三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第一章 何処へ?

15.幼馴染の君・2

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 伊靖君は笑って言う。
 「義光…何言ってんだ?
 先刻さっき御帳台の中を覗いたけど、ちゃんと姉上だったぞ。
 確かに言うことは大分ヘンだけどな」

 本当に失礼な奴らだな。
 さっきもさらっと「いわのひめ」だの「地獄から戻ってきた」だの。
 あたしは軽くイラッとしたのもあり、三途の川で聞いた伊都子姫の口調をまねて「話は終わり?」と訊いた。

 二人は「ほら、姉上だ」と言いながら頷きあっている。
 ほっ。

 と、義光君があたしの方を見て「あれ?そこに…何かいるようだ」と言いながら御帳台の方へ近づいてきた。
 御簾の裾をちょっとあげて、すっと手を差し入れ、すぐに引っ込める。
 その手から何かが放たれるのをあたしは見た。

 「あれ、何もいませんねえ」と座布団に戻ったところで、後ろの女房さん達からきゃあっという悲鳴が上がり、何?と見る間に、ドタバタと大騒ぎになる。
 「姫様!こちらへ!虫がっっ」
 いつも冷静な内侍さんがパニクっている。

 伊靖君義光君こいつらはまったく…あたしは呆れた。
 小学生かっての。
 傍にあったからの湯呑を取り、コオロギのような虫の上からカポッと被せる。
 あたし、G以外はそんなに怖くないんだよね。

 「ああやっぱり、何か居りましたか?」
 笑いを押さえきれない声で義光君が「失礼しますよ~」と軽いノリで御簾を上げて入ってきた。
 またもや女房さん達の悲鳴が上がり、几帳の後ろに皆隠れてしまって、あたし独りが取り残された。
 
 義光君はあたしを見て呆然としたように、巻き上げた御簾を持ったまま固まっている。
 …なに?
 もしかして、見た目で何か伊都子姫じゃないことが判っちゃう?
 でも式部さんも内侍さんも何も言ってないし。

 あたしは内心の動揺を隠し、何気ない風を装って義光君から視線を外して懐紙を取って湯呑の中の虫を移した。
 紙の中でうごめく虫を見てみると、似てるけどコオロギじゃないよね。
 季節も、今は秋ではないようだし。

 「姉君…」
 義光君は驚いたようにあたしの手の中の紙を凝視する。
 あたしはずいっと懐紙ごと義光君の方へ突き出した。
 「こんな子供じみた悪戯はおやめなさい。
 カマドウマなんてどこで拾ってきたの、無用な殺生はせずにちゃんと放してやるのよ?」

 「……あ、はい」
 義光君は毒気を抜かれたように、あたしの顔を見つめたまま紙を受け取った。
 「カマドウマ…?コオロギじゃないの?」
 と呟いている。

 けっ。貴族のおぼっちゃんめ。
 ベンジョコオロギなんて知らんだろ。
 あたしは心の中で吐き捨てる。

 「義光、いい加減にしろよ、姉上に殺されるぞ…ってあれ?」
 伊靖君が入ってきて、几帳の後ろに鈴なりになっている女房さん達と目の前のあたしを見て驚いている。

 「姉上…虫が平気になられたのですか?
 昔はあんなに…」
 「あ、そうそう、大丈夫になったの。
 大人になったからね」
 あたしは慌てて取り繕った。

 その時、またも庭の方から騒がしい声がして、いつの間にか出勤していた式部さんが慌てて出て行った。
 そしてまた「姫様!大変ですわ!」と大声で言いながら急いでいざって戻ってくる。
 
 「主上からのお使者が…主上からのお手紙を携えて参りました!」


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