1 / 22
1
しおりを挟む
俺が、その最強魔剣士と初めて会ったのは、今から5年前の事。
「あ! あれ! クロエ・ブランシェ局長じゃないか!?」
ゾロゾロと太い列を成して移動する、魔法警察庁第86期入庁の新人魔法使い達。
その中の一人がそんな声をあげると、50人を超える同期達の視線が、彼女に釘付けになった。
吹き抜け構造のロビー。その中央にある、大階段。
大勢の部下達を引きつれ、ゆったりとした足取りで降りて来たのは……若い女性。
「え!? あれが最強の魔剣士!? 」
「なんか……普通の女子じゃね?」
確かに。心の中で賛同する。
彼女は、建国史上最大量の魔力を持って生まれたという、別格レベルのエリート魔法使い。
てっきり……もっとイカツい女かと思っていた。真っ黒な長いローブを翻し、鋭い目つきで部下を従え、威圧感を振りまきながら庁内を闊歩するような。
なのに……今目の前にあらわれたのは、フツウの女性。
白い肌。小さな顔。アーモンドような形の目の中には、色素の薄い茶色い瞳。
同じ色のセミロングヘアは、彼女が歩く度に穏やかに揺れて、華奢な肩を撫でる。
ライトベージュのパンツスーツと、オフホワイトのノーカラーシャツはどちらも清潔感があって……総評、フツウ。フツウに可愛い、フツウの女子。
それでもなぜか……目が離せなかった。
彼女が一歩、また一歩と歩を進めるたびに、言い表しようのない空気が、周囲に広がるようで。
「いやいや、普通なのは見た目だけでしょ! 12歳で入庁、21歳で局長に就任したスーパーエリートだよ?」
「でも、すっげ~優しいって評判じゃん? せっかくなら、ああいう人の部下になりたいよな!」
いや、俺だけじゃない。
新人研修の一環で、職場である警察庁内を見学中だった俺達。
それまでは引率職員の後に続き、大人しくラウンドしていたのだが……有名人の登場にミーハー心が爆発。
私語を爆増させる新人達に、引率担当者は困り顔を浮かべていたのを、覚えている。
「静かにしろ86期! ああもう! ブランシェ局長がお通りになる! 道をあけろ!」
階段の下で叫ぶ引率職員。クロエ・ブランシェ局長は、反射的に俺達の方を見て。
「え」
目が合った。
この時の、まるで時間が止まったような感覚を、俺は生涯忘れる事はないだろう。
「お疲れ様です」
そしてにっこりと微笑み、小さく会釈をしてくれた……ような気がしたのだけれど。同じように感じた人間は、何人もいたようで。
「きゃ~! 今、局長と目が合っちゃった~!」
「俺なんか笑いかけられたぞ!? やば!」
局長とその取り巻き達の背を見送りながら、まるでファンサを受けた推し活民のように興奮する、同期達。
そんな中、俺の背後からとある会話が聞こえてきて。
「新人なんかに挨拶してくれるなんて……評判通り、良い人なんだね」
「最強な上に可愛くて優しい……天は二物を与えちゃうものね~」
「いやいや……魔力に関しては、天とやらに与えられたもんじゃねぇかもよ~? 知ってんだろ? あの人の、いかがわしい噂」
「「いかがわしい噂?」」
意味深な言葉に、リアクションをハモらせる同期達。俺の耳もピクリと反応する。
「クロエ・ブランシェ局長の魔力がレベチなのは、大勢の男と交わりまくって、魔力を略奪したからだっていう、噂だよ」
「あ! あれ! クロエ・ブランシェ局長じゃないか!?」
ゾロゾロと太い列を成して移動する、魔法警察庁第86期入庁の新人魔法使い達。
その中の一人がそんな声をあげると、50人を超える同期達の視線が、彼女に釘付けになった。
吹き抜け構造のロビー。その中央にある、大階段。
大勢の部下達を引きつれ、ゆったりとした足取りで降りて来たのは……若い女性。
「え!? あれが最強の魔剣士!? 」
「なんか……普通の女子じゃね?」
確かに。心の中で賛同する。
彼女は、建国史上最大量の魔力を持って生まれたという、別格レベルのエリート魔法使い。
てっきり……もっとイカツい女かと思っていた。真っ黒な長いローブを翻し、鋭い目つきで部下を従え、威圧感を振りまきながら庁内を闊歩するような。
なのに……今目の前にあらわれたのは、フツウの女性。
白い肌。小さな顔。アーモンドような形の目の中には、色素の薄い茶色い瞳。
同じ色のセミロングヘアは、彼女が歩く度に穏やかに揺れて、華奢な肩を撫でる。
ライトベージュのパンツスーツと、オフホワイトのノーカラーシャツはどちらも清潔感があって……総評、フツウ。フツウに可愛い、フツウの女子。
それでもなぜか……目が離せなかった。
彼女が一歩、また一歩と歩を進めるたびに、言い表しようのない空気が、周囲に広がるようで。
「いやいや、普通なのは見た目だけでしょ! 12歳で入庁、21歳で局長に就任したスーパーエリートだよ?」
「でも、すっげ~優しいって評判じゃん? せっかくなら、ああいう人の部下になりたいよな!」
いや、俺だけじゃない。
新人研修の一環で、職場である警察庁内を見学中だった俺達。
それまでは引率職員の後に続き、大人しくラウンドしていたのだが……有名人の登場にミーハー心が爆発。
私語を爆増させる新人達に、引率担当者は困り顔を浮かべていたのを、覚えている。
「静かにしろ86期! ああもう! ブランシェ局長がお通りになる! 道をあけろ!」
階段の下で叫ぶ引率職員。クロエ・ブランシェ局長は、反射的に俺達の方を見て。
「え」
目が合った。
この時の、まるで時間が止まったような感覚を、俺は生涯忘れる事はないだろう。
「お疲れ様です」
そしてにっこりと微笑み、小さく会釈をしてくれた……ような気がしたのだけれど。同じように感じた人間は、何人もいたようで。
「きゃ~! 今、局長と目が合っちゃった~!」
「俺なんか笑いかけられたぞ!? やば!」
局長とその取り巻き達の背を見送りながら、まるでファンサを受けた推し活民のように興奮する、同期達。
そんな中、俺の背後からとある会話が聞こえてきて。
「新人なんかに挨拶してくれるなんて……評判通り、良い人なんだね」
「最強な上に可愛くて優しい……天は二物を与えちゃうものね~」
「いやいや……魔力に関しては、天とやらに与えられたもんじゃねぇかもよ~? 知ってんだろ? あの人の、いかがわしい噂」
「「いかがわしい噂?」」
意味深な言葉に、リアクションをハモらせる同期達。俺の耳もピクリと反応する。
「クロエ・ブランシェ局長の魔力がレベチなのは、大勢の男と交わりまくって、魔力を略奪したからだっていう、噂だよ」
1
あなたにおすすめの小説
【完結】遅いのですなにもかも
砂礫レキ
恋愛
昔森の奥でやさしい魔女は一人の王子さまを助けました。
王子さまは魔女に恋をして自分の城につれかえりました。
数年後、王子さまは隣国のお姫さまを好きになってしまいました。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
私の旦那様はつまらない男
おきょう
恋愛
私の旦那様であるロバート伯爵は、無口で無愛想な仕事バカ。
家庭を返り見ず仕事に精を出すのみのつまらない男である。
それでも私は伯爵家の妻として今日も面倒な社交の場に出なければならないのだ。
伯爵家の名を落とさないために。あぁ面倒くさい。
※他サイトで投稿したものの改稿版になります。
婚約破棄? あら、それって何時からでしたっけ
松本雀
恋愛
――午前十時、王都某所。
エマ=ベルフィールド嬢は、目覚めと共に察した。
「…………やらかしましたわね?」
◆
婚約破棄お披露目パーティーを寝過ごした令嬢がいた。
目を覚ましたときには王子が困惑し、貴族たちは騒然、そしてエマ嬢の口から放たれたのは伝説の一言――
「婚約破棄されに来ましたわ!」
この事件を皮切りに、彼女は悪役令嬢の星として注目され、次々と舞い込む求婚と、空回る王子の再アタックに悩まされることになる。
これは、とある寝坊令嬢の名言と昼寝と誤解に満ちた優雅なる騒動録である。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
王子の魔法は愛する人の涙に溶けた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢にされそうになった女の子がなんだかんだで愛を取り戻すお話。
またはヤンデレな王太子が涼しい顔で復讐を果たすお話。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる