三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

文字の大きさ
116 / 307
第五章 四人きょうだい

7.クッキー作り

しおりを挟む
 翌日、朝ごはんを食べて散歩に出ようとしていたら、東宮から手紙が来た。
 めちゃめちゃ長い手紙で、読んでいて疲れてしまった。
 筆まめって、プレイボーイの条件かもしれないけど、読むほうの負担も考えてくれないかなあ。

 内容をまとめると。
 まず、昨日の幾望会、お疲れ様でした、素晴らしい会になりましたね、という労い。
 それから、次回の幾望会について、こういう趣旨はどうだろうか、また話し合いたいという提案。
 
 そして幾望会後の、自分の振る舞いについて、申し訳なかったという謝罪。
 嫌わないでほしい、ゆっくり事を進めていく所存であるという懇願。

 諦めてくれてはいないんだ。
 あたしは唇を噛む。

 元信様についていく、その気持ちは変わらない。
 元信様だって、自分の立場や親兄弟の立場を悪くしても、あたしと添い遂げると言ってくれているし。
 
 でも…あたしはどんな目に遭っても仕方ないと思うけど。
 お殿様や伊靖君、これから東宮に輿入れする二の姫にも類が及んでしまうかも…と思うと辛い。
 
 伊都子姫のままであったなら、こうむらなくて済んだ被害を受けることになるかもしれない。
 伊都子姫の器に、あたしという人間が入り込んでしまったがために。

 ごめんね。
 できるだけのことはするから。

 正午過ぎ、義光が早々に張り切って来た。
 「早いわね、大丈夫なの?」と訊くと、「私の仕事なんて、いてもいなくても良いんですよ」と笑う。
 
 そんなことないだろう…
 たかがクッキーの為に、嫌だよ、不真面目だからって降格されたりとかしたら…
 
 義光の綺麗な指貫さしぬきが汚れたらいけないので、指貫用の変なエプロンを縫姫に作ってもらった。
 
 「これ、着るんですか?」
 義光は本気で嫌そうに言う。

 嫌なら着なくていいし、お手伝いも結構!と言ったら、渋々、女房さん達に着せてもらっていた。
 あまりにも変な格好に、女房さん達も笑いをかみ殺しているのが判って、義光は「帰りたい…」とぼやく。

 二人で厨に向かう。
 厨房のスタッフたちも、義光の異様な姿に驚き、すぐに下を向いた。
 
 今日は2種類のクッキーを考えていた。
 下準備は昨日のうちにやっといてもらってあるから、今日は混ぜて捏ねて焼くだけ。
 
 棟梁と鍛冶師で、天火オーブンと天板を作ってくれたのだった。
 さすがに温度計がないので、温度調節ができないのが難なんだけど。
 傍につききりで焼け具合を見てなきゃが、結構大変。

 オーブンと天板を見た時「すごい!天才の集団だわ!」とあたしが思わず声を上げると、二人は照れて嬉しそうに顔を見合わせた。
 
 「姫様の天井知らずの知識と好奇心に、俺らも感化されちゃったっていうか…なあ?」
 「ああ、職人魂に火をつける天才だよ、姫さんは」

 料理長やその他、こういう骨惜しみしなくて気のいいスタッフに恵まれてる右大臣家って良いなあ。
 一生懸命働いてくれている皆のこと、大事にしなきゃね。

 あたしだって平成日本にいたなら、労働者階級だったんだからさ。
 
 「さて、じゃあ、始めましょうか」
 あたしは自分はやらないのに、偉そうに号令をかけた。


 
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

処理中です...