと、強く奥歯を噛み締めて堪える。

 アレクシオは、街の人から『顔だけルーキー』と呼ばれている。アレクシオは容姿がとても美しい。まるで物語に登場するような金髪碧眼の甘い顔立ちの美男子で、細身ながらスタイルもよく、見た目だけは極上である。アレクシオは冒険者養成学校を卒業して間がない新米冒険者だ。

 アレクシオが暮らすクザントスの街は、冒険者達から『はじまりの街』と呼ばれている。近くに初心者向けのダンジョンがあり、冒険者養成学校があるからだ。基本的に、冒険者ギルドに登録する為には、冒険者養成学校を卒業することが必須条件となっている。早ければ12歳、遅くとも成人する16歳で卒業し、冒険者として旅に出るのが一般的だ。
 アレクシオは20歳になって、漸く冒険者養成学校を卒業できたポンコツルーキーである。剣を振らせれば、剣がどこぞへ飛んでいき、弓を握らせれば、あらぬ方向へと矢が飛んでいく。魔術を使わせれば、ポンコツ過ぎる威力か、事故になりかねない馬鹿みたいな威力が出る。魔力コントロールが下手くそ過ぎて、周囲の人間が危険だからと、アレクシオは魔術を使うことを禁じられた。頑張っても、座学もそんなに成績がよくなく、アレクシオにできるのは、薬草採集や庭の草むしり等の、冒険者になりたての子供がするような仕事しかできない。歳も歳だし、完全にお情けで卒業させてもらった形である。

 今日は、街の金持ちの家の草むしりの仕事に行った。1日かけて、無駄に広い庭の草むしりをして、にたにたといやらしい笑みを浮かべた金持ちの中年の男に勧められたお茶を飲んだのが間違いだった。おそらく媚薬が入っていたのだろう。飲んだ瞬間、身体がかっと熱くなり、力が抜けるような感覚がした。本能的にマズいっと思ったアレクシオは、金も貰わず、その場から全速力で逃げた。走って、走って、なんとか街外れの自宅が近い場所まで来れたが、もう限界である。苦しくて、身体が熱くて堪らない。今すぐパンツの中で硬く勃起したペニスを擦って熱を吐き出したいが、此処は路上である。そんな変態みたいな真似はできない。なにより、本気で身体に力が入らなくて、アレクシオは小さく縮こまり、震える手で、ぎゅっと自分の身体を抱きしめた。誰かに助けて欲しい。でも、誰にもこんな情けない姿を見られたくない。アレクシオは『顔だけルーキー』と、街の色んな人達から馬鹿にされている。見た目だけはいいから、言い寄ってくる男も女もいるが、皆、内心ではアレクシオを馬鹿にしているのが透けて見えている。悔しい。アレクシオの両親は、腕が経つ冒険者として有名だった。アレクシオも優れた冒険者になるだろうと期待されていた。その期待が無くなり、嘲笑されるようになったのはいつからだろう。
 アレクシオは涙が滲んできた目元を、薄汚れたズボンの膝に押しつけ、少しでも身体の熱を逃がそうと、はぁはぁと荒い息を吐いた。

 どれくらいそうしていただろう。アレクシオにとっては、とても長い時間だったが、実際はそうじゃなかったのかもしれない。アレクシオが蹲る路地裏に、誰かが歩いてくる足音がした。アレクシオはビクッと身体を震わせて、熱く震える身体を抱きしめたまま、目だけで足音の主の方を見た。そして、驚いて目を見開いた。
 黒髪黒眼で、髭を生やした男臭い厳つい顔立ちの、筋骨隆々な身体つきをした巨漢が、無造作にアレクシオに近づいてきた。アレクシオが密かに憧れている冒険者のガイダーナである。ガイダーナは、40歳が近いのに第一線で活躍する優れた冒険者で、気さくで面倒見がよく、街の冒険者達から『兄貴』と慕われている。たまにクザントスの街に訪れる。ポンコツな『顔だけルーキー』のアレクシオにも、冒険者ギルドで顔を合わせると気さくに声をかけてくれて、『薬草採集、頑張れよ。お前さんが必要な薬草を採ってくれるから、安心して闘えらぁ』と優しい言葉をくれる。アレクシオにそんなことを言ってくれる人はいない。皆、どこかアレクシオを馬鹿にしているのに、ガイダーナからは、アレクシオを馬鹿にしている空気を感じたことが無い。単純なアレクシオは、すぐにガイダーナのことが好きになった。

