三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第一章 何処へ?

19.義光君

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 お使者の方が内侍さんが書いた返信を押し頂くようにして受け取り帰っていき、お殿様や弟君はそれぞれに激励の言葉を残して各々の住居に戻っていった。

 あたしも御帳台から出てとりあえず日記を読もう…と御簾をあげようとすると、式部さんに止められた。
 「義光様が、姫様にお話があるそうで…」
 御帳台の外を見ると、義光君がもじもじと扇子を弄っている。
 しばらく待っていたが、何もアクションがないのであたしは次第にイライラしてきた。
 
 「どうしたの?話って何?」
 我慢の緒が切れて尋ねると、義光君ははっとしたように扇子を閉じ、床に両手をついて頭を下げた。
 「先ほどは…失礼な真似を致しまして、誠に申し訳ありませんでした。
 昔、姉君が虫をたいそう怖がっていらして、伊靖とよく悪戯したのを思い出して、つい…。
 叱責を受けて、反省いたしました」

 ああ…なんだ。
 悪戯を謝ろうと思ってたんだ。

 あたしは、ちょっと機嫌を良くし「もうあんなくだらないことは止めて、素敵な若公達になるよう努力しなさいね」と言った。
 「はい」とまた頭を下げて、顔を上げあたしの方を見て「それにしても…」と続ける。
 
 「姉君は、本当に変わられた。
 ここに今おわすのは本当に、あの高慢ちきで鼻持ちならない姉君と同一人物なのか?と私は自分の疑念を拭いきれません」

 ぎくっ!
 あたしは思わず辺りを見回す。
 式部さんは傍にいるが、なにか作業に没頭している様子。
 あたしたちの会話は耳に入ってないみたい。

 「伊靖から聞いているでしょう?
 わたくしは、地獄ではなくてあの世とこの世の間で、御仏に会い尊いお慈悲に触れたのです。
 以前とは違っていても仕方のないことですわ」

 「うーん…それが眉唾なんだよなぁ…」
 扇で顔を隠すように呟くけど、聞こえてるよっ!

 義光君は急に膝立ちになって音もたてずに御帳台に近づき、御簾の端から中へ入ってくる。
 「ちょっ…」あたしは驚いて後ずさる。
 式部さんも腰を浮かす。

 「大体、姉君って、こんなに美しかった?」あたしの顔の下からすくいあげるように見上げた。
 少し色素の薄い、キラキラした瞳があたしを射る。
 「義光様!」
 式部さんが大声で制止し、あたしと義光君の間に割って入ろうとする。
 が、義光君は軽く躱してあたしの耳に囁いた。

 「惚れそうですよ、あ・ね・ぎ・み」

 すっと身を引いて、直衣を整え、あたしと式部さんを見て不敵に笑う。
 「姉君と左近衛中将殿はまだ三日夜の餅もなさってない。
 私にだって好機があるかもしれないよね?」

 みかよのもち?
 あたしは状況も忘れてきょとんとする。

 式部さんは顔を真っ赤にして「いい加減になさいまし!お言葉が過ぎますよ!」と怒る。
 義光君は肩をすくめた。
 「こわいこわい。今日はこれで退散いたしますよ。
 ではまたね、姉君」
 軽い身のこなしで、さっさと御帳台を出て行った。

 なんなの、あれ?
 あたしは驚きすぎて言葉も出ないまま、呆然と見送っていた。


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