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第六章 運命の歯車
3.釣殿で・2
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「ありがとう…」
義光の優しさが心にしみて、あたしは涙声になる。
「義光があのときあたしの正体に気づいて、でも絶対にバラさずに黙ってくれてること感謝してる。
こうやって話し相手にもなってくれて。
昨日は確かにひとりで抱えていることに疲れてたの。
精神的にすごく不安定になっちゃってた」
義光の方を見ると、切ないような瞳であたしを見つめている。
薄暮の光に、色の薄い虹彩が金色に見える。
「あたしは結果的に、伊都子姫の命を奪ったことになると思ってる。
事故みたいなものだったんだけど…
確かに伊都子姫は死にたかったのかもしれない。
そしてあたしはまだ生きたかったんだと思う。
でもだからといって、死んだあたしが身体を乗っ取って良かったのか」
「本当は死んでしまった伊都子姫のフリをして、周りの人みんなを騙しながら伊都子姫として生きていることに、あたしは自分でまだ納得できていない、自分を許せていないの。
だから左近衛中将様と結婚していいのかも正直なところ迷ってる」
「いつか、伊都子姫として生きることに納得できたら、そのときには本当のあたしがどういう女の子なのか話すから聞いてね。
全然大した人間じゃないから、ガッカリされるかもだけど」
目線を落として、ふふ、と小さく笑うと、義光は顔を近づけて、あたしの頬にそっと唇を触れた。
「私と結婚なされば良いのですよ。
すべて丸く収まるではありませんか。
貴女は何も飾らず偽らず、すべて貴女のままに生きてくだされば良い。
私は貴女だけを愛し抜きますよ」
それは信じられない、伊靖君とナンパ競争なんかしてたくせに。
あたしが疑惑の目で見ると、義光は「本当ですって!」とムキになる。
「あたしが本当は大貴族の娘ではなくて、ただの庶民の女子だって解ってて、どうしてそんなに想ってくれるの?
まあ、見た目は伊都子姫だし、立場は右大臣の娘だけど。
あなたが今まで付き合ったお嬢さんたちと毛色が違っていて珍しいから?」
義光はガタン!と音を立てて釣り竿を置く。
あたしが驚いていると、真剣な表情であたしの方へ身体の向きを変える。
「そんなふうに言わないでください。
私は、姉君と呼んでいた伊都子姫を好きになったことは一度もない。
貴女という人の魂が身体に入っている伊都子姫に、最初からどうしようもなく惹かれた。
理由なんて判らない、ただただ貴女を愛している」
あたしを見て、不敵に笑う。
「別に珍しくはないですよ、私は庶民の娘ともつきあった経験がある。
だから貴女の言葉遣いの違いにすぐ気づいたし、虫を怖がらないことにも驚かなかった」
結構、遊んでんだコイツ。
あたしは呆れた。
「でも全部綺麗にすっぱり、別れました。
今は本当に、貴女だけですよ」
あたしの肩を抱いて頬と頬を触れ合わせる。
あたしが離れようとするのを力を入れて留め、唇を重ねようとした。
その時、階の下から「夕刻の風がでてきましたよ、もう戻られてはどうですか」と声がかかった。
元信様っ!
あたしは声を上げた。
義光はぱっと身体を離して、ちっと舌打ちした。
元信様は階を軽やかに駆け上がってくると、睨む義光を無視してあたしの手から竿を取って横に置き、あたしを抱きあげた。
「お身体が冷えますよ、お部屋に戻りましょう」
義光の優しさが心にしみて、あたしは涙声になる。
「義光があのときあたしの正体に気づいて、でも絶対にバラさずに黙ってくれてること感謝してる。
こうやって話し相手にもなってくれて。
昨日は確かにひとりで抱えていることに疲れてたの。
精神的にすごく不安定になっちゃってた」
義光の方を見ると、切ないような瞳であたしを見つめている。
薄暮の光に、色の薄い虹彩が金色に見える。
「あたしは結果的に、伊都子姫の命を奪ったことになると思ってる。
事故みたいなものだったんだけど…
確かに伊都子姫は死にたかったのかもしれない。
そしてあたしはまだ生きたかったんだと思う。
でもだからといって、死んだあたしが身体を乗っ取って良かったのか」
「本当は死んでしまった伊都子姫のフリをして、周りの人みんなを騙しながら伊都子姫として生きていることに、あたしは自分でまだ納得できていない、自分を許せていないの。
だから左近衛中将様と結婚していいのかも正直なところ迷ってる」
「いつか、伊都子姫として生きることに納得できたら、そのときには本当のあたしがどういう女の子なのか話すから聞いてね。
全然大した人間じゃないから、ガッカリされるかもだけど」
目線を落として、ふふ、と小さく笑うと、義光は顔を近づけて、あたしの頬にそっと唇を触れた。
「私と結婚なされば良いのですよ。
すべて丸く収まるではありませんか。
貴女は何も飾らず偽らず、すべて貴女のままに生きてくだされば良い。
私は貴女だけを愛し抜きますよ」
それは信じられない、伊靖君とナンパ競争なんかしてたくせに。
あたしが疑惑の目で見ると、義光は「本当ですって!」とムキになる。
「あたしが本当は大貴族の娘ではなくて、ただの庶民の女子だって解ってて、どうしてそんなに想ってくれるの?
まあ、見た目は伊都子姫だし、立場は右大臣の娘だけど。
あなたが今まで付き合ったお嬢さんたちと毛色が違っていて珍しいから?」
義光はガタン!と音を立てて釣り竿を置く。
あたしが驚いていると、真剣な表情であたしの方へ身体の向きを変える。
「そんなふうに言わないでください。
私は、姉君と呼んでいた伊都子姫を好きになったことは一度もない。
貴女という人の魂が身体に入っている伊都子姫に、最初からどうしようもなく惹かれた。
理由なんて判らない、ただただ貴女を愛している」
あたしを見て、不敵に笑う。
「別に珍しくはないですよ、私は庶民の娘ともつきあった経験がある。
だから貴女の言葉遣いの違いにすぐ気づいたし、虫を怖がらないことにも驚かなかった」
結構、遊んでんだコイツ。
あたしは呆れた。
「でも全部綺麗にすっぱり、別れました。
今は本当に、貴女だけですよ」
あたしの肩を抱いて頬と頬を触れ合わせる。
あたしが離れようとするのを力を入れて留め、唇を重ねようとした。
その時、階の下から「夕刻の風がでてきましたよ、もう戻られてはどうですか」と声がかかった。
元信様っ!
あたしは声を上げた。
義光はぱっと身体を離して、ちっと舌打ちした。
元信様は階を軽やかに駆け上がってくると、睨む義光を無視してあたしの手から竿を取って横に置き、あたしを抱きあげた。
「お身体が冷えますよ、お部屋に戻りましょう」
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