 そのガイダーナにこんな情けなくて恥ずかしいところを見られたくない。アレクシオは半泣きになりながら、なんとか立ち上がろうとしたが、身体が上手く動かず、その場にべしゃっと倒れた。身体が熱くて熱くて、頭がぼんやりして、もう本当に気が狂ってしまいそうだ。
 アレクシオが下唇を血が出る程強く噛んで、なんとかもう一度立ち上がろうとしていると、ガイダーナがすぐ側にやってきて、地面に倒れているアレクシオの前でしゃがんだ。


「おい。アレ坊。もしかして、盛られたか?」

「……う……」

「今日の仕事は?」

「……マクシミアンさんの家の草むしり」

「あの変態親父か。確実に盛られてんな。こりゃ」

「うっ、うっ、うーーーーっ」


 ガイダーナの呆れたような声に、一生懸命堪えていた涙腺が決壊した。恥ずかしい。情けない。苦しくて堪らない。よりにもよって、こっそり片想いしているガイダーナに、こんな情けない姿を見られた。アレクシオが、うーうーと唸りながら泣いていると、ガイダーナがひょいと猫の子のようにアレクシオの首根っこを掴んで持ち上げ、自分の肩にアレクシオを担ぎ上げた。


「此処じゃ流石にどうかと思うから、お前ん家に行くぞ。確か、近くだったろ」

「うっ、うえっ、うふぐぅぅ……」

「うんうん。しんどいな。泣くな泣くな。すぐに楽にしてやっから」


 アレクシオはガイダーナに担がれて、街外れにある自宅へと移動した。アレクシオの家は亡くなった両親から継いだ家で、家自体はこじんまりとしているが、庭は広い。剣や弓、魔術の練習ができるようにと、両親が、庭が広い家を建てたらしい。
 ガイダーナが一声かけてから、アレクシオの肩掛け鞄の中を探り、玄関の鍵を取り出して、玄関のドアを開けた。家の中は散らかり放題だが、ガイダーナは気にせず、アレクシオに自室の場所を聞いて、二階にあるアレクシオの自室へと向かった。

 今朝起きて乱れたままのベッドにそっと下ろされたアレクシオは、必死で股間を隠しながら、荒い息を吐きつつ、ガイダーナを見上げた。
 ガイダーナが厳つい顔に、優し気かつ爽やかな笑みを浮かべて、口を開いた。


「そのままでは辛かろう。俺が力になろう」

「……へ?……って、わぁぁぁぁぁ!!」


 ガイダーナが、がばっとその場で服を脱ぎ始めた。逞しい胸筋でぱっつんぱっつんだったシャツを脱ぎ捨て、カチャカチャとズボンのベルトを外し、勢いよくズボンとパンツをまとめて脱ぎ捨てた。ブーツも脱いで、靴下も脱ぐと、全裸のガイダーナが仁王立ちして、まるで聖母のような慈愛に溢れた笑みを浮かべた。


「俺のケツを使っていいぞ。安心しろ。道具しか使ったことねぇから、性病は持ってねぇ」

「ややややややや……」

「や?」

「やですぅ!! ガイダーナさんにそんなことできませんっ!!」

「細けぇことは気にすんな。いっぺん、生ちんこ試してみたかったんだよなぁ。俺」

「嫌です無理です絶対やだぁぁぁぁぁぁ!!」

「まぁ、そういうな。ほれ。自分で言うのもなんだが、締まりはいいぞ」


 ガイダーナがくるりと背を向け、顔だけで振り返ったまま、ムッキリとした肉厚の尻をパァーンと叩いた。叩かれた振動で、ムッキリむっちりした尻肉がぶるんぶるんと揺れる。反射的に尻毛が生えているガイダーナの尻を見てしまったアレクシオは、ぶわっと顔が更に熱くなり、ぴゅっとちょこっとだけパンツの中に精液を漏らした。

 ガイダーナがベッドの上で縮こまっているアレクシオのすぐ側に来て、アレクシオに向かって尻を突き出し、両手で尻毛が生えたムッキリした肉厚の尻肉を掴み、くぱぁと尻肉を大きく広げた。反射的に見れば、縮れたケツ毛が周りに生えているガイダーナのアナルが丸見えになっている。ガイダーナのアナルは赤黒く、ぷっくりとしていて、ガイダーナの呼吸に合わせて、アナルの皺が細かくなったり、広がったりして、微かに収縮していた。おっさんの毛深いアナルなのに、酷くいやらしく感じる。
 アレクシオははぁはぁと荒い息を吐きながら、プチっと頭の中の何かが切れるような感覚がした。

 アレクシオは、震える手でガイダーナの尻肉を両手で掴み、躊躇なくべろーっとガイダーナのアナルに舌を這わせた。舌に触れる縮れた硬い毛の感触と熱いアナルの感触が、酷く生々しくて、頭の中が沸騰しそうなくらい興奮する。アレクシオは犬にでもなったような気分で、夢中でガイダーナのアナルを舐め回した。


「お゛っ、ん゛っ、ふはっ! いいぜっ! 上手だ! もっと舐めろっ!」

「んーーっ」

「あ゛――っ、クッソ堪んねぇ! アレ坊。もういい。いい子だから寝転がれ」

「ふぁい」


 アレクシオは興奮し過ぎて半分意識が朦朧としたまま、大人しくベッドに寝転がった。ガイダーナがベッドに上がって来て、アレクシオのズボンのベルトを外し、テント状態の股間をやんわりと撫でながら、厳つい顔で優しく微笑んだ。


「今、楽にしてやっからな」


 ガイダーナがアレクシオのズボンとパンツをまとめてずり下した。ぶるんっとガチガチに勃起して自分の精液で亀頭が濡れたアレクシオのペニスが露わになる。アレクシオのペニスは、ビーンッと天に向かってそそり勃っている。ガイダーナがまるで聖母のような柔らかくて優しい笑みを浮かべながら、アレクシオのペニスを、胸毛が生えたムッキリと逞しく盛り上がった胸筋の谷間で挟み、口を開けて、たらーっと熱い唾液をアレクシオのペニスに垂らした。ペニスに感じる硬い毛の感触と、予想外にふにっとした弾力性のある柔らかさの胸筋の感触が気持ちよくて、なにより、憧れのガイダーナがアレクシオのペニスを胸の谷間に挟んでいるという視覚的刺激が強すぎて、アレクシオは情けない声を上げて、びゅるるるるるっと精液をぶち撒けた。アレクシオが見ている前で、ガイダーナの顔にアレクシオの精液がかかり、よく日焼けした褐色の肌が、卑猥に白く彩られていく。いやらし過ぎる光景に、頭がクラクラする。

 アレクシオが、はぁー、はぁーっと荒い息を吐きながら、ガイダーナの顔をガン見していると、ガイダーナが鼻筋から口元に垂れ落ちたアレクシオの精液を、舌を伸ばして舐めとり、にっこりと笑った。


