15 / 307
第一章 何処へ?
15.幼馴染の君・2
しおりを挟む
伊靖君は笑って言う。
「義光…何言ってんだ?
先刻御帳台の中を覗いたけど、ちゃんと姉上だったぞ。
確かに言うことは大分ヘンだけどな」
本当に失礼な奴らだな。
さっきもさらっと「いわのひめ」だの「地獄から戻ってきた」だの。
あたしは軽くイラッとしたのもあり、三途の川で聞いた伊都子姫の口調をまねて「話は終わり?」と訊いた。
二人は「ほら、姉上だ」と言いながら頷きあっている。
ほっ。
と、義光君があたしの方を見て「あれ?そこに…何かいるようだ」と言いながら御帳台の方へ近づいてきた。
御簾の裾をちょっとあげて、すっと手を差し入れ、すぐに引っ込める。
その手から何かが放たれるのをあたしは見た。
「あれ、何もいませんねえ」と座布団に戻ったところで、後ろの女房さん達からきゃあっという悲鳴が上がり、何?と見る間に、ドタバタと大騒ぎになる。
「姫様!こちらへ!虫がっっ」
いつも冷静な内侍さんがパニクっている。
伊靖君義光君はまったく…あたしは呆れた。
小学生かっての。
傍にあった空の湯呑を取り、コオロギのような虫の上からカポッと被せる。
あたし、G以外はそんなに怖くないんだよね。
「ああやっぱり、何か居りましたか?」
笑いを押さえきれない声で義光君が「失礼しますよ~」と軽いノリで御簾を上げて入ってきた。
またもや女房さん達の悲鳴が上がり、几帳の後ろに皆隠れてしまって、あたし独りが取り残された。
義光君はあたしを見て呆然としたように、巻き上げた御簾を持ったまま固まっている。
…なに?
もしかして、見た目で何か伊都子姫じゃないことが判っちゃう?
でも式部さんも内侍さんも何も言ってないし。
あたしは内心の動揺を隠し、何気ない風を装って義光君から視線を外して懐紙を取って湯呑の中の虫を移した。
紙の中でうごめく虫を見てみると、似てるけどコオロギじゃないよね。
季節も、今は秋ではないようだし。
「姉君…」
義光君は驚いたようにあたしの手の中の紙を凝視する。
あたしはずいっと懐紙ごと義光君の方へ突き出した。
「こんな子供じみた悪戯はおやめなさい。
カマドウマなんてどこで拾ってきたの、無用な殺生はせずにちゃんと放してやるのよ?」
「……あ、はい」
義光君は毒気を抜かれたように、あたしの顔を見つめたまま紙を受け取った。
「カマドウマ…?コオロギじゃないの?」
と呟いている。
けっ。貴族のおぼっちゃんめ。
ベンジョコオロギなんて知らんだろ。
あたしは心の中で吐き捨てる。
「義光、いい加減にしろよ、姉上に殺されるぞ…ってあれ?」
伊靖君が入ってきて、几帳の後ろに鈴なりになっている女房さん達と目の前のあたしを見て驚いている。
「姉上…虫が平気になられたのですか?
昔はあんなに…」
「あ、そうそう、大丈夫になったの。
大人になったからね」
あたしは慌てて取り繕った。
その時、またも庭の方から騒がしい声がして、いつの間にか出勤していた式部さんが慌てて出て行った。
そしてまた「姫様!大変ですわ!」と大声で言いながら急いでいざって戻ってくる。
「主上からのお使者が…主上からのお手紙を携えて参りました!」
「義光…何言ってんだ?
先刻御帳台の中を覗いたけど、ちゃんと姉上だったぞ。
確かに言うことは大分ヘンだけどな」
本当に失礼な奴らだな。
さっきもさらっと「いわのひめ」だの「地獄から戻ってきた」だの。
あたしは軽くイラッとしたのもあり、三途の川で聞いた伊都子姫の口調をまねて「話は終わり?」と訊いた。
二人は「ほら、姉上だ」と言いながら頷きあっている。
ほっ。
と、義光君があたしの方を見て「あれ?そこに…何かいるようだ」と言いながら御帳台の方へ近づいてきた。
御簾の裾をちょっとあげて、すっと手を差し入れ、すぐに引っ込める。
その手から何かが放たれるのをあたしは見た。
「あれ、何もいませんねえ」と座布団に戻ったところで、後ろの女房さん達からきゃあっという悲鳴が上がり、何?と見る間に、ドタバタと大騒ぎになる。
「姫様!こちらへ!虫がっっ」
いつも冷静な内侍さんがパニクっている。
伊靖君義光君はまったく…あたしは呆れた。
小学生かっての。
傍にあった空の湯呑を取り、コオロギのような虫の上からカポッと被せる。
あたし、G以外はそんなに怖くないんだよね。
「ああやっぱり、何か居りましたか?」
笑いを押さえきれない声で義光君が「失礼しますよ~」と軽いノリで御簾を上げて入ってきた。
またもや女房さん達の悲鳴が上がり、几帳の後ろに皆隠れてしまって、あたし独りが取り残された。
義光君はあたしを見て呆然としたように、巻き上げた御簾を持ったまま固まっている。
…なに?
もしかして、見た目で何か伊都子姫じゃないことが判っちゃう?
でも式部さんも内侍さんも何も言ってないし。
あたしは内心の動揺を隠し、何気ない風を装って義光君から視線を外して懐紙を取って湯呑の中の虫を移した。
紙の中でうごめく虫を見てみると、似てるけどコオロギじゃないよね。
季節も、今は秋ではないようだし。
「姉君…」
義光君は驚いたようにあたしの手の中の紙を凝視する。
あたしはずいっと懐紙ごと義光君の方へ突き出した。
「こんな子供じみた悪戯はおやめなさい。
カマドウマなんてどこで拾ってきたの、無用な殺生はせずにちゃんと放してやるのよ?」
「……あ、はい」
義光君は毒気を抜かれたように、あたしの顔を見つめたまま紙を受け取った。
「カマドウマ…?コオロギじゃないの?」
と呟いている。
けっ。貴族のおぼっちゃんめ。
ベンジョコオロギなんて知らんだろ。
あたしは心の中で吐き捨てる。
「義光、いい加減にしろよ、姉上に殺されるぞ…ってあれ?」
伊靖君が入ってきて、几帳の後ろに鈴なりになっている女房さん達と目の前のあたしを見て驚いている。
「姉上…虫が平気になられたのですか?
昔はあんなに…」
「あ、そうそう、大丈夫になったの。
大人になったからね」
あたしは慌てて取り繕った。
その時、またも庭の方から騒がしい声がして、いつの間にか出勤していた式部さんが慌てて出て行った。
そしてまた「姫様!大変ですわ!」と大声で言いながら急いでいざって戻ってくる。
「主上からのお使者が…主上からのお手紙を携えて参りました!」
2
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる