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「も~~~!!! ほんっとうによかったですぅうう!!!」
緊張感が常駐する、病院の救急外来……その待合で、レイラの甲高い声だけが、浮いていた。
「あ! 局長! お足元気を付けてくださいね? このソファー冷た……待って下さい今私のマフラーを敷きますので!」
「ありがとうございます、レイラ」
「それとこれ、温かい飲み物を買っておきました! 生姜入りルイボスティー、100%ピュアココア、カフェインレスの蜂蜜紅茶……どれがいいですか? あ、勿論全てオーガニックです!」
「じゃあ……蜂蜜紅茶を頂きますね」
「どうぞどうぞ! ミツバチ達も喜びます! 局長の血となり肉となる事ができるなら、野原をブンブン跳び回ったかいもある」
「おま、ちょっと静かにしろよ、レイラっ」
救急受付で会計を済ませながら……後ろのソファで騒ぐ同期を、ギロリと睨みつける。
レイラは『何が悪いの?』と言いたげな表情で、目を瞬かせた。
「いやいやいや……うるさくするのは当然でしょ? 局長が倒れたっていうから、私、ダッシュで現場から駆け付けたのよ!? そうしたら、検査は全部終わっていて、特に心配いらないという結果! これもう、歓喜に沸くしかないでしょ!?」
「気持ちは分かるけど……」
全く悪びれる様子のないレイラを諫めながら、周囲をチラリと見渡す。
広く、長い通路に並ぶ、ソファー。そこに、少しの距離をとりながら、転々と座る人々。急患の家族だろうか。
ここは救急外来。総合病院の中でも、特に緊迫した場所だろう。急患を診る医療従事者にとっても、急患の帰りを待つ、付き添いの人間にとっても。
「ここは病院なんだから、"ああ、よかったー"じゃない人だっているんだ。ほら、あっちの人とか……」
俺が視線で指したのは、3つ向こう側のソファーに座る、男性。肩を震わせ、一目見ただけで、ただ事じゃないのがわかる。
「わかってるわよ。警察職員として、いつ自分や周りの誰かがあっち側にいってもおかしくないこと位……でもがだからこそ、"ああ、よかったー"は全力で喜ばないと。ねぇ? 局長?」
頬を膨らませるレイラに、にっこりと微笑む局長。その顔色は……大分いい。とはいえ、まだまだ全快とは、言い難い様子だけど。
「局長……本当に異常はなかったんですか? 俺も主治医に話を……」
「家族以外に説明なんてしてくれませんよ。大丈夫、最近食事をサボっていたので、脱水と貧血になってしまっていたようで。点滴をしたら随分よくなりました」
「サボるって……食事に使う言葉ですか?」
「歳のせいでしょうかね。疲れると、食べるのも面倒になってしまって」
「だからうちの冷蔵庫にフルーツ常備してるじゃないですかっ。局長が炭水化物とか肉とか好きじゃないのは知っていますから、せめて果物だけでも……持って帰ってもいいって言ったのに」
しまった……。そこまで言った所で、慌てて口をつぐむ。
しかし、時すでに遅し。局長は少し困ったような笑みを浮かべ、レイラは燃え上がる嫉妬心ゆえか、真っ赤な顔で俺を睨んでいる。
いいんだけど。レイラは既に俺と局長の事を知っているから、好きなだけ睨めばいいんだけれど。
部下の一人に関係を暴露している事を、局長は快く思わないのでは……なんて、不安はあって。
「あ、あの、すいません……」
理由は言わずに、おずおずと頭を下げた。その時だった。
「そんな……! 嘘だろぉ!?」
冷たい廊下に響く、悲壮感漂う声。
反射的に声のした方を見ると……その声の主は、先程うずくまっていた急患の家族らしき男性……というか、我らが同期、カイ・ガルシアだった。
「「「カイ!?」」」
思いがけない場所で、思いがけない人物との遭遇。
俺も局長もレイラも、一声にやつの名前を呼ぶ。
「へ……? え? なんで……?」
床に膝をついたカイは、目の前に立つ医師の白衣の裾をつかんだまま……俺達の方を向き、呆けたように口を開ける。
「あんたこそ! なんで病院なんかにいるのよ!」
「具合でも悪いのか?」
慌てて駆け寄った同期二人の顔を見て……ポカン顔だったカイの表情は、一気に崩れた。
「嫁さんが……アリシアが……! 母児間魔力略奪症になってるって……!!」
「ぼじかん……まりょく……」
頭の中で、魔法大学時代に使った教科書を、広げる。
そして……その病気について書かれたページにたどり付いた時……俺は、息をのんだ。
「母親が、妊娠中の胎児に魔力を奪われて……最終的に、命を落とす……難病……っ」
解説文の一説を呟いて参照するのと同時に、ガラガラと音を立てて崩れていくもの。
それは、幼い頃から俺を守り続けてくれた……優しい姉の、笑顔だった。
