上 下
190 / 307
第七章 宮中

26.ご褒美

しおりを挟む
 「おお、そうだ。
 月子姫、右大臣家の使用人、皆集めて。
 ご褒美を渡しましょう」
 東宮は笑いながら、あたしに片目をつぶった。

 あたしは女房さん達に言って、外廊下にスタッフ皆、集まるように伝えてもらった。
 半蔀はじとみを開け、部屋の中からでも外が見えるようにする。

 東宮の従者の方々が、ものすごくたくさんの、小さな包みを運び込んできた。
 東宮は上機嫌で「さあさあ、皆、並んで」と言って包みを手に取る。

 外がザワザワガヤガヤ、騒がしくなる。
 さすがにあたしが外に出て、従業員皆の前に行くわけにはいかないので、伊靖君が外へ出て声を張る。

 「皆!
 お前たちの日頃の働きに報いて、これから東宮殿下御自ら、ご下賜を頂戴する!
 有り難く頂き、またそれぞれ仕事に励むように!」

 盛大な拍手が起こる。
 「これは面白い…」「我が家でもやろうかな」と公達の間から声が上がる。
 
 数が多すぎて、全員にひとりひとり手渡すことはできないので、部署ごとに人数を申告してその数だけ渡すことにした。
 しかし、下僕婢女の数なんて数えたこともない、という雑な部署も多く、結構時間がかかった。

 凄いなあ…右大臣家ってたくさんの人が働いてるんだ…
 たった5人の家族と、お殿様のお仕事のために、これだけの人がいるんだなあ。
 あたしは改めて右大臣という地位の高さにビックリした。

 外が暗くなるころ、会はお開きになった。
 皆が帰るまでがまたものすごく大変で、やっといなくなったらあたしは疲れて座り込んでしまった。

 「月子姫、お疲れ様でした」
 見送りに行っていた、義光が笑いながら入ってくる。
 
 「疲れたぁ…急にこんなにたくさん人が来るなんてさぁ…ホント、勘弁してほしいわ」
 あたしはぐったりして、隣に座った義光に寄りかかる。

 あれ、そういえば元信様はどこいったんだろう。
 そういうこと多いなあ。
 いつの間にか消えていて、また現れてるってこと。

 「今日はいつもにも増して、右大臣家の門前は大混乱ですよ。
 余った下されものを、通行人に撒いたりしたもので、余計に」
 義光はあたしの肩を抱き、髪を撫でながら苦笑した。

 ぬぁんてことしてんだ、東宮は…人んちの前で。
 とことん、お祭り好きなんだからなあ…

 「姉上、お疲れになったでしょう、大変でしたねぇ。
 殿下は何度もお文を差し上げたとおっしゃって居られましたが」
 伊靖君も入ってきて、労ってくれる。
 
 「今朝起きたら、もうお文が山みたいになってて…
 後で読もうとそのままにして、お散歩に行っておりましたの」
 あたしが正直に言うと、二人は笑いだした。

 「姉上らしいなあ…」
 「いや、でも、何もご存知ないのに、あれだけの堂々たる女主人ぶり、さすが月子姫ですよ」
 
 「本当は、今日はいつもの顔ぶれで右大臣家でお祝い会をしようと思っていたのです。
 しかし午前の会議が終わって退出しようとしたら、主上から昨日の我ら11人の働きに、お褒めと労いのお言葉を賜って…」
 「宮中で、無実の祝いの会をやろうと仰せになられたので、イヤこれから右大臣家で…と申し上げると、主上は頓にご機嫌が悪くなられ、他の方々からは自分たちも昨日は尽力したのだから連れて行けとせっつかれ…」

 いやはや参りました、と二人で頭をかく。
 
 口が軽いんだよ、君たち全員!
 っていうか、東宮とか絶対、自慢したでしょ!

 その時
 「姫、お疲れ様でした。
 少し、お話があるのですが…」
 と言いながら、元信様が入ってきた。
 
しおりを挟む

処理中です...