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前編

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三木秀和がファミブール国とやらに召喚されて、ちんこが無くなり、代わりにまんこがついて、早くも1カ月。ファミブール国は穀物の生産が盛んで、それなりに豊かな国だ。先代と当代の王の浪費で国の財政は傾き掛けているが。

ファミブール国では、数十年に一度、異世界から花嫁がやってくる。国が信奉している女神からの贈り物らしい。そういうことで、この度、プログラマーをする傍ら、頻繁に山奥に行き、修験者の端くれとして修行に明け暮れていた秀和が、王妃になるべく召喚された。より正確に言うと、山中にいた筈なのに気づいたら謎の白い空間にいて、女神っぽい感じの女に、『王妃やってね!よろしく!』みたいな軽いノリで放り出された感じである。
ちなみに、秀和は、顎割れ強面の筋肉ムキムキ、尻エクボがチャーミングポイントな41歳である。今回の召喚では、まだ14歳のどこにでもいる感じの少年も一緒だった。子供に王妃なんて重責のある仕事やセックスの相手をさせる訳にはいかない。秀和はどちらが王妃だとざわついている者達の前で、高らかに自分が王妃だと宣言した。

秀和がまず行ったのは、配偶者である王との面談である。王は顔立ちは美しく整っているが、酒浸りのせいなのか、毎晩数多くの側室達とセックスしまくりなせいなのか、顔色が悪く、痩せている。秀和は王に問うた。『己の責務を理解し、行動しているのか』と。王は答えた。『子をつくるのが私の責務だろう』と。確かに、後継者をつくるのは王としての役割の一つだろう。だが、あくまで王の責務の一つというだけだ。王の本来の仕事は政の舵取りである。この様子では、ろくに仕事をしていないだろう。

不思議と読み書きに不自由はしなかったので、秀和は何故か一緒に召喚された少年・山川直と共に、ざっくりとだが、この国の現状を1カ月かけて調べた。厳密に言うと、王城内の全部署に、素人でも理解できるような分かりやすい形で報告書を作らせた。結果として分かったのは、国の主産業である農耕は安定している。しかし、先代の頃から浪費が酷く、国庫をすり減らし続けている。それは当代にも受け継がれており、2人合わせて100人以上の側室に贅沢三昧な暮らしをさせており、湯水のように女達に金を使っている。完全に駄目親子である。
山川少年は若いだけあって、飲み込みが早い。ちんこがなくなり、まんこがついてしまったことにショックを受けていたが、そんな細かいことよりも自分の身を守れるようになれと、ひたすら勉強をさせるようにした。この世界には魔法があり、秀和にも山川少年にも魔法の適正があった。特に山川少年は医療魔法と相性がいい光魔法の属性持ちだったので、山川少年に対して変な気を起こさないような年配の魔法の家庭教師を用意させ、彼には勉強と魔法の習得に集中してもらうことにした。

さて。問題は秀和の今後である。王妃の部屋を覗いてみれば、本来ならば王がすべき仕事が山のように積んであった。肝心の王は、側室の所に行っているらしい。現在、子供がいる側室は3人である。秀和はそれ以外の側室を軒並み解雇することにした。そして、先代も同様に、子供がいる側室だけを残して、適当な手切れ金と共に、側室達を実家に帰らせた。
当然、先代王や当代王、更には王の縁戚になって上手い汁を吸おうとしていた貴族達は激怒した。それを、秀和は淡々と模造紙のような大きな紙を使って、如何に国家にとって無駄な出費をしているのかということをプレゼンテーションした。いくら国の主要産業が安定しているとはいえ、国庫自体は完全に赤字である。実際に、国庫の金の流れの推移や現在の赤字っぷり、今後予想される問題等を、訥訥と語れば、貴族達は黙って秀和に頭を垂れた。最後まで文句を言っていたのは、馬鹿親子だけである。先代馬鹿はもうどうしようもないので、先代馬鹿の代わりに執務を行ったりフォローをしまくっていた先代王妃に丸投げすることにした。『もうこの馬鹿の相手をするのは嫌なのですけど』と心底嫌そうな顔をする先代王妃だったが、これもまた己の勤めだと溜め息を吐いて、先代王の首根っこを掴んで、王都から少し離れた引退した王族が住まう離宮へと去っていった。先代王は馬鹿としか言えないが、先代王妃は実に立派な御仁だと思う。是非とも一度2人で酒を飲みたいものだ。

秀和は不機嫌丸出しの王の首根っこを掴んで執務室に連行し、王を椅子に縛りつけた。額に青筋を浮かべた王が、ぎゃーぎゃーと喚き始めた。


「おいっ!不敬だぞ!!この者を捕らえて牢屋に放り込め!!」

「黙れ。仕事もしないロクデナシが。仕事が終わったら開放してやる。あぁ。安心しろ。尿瓶も可愛いアヒルさんのオマルも用意してある。食事も此処に運ばせる。逃げられると思うな。俺もこの部屋で仕事をするからな」

「なっ……俺の人としての尊厳が無くなるだろうが!!」

「そんなもん、仕事をすれば戻ってくる。さっさと仕事をしろ。分からなければ、宰相の所から有能な男を借りてきたから、そいつに聞け。全く。宰相達が有能じゃなったら、本当にこの国は終わってたぞ」

「ちょっと遊び過ぎただけだろうが。金が足りないなら税収を増やせばいいだけだ」

「馬鹿か。民の反感を買うだけだ。そもそも、自分達が必要以上に使ったものだぞ。てめぇのケツくれぇてめぇで拭け。側室を入れる度に作った離宮は全て解体して、売れるものは全て売る。試算してもらったら、解体費用よりも売却費の方がかなり高くなるからな」

「なっ」

「それと、残した3人の側室だが、1人はお前さんの子供じゃない。故に、その女は慰謝料請求付きで実家に返す」

「なんだと!?私の子供じゃないとはどういうことだ!!」

「さぁ?適当な男と遊んだんじゃないのか?」

「~~クソッ。どいつもこいつも馬鹿にしやがって」

「馬鹿にされるような馬鹿な行動をしているのはお前さんだ。ほれ。とっとと仕事をしろ。長引けば長引く程、お前さんの人間の尊厳とやらはすり減っていくぞ。あぁ。俺は普通に厠に行くがな」

「なっ、ズルいではないか」

「何がズルい。こちらはお前さんの尻拭いをしている立場だ。当然のことだろう。さっさと仕事をしろ」

「……クソッ」


こうして、秀和は王に仕事を強制的にさせることに成功した。とはいえ、やらなければいけない仕事はとにかく多い。馬鹿共が新たに側室を迎える度に無駄に豪華な離宮を建てていたので、その解体は数年掛かりになる。解体費用も馬鹿にならないが、それでもそのままにしておくよりも、解体して使える素材を売った方がまだ金になる。解体費用を差っ引いても、それなりの実入りになるだろう。結局2人の側室が残ったが、そちらの方は、予め宰相達と話し合って決めた年間予算内で全て賄ってもらうと誓約を交した。別に脅してはいない。ただ、誓約をしないのであれば、今後一切国から金を出さないと宣言しただけだ。すんなりと了承を得られて、実に何よりである。

度々、執務から逃げようとする王は、王妃権限を使って、近衛騎士達に捕縛させている。王をわざと逃したら、大幅に減俸すると宣言したら、皆快く協力してくれるようになった。
睡眠は大事だから、夜は寝かせてやるが、王専用の部屋で、近衛騎士の見張り付きで1人で眠らせている。これ以上、子供を増やされても困る。既に3人も子供がいるのだから、それだけで十分だ。王の子供が多過ぎると、戦乱の種になる。いっそ去勢した方が早い気がする。秀和は王の去勢も視野に入れながらも、一応、まだそっちの方は様子見をする予定だ。

1日の仕事を終え、疲れきった秀和の癒やしは、山川少年の存在である。山川少年は、王妃の部屋で一緒に暮らしている。下手に1人で住まわせると、面倒な連中が寄ってきそうな気がしたからだ。実際、王妃の部屋に住んでいても、貴族達から毎日色んな手紙が届いてくる。全て秀和が目を通してから、信頼できると己の勘が告げる側仕えの男に相談して、処理をしている。
秀和はここぞという時の勘を外したことがない。修験者としての修行の賜物かもしれない。実際にどうかは定かではないが。

