三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

文字の大きさ
177 / 307
第七章 宮中

13.主上の気持ち

しおりを挟む
 「だから、見た目について左近衛中将に訊いてみた。
 もしかしたら違う人物が成りすましているのではないかと。
 左近衛中将は、美しさの弥増いやました、伊都子姫ですよと」

 おお…盲目的。
 嬉しすぎる。
 
 「私の中では、なかなか認められなかったのだが…
 伊都子姫の中に誰か別人が入り込んだということなのだろうと」

 主上ってすごく、ロジカルな思考の持ち主なんだな。
 理屈が感情を優先するタイプだわ。

 でなきゃ、天皇なんてできないか。
 すごいな。
 あの、東宮にできんの?
 ちょっと不安になっちゃうよ。

 「そう念頭に置いて東宮や他の者の、姫についての話を聞いてみると誠に面白い。
 いつ正体というか馬脚をあらわすかと私はたまにヒヤヒヤするのだが、皆、なんかおかしいと思いながらも、貴女の魅力の前に完全に屈してしまって、本気で疑おうとはしていない」

 イヤ、そうでもないよ。
 結構危ないこといっぱいあったよ。

 「そして、私は…いつの間にか、『あなた』という人に惹かれ始めていた。
 伊都子姫ではない、あなた個人にね」

 え…どういうこと。
 あたしは主上を見上げる。

 「先ほども申したとおり、私は貴女に会いたくて会いたくて、ずっと焦がれていた。
 嘘偽りない、本当の気持ちだ。
 実際にお会いしてみたら、想像以上に魅力的な人だった。
 伊都子姫とは違う聡明さと強靭さを持ち、伊都子姫にはない朗らかさと思いやりがある」

 そう言って口を閉じ、主上は深い色の瞳であたしをじっと見つめた。
 その瞳には、何かを決意した、強い光が宿る。

 「左近衛中将に貴女を渡したのは、私の一生の不覚だった。
 撤回する。
 そしてあなたを後宮へ迎え入れたい」

 何言ってんの!
 ダメだよそんなの!!

 「わたくしは、右大臣の娘ですわ。
 そんなこと…できるわけがありませんでしょう」
 
 「次の除目じもくまでには、何とかする。
 関白の動きが見えないのが、少し不安ではあるが…
 いざとなれば、私は退位して良い。
 貴女とふたり、どこぞの山の中でも暮らせればよい」

 「ご冗談もほどほどになさってくださいませ。
 この国を統べる天子様がそのようなことを軽々に仰せになるものではありませんわ」
 あたしは声をあららげる。

 じょうっだんじゃないよ!
 何で、みんなそんなに勝手なのよ!

 廊下が騒がしくなって、皆がドヤドヤと戻ってきた。
 「うあぁー…参った」
 東宮はため息まじりに嘆きながら入ってきた。

 「司厨長は自殺しました。
 料理に仕込んだ毒を自分でんだようだ。
 即効性のある蛇毒だったようで、解毒どころじゃない」
 
 死んじゃったんだ…
 あたしはなんだかいたたまれない気持ちになる。

 「月子姫のせいではない。
 貴女が責任を感じることはない」
 あたしの表情を見た右近衛大将様が、強い口調で言った。

 「しかしこれで…この事件はどうなるんだ。
 月子姫の冤罪を晴らすには、どうしたらいいんだ」
 権中納言様が頭を抱える。

 「物証と、証言を集めるしかありません。
 姫にはそんなことはできなかったという、不在証明を明らかにすれば。
 検非違使庁だってバカでないですから」
 元信様が前を見据えて言う。

 不在証明アリバイか…
 そうだよね、それができれば。
 
 「とにかく、月子姫の無罪を獲得できれば良いのだ。
 太政大臣の罪を暴くのはその後だ」
 東宮も力強く言った。

 「では、その方向で。
 余も協力は惜しまない」
 と主上が締めて、その日は解散になった。

 皆、ありがとう。
 こんな状況、あたし一人だったらどんなに心細かったことか。
 皆がいてくれて、あたしは本当に心強い。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...