「まだまだ辛いだろう。お楽しみはこれからだ」


 アレクシオは熱くて堪らない朦朧とした頭で、雄臭いのに慈愛溢れる優しい笑みを浮かべたガイダーナを見上げて、ごくっと生唾を飲み込んだ。





------
 アレクシオは無我夢中で腰を激しく振っていた。四つん這いになったガイダーナのアナルにペニスを激しく抜き差ししている。強く下腹部を打ちつける度に、ガイダーナのムッキリとした肉厚の尻肉がぶるんぶるんと揺れる。腰を振るながら、ガイダーナのアナル周りの尻肉を両手で広げれば、繋がっているところがよく見える。意識してゆっくりと腰を引けば、ガイダーナのアナルの縁が微かに赤く捲れ、泡立った白い精液がまとわりつく自分のペニスが姿を現し、腰を押し込んでいけば、ガイダーナのアナルにアレクシオのペニスがスムーズに飲み込まれていく。もう何度射精したのか分からない。なのに、まだまだ身体が熱くて、酷く興奮して、ガイダーナの中が気持ちよくて、本当に堪らない。
 アレクシオは再び滅茶苦茶に腰を激しく振り始めた。ガイダーナの腹側をペニスで擦れば、ガイダーナの背筋が逞しい背がしなり、ガイダーナが吠えるような声を上げる。ガイダーナの逞しく引き締まった腰を両手で掴んで、無我夢中で腰を振りながら、アレクシオはぼたぼたと涙を溢した。こんなつもりじゃなかった。ガイダーナのことが好きなのに、アレクシオは今ガイダーナに酷いことをしている。ガイダーナの中が気持ちよくて堪らなくて、やめたいのに、腰を振るのを止められない。ガイダーナのことが本当に好きだった。でも、こんな形で繋がることを望んでなんていなかった。
 アレクシオは情けなく泣く顔をガイダーナに見られたくなくて、ガイダーナの逞しい背中にぎゅっと抱きつき、ぱちゅんぱちゅんと激しく濡れた音がする程、めちゃくちゃに腰を振って、またガイダーナの中に精液を吐き出した。

 何度も射精しているのに、身体の熱も興奮もおさまらない。アレクシオがガイダーナの背中に抱きついたまま再び腰を振り始めると、ガイダーナに名前を呼ばれた。


「アレ坊。いっぺん抜け」

「……ふぁい」

「いい子だ。お゛っ、お゛ぅっ……」


 アレクシオが大人しく抱きついていた身体を離し、ゆっくりと熱く蕩けたガイダーナのアナルから勃起したままのペニスを引き抜くと、閉じ切らないガイダーナのアナルがひくひくと大きく収縮し、こぽぅっと白いアレクシオの精液を溢れ出した。酷くいやらしい光景に、背筋がゾクゾクする程興奮してしまう。こんなの嫌なのに、本当に嫌なのに、またガイダーナの中に入りたくて仕方がない。

 アレクシオが、血が滲む程強く下唇を噛んでいると、起き上がって身体ごと振り向いたガイダーナが、汗だくの逞しい身体で、アレクシオのほっそりとした身体を抱きしめ、ぬるぅっと、まるで癒すようにアレクシオの下唇を舐めた。


「アレ坊。これは一夜の夢だ。気持ちがいいだけの夢だ。お前はただ快感に溺れて、好きなだけ吐き出せばいい」

「ガイダーナさん……」

「寝転がれ。今度は俺が動こう」

「……うん」


 ガイダーナがアレクシオの額にこつんと自分の額をくっつけて、間近で優しく微笑んだ。雄臭い顔なのに、どこまでも優しくて、まるで神殿の壁画に描かれている聖母様みたいだ。聖母様はこんなにもっさりと口髭と顎鬚は生えていないけど。

 アレクシオが大人しく仰向けに寝転がると、何度も射精しているのに、まだまだ元気いっぱいなアレクシオの勃起したペニスをガイダーナが片手で掴み、自分の蕩けた熱いアナルにペニスの先っぽを押しつけて、ゆっくりと腰を下ろし始めた。キツイ括約筋がアレクシオのペニスを締めつけ、熱くて柔らかい蕩けた腸壁がアレクシオのペニスを優しく包み込んでくれる。あまりの気持ちよさに堪らずアレクシオが喘ぐと、ガイダーナが優しく微笑み、アレクシオの両手を掴んで、自分の逞しい胸毛が生えた胸筋に触れさせた。もさもさの毛の下に、ぴょこんと硬く勃った乳首の感触がする。掌で小さめの乳首を転がすようにガイダーナのふかっとした胸筋を揉みしだけば、ガイダーナのアナルがきゅっと更にきつく締まった。
 ガイダーナが膝を立てて、両足を大きく広げ、自分の膝に両手を置いて、身体ごと上下に動いて、締まりのいいアナルでアレクシオのペニスを扱き始めた。ガイダーナが動く度に、アレクシオのものよりも大きなペニスがぶるんぶるんと大きく揺れる。揺れる胸筋を揉みしだきながら、アレクシオは我慢できずに、ガイダーナの動きに合わせて、下から腰を突き上げ始めた。


