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第二章 賀茂祭・流鏑馬神事
15.磐之媛命と石の姫
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左近衛中将様はお酒を口に含み、唇を湿らせてから話し出す。
あたしは心臓がドキドキした。
本当はとても嫌な思いをしてるに違いない。
伊靖君も「時々、左近衛中将殿が気の毒になります」って言ってたし。
でも面と向かって愚痴とか、あたしを否定するようなことを言われたらどうしよう。
耐えられるかな…
「姫はご存知でしょうか?
古事記に記載されている『磐之媛命』を」
えっ?
知らない。
古事記や日本書紀なんて、名前を聞いたことがあるくらい。
「とても嫉妬深い皇后として描かれています。
天皇が自分の留守中に他の女性を宮中に迎えいれたと知って、激怒して実家に帰ってしまい、実家近くに家を建てて生涯、宮殿に帰ることは無かったとか」
へえー…天皇も酷いけど、磐之媛も凄まじいな。
「私はこの話を読んだ時、磐之媛という女人は、とても愛情深い皇后であらせられたのだろうと思いました。
天皇を心底愛して居られたのだろうと」
左近衛中将様は衛門さんにお酒を注いでもらって飲み干して、あたしを見た。
瞳が少し潤んで見える。
「私もこんなに嫉妬してもらえるほど、貴女に愛されたいと願っています。
ですから姫が『石の姫』と言われているのは、私としてはまったく気にならないどころか、むしろ歓迎ですよ」
と言ってから慌てたように言い足す。
「あっ、私が貴女以外の誰か他の女人を家に入れるという意味ではありませんよ。
私は、妻は貴女ひとりと決めておりますから…」
あたしは微笑んでうつむいた。
嬉しくて、涙が出そうだったから。
優しい人…
伊都子姫ではなくて、あたしを好きになって欲しいと心から思った。
でも、あたしの破天荒な行動力を事前に知っていて予備知識のあった左近衛中将様でも、流鏑馬神事での出来事は予想だにしなかったに違いない。
賀茂祭の前儀の日にちが目前に迫ったある日。
あたしは、侍女さんと屋敷内を散歩していた。
重い髪と十二単を引きずりながら歩き回るのは、ある程度の効果はあるらしい。
少しだけ、身体が引き締まったように思う。
食べる量が変わっていないから、気のせいかもしれないけど…
東の対と呼ばれる建物(あたしが普段生活しているところ)の、廊下を曲がろうとしたとき、曲がった先の廊下の隅、蔀戸に隠れるようにして伊靖君が蹲っているのが見えた。
手に何か、書類のようなものを持って「ちっ…」と悔しそうに舌打ちしている。
あたしは、とっさに侍女さんの手をつかんで、近くの部屋に隠れて伊靖君の傍まで忍んで行った。
伊靖君が持っているものは、文のようだ。
ずいぶん趣の異なる文を二通、持っている。
これは…
あたしは秘かにほくそ笑んだ。
使えるかもよ?
あたしは心臓がドキドキした。
本当はとても嫌な思いをしてるに違いない。
伊靖君も「時々、左近衛中将殿が気の毒になります」って言ってたし。
でも面と向かって愚痴とか、あたしを否定するようなことを言われたらどうしよう。
耐えられるかな…
「姫はご存知でしょうか?
古事記に記載されている『磐之媛命』を」
えっ?
知らない。
古事記や日本書紀なんて、名前を聞いたことがあるくらい。
「とても嫉妬深い皇后として描かれています。
天皇が自分の留守中に他の女性を宮中に迎えいれたと知って、激怒して実家に帰ってしまい、実家近くに家を建てて生涯、宮殿に帰ることは無かったとか」
へえー…天皇も酷いけど、磐之媛も凄まじいな。
「私はこの話を読んだ時、磐之媛という女人は、とても愛情深い皇后であらせられたのだろうと思いました。
天皇を心底愛して居られたのだろうと」
左近衛中将様は衛門さんにお酒を注いでもらって飲み干して、あたしを見た。
瞳が少し潤んで見える。
「私もこんなに嫉妬してもらえるほど、貴女に愛されたいと願っています。
ですから姫が『石の姫』と言われているのは、私としてはまったく気にならないどころか、むしろ歓迎ですよ」
と言ってから慌てたように言い足す。
「あっ、私が貴女以外の誰か他の女人を家に入れるという意味ではありませんよ。
私は、妻は貴女ひとりと決めておりますから…」
あたしは微笑んでうつむいた。
嬉しくて、涙が出そうだったから。
優しい人…
伊都子姫ではなくて、あたしを好きになって欲しいと心から思った。
でも、あたしの破天荒な行動力を事前に知っていて予備知識のあった左近衛中将様でも、流鏑馬神事での出来事は予想だにしなかったに違いない。
賀茂祭の前儀の日にちが目前に迫ったある日。
あたしは、侍女さんと屋敷内を散歩していた。
重い髪と十二単を引きずりながら歩き回るのは、ある程度の効果はあるらしい。
少しだけ、身体が引き締まったように思う。
食べる量が変わっていないから、気のせいかもしれないけど…
東の対と呼ばれる建物(あたしが普段生活しているところ)の、廊下を曲がろうとしたとき、曲がった先の廊下の隅、蔀戸に隠れるようにして伊靖君が蹲っているのが見えた。
手に何か、書類のようなものを持って「ちっ…」と悔しそうに舌打ちしている。
あたしは、とっさに侍女さんの手をつかんで、近くの部屋に隠れて伊靖君の傍まで忍んで行った。
伊靖君が持っているものは、文のようだ。
ずいぶん趣の異なる文を二通、持っている。
これは…
あたしは秘かにほくそ笑んだ。
使えるかもよ?
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