19 / 307
第一章 何処へ?
19.義光君
しおりを挟む
お使者の方が内侍さんが書いた返信を押し頂くようにして受け取り帰っていき、お殿様や弟君はそれぞれに激励の言葉を残して各々の住居に戻っていった。
あたしも御帳台から出てとりあえず日記を読もう…と御簾をあげようとすると、式部さんに止められた。
「義光様が、姫様にお話があるそうで…」
御帳台の外を見ると、義光君がもじもじと扇子を弄っている。
しばらく待っていたが、何もアクションがないのであたしは次第にイライラしてきた。
「どうしたの?話って何?」
我慢の緒が切れて尋ねると、義光君ははっとしたように扇子を閉じ、床に両手をついて頭を下げた。
「先ほどは…失礼な真似を致しまして、誠に申し訳ありませんでした。
昔、姉君が虫をたいそう怖がっていらして、伊靖とよく悪戯したのを思い出して、つい…。
叱責を受けて、反省いたしました」
ああ…なんだ。
悪戯を謝ろうと思ってたんだ。
あたしは、ちょっと機嫌を良くし「もうあんなくだらないことは止めて、素敵な若公達になるよう努力しなさいね」と言った。
「はい」とまた頭を下げて、顔を上げあたしの方を見て「それにしても…」と続ける。
「姉君は、本当に変わられた。
ここに今おわすのは本当に、あの高慢ちきで鼻持ちならない姉君と同一人物なのか?と私は自分の疑念を拭いきれません」
ぎくっ!
あたしは思わず辺りを見回す。
式部さんは傍にいるが、なにか作業に没頭している様子。
あたしたちの会話は耳に入ってないみたい。
「伊靖から聞いているでしょう?
わたくしは、地獄ではなくてあの世とこの世の間で、御仏に会い尊いお慈悲に触れたのです。
以前とは違っていても仕方のないことですわ」
「うーん…それが眉唾なんだよなぁ…」
扇で顔を隠すように呟くけど、聞こえてるよっ!
義光君は急に膝立ちになって音もたてずに御帳台に近づき、御簾の端から中へ入ってくる。
「ちょっ…」あたしは驚いて後ずさる。
式部さんも腰を浮かす。
「大体、姉君って、こんなに美しかった?」あたしの顔の下からすくいあげるように見上げた。
少し色素の薄い、キラキラした瞳があたしを射る。
「義光様!」
式部さんが大声で制止し、あたしと義光君の間に割って入ろうとする。
が、義光君は軽く躱してあたしの耳に囁いた。
「惚れそうですよ、あ・ね・ぎ・み」
すっと身を引いて、直衣を整え、あたしと式部さんを見て不敵に笑う。
「姉君と左近衛中将殿はまだ三日夜の餅もなさってない。
私にだって好機があるかもしれないよね?」
みかよのもち?
あたしは状況も忘れてきょとんとする。
式部さんは顔を真っ赤にして「いい加減になさいまし!お言葉が過ぎますよ!」と怒る。
義光君は肩をすくめた。
「こわいこわい。今日はこれで退散いたしますよ。
ではまたね、姉君」
軽い身のこなしで、さっさと御帳台を出て行った。
なんなの、あれ?
あたしは驚きすぎて言葉も出ないまま、呆然と見送っていた。
あたしも御帳台から出てとりあえず日記を読もう…と御簾をあげようとすると、式部さんに止められた。
「義光様が、姫様にお話があるそうで…」
御帳台の外を見ると、義光君がもじもじと扇子を弄っている。
しばらく待っていたが、何もアクションがないのであたしは次第にイライラしてきた。
「どうしたの?話って何?」
我慢の緒が切れて尋ねると、義光君ははっとしたように扇子を閉じ、床に両手をついて頭を下げた。
「先ほどは…失礼な真似を致しまして、誠に申し訳ありませんでした。
昔、姉君が虫をたいそう怖がっていらして、伊靖とよく悪戯したのを思い出して、つい…。
叱責を受けて、反省いたしました」
ああ…なんだ。
悪戯を謝ろうと思ってたんだ。
あたしは、ちょっと機嫌を良くし「もうあんなくだらないことは止めて、素敵な若公達になるよう努力しなさいね」と言った。
「はい」とまた頭を下げて、顔を上げあたしの方を見て「それにしても…」と続ける。
「姉君は、本当に変わられた。
ここに今おわすのは本当に、あの高慢ちきで鼻持ちならない姉君と同一人物なのか?と私は自分の疑念を拭いきれません」
ぎくっ!
あたしは思わず辺りを見回す。
式部さんは傍にいるが、なにか作業に没頭している様子。
あたしたちの会話は耳に入ってないみたい。
「伊靖から聞いているでしょう?
わたくしは、地獄ではなくてあの世とこの世の間で、御仏に会い尊いお慈悲に触れたのです。
以前とは違っていても仕方のないことですわ」
「うーん…それが眉唾なんだよなぁ…」
扇で顔を隠すように呟くけど、聞こえてるよっ!
義光君は急に膝立ちになって音もたてずに御帳台に近づき、御簾の端から中へ入ってくる。
「ちょっ…」あたしは驚いて後ずさる。
式部さんも腰を浮かす。
「大体、姉君って、こんなに美しかった?」あたしの顔の下からすくいあげるように見上げた。
少し色素の薄い、キラキラした瞳があたしを射る。
「義光様!」
式部さんが大声で制止し、あたしと義光君の間に割って入ろうとする。
が、義光君は軽く躱してあたしの耳に囁いた。
「惚れそうですよ、あ・ね・ぎ・み」
すっと身を引いて、直衣を整え、あたしと式部さんを見て不敵に笑う。
「姉君と左近衛中将殿はまだ三日夜の餅もなさってない。
私にだって好機があるかもしれないよね?」
みかよのもち?
あたしは状況も忘れてきょとんとする。
式部さんは顔を真っ赤にして「いい加減になさいまし!お言葉が過ぎますよ!」と怒る。
義光君は肩をすくめた。
「こわいこわい。今日はこれで退散いたしますよ。
ではまたね、姉君」
軽い身のこなしで、さっさと御帳台を出て行った。
なんなの、あれ?
あたしは驚きすぎて言葉も出ないまま、呆然と見送っていた。
2
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる