三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

文字の大きさ
138 / 307
第六章 運命の歯車

3.釣殿で・2

しおりを挟む
 「ありがとう…」
 義光の優しさが心にしみて、あたしは涙声になる。

 「義光があのときあたしの正体に気づいて、でも絶対にバラさずに黙ってくれてること感謝してる。
 こうやって話し相手にもなってくれて。
 昨日は確かにひとりで抱えていることに疲れてたの。
 精神的にすごく不安定になっちゃってた」

 義光の方を見ると、切ないような瞳であたしを見つめている。
 薄暮の光に、色の薄い虹彩が金色に見える。

 「あたしは結果的に、伊都子姫の命を奪ったことになると思ってる。
 事故みたいなものだったんだけど…
 確かに伊都子姫は死にたかったのかもしれない。
 そしてあたしはまだ生きたかったんだと思う。
 でもだからといって、死んだあたしが身体を乗っ取って良かったのか」

 「本当は死んでしまった伊都子姫のフリをして、周りの人みんなを騙しながら伊都子姫として生きていることに、あたしは自分でまだ納得できていない、自分を許せていないの。
 だから左近衛中将様と結婚していいのかも正直なところ迷ってる」

 「いつか、伊都子姫として生きることに納得できたら、そのときには本当のあたしがどういう女の子なのか話すから聞いてね。
 全然大した人間じゃないから、ガッカリされるかもだけど」

 目線を落として、ふふ、と小さく笑うと、義光は顔を近づけて、あたしの頬にそっと唇を触れた。

 「私と結婚なされば良いのですよ。
 すべて丸く収まるではありませんか。
 貴女は何も飾らず偽らず、すべて貴女のままに生きてくだされば良い。
 私は貴女だけを愛し抜きますよ」

 それは信じられない、伊靖君とナンパ競争なんかしてたくせに。
 あたしが疑惑の目で見ると、義光は「本当ですって!」とムキになる。

 「あたしが本当は大貴族の娘ではなくて、ただの庶民の女子だって解ってて、どうしてそんなに想ってくれるの?
 まあ、見た目は伊都子姫だし、立場は右大臣の娘だけど。
 あなたが今まで付き合ったお嬢さんたちと毛色が違っていて珍しいから?」
 
 義光はガタン!と音を立てて釣り竿を置く。
 あたしが驚いていると、真剣な表情であたしの方へ身体の向きを変える。

 「そんなふうに言わないでください。
 私は、姉君と呼んでいた伊都子姫を好きになったことは一度もない。
 貴女という人の魂が身体に入っている伊都子姫に、最初からどうしようもなく惹かれた。
 理由なんて判らない、ただただ貴女を愛している」

 あたしを見て、不敵に笑う。
 「別に珍しくはないですよ、私は庶民の娘ともつきあった経験がある。
 だから貴女の言葉遣いの違いにすぐ気づいたし、虫を怖がらないことにも驚かなかった」

 結構、遊んでんだコイツ。
 あたしは呆れた。

 「でも全部綺麗にすっぱり、別れました。
 今は本当に、貴女だけですよ」

 あたしの肩を抱いて頬と頬を触れ合わせる。
 あたしが離れようとするのを力を入れて留め、唇を重ねようとした。
 
 その時、階の下から「夕刻の風がでてきましたよ、もう戻られてはどうですか」と声がかかった。

 元信様っ!
 あたしは声を上げた。
 義光はぱっと身体を離して、ちっと舌打ちした。
 
 元信様は階を軽やかに駆け上がってくると、睨む義光を無視してあたしの手から竿を取って横に置き、あたしを抱きあげた。
 「お身体が冷えますよ、お部屋に戻りましょう」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処理中です...