その最強魔剣士には、いかがわしい噂がある

杏 みん

文字の大きさ
37 / 53

37

しおりを挟む
 「も~~~!!! ほんっとうによかったですぅうう!!!」

 緊張感が常駐する、病院の救急外来……その待合で、レイラの甲高い声だけが、浮いていた。

 「あ! 局長! お足元気を付けてくださいね? このソファー冷た……待って下さい今私のマフラーを敷きますので!」

 「ありがとうございます、レイラ」

 「それとこれ、温かい飲み物を買っておきました! 生姜入りルイボスティー、100%ピュアココア、カフェインレスの蜂蜜紅茶……どれがいいですか? あ、勿論全てオーガニックです!」

 「じゃあ……蜂蜜紅茶を頂きますね」

 「どうぞどうぞ! ミツバチ達も喜びます! 局長の血となり肉となる事ができるなら、野原をブンブン跳び回ったかいもある」

 「おま、ちょっと静かにしろよ、レイラっ」

 救急受付で会計を済ませながら……後ろのソファで騒ぐ同期を、ギロリと睨みつける。
 レイラは『何が悪いの?』と言いたげな表情で、目を瞬かせた。

 「いやいやいや……うるさくするのは当然でしょ? 局長が倒れたっていうから、私、ダッシュで現場から駆け付けたのよ!? そうしたら、検査は全部終わっていて、特に心配いらないという結果! これもう、歓喜に沸くしかないでしょ!?」

 「気持ちは分かるけど……」

 全く悪びれる様子のないレイラを諫めながら、周囲をチラリと見渡す。
 広く、長い通路に並ぶ、ソファー。そこに、少しの距離をとりながら、転々と座る人々。急患の家族だろうか。

 ここは救急外来。総合病院の中でも、特に緊迫した場所だろう。急患を診る医療従事者にとっても、急患の帰りを待つ、付き添いの人間にとっても。

 「ここは病院なんだから、"ああ、よかったー"じゃない人だっているんだ。ほら、あっちの人とか……」

 俺が視線で指したのは、3つ向こう側のソファーに座る、男性。肩を震わせ、一目見ただけで、ただ事じゃないのがわかる。

 「わかってるわよ。警察職員として、いつ自分や周りの誰かがにいってもおかしくないこと位……でもがだからこそ、"ああ、よかったー"は全力で喜ばないと。ねぇ? 局長?」

 頬を膨らませるレイラに、にっこりと微笑む局長。その顔色は……大分いい。とはいえ、まだまだ全快とは、言い難い様子だけど。

 「局長……本当に異常はなかったんですか? 俺も主治医に話を……」

 「家族以外に説明なんてしてくれませんよ。大丈夫、最近食事をサボっていたので、脱水と貧血になってしまっていたようで。点滴をしたら随分よくなりました」

 「サボるって……食事に使う言葉ですか?」

 「歳のせいでしょうかね。疲れると、食べるのも面倒になってしまって」

 「だからうちの冷蔵庫にフルーツ常備してるじゃないですかっ。局長が炭水化物とか肉とか好きじゃないのは知っていますから、せめて果物だけでも……持って帰ってもいいって言ったのに」

 しまった……。そこまで言った所で、慌てて口をつぐむ。
 しかし、時すでに遅し。局長は少し困ったような笑みを浮かべ、レイラは燃え上がる嫉妬心ゆえか、真っ赤な顔で俺を睨んでいる。
 いいんだけど。レイラは既に俺と局長の事を知っているから、好きなだけ睨めばいいんだけれど。
 部下の一人に関係を暴露している事を、局長は快く思わないのでは……なんて、不安はあって。

 「あ、あの、すいません……」

 理由は言わずに、おずおずと頭を下げた。その時だった。

 「そんな……! 嘘だろぉ!?」

 冷たい廊下に響く、悲壮感漂う声。

 反射的に声のした方を見ると……その声の主は、先程うずくまっていた急患の家族らしき男性……というか、我らが同期、カイ・ガルシアだった。

 「「「カイ!?」」」

 思いがけない場所で、思いがけない人物との遭遇。
 俺も局長もレイラも、一声にやつの名前を呼ぶ。

 「へ……? え? なんで……?」

 床に膝をついたカイは、目の前に立つ医師の白衣の裾をつかんだまま……俺達の方を向き、呆けたように口を開ける。
 
 「あんたこそ! なんで病院なんかにいるのよ!」

 「具合でも悪いのか?」

 慌てて駆け寄った同期二人の顔を見て……ポカン顔だったカイの表情は、一気に崩れた。

 「嫁さんが……アリシアが……! 母児間魔力略奪症になってるって……!!」

 「ぼじかん……まりょく……」

 頭の中で、魔法大学時代に使った教科書を、広げる。
 そして……その病気について書かれたページにたどり付いた時……俺は、息をのんだ。

 「母親が、妊娠中の胎児に魔力を奪われて……最終的に、命を落とす……難病……っ」

 解説文の一説を呟いて参照するのと同時に、ガラガラと音を立てて崩れていくもの。
 それは、幼い頃から俺を守り続けてくれた……優しい姉の、笑顔だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖銀竜に喰われる夜――冷酷な宰相閣下は、禁書庫の司書を執愛の檻に囚える

