三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第四章 上達部との交流

9.東宮からの贈り物・2

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 その日の午後、東宮にお礼の手紙を書こうとしていると。
 今度は式部さん(宿下がりから戻った)がバタバタと部屋に入ってきた。
 大きくて重そうな包みを持っている。

 「ひ、姫様!東宮様から、贈り物でございます」
 え、また?
 今度は何だい。

 あたしが文机から身体の向きを変えると、式部さんはがさがさとたとう紙を開けている。
 何だろう。

 「まあ、これは…
 白拍子の衣装ではございませんか」

 同封されている文を見ると
 『淡香花は気に入っていただけましたでしょうか?
 蝦夷という地方の名馬なのですよ。
 いつかご一緒に遠乗りいたしましょう』

 『白拍子の衣装は、乗馬用です。
 この衣装を纏った貴女は、いにしえの女神のように美しく輝いて見えることでしょうね。
 ぜひ一度拝見したい。
 またお会いしに伺います。
 私の美しい人へ』
 とか、歯の浮くような美辞麗句が並べてあった。

 ああ、なるほど。
 白拍子は十二単より軽くて動きやすそうだから、乗馬用に転用しろってことなのね。
 行き届いてるわぁ。
 さすが稀代のプレイボーイ。

 広げてみると、上衣はともかく、下の裳裾が長すぎるなあ…
 あ、縫姫にカットして裾をまつってもらえないかな。
 式部さんに話してみると「ああ、それがようございますね」と言った後、少し間をおいて「あの、姫様、本当に乗馬などなさるおつもりですか」と訊いてきた。

 「だって、東宮様が馬も衣装まで揃えてくださったんだもの。
 義光君が東宮様に命令されて、乗り方を教えてくれるって言うし」

 「左様でございますか…」
 と式部さんはため息交じりに言って、上衣は綺麗に畳んでまた畳紙に包む。
 「何?お母様に何か言われたの?」
 心配になって訊くと「いえ…」と濁す。

 「ああ、お母様には後でわたくしからお話し申し上げるわ」
 「いえ、違います。
 …実は、わたくしの夫は落馬事故で亡くなりましたものですから…」
 と言って、袖でそっと涙を拭う。

 あ、そうだったんだ…
 あたしは俯いた。
 「お屋敷内でしか乗らないし、十分気を付けるから」と言うと、「はい。くれぐれもお気を付けあそばしてくださいませ」と微笑んだ。

 それから式部さんと二人で、裳を持って縫姫の局を訪ねた。
 縫姫はすごく歓迎してくれて、今、急ぎの仕立物はないから、最優先でやりますと請け合ってくれた。

 「まあ、お馬とこの白拍子の衣装を、東宮様から…」
 カットする部分を手早くしつけ糸で縫って印をつけながら、縫姫は驚いたように言って、それからうっとりしたように微笑んだ。

 「お伽噺の草紙に登場するお姫様のようでございますわね…
 憧れますわ…」
 イヤ、そんなに夢のように美しい話ではないのよ。
 蜂蜜と胡麻油、それに創作料理という、思い切り即物的なところから始まってるんだから。

 まあでも、女の子らしい憧れを持っているんだなと思って、あたしは縫姫に親近感を持った。
 あたしだって、自分のことでなかったら、夢のようなお話だと思うだろう。
 現実は、とても話せるようなものではないんだけどねっ。
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