「お゛っ、お゛ぅっ、あ゛ぁっ! クッソ堪んねぇ!! あ゛――っ! もっとだ! もっと突けっ!」

「はっ、はっ、あ――――――っ!! きもちいいっ! きもちいいよぉ! くそっ! くそっ!」

「は、ははっ! 泣くな。アレ坊」


 ガイダーナが激しく尻を上下に動かしながら、片手を伸ばして、涙が零れているアレクシオの頬を優しく撫でた。ガイダーナのゴツくて熱い手の感触に、益々涙が溢れてくる。なんでガイダーナはこんなにまでしてくれるのだろう。アレクシオは快感で濁った頭の片隅でそう思いながら、めちゃくちゃに腰を突き上げまくって、またガイダーナの中に精液をぶち撒けた。






‐‐‐‐‐‐‐
 アレクシオが目覚めると、自室に一人きりだった。汚れて乱れたシーツの隣側に触れれば、なんの温もりもない。身体は疲れ切っているし、色んな液体で汚れたままだ。昨日のことは夢じゃない。確かにガイダーナとセックスをした。それなのに、今は一人きりである。


「……ヤリ逃げなんて最低だ……」


 アレクシオはぼそっと呟いて、ぽろぽろ涙を溢しながら、シャワーを浴び、身支度を整え、簡単に荷物をまとめて、家からも、クザントスの街からも出た。

 八つ当たりなのは、自分でも分かっている。それでも、あんなに優しくしてくれたのに、起きた時に一人ぼっちだったのが、寂しくて、なんだか悔しくて、あれは単なるガイダーナの厚意と気紛れだったということを突きつけられて、アレクシオは逃げるように生まれ故郷の街を出た。ガイダーナは厳ついおっさんだが、気さくで優しいから、とてもモテるということを知っている。ガイダーナにとっては、きっとアレクシオも一夜の遊びの1人に過ぎないのだろう。アレクシオなんかが、ガイダーナに相手にされるだなんて高望みはしていなかった。ただ、時折クザントスの街に訪れるガイダーナを遠目に見て、ひっそりと想うだけで十分だと思っていた。けれど、もうガイダーナの熱を知ってしまった。前のように、ひっそり想っているだけでは満足できなくなってしまった。起きた時にガイダーナの姿が無くて、アレクシオは酷く落胆した。しかし、それでもガイダーナのことが嫌いになれない。アレクシオは暫く頭を冷やそうと、遠出の薬草採集の依頼を受け、傷ついた心を抱えたまま、初めての旅に出た。

 同行させてもらった商隊の護衛に尻を掘られそうになったり、途中で山賊に遭遇して尻を掘られそうになったり、乗合馬車で一緒になった老婆にセクハラされまくったりと色々あったが、なんとか半月かけて、アレクシオは隣の小さな町に到着した。旅ってこんなに大変なのかと染み染み思う程、大変な道のりだった。アレクシオは、ぐったりと疲れた身体を引き摺って、まずは宿を取ろうと、宿屋があるという大通りを目指して、のろのろと歩き始めた。

 なんとか取れた宿屋の部屋で、アレクシオが粗末なベッドに腰かけ、疲れた溜め息を吐いていると、部屋のドアがノックされた。宿屋の人だろうと思って、入室を促す声を上げると、部屋のドアが開き、厳つい巨漢がよっと爽やかに笑いながら部屋に入ってきた。ガイダーナである。アレクシオはぽかんと間抜けに口を開け、ぴしっと固まった。
 ガイダーナがずんずん歩いてアレクシオが座るベッドに近寄り、どすんとアレクシオのすぐ隣に腰を下ろした。ガイダーナが固まっているアレクシオの頭をがしっと片手で掴み、強制的にガイダーナの方へとアレクシオの顔を向かせた。ガイダーナは一見爽やかに笑っていたが、よくよく見れば額に青筋が浮かんでいた。


「ヤリ捨ては感心しねぇぞ。アレ坊」

「……や、ヤリ捨てたのは貴方じゃないですか……起きた時、いなかった」

「あ? 便所に籠ってただけだっつーの。中出ししたまま寝ると腹下すんだな。知らなかったわ。半日、便所に籠ってたわ」

「……へ?」

「やっと腹が落ち着いたと思ったら、家にも、それどころか街にもいねぇし。冒険者ギルドで聞いて、此処に来てみりゃ何日経っても来やしねぇし。歩いて片道5日の町に、何で半月もかかるんだよ。待ちくたびれたわ」

「なんっ、なんで……」

「ん?」

「……なんで、追いかけてきてくれたんですか」

「そりゃあ、あれだ。なんだ。……お前に惚れてるからだろ」

「嘘だ!!」

「なんでだ!! 嘘じゃねぇわ! おっさんの一代一世の大告白だぞ!!」

「そんな、そんな筈ない! ガイダーナさんみたいにすごい人が俺なんかを好きになる筈がない……」

「……泣くなよ。アレ坊。お前はよー、色んな奴に馬鹿にされても、いっつも歯を食いしばって頑張ってんだろ。おっさん、そういうのに弱いんだよ。お前がどんだけ不細工でも、お前に惚れてた自信あるぜ。俺」


 ガイダーナの真剣な眼差しは、嘘を言っている感じはしなくて、アレクシオは情けなくぽろぽろと涙を溢した。嬉しくて、嬉しくて、本当に堪らない。ガイダーナが、アレクシオの見た目が好きなのではないことも、アレクシオが頑張っていると認めてくれていたことも、本当に嬉しくて、涙が次から次へと溢れ出てくる。ガイダーナが優しく微笑んで、すりっとゴツくて硬い親指の腹で、泣いているアレクシオの目元を拭った。


「そろそろ冒険者を引退して、飲み屋でもやろうかと思ってんだ。お前さえよければ、手伝ってくれねぇか」

「本当に俺でいいんですか」

「アレ坊がいいのよ。アレ坊なら、一生懸命、俺と一緒に働いてくれるだろ。それに、なんだ。あれだ。おっさんになるとな、色々覚悟が必要になるっつーか、まぁ重いんだわ。死ぬまで離してやれねぇから、そこんとこ覚悟しとけよ。浮気は許さん。……ただ、俺が死んだ後は、絶対に他の奴に恋をして、寄り添って生きてくれる奴を見つけろ。お前が一人ぼっちになるのは、俺が堪え切れん。死んでも蘇っちまう勢いでダメダメだ」

「……ガイダーナさん以上に好きになれる人なんて、この世にいないです」

「そこはまぁ頑張れ。俺が生きている間は俺だけを見ていろ。死んだ後は、頑張って俺の反対側に立つ奴を見つけろ。遠い先の約束だ」

「約束したくないです」

「いい子だから約束してくれ。お前が本当に大事なんだよ。……愛してる。心から」

「……うーーっ、ずるいっ!」

「ははっ! 大人はずるい生き物なんだよ。アレ坊。返事」

「うっ、うっ、うーーっ、分かりましたっ! 約束、します」

「いい子だ。アレ坊」


 ガイダーナが、涙と鼻水でぐちゃぐちゃなアレクシオの顔に、何度も優しいキスをした。遠い先の約束なんかしたくない。けど、ガイダーナにお願いされたら、頷くことしかできない。アレクシオはべそべそ泣きながら、ガイダーナの逞しい身体に抱きついた。

 それから、冒険者を本当に辞めたガイダーナと一緒に、アレクシオはクザントスの街で、飲み屋を始めた。ガイダーナは意外なことに料理上手で、すぐに固定客がつくようになった。接客をしているアレクシオ目当ての客も多いが、厨房からガイダーナが睨みを利かせているので、セクハラすらされたことがない。毎日、朝から晩まで働いて、一緒に街外れのアレクシオの家に手を繋いで帰る。

 ぼんやりとした月明かりの下で、大きな温かいゴツい手に片手を包まれながら、アレクシオはすぐ隣を歩くガイダーナの横顔を見上げた。どこからどう見ても厳つい髭のおっさんだが、誰よりも優しいことは、とっくの昔に知っている。
 アレクシオが見つめていることに気がついたガイダーナが、アレクシオを見下ろして、優しく微笑んだ。月明かりに照らされたガイダーナの優しい笑みを見上げて、アレクシオはじんわりと胸に広がる幸せに、ゆるく口角を上げた。




(おしまい)
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,301pt お気に入り:1,126

駆け出し漫画家は××に××される。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:168

スライムとクズ野郎のちんちん道中!

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:37

処理中です...