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崖の先、君を追って※血注意
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40※血注意
落ちていく感覚。無意識のうちに防衛本能から体を丸めた。
一瞬の間のはずなのに、頭の中はやけによく回る。
(頭から地面に叩きつけられたら、怪我じゃ済まないぞ……ノアリスは無事か?)
斜面に伸びた木々が腕や足を掠める。それでも落ちるスピードは変わらない。痛みに気づくほど冷静にはいられなかった。
その時、何者かがエリオスの体を覆った。
強くぎゅっと抱きしめられて、頭も押し込まれる。
「うぅっ……ぐっ」
ドンッ……ドンッと二度山肌に打ち付けられて転がった。
耳に入った呻きはエリオスの声ではない。
中々の高さから落ちたのに、思いのほか痛みが無く恐る恐る目を開ける。
真っ先に飛び込んだのは、近すぎて焦点の合わないなにか。
よく見るとそれは胸板だ。顔を上げるとしっかり張った喉仏と、苦痛に顔を歪めるレオンハルトがそこにいた。
「レオ、なんで」
「っ貴方が……無茶するから」
身を捩ってレオンハルトの中から抜け出ようとするが、未だ震えたまま強くエリオスをかき抱いて離さない。
山肌からパラパラと土や小石が落ちてきて顔を上げると、必死に覗き込む影がこちらを見下ろしていた。
「っ大丈夫かー!」
「返事をして下さいっ……」
オリオンとアスレイの悲痛な叫びに、何とか応えようと身を捩った。
「ぐっ…ぅ」
「レオ?まさかどこか痛めたのか……っ!?」
抱き込む腕。
その剥き出しの肌に赤い血が流れていくのを見て、慄いた。
どこを怪我しているのかと、慎重に血の筋を辿ると、二の腕に小枝が突き刺さっている。
貫通はしていないが、深くまで入っているように見えた。
「れ、レオっ……あぁ、レオが!レオが怪我……っぐぅう」
必死になってアスレイ達に伝えようとしたが、大きな掌で口を覆われる。
何故?と目を見開いて、自身の口元に当たる手に己の手を重ねた。
レオンハルトは困ったように笑って、そのまま丘の方へ声を上げる。
「少し掠りましたが、私たちは無事です」
「良かった……今、誰か助けを呼んでくる」
這いつくばるように下を見ていたオリオンが、率先して立ち上がる。
しかしレオンハルトは、直ぐそれに待ったをかけた。
「もうじき日が暮れます。先に下山して下さい」
「お前たちを残していくなんて、出来るわけないだろ」
「この先に騎士団が使っている小屋があります。今から山道に戻るのは、距離がありますから」
オリオンは押し黙るが、アスレイは引き下がれないと、白衣が汚れるのも気にせずに地面へ膝を付いた。
「ですがっ」
「子供たちもいます。日が昇ったら騎士団に迎えを寄越してください」
「行くぞ」と、アスレイの肩を叩いた。
兄として助けに行きたい気持ちが先行するが、怪我が無いなら今はこの事態を伝えるのが先決だ。
どの道、この土地を知らない人間が闇雲に山へ入るなど余計に被害を出すだけだ。
眉根を寄せたアスレイは不満気な顔を隠しもせず、何とか立ち上がる。
こんな事故を自分とオリオンがいるにも関わらず、防げなかった事が悔やまれてならない。
しかも、件の"王子様"と一晩だなんて。不安が過ぎる。
容姿だけは同じ片割れが、近衛隊長らしい顔で頷いた。
「エリオスなら大丈夫だ」
「どこから来るんですか。その自信は」
「身を呈して弟を守った。それじゃあ評価にあたらないか?」
深い深いため息を吐いて、振り返る。
そこには、ジッと黙ったまま目に沢山の涙を溜めるノアリスとマルクがいた。
余計に小さく見える肩を両手に抱いてやって、歩みを促した。
「帰りましょう」
「レオンハルト王子とリオおじさんは?大丈夫なの?」
マルクが背伸びをするように、白衣を掴んだ。
自身の心ごと落ち着けるように、癖毛の髪を撫でてやる。
「大丈夫ですよ。ちゃんと話も出来ました。私たちは日が暮れる前に帰らないと」
「……置いてっちゃうの?」
「違います。助けを呼びに降りるんですよ」
