289 / 307
第十一章 露顕と三日夜の餅
23.西の対屋にて
しおりを挟む
内侍さんは家人に命じて少輔さんと式部さんを呼び、二人が駆けつけてくると、三人がかりで元信様の装束とあたしの身だしなみを整えてくれた。
あたしは式部さんに頼んで、首のキスマークを可能な限り白粉で隠してもらった。
晩秋の陽は既に傾き始め、釣殿には寒さが漂いはじめている。
「餅つきが終わり、皆様西の対屋にお集まりでございます。
これから餅撒きが始まりまして、お屋敷の外に設えた櫓から撒くそうでございます」
えーっ!見てみたい!
あたしが無邪気に手を打ち合わせて言うと、何故か女房さん達と元信様は顔を見合わせた。
「姫…それはやめておいた方が宜しいかと」
元信様は、言いにくそうに話す。
「姫様のご覧になられるようなものではございませんわ」
女房さん達も表情を曇らせる。
何でよ?!
お祝い事なんでしょ?
あたしが、この屋敷の主になったっていう(なりたかないけど!)。
あたしが言い募ると、困ったように顔を見合わせて「…とりあえず、西の対屋に行きましょう」とあたしの手を引いて歩き出した。
西の対屋はリニューアルされて、新しい木の香が漂っていた。
すっごい仕事早い!
だって、露顕したの一昨日だよ?
「月子姫!」
といち早く手を上げてあたしを呼んだのは、権中納言様。
あれ?
権中納言様の横にいるのは、太政大臣となったお殿様!
お殿様の前にある、オセロの盤を挟んで向かいにいるのは…元信様のお父様、前の左大臣。
元信様のお兄様の定信様が前の左大臣の横にいる。
元信様が「父上、義父上!」と声をかけながらあたしの手を引いて近づいていく。
ま、発音はどちらも「ちちうえ」なんだけど、便宜上書き分け。
「おお、伊都子姫。こんにちは。
お招きありがとう」
前の左大臣がにこやかに言ってあたしの手を取る。
「いらしてくださってありがとうございます…」
あたしは不得要領のまま、とりあえずお礼を言う。
周りの公達が笑いをかみ殺しているのが判る。
ったく、あんたたちのサプライズ好きには、もう呆れたわ…
「前の左大臣殿とは、良い碁敵になってねえ…。
屋敷を行ったり来たりで打って居るのだ」
お殿様が嬉しそうに言う。
へえ…本当に、馬が合うんだな。
良かった。
「しかし、この伊都子姫考案のオセロとやらも、楽しいですな。
囲碁に比べると、易しくて勝負が早いのが良い。
太政大臣殿、これからはこれも取り入れましょう」
元信様のお父様がパチリパチリと駒をひっくり返しながら笑う。
元信様が盤を覗き込み、ほう、と声を上げる。
「父上たちと言うより兄上と権中納言様の戦いですね」
うわ、本当だ。
すっごい頭脳戦。
「治部卿殿、私もあなたの『義兄上』になるのですよ」
権中納言様は整った顔に美しい笑みを浮かべて言う。
え?
あたしと元信様は顔を見合わせる。
あたしは式部さんに頼んで、首のキスマークを可能な限り白粉で隠してもらった。
晩秋の陽は既に傾き始め、釣殿には寒さが漂いはじめている。
「餅つきが終わり、皆様西の対屋にお集まりでございます。
これから餅撒きが始まりまして、お屋敷の外に設えた櫓から撒くそうでございます」
えーっ!見てみたい!
あたしが無邪気に手を打ち合わせて言うと、何故か女房さん達と元信様は顔を見合わせた。
「姫…それはやめておいた方が宜しいかと」
元信様は、言いにくそうに話す。
「姫様のご覧になられるようなものではございませんわ」
女房さん達も表情を曇らせる。
何でよ?!
お祝い事なんでしょ?
あたしが、この屋敷の主になったっていう(なりたかないけど!)。
あたしが言い募ると、困ったように顔を見合わせて「…とりあえず、西の対屋に行きましょう」とあたしの手を引いて歩き出した。
西の対屋はリニューアルされて、新しい木の香が漂っていた。
すっごい仕事早い!
だって、露顕したの一昨日だよ?
「月子姫!」
といち早く手を上げてあたしを呼んだのは、権中納言様。
あれ?
権中納言様の横にいるのは、太政大臣となったお殿様!
お殿様の前にある、オセロの盤を挟んで向かいにいるのは…元信様のお父様、前の左大臣。
元信様のお兄様の定信様が前の左大臣の横にいる。
元信様が「父上、義父上!」と声をかけながらあたしの手を引いて近づいていく。
ま、発音はどちらも「ちちうえ」なんだけど、便宜上書き分け。
「おお、伊都子姫。こんにちは。
お招きありがとう」
前の左大臣がにこやかに言ってあたしの手を取る。
「いらしてくださってありがとうございます…」
あたしは不得要領のまま、とりあえずお礼を言う。
周りの公達が笑いをかみ殺しているのが判る。
ったく、あんたたちのサプライズ好きには、もう呆れたわ…
「前の左大臣殿とは、良い碁敵になってねえ…。
屋敷を行ったり来たりで打って居るのだ」
お殿様が嬉しそうに言う。
へえ…本当に、馬が合うんだな。
良かった。
「しかし、この伊都子姫考案のオセロとやらも、楽しいですな。
囲碁に比べると、易しくて勝負が早いのが良い。
太政大臣殿、これからはこれも取り入れましょう」
元信様のお父様がパチリパチリと駒をひっくり返しながら笑う。
元信様が盤を覗き込み、ほう、と声を上げる。
「父上たちと言うより兄上と権中納言様の戦いですね」
うわ、本当だ。
すっごい頭脳戦。
「治部卿殿、私もあなたの『義兄上』になるのですよ」
権中納言様は整った顔に美しい笑みを浮かべて言う。
え?
あたしと元信様は顔を見合わせる。
1
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる