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第十章 裁きと除目と薫物合わせ
16.薫物合わせ・3
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やがて中宮様や女御様たちが次々に入ってくる。
見物の方たちは奥のひとところに集められ、几帳で仕切りながら座る場所を確保する。
几帳ってすごい便利だな。
この時代の人たちの空間認知能力の高さと合理性に舌を巻いた。
宝鏡殿の女御様も入ってきて、間の几帳を退けてしまってあたしの隣に座る。
あたしの方へ身体を向けて、にこりと微笑んだ。
すっごい美人…
権中納言様もそうだけど、美形の家系なんだ。
あ、笑うと権中納言様に似てる。
「伊都子姫様、初めまして。
ずっとお会いしたかったですわ。
弟がお世話になっております」
丁寧に手をついて頭を下げてくれて、あたしは恐縮した。
「こちらこそ…権中納言様にはいつも算学の相手をしていただいて、有り難く存じております。
宝鏡殿の女御様、今日はよろしくお願い申し上げます。
あまり自信は無いのですけど…」
あたしが小さな声で言うと、ほほほ、と上品に笑われてしまった。
冗談や謙遜ではなく、ほんっとうに自信ないんだよ!
審判員たちの身びいきがあったとしても、勝てるか判らない。
負けたらごめんね。
コンコン、と何か固いものを打ち付ける音がした。
「これより主上の御主催によります、宝鏡殿の女御様 対 桐花殿の女御様の薫物合わせを開催いたします!」
開催宣言がなされる。
あれ、中宮はやらないの??
と思っていたら、宝鏡殿の女御様があたしに小声で囁いた。
「何日か前に通達がございましたのよ。
今回、中宮様は薫物合わせには不参加で、審判の方をなさると。
…まあ、政治の向きのことが原因なのでしょうけど」
そうか。
判らないでもないけど…
だけど、立場は同じなのに、ひとり矢面に立たされた桐花殿の女御様が可哀相。
主上の低い、艶のある声が響く。
「今日は、集まってくれてありがとう。
宝鏡殿の女御と桐花殿の女御、それからそれぞれの助っ人の、月子姫と撫子の上、正々堂々と戦って欲しい」
あ、のね…
あたしは思わず脱力する。
あたし一応「伊都子姫」ですから!
もう誰だか判んないじゃん。
宝鏡殿の女御様は上品に口元を押さえて笑っている。
「もう『月子姫』の方が通りが良いですわね。
草紙、わたくしも大変楽しく拝見しておりますわ」
えー…そうなの?!
なんかあたし、ここに恥さらしに来たみたい。
ヤダもう、帰りたい。
「それから、審判員諸氏。
今日は政治的なことや表向きのことは一切関係ない。
公平で公正な審判をお願いする」
主上は厳格な調子の声音に、ほんの少し哀願の響きを混ぜる。
皆が一斉に頭を下げる。
「本日の薫物合わせには、お題が決められており、対戦者それぞれに事前に通告してあります。
そのお題に則って作られた薫物を焚いていただき、どなたの者が一番優れているかを審判員七名に投票していただきます。
宝鏡殿の女御様の組と、桐花殿の女御様の組のどちらに一番の札が多かったかで、勝敗を決定いたします」
あたしがダメでも、宝鏡殿の女御様が一番をたくさん取ってくれれば勝てるってわけね。
…なんちゃって。
役立たず感満載だわ…
几帳の間から覗くと、御簾とか几帳に隠れていてよく判らないけど、すごい数の見物人がいるようだ。
審判の方々は、別の席にいるみたい。
逃げ帰りたい。
あたしはぎゅっと袿の裾を握りしめる。
宝鏡殿の女御様がそっとあたしの手を握ってくれる。
細くて白い、美しい手。
「大丈夫でございますわ。
自信を持って」
見物の方たちは奥のひとところに集められ、几帳で仕切りながら座る場所を確保する。
几帳ってすごい便利だな。
この時代の人たちの空間認知能力の高さと合理性に舌を巻いた。
宝鏡殿の女御様も入ってきて、間の几帳を退けてしまってあたしの隣に座る。
あたしの方へ身体を向けて、にこりと微笑んだ。
すっごい美人…
権中納言様もそうだけど、美形の家系なんだ。
あ、笑うと権中納言様に似てる。
「伊都子姫様、初めまして。
ずっとお会いしたかったですわ。
弟がお世話になっております」
丁寧に手をついて頭を下げてくれて、あたしは恐縮した。
「こちらこそ…権中納言様にはいつも算学の相手をしていただいて、有り難く存じております。
宝鏡殿の女御様、今日はよろしくお願い申し上げます。
あまり自信は無いのですけど…」
あたしが小さな声で言うと、ほほほ、と上品に笑われてしまった。
冗談や謙遜ではなく、ほんっとうに自信ないんだよ!
審判員たちの身びいきがあったとしても、勝てるか判らない。
負けたらごめんね。
コンコン、と何か固いものを打ち付ける音がした。
「これより主上の御主催によります、宝鏡殿の女御様 対 桐花殿の女御様の薫物合わせを開催いたします!」
開催宣言がなされる。
あれ、中宮はやらないの??
と思っていたら、宝鏡殿の女御様があたしに小声で囁いた。
「何日か前に通達がございましたのよ。
今回、中宮様は薫物合わせには不参加で、審判の方をなさると。
…まあ、政治の向きのことが原因なのでしょうけど」
そうか。
判らないでもないけど…
だけど、立場は同じなのに、ひとり矢面に立たされた桐花殿の女御様が可哀相。
主上の低い、艶のある声が響く。
「今日は、集まってくれてありがとう。
宝鏡殿の女御と桐花殿の女御、それからそれぞれの助っ人の、月子姫と撫子の上、正々堂々と戦って欲しい」
あ、のね…
あたしは思わず脱力する。
あたし一応「伊都子姫」ですから!
もう誰だか判んないじゃん。
宝鏡殿の女御様は上品に口元を押さえて笑っている。
「もう『月子姫』の方が通りが良いですわね。
草紙、わたくしも大変楽しく拝見しておりますわ」
えー…そうなの?!
なんかあたし、ここに恥さらしに来たみたい。
ヤダもう、帰りたい。
「それから、審判員諸氏。
今日は政治的なことや表向きのことは一切関係ない。
公平で公正な審判をお願いする」
主上は厳格な調子の声音に、ほんの少し哀願の響きを混ぜる。
皆が一斉に頭を下げる。
「本日の薫物合わせには、お題が決められており、対戦者それぞれに事前に通告してあります。
そのお題に則って作られた薫物を焚いていただき、どなたの者が一番優れているかを審判員七名に投票していただきます。
宝鏡殿の女御様の組と、桐花殿の女御様の組のどちらに一番の札が多かったかで、勝敗を決定いたします」
あたしがダメでも、宝鏡殿の女御様が一番をたくさん取ってくれれば勝てるってわけね。
…なんちゃって。
役立たず感満載だわ…
几帳の間から覗くと、御簾とか几帳に隠れていてよく判らないけど、すごい数の見物人がいるようだ。
審判の方々は、別の席にいるみたい。
逃げ帰りたい。
あたしはぎゅっと袿の裾を握りしめる。
宝鏡殿の女御様がそっとあたしの手を握ってくれる。
細くて白い、美しい手。
「大丈夫でございますわ。
自信を持って」
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