今度はノアリスが、白衣に縋り付く。
ぎゅっと抱きついて、我慢できずに涙を零した。
「お、おれがっ……おれのせいだっ……」
「反省してるなら私からは何も無いですよ……エリオスには後で叱られて下さいね?」
エリオスの部分だけは、ノアリスの耳元でその名前を囁いてやる。
目をぐしぐし擦って、赤くなった目のまま何度も頷いた。
丘の上の気配が消えてから、脱力するようにエリオスの口元から掌は離れた。
レオンハルトは短く息を詰めて、痛みに耐えるよう天を仰ぐ。
呼吸と声が混ざっているような、不可思議な音。
経験則がないから、どれ程の傷なのかエリオスは検討がつかない。
だが、いつも飄々としている整った顔が、青ざめて見えて、胸が引き絞られたように苦しかった。
「ち、血が出てる。っ枝も……ど、どうすれば」
気が動転したエリオスは、レオンハルトの腕の周りを見つめて、携帯していた手ぬぐいを取り出す。
手が震えて、呼吸の仕方さえわからなくなっていた。
「う…ぐっ」
おっかなびっくり傷口の周りを優しく押さえるが、こんな腕から枝が飛び出した状態の処置なんて知るわけが無い。
戦や血なまぐさいことと、無縁に生きてきたエリオスだ。
ただ転んで擦りむいたのとは訳が違う。
半泣き状態で「どうしよう」を繰り返した。
「大丈夫だから、落ち着いて」
「ごめん、ほんとにごめんっ……でも、こんなっ……ぐっうぅ」
「泣かないで、だいじょうぶ……大丈夫」
ほろほろと流れてしまう涙を、レオンハルトは枝が刺さっていない方の腕(だが擦り傷はいくつもある)を持ち上げて、指先で雫を払った。
十五も年下の男に、慰められるなんて恥ずかしいことだ。だけど、自分のせいで傷だらけになったなんて、胸が苦しくてたまらない。
こんな大きな傷も、エリオスは見たことが無いのだ。ビックリして、へたりこんでしまった。
「戦場だったら、こんなのかすり傷ですから」
「でも痛い、だろうがっ……俺なんか助けたから」
「助けるに決まってます!んっぐ……でもほんと無茶しましたね」
自身が発した大きな声が傷口に響いたんだろう。眉をくっと寄せた。
それにまたエリオスは焦って、傷のない逞しい胸元。シワの寄ったシャツを掴む。
「ノアがまさか落ちると思わなくて、無我夢中で」
「貴方は何度私をヒヤヒヤさせるんですか……怪我は?ちょっと、擦り傷があります」
ちょっぴりできた頬と腕の擦り傷に、自分が怪我をしたみたいに眉を潜める。
傷口を避けて、労わるようそこに触れた。
しゃくりあげていた呼吸が落ち着くまで、レオンハルトは繰り返し慰める。
「もう、平気だ」
「……ではリオ。少しの間目を瞑っていてくれますか?」
「なんで?」
「枝を抜くので」
枝を抜く……どうやって?
「傷口を見るの慣れていないでしょう?怖がらせたくないですから」
「自分で出来るのかよ」
「やるしかないです……綺麗な枝なわけないですからね、悪い物が入ってしまいますから」
さ、目を瞑って?と言う優しい声に首を振る。
目をつぶってその見ていない間に、どうにかなってしまうのではと、怖かった。
ずっと不安そうな顔のままでいるエリオス。
それに、仕方ないなとやんわり笑ったレオンハルトは、枝に自身の手を添える。
追いかけて、エリオスも震える手で一緒に掴んだ。
「俺が抜く」
「怖いでしょ?」
「俺がやる。だって手、震えてるぞ」
力を入れるのも苦しいのだろう。もしかしたら、腕だけじゃなくて打ち付けた体が痛いのかもしれない。
自分を助けるために一緒に落ちてくれたレオンハルトに、これ以上無理はさせられない。
挑むようにその枝を強く見つめた。
そんなエリオスに「ふふっ」っと小さく笑ったレオンハルトは、自身の手を枝から退けた。
「見たところ真っ直ぐ刺さっています。なので一思いに抜いて下さいね」
「うん」
「抜けたらその手ぬぐいで、強く抑えてください」
「……うん」
木が鬱蒼と茂るこの山の中では、陽の光が極端に入りにくい。
もたもたしていると、若干差し込んでいる夕日の光さえ途絶えてしまう。
慣れないエリオスに頼る方が怖いだろうが、動揺することなく指示を出してくれるレオンハルト。