真守 輪
恋愛
「逃がさない。その賢しい口も、奥の震えも――すべて、私のものだ」 王宮で「禁書庫の未亡人」と揶揄される地味な司書・ルネ。 その正体は、好奇心旺盛でちょっぴり無作法な、本を愛する伯爵令嬢。 彼女には、誰にも言えない秘密があった。 それは、冷酷非道と恐れられる王弟・ゼファール宰相に、夜の禁書庫で秘密に抱かれていること。 聖銀竜の血を引き、興奮すると強靭な鱗と尾が顕れる彼。 人外の剛腕に抱き潰され、甘美な絶望に呑み込まれる夜。 「ただの愛人」と割り切っていたはずなのに、彼の孤独な熱に触れるたび、ルネの心は無防備に暴かれていく。 しかし、ルネは知らなかった。 彼が近づいた真の目的は、彼女が守る「禁書」――王国を揺るがす禁断の真実にあったことを。 「君は、私のものだ。禁書も、その魂も、すべてな」 嘘から始まった関係が、執着に変わる。 竜の情欲と宮廷の陰謀が絡み合う、背徳のインモラル・ロマンス。

同期の姫は、あなどれない

青砥アヲ
恋愛
社会人4年目を迎えたゆきのは、忙しいながらも充実した日々を送っていたが、遠距離恋愛中の彼氏とはすれ違いが続いていた。 ある日、電話での大喧嘩を機に一方的に連絡を拒否され、音信不通となってしまう。 落ち込むゆきのにアプローチしてきたのは『同期の姫』だった。 「…姫って、付き合ったら意彼女に尽くすタイプ?」 「さぁ、、試してみる?」 クールで他人に興味がないと思っていた同期からの、思いがけないアプローチ。動揺を隠せないゆきのは、今まで知らなかった一面に翻弄されていくことにーーー 【登場人物】 早瀬ゆきの(はやせゆきの)・・・R&Sソリューションズ開発部第三課 所属 25歳 姫元樹(ひめもといつき)・・・R&Sソリューションズ開発部第一課 所属 25歳 ◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。 ◆他にエブリスタ様にも掲載してます。

婚約破棄された元聖女、魔王の息子に攫われて溺愛されています

百合川八千花
恋愛
魔王を討伐し、十年にわたる戦いを終えた聖女アルティア。 帰還した王国で待っていたのは、王太子からの婚約破棄と――その子供だった。 絶望の中、現れたのはかつて共に戦った魔王の息子、ヴェルグ。 「君はもう自由だ。だったら僕が攫うよ」 突然の求婚(という名の略奪)と共に、アルティアは隣国・アシュフォード帝国へ連れ去られる。 辺境伯となったヴェルグの領地で始まるのは、 「君のために用意してた」 と語られる豪華すぎる“同棲部屋”、 壁一面に飾られた聖女の肖像画コレクション、 そして、「僕のもの」発言が止まらない溺愛×執着ラブ生活! しかしその頃、聖女を失った王国では、魔王の呪いによる異変が始まっていて―― これは、運命に選ばれ続けた聖女と、ただ彼女だけを愛した元魔王の息子の、 甘くて狂おしい、世界と愛の再構築ラブファンタジー。

〖完結〗終着駅のパッセージ 

苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。 その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。 婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。 孤独な結婚生活を送る中。 ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。 始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。 他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。 そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。 だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。 それから一年ほどたった冬の夜。 カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。 そこには彼の想いが書かれてあった。 月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。 カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。 ※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。 ※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。 稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

「愛想がなく可愛くない」と捨てられた私、最強の竜騎士に拾われる。「その美しさに僕だけが狂わされたい」と、愛の重さでベッドから下ろしてくれない

唯崎りいち
恋愛
夜会の最中、王子に「愛想がなくて可愛くない」と婚約破棄された無表情令嬢。 だが彼女の美しさに一目惚れした隣国最強の竜騎士に連れ去られ、 「君はもう僕のものだ」 と毎晩愛の重さでベッドから下ろしてくれない生活が始まる——。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

処理中です...