部屋に戻ると、山川少年と一緒に食事をしながら、今日はどんな勉強をしていたのかを山川少年から聞くのが楽しみになっている。秀和は20代の頃に結婚詐欺の被害にあってから、完全に女性不審になった。かといって、男が好きな訳ではない。山川少年は、もし秀和が普通に結婚して子供ができていたら、ちょうど息子くらいの年だ。
山川少年は秀和を怖がらずに慕ってくれて、顔は普通だが愛嬌があってとても可愛らしいし、本当に癒やされる。一緒に風呂に入り、毎晩一緒に同じベッドで寝ている。
これは山川少年の貞操を守る為だ。王妃の離宮でも、油断はできない。一人部屋を与えたら、どんなことになるか分かったものではない。秀和の勘が信用できると告げる人間は、王妃の離宮内でも少数だ。少しずつ人員整理をしていくつもりだが、今はまだ余裕が足りない。幸いなことに、山川少年は秀和と一緒に寝ることを嫌がらないので、正直ありがたい。敏い子だから、きっとなんとなく察しているのだろう。山川少年には、好いた相手と添わせてやりたい。その為にも、秀和が守れるうちは守らねば。
秀和は今夜もそう心に誓って、くっついてくる山川少年をゆるく抱きしめて眠りに落ちた。


秀和が王妃になり、1年もすれば、だいぶ落ち着いてきた。王も多少は自分から仕事をするようになり、側室達には定期的に睨みを利かせて監査を入れているので、そちらも問題ない。ちらほらと暗殺者が秀和を狙ってくるが、ある程度は自分でも対処できるし、何より宰相が先に手を回してくれていた。宰相は『王ではなく国に仕えている』と公言しているような男だ。秀和が国の為に使える存在のうちは、守ってくれるだろう。

今日はその宰相と打ち合わせである。そろそろ王の長男が6歳になる。本格的な王教育をし始めてもいいだろう。2代続けて愚王だったのだ。次代の教育は慎重にすべきだろう。
王妃の離宮の応接間に現れた宰相は、渋みのある50代半ばのナイス髭ダンディである。若い頃はさぞかしモテたことだろう。姿勢がよく、スタイルもいい。奥方を5年前に亡くしたそうだが、息子が2人おり、2人とも王城で文官として働いているそうだ。孫も3人もいるのだとか。
宰相・シュタークが形式上の礼をとったら、後は普通に話し合いである。
宰相がピックアップしてきた候補者の中から、教育係を決めていく。ついでに、秀和はここ最近考えていたことをシュタークに話してみた。


「なぁ。いっそ王太子っつーか、子供達全員を此処で育てちゃどうだ。あの側室共の側にいたんじゃ、正直まともに育つとは思えねぇ。一番上もまだ6歳だ。今ならまだ色々と矯正してやれるだろ」

「王妃殿下がよろしいのでしたら、そうさせていただきたいですな。側室とは名ばかりの金食い虫ばかりですから。王の子供を産んだ以上、あれらになんの価値もない。いずれも王が戯れに手をつけた中流貴族の娘です。ご本人の素養や素行も正直国母として相応しくはない。王妃殿下がお育てになられるのでしたら、こちらとしても安心ですな」

「じゃあ、そういうことで。子供達を迎える前に、完全にこの離宮の人間を信頼できる連中だけにしたい。まだいくつか遊ばせているのがいる。そいつらを追い出して、まともなのを寄こしてくれ」

「畏まりました。勿論、面接はされるのでしょう?」

「当然」

「必要な人員は?」

「子供が増えることを考えたら、メイドが6人、下男が4人、側仕えが6人、それと料理人が3人、庭師も1人欲しい。あとはちびっ子達の相手をする女官も5人ほど。それから、剣や魔法の家庭教師もだ」

「やれ。多いですな。よろしいです。明後日には面接できるように致しましょう」

「仕事が速くて助かるぜ」

「お褒めいただき恐悦至極」

「この後、義母上が来るが、会っていくか?」

「いえ。仕事がございますので」

「そうか。じゃあ、よろしく頼む」

「畏まりました。それでは、御前失礼いたします」


秀和はシュタークを見送り、山川少年とお茶を飲んで一息ついてから、今度は先代王妃と面会した。先代王妃とは、お互いに愚痴を零し合う仲になっている。先代王も少しはマシになったらしいが、あくまで少しで、つい先日もメイドの女に手を出したらしい。こちらはこちらで、王が女官に手を出そうとした。寸でのところで近衛騎士が止めてくれたので、非常に助かった。そろそろ本気で去勢を考えていると先代王妃に伝えると、先代王妃は『それはいい』と力強く頷いて、どの医者にやらせるか、具体的な話になった。
近いうちに、先代・当代共に、玉なしになることが決定した。これで少しは秀和や先代王妃の負担が減るだろう。
秀和は先代王妃が帰った後、山川少年と蹴鞠のようなもので遊んだ。山川少年はまだ15歳だ。本人の希望で魔法だけでなく、剣も習っている。真面目な性格で、毎日頑張っているので、たまに時間があくと、2人でこうして軽く遊んだりしている。お互いに息抜きになるし、単純に楽しい。

時折、山が恋しくなる。山は誰にでも平等だ。山はただ其処にあるだけだ。山を駆け、岩場を登り、己の力と知恵のみで山の頂まで駆け上がる。今は王城からは出られない生活だ。己に与えられた試練だと思って頑張っているが、それでも、時折逃げ出したくなる。山に行けたら、少しは気分が変わるのだろうが、きっと王妃をしている間に、秀和が山に行くことはない。
秀和は山川少年に気づかれないように小さな溜め息を吐き、汗を流す為に風呂へと誘った。




------
色々とゴタゴタはあったが、無事に子供達を全員王妃の離宮に引き取ることができた。上から6歳、4歳、2歳である。皆男の子だ。秀和達の住む離宮は、一気に賑やかになった。

今日は次期王太子である長男の学友となるであろう同年代の子供達が、何人か保護者付きで来ている。宰相シュタークの孫、将軍の孫、財務大臣の孫、辺境伯の孫4人である。ちょうど皆同い年で、年頃になったら、王立学園に入学する予定である。とりあえず今回は顔合わせということだったが、高位貴族の子供と言っても、子供は子供。今は下の子達や山川少年も交じって、皆で蹴鞠みたいなもので遊んでいる。
秀和は保護者達とまったりお茶を飲みながら、遊ぶ子供達を眺めていた。
将軍が遊ぶ子供達を眺めながら、ボソッと呟いた。


「酒を持ってくればよかったな」

「昼間から酒を飲むなよ」

「将軍に1票。貴重な休みにこうして楽しそうな孫を眺めていられるのです。酒の一つも楽しみたいではありませんか」

「財務大臣もいける口か。王妃殿下は酒はどうでしょう。辺境にもよき酒がございますよ」

「俺?まぁ、普通に好きだが、飲まないなら飲まないで別に」

「甘いものも然程お好きでもないでしょう。何がお好きなのですか?」


シュタークの問いかけに、秀和は小首を傾げた。


「……魚だな。川魚。自分で釣ったやつを焼いて食うのが一番好きだ」

「ほう。王妃殿下は釣りをなさるのですな。とても鍛えておられるようですが、前職は騎士だったのでしょうか」

「いや。趣味で修行してただけだ。山を走り回っていた。筋肉は裏切らないだろう?将軍」

「はっはっは。確かに。筋肉は鍛えただけ応えてくれますな」

「山がお好きならば、一度我が領地にお越しいただきたいですな。峻険な山ばかりですぞ」

「そいつは駆け上がり甲斐がありそうだ」

「我々文官には筋肉は必要ございませんな。ねぇ。宰相閣下」

「然り。頭脳労働が専門ですからな」

「それはそうと。ちと提案なんだが」

「なんでしょう。王妃殿下」

「山川少年を王太子の婚約者にしたらどうだ。暫定的なもんでもいい。最近、どうにも山川少年目当てのあれこれが多くてな。煩わしい。それに、王太子とは10も離れてねぇ。山川少年も女神からの贈り物だし、婚約者としては申し分ないだろ。面倒な王太子の婚約者争いも無くなるぞ」

「それは良いですな」

「確かに。ナオ様はとても勤勉でいらっしゃるとお聞きしております。実際にお会いしてみても、所作もおキレイで、なにより王太子殿下が懐いていらっしゃるご様子。将軍として賛成いたします」

「今からあの様に仲がよいのであれば、よき夫婦になられるかもしれませんな。辺境伯としては賛成でございます」

「ナオ様でしたら散財もしないでしょうし、むしろ、素晴らしい発想で新たな魔導具を共同で開発してらっしゃるとか。財務大臣としても賛成ですな」

「私も宰相として賛成です。ナオ様に好いたお方ができたら、その時にまた考えればよろしいでしょう」

「おぅ。じゃあ、そういうことで、公式発表の準備を頼む」

「「「「御意」」」」


遊び疲れてお腹を空かせた子供達がおやつを食べている様子をほっこりとしながら眺め、また一緒に遊ぶことを約束してから、シュタークの孫達は帰って行った。遊び疲れて早々とダウンした2歳児を抱っこした山川少年が、秀和に近寄ってきた。


「秀にぃ。チーが寝ちゃったんだけど、お風呂どうしよう。すごい汗かいてたから、お風呂に入れたいんだけど」

「寝かせたまま入れるか。おい。今日は全員で風呂に入るぞ。手伝ってくれ」

「はい」

「うん」


秀和は子供達と一緒に風呂場へ向かった。秀和には妹が1人いて、妹には子供が3人いた。少しだが、子守を手伝ったことがある。一応、一番下の子の側仕えも呼んで、手助けしてもらいながら、皆で賑やかに風呂に入った。
離宮で働く者達も全員信頼できる人間にしたので、全員に自室があるのだが、寝るのは秀和の寝室である。何故か初日からそういう流れになって、それが続いている。子供達を寝返りでうっかり潰しやしないかと秀和はハラハラしちゃうのだが、子供達は秀和にくっついて寝るのが好きらしい。特に一番下の子は必ず秀和の胸の上で寝る。然程重くもないので構わないのだが、寝返りが打てないのが難儀だ。
チビっ子達が寝た後、こそっと山川少年が声をかけてきた。


「俺、ダーンの婚約者になるの?」

「暫定的っつーか、対外的なもんだ。そういうことにしておけば、余計なもんが寄りつかない。お前さんにも、ダーンにも」

「ふーん」

「嫌か?」

「別に。秀にぃが俺のことを考えてしてくれてるんだもん。それがいいのなら、それでいいよ。なんなら、ダーンを俺好みに育ててもいいしね」

「紫の上かよ」

「男の浪漫だよね。まぁ、逆になるけど」

「ははっ。そこはお前さんの好きにしな」

「うん。秀にぃはさ」

「ん?」

「恋人とかつくんないの?こっそりの」

「相手がいねぇよ」

「宰相さんとか」

「宰相ぉ?おっさんじゃねぇか」

「秀にぃだって、おっさんじゃん。秀にぃ、宰相さんと一番仲いいでしょ」

「まぁな。とはいえ、仕事絡みだぞ。ま、俺なんざ向こうが相手にしねぇよ」

「わっかんないよー?」

「ほれ。お前さんもそろそろ寝ろ。明日も朝から大忙しだぞ」

「うん。おやすみ。秀にぃ」

「おやすみ」


秀和は子供達の寝息を聞きながら、ぼんやりと考えた。この世界に連れてこられて、下半身のごく一部だけが女になった。秀和だってまだ40代前半で枯れている訳では無いし、ちんこがまんこになったからって、性欲が無くなった訳では無い。ぶっちゃけてしまえば、ムラムラすることもあるし、たまにトイレで自分のクリトリスだけを弄って手早く性欲を発散させることもある。
宰相の顔を思い浮かべて、自分がセックスができるかどうかを考えてみた。多分、できる。男は範疇外だが、セックスしてもいいと思える程度に信用も信頼もしている者は、残念ながらというべきか、シュタークだけだ。女官達も信頼しているが、どうにも女には苦手意識がある。シュタークとなら、セックスをしてみてもいいかもしれない。まぁ、向こうがその気になる筈がないのだが。
秀和はその夜、シュタークとセックスをする夢をみて、翌朝、こっそり汚れたパンツを洗う羽目になった。





------
馬鹿王の去勢が秘密裏に行われた。多少はマシになって仕事はしていたのだが、それでも女官や年端もいかぬメイドにまで手を出していたので、本当に去勢してやった。魔法で玉なしにしたので、見た目は変わらない。だが、男としての機能は一切無くなった。馬鹿王は喚きに喚き、最終的に泣きながら『それだけはやめてくれ』と懇願してきたが、馬鹿の尻拭いにはもう飽きた。突然、この国に召喚されて、王妃になって、1年と半年程だ。これまで、馬鹿の尻拭いの為に休みなく働いてきた。今は慣れぬ子育てもしている。正直、秀和は疲れていた。

馬鹿が去勢のショックで寝込んでしまったせいで、秀和はいつも以上に忙しかった。王の執務室で、王の代理として、ひたすら働いている。王の仕事以外にも、王妃としての仕事もある。ここ最近は、子供達の寝顔を少し見るのがやっとな生活が続いている。
秀和の護衛をしている近衛騎士が、気を使ってか、山川少年が淹れてくれたという珈琲を水筒に入れて持ってきてくれた。チビっ子達からという焼き菓子もだ。自分の分のおやつの焼き菓子を分けてくれたらしい。清潔なハンカチに包まれた焼き菓子を見て、秀和は小さく笑った。存外、自分は懐かれているようである。なんだか嬉しくて、秀和は少しの休憩をとることにした。
休憩中に、執務室にシュタークが入室してきた。シュタークは秀和の顔を見るなり、器用に右眉だけを上げた。


「王妃殿下」

「次はどの書類だ?」

「今日はもう切り上げてください。そして、明日は休まれますよう。顔が酷いですよ」

「誰が不細工だ」

「不細工とは申しておりません。酷い顔をしておられると言っただけです。王もそろそろ復帰なさるでしょう。特別急ぎの案件は今のところはございません。それを召し上がられたら、もう離宮にお帰りください。そして、きっちり休まれてください」

「……俺、そんな酷い顔してるか?」

「えぇ。目の下は隈で真っ黒。眉間には深い皺、人相が悪くて、どこぞの破落戸のようですよ」

「そいつぁ、ひでぇな。……帰って寝るか」

「お送りいたします」

「いい。宰相も仕事があるだろ」

「多少抜けても問題ありません。部下の教育はきっちりしております」

「流石我が国の宰相殿。隙がない」

「お褒めにあずかり恐悦至極。さて、その焼き菓子で最後でしょう。さくっと食べて帰りますよ」

「……宰相。いらねぇか?俺、ぶっちゃけ何枚もは食えねぇんだよなぁ。甘過ぎて。いや、チビっ子達の気持ちはすげぇ嬉しいんだけどよ」

「そういうことでしたら、いただきましょうか」


シュタークが少し呆れたような顔で笑い、秀和が食うに食えなかった最後の焼き菓子を食べてくれた。シュタークと並んで歩き、ついでに休む間の簡単な打ち合わせをする。
離宮に帰り着くと、子供達は其々勉強をしたり遊んだりしていた。ここ最近構ってやれなかったからか、一番下の子が泣きながら秀和に抱きついてきた。二番目もぐずぐず泣きながら秀和のズボンを握り、騒ぎに気づいた一番上も、無言で秀和の腰に抱きついてきた。本当に、よくもまあ懐かれたものである。別室で勉強していた山川少年は、秀和を見るなり、険しい顔をした。


「皆。秀にぃから離れる。秀にぃは今すぐベッドで寝る」

「「「うん」」」


チビっ子達は秀和よりも山川少年の方に懐いているというか、言うことを聞くので、皆素直にぐずぐず泣きながら秀和から離れて、山川少年にくっつきに行った。秀和は苦笑して、険しい顔をしたままの山川少年に声をかけた。


「わりぃ。今日は寝るわ。明日は休みだから、皆で遊ぶか」

「駄目。秀にぃは明日も寝てて。皆。今夜は俺の部屋で寝るよ。秀にぃを休ませなきゃ、秀にぃが倒れちゃう」

「「「うん」」」

「ということだから、秀にぃは寝室へゴー!今すぐ!」


隣でクックッとシュタークが楽しそうに笑っている。なんとなく気まずくて、秀和がボリボリと後頭部を掻くと、シュタークまで山川少年の援護をしてきた。


「ベッドまでお一人で行けぬのでしたら、お連れいたしますが?」

「一人で行けらぁ。んじゃ、おやすみ。……ありがとな」

「いえ」

「ほら、皆。おやすみー」

「「「おやすみー」」」


秀和はシュタークと子供達に見送られて、寝室へと入った。男物ではあるが、王妃用として作られた豪奢な服を脱ぐのも面倒なくらい疲れている。人を呼ぶのも、今は面倒だ。
秀和は渾身の気力で適当に服を脱ぎ散らかすと、パンツすら脱ぎ捨てて、全裸でベッドに潜り込み、一瞬で寝落ちた。
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