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226.下々のこぜりあいに上役が出てくるのは卑怯だよ
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これは……反則じゃなかろうか。
「仁さんにもご迷惑を掛けて、本当にごめんなさい」
日本でもトップクラスの血統種一族の長であり、大企業アスカセレスチャルグループの頂点に君臨する飛鳥零香社長……が今、俺に向かって頭を下げている。
「ま、あ、あの、どこか部屋を取ります! 少々お待ちください!」
俺と斎藤の椅子以外がないこのオフィスで、立ったまま謝罪をする社長。と、その後ろでやはり深々頭を下げる蓮さん。に、テンパりまくりの斎藤。
そりゃそうなるわ。社長と社長子息が、突然やって来ただけでもびっくりだってのに。こうして首を垂れられたんじゃ、恐縮萎縮が止まらない。
「清香、どうぞお構いなく」
「そうよ。今日は社長としてでは無く、親族として伺ったのだから」
タブレットで応接室の空き状況を調べる斎藤を、やんわり止める社長と蓮さん。
「あの、社長? お詫びというのは、昨日の紫苑さんの……?」
謝意を示している人間のものとは思えない、半端ない威圧感を放つ社長の顔を、恐る恐る覗き込む。勿論、立ち上がって。
「ええ。咲塔先生は私の義娘と孫を診る為に、クライアントとの約束を反故にしてしまったんだもの。どうしても直接お詫びをしたくて」
むすめ? まご?
ああそうか。唯と唯のお腹の子は社長からみるとそういう事か。なんか改めて考えるとすげぇな。俺の元奥さんは社長の孫を産もうとしてんのか。
「クライアントと医療課の担当者にも、母と二人で謝罪に伺った。紫苑をスカウトした仁の顔にも泥を塗る事になってしまって……本当に申し訳無い」
「い、いえ……お気になさらず」
わ、俺ダサイ。
昨日、紫苑先生には『落とし前つけろ』とか啖呵切っておいて……。
でも社長が出て来るのはずるいって。
クライアントはただでさえ良い人だったから文句なんて言わないだろうし、社長に頭下げられたんじゃ、一介の社員である医療課担当者も俺も、キレようが無いじゃん。何があろうが、許すしか無いじゃん。
「それで……仁、重ね重ね申し訳ないんだが、紫苑とアスカとの契約は白紙に戻させて貰えないか」
「は!?」
許すしか無いじゃん、と思った傍から、到底受け入れられない申し入れをする蓮さん。目を丸くしてしまう。
「昨日、唯や紫苑や、母とも話し合ったんだけど。出産を終えるまでは、紫苑には唯専属の医師でいて貰いたいんだ」
「待って下さい、それって紫苑さん都合での契約破棄って事になりますよね?」
「ああ。違約金は俺が支払う」
俺が支払うって……昼飯を奢るみたいに軽く言っちゃってるけど。
「気軽に建て替えられる額じゃないですよ!?」
「大丈夫。幸い蓄えはあるし、会社も順調だから」
「違約金があれば会社も仁さんも無傷でいられるでしょう? いいえ無傷どころか……昇進でも異動でも、希望があれば言ってちょうだい。私が力になるわ」
なんていうかもう……火力が非常識。
超エリート御曹司&経営者の蓮さんと、その母親である巨大企業の社長。
地位、権力、金。どれを取っても、俺なんか遠く及ばない。
なんて無敵過ぎるファイヤーウォールに守られてるんだ、唯は。
俺の奥さんでいた時よりも、よっぽど安全で安心な場所にいる。
そう考えると……なんだか無償に虚しくなってしまって。
「契約破棄の件は、紫苑さんご本人のご希望ならば応じるしかありません。でも……社長のお心遣いについては、慎んで辞退させて頂きます」
俺の返答に、デフォルトの険しい表情を一層強張らせる社長。
けれど蓮さんの顔には『やっぱり……』と書いてあるような気がした。
「仁さんにもご迷惑を掛けて、本当にごめんなさい」
日本でもトップクラスの血統種一族の長であり、大企業アスカセレスチャルグループの頂点に君臨する飛鳥零香社長……が今、俺に向かって頭を下げている。
「ま、あ、あの、どこか部屋を取ります! 少々お待ちください!」
俺と斎藤の椅子以外がないこのオフィスで、立ったまま謝罪をする社長。と、その後ろでやはり深々頭を下げる蓮さん。に、テンパりまくりの斎藤。
そりゃそうなるわ。社長と社長子息が、突然やって来ただけでもびっくりだってのに。こうして首を垂れられたんじゃ、恐縮萎縮が止まらない。
「清香、どうぞお構いなく」
「そうよ。今日は社長としてでは無く、親族として伺ったのだから」
タブレットで応接室の空き状況を調べる斎藤を、やんわり止める社長と蓮さん。
「あの、社長? お詫びというのは、昨日の紫苑さんの……?」
謝意を示している人間のものとは思えない、半端ない威圧感を放つ社長の顔を、恐る恐る覗き込む。勿論、立ち上がって。
「ええ。咲塔先生は私の義娘と孫を診る為に、クライアントとの約束を反故にしてしまったんだもの。どうしても直接お詫びをしたくて」
むすめ? まご?
ああそうか。唯と唯のお腹の子は社長からみるとそういう事か。なんか改めて考えるとすげぇな。俺の元奥さんは社長の孫を産もうとしてんのか。
「クライアントと医療課の担当者にも、母と二人で謝罪に伺った。紫苑をスカウトした仁の顔にも泥を塗る事になってしまって……本当に申し訳無い」
「い、いえ……お気になさらず」
わ、俺ダサイ。
昨日、紫苑先生には『落とし前つけろ』とか啖呵切っておいて……。
でも社長が出て来るのはずるいって。
クライアントはただでさえ良い人だったから文句なんて言わないだろうし、社長に頭下げられたんじゃ、一介の社員である医療課担当者も俺も、キレようが無いじゃん。何があろうが、許すしか無いじゃん。
「それで……仁、重ね重ね申し訳ないんだが、紫苑とアスカとの契約は白紙に戻させて貰えないか」
「は!?」
許すしか無いじゃん、と思った傍から、到底受け入れられない申し入れをする蓮さん。目を丸くしてしまう。
「昨日、唯や紫苑や、母とも話し合ったんだけど。出産を終えるまでは、紫苑には唯専属の医師でいて貰いたいんだ」
「待って下さい、それって紫苑さん都合での契約破棄って事になりますよね?」
「ああ。違約金は俺が支払う」
俺が支払うって……昼飯を奢るみたいに軽く言っちゃってるけど。
「気軽に建て替えられる額じゃないですよ!?」
「大丈夫。幸い蓄えはあるし、会社も順調だから」
「違約金があれば会社も仁さんも無傷でいられるでしょう? いいえ無傷どころか……昇進でも異動でも、希望があれば言ってちょうだい。私が力になるわ」
なんていうかもう……火力が非常識。
超エリート御曹司&経営者の蓮さんと、その母親である巨大企業の社長。
地位、権力、金。どれを取っても、俺なんか遠く及ばない。
なんて無敵過ぎるファイヤーウォールに守られてるんだ、唯は。
俺の奥さんでいた時よりも、よっぽど安全で安心な場所にいる。
そう考えると……なんだか無償に虚しくなってしまって。
「契約破棄の件は、紫苑さんご本人のご希望ならば応じるしかありません。でも……社長のお心遣いについては、慎んで辞退させて頂きます」
俺の返答に、デフォルトの険しい表情を一層強張らせる社長。
けれど蓮さんの顔には『やっぱり……』と書いてあるような気がした。
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