緊張感が常駐する、病院の救急外来……その待合で、レイラの甲高い声だけが、浮いていた。
「あ! 局長! お足元気を付けてくださいね? このソファー冷た……待って下さい今私のマフラーを敷きますので!」
「ありがとうございます、レイラ」
「それとこれ、温かい飲み物を買っておきました! 生姜入りルイボスティー、100%ピュアココア、カフェインレスの蜂蜜紅茶……どれがいいですか? あ、勿論全てオーガニックです!」
「じゃあ……蜂蜜紅茶を頂きますね」
「どうぞどうぞ! ミツバチ達も喜びます! 局長の血となり肉となる事ができるなら、野原をブンブン跳び回ったかいもある」
「おま、ちょっと静かにしろよ、レイラっ」
救急受付で会計を済ませながら……後ろのソファで騒ぐ同期を、ギロリと睨みつける。
レイラは『何が悪いの?』と言いたげな表情で、目を瞬かせた。
「いやいやいや……うるさくするのは当然でしょ? 局長が倒れたっていうから、私、ダッシュで現場から駆け付けたのよ!? そうしたら、検査は全部終わっていて、特に心配いらないという結果! これもう、歓喜に沸くしかないでしょ!?」
「気持ちは分かるけど……」
全く悪びれる様子のないレイラを諫めながら、周囲をチラリと見渡す。
広く、長い通路に並ぶ、ソファー。そこに、少しの距離をとりながら、転々と座る人々。急患の家族だろうか。
ここは救急外来。総合病院の中でも、特に緊迫した場所だろう。急患を診る医療従事者にとっても、急患の帰りを待つ、付き添いの人間にとっても。
「ここは病院なんだから、"ああ、よかったー"じゃない人だっているんだ。ほら、あっちの人とか……」
俺が視線で指したのは、3つ向こう側のソファーに座る、男性。肩を震わせ、一目見ただけで、ただ事じゃないのがわかる。
「わかってるわよ。警察職員として、いつ自分や周りの誰かがあっち側にいってもおかしくないこと位……でもがだからこそ、"ああ、よかったー"は全力で喜ばないと。ねぇ? 局長?」
頬を膨らませるレイラに、にっこりと微笑む局長。その顔色は……大分いい。とはいえ、まだまだ全快とは、言い難い様子だけど。
「局長……本当に異常はなかったんですか? 俺も主治医に話を……」
「家族以外に説明なんてしてくれませんよ。大丈夫、最近食事をサボっていたので、脱水と貧血になってしまっていたようで。点滴をしたら随分よくなりました」
「サボるって……食事に使う言葉ですか?」
「歳のせいでしょうかね。疲れると、食べるのも面倒になってしまって」
「だからうちの冷蔵庫にフルーツ常備してるじゃないですかっ。局長が炭水化物とか肉とか好きじゃないのは知っていますから、せめて果物だけでも……持って帰ってもいいって言ったのに」
しまった……。そこまで言った所で、慌てて口をつぐむ。
しかし、時すでに遅し。局長は少し困ったような笑みを浮かべ、レイラは燃え上がる嫉妬心ゆえか、真っ赤な顔で俺を睨んでいる。
いいんだけど。レイラは既に俺と局長の事を知っているから、好きなだけ睨めばいいんだけれど。
部下の一人に関係を暴露している事を、局長は快く思わないのでは……なんて、不安はあって。
「あ、あの、すいません……」
理由は言わずに、おずおずと頭を下げた。その時だった。
「そんな……! 嘘だろぉ!?」
冷たい廊下に響く、悲壮感漂う声。
反射的に声のした方を見ると……その声の主は、先程うずくまっていた急患の家族らしき男性……というか、我らが同期、カイ・ガルシアだった。
「「「カイ!?」」」
思いがけない場所で、思いがけない人物との遭遇。
俺も局長もレイラも、一声にやつの名前を呼ぶ。
「へ……? え? なんで……?」
床に膝をついたカイは、目の前に立つ医師の白衣の裾をつかんだまま……俺達の方を向き、呆けたように口を開ける。
「あんたこそ! なんで病院なんかにいるのよ!」
「具合でも悪いのか?」
慌てて駆け寄った同期二人の顔を見て……ポカン顔だったカイの表情は、一気に崩れた。
「嫁さんが……アリシアが……! 母児間魔力略奪症になってるって……!!」
「ぼじかん……まりょく……」
頭の中で、魔法大学時代に使った教科書を、広げる。
そして……その病気について書かれたページにたどり付いた時……俺は、息をのんだ。
「母親が、妊娠中の胎児に魔力を奪われて……最終的に、命を落とす……難病……っ」
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それは、幼い頃から俺を守り続けてくれた……優しい姉の、笑顔だった。
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