身を預けてくれる。それにちゃんと応えたい。
意を決して、傷口を睨みつけた。
「っ抜くぞ」
「お願いします」
枝をぎゅっと掴み直して、反対の手は傷口の横に手を添えて……一気に引き抜いた。
枝は言った通り真っ直ぐ入っていて、刺さっていた先端が赤く染まっているのに目眩がするも、何とか耐える。
枝を放り投げて視界から飛ばし、手ぬぐいをグッと患部に押し付ける。
時間としてはあっという間の出来事だが、傷に触れられたレオンハルトは大層傷みがあっただろう。
でも、エリオスを思ってか呻き声一つ漏らさない。
「で、できた?ちゃんと出来たか?」
「上手です。全然痛くなかったですよ」
爽やかな顔でこちらをみるが、信じられる訳ない。
(自分の腕に突き刺さってたら、わーわー騒ぐ自信がある。それこそ、兄さん達が見たら貧血でぶっ倒れてるだろ)
押さえ込んだ腕は、ドクドクと脈打っているようにも感じる。
ほのかに熱を感じて、恐る恐る指に隙間を作って覗き込むと、綺麗な赤が見えた。
「わっ、血が、」
「大丈夫。押さえていれば止まりますから……このまま強く押さえて」
レオンハルトはエリオスの手ごと抑え込む。
居住まいを正すように、座り直したレオンハルトにつられて背中を厚い胸板に預ける。
時折なんとも優しい声で何度も「大丈夫、大丈夫」と囁かれて、なんとか気持ちを整えるエリオスなのであった。
落ちていく感覚。無意識のうちに防衛本能から体を丸めた。
一瞬の間のはずなのに、頭の中はやけによく回る。
(頭から地面に叩きつけられたら、怪我じゃ済まないぞ……ノアリスは無事か?)
斜面に伸びた木々が腕や足を掠める。それでも落ちるスピードは変わらない。痛みに気づくほど冷静にはいられなかった。
その時、何者かがエリオスの体を覆った。
強くぎゅっと抱きしめられて、頭も押し込まれる。
「うぅっ……ぐっ」
ドンッ……ドンッと二度山肌に打ち付けられて転がった。
耳に入った呻きはエリオスの声ではない。
中々の高さから落ちたのに、思いのほか痛みが無く恐る恐る目を開ける。
真っ先に飛び込んだのは、近すぎて焦点の合わないなにか。
よく見るとそれは胸板だ。顔を上げるとしっかり張った喉仏と、苦痛に顔を歪めるレオンハルトがそこにいた。
「レオ、なんで」
「っ貴方が……無茶するから」
身を捩ってレオンハルトの中から抜け出ようとするが、未だ震えたまま強くエリオスをかき抱いて離さない。
山肌からパラパラと土や小石が落ちてきて顔を上げると、必死に覗き込む影がこちらを見下ろしていた。
「っ大丈夫かー!」
「返事をして下さいっ……」
オリオンとアスレイの悲痛な叫びに、何とか応えようと身を捩った。
「ぐっ…ぅ」
「レオ?まさかどこか痛めたのか……っ!?」
抱き込む腕。
その剥き出しの肌に赤い血が流れていくのを見て、慄いた。
どこを怪我しているのかと、慎重に血の筋を辿ると、二の腕に小枝が突き刺さっている。
貫通はしていないが、深くまで入っているように見えた。
「れ、レオっ……あぁ、レオが!レオが怪我……っぐぅう」
必死になってアスレイ達に伝えようとしたが、大きな掌で口を覆われる。
何故?と目を見開いて、自身の口元に当たる手に己の手を重ねた。
レオンハルトは困ったように笑って、そのまま丘の方へ声を上げる。
「少し掠りましたが、私たちは無事です」
「良かった……今、誰か助けを呼んでくる」
這いつくばるように下を見ていたオリオンが、率先して立ち上がる。
しかしレオンハルトは、直ぐそれに待ったをかけた。
「もうじき日が暮れます。先に下山して下さい」
「お前たちを残していくなんて、出来るわけないだろ」
「この先に騎士団が使っている小屋があります。今から山道に戻るのは、距離がありますから」
オリオンは押し黙るが、アスレイは引き下がれないと、白衣が汚れるのも気にせずに地面へ膝を付いた。
「ですがっ」
「子供たちもいます。日が昇ったら騎士団に迎えを寄越してください」
「行くぞ」と、アスレイの肩を叩いた。
兄として助けに行きたい気持ちが先行するが、怪我が無いなら今はこの事態を伝えるのが先決だ。
どの道、この土地を知らない人間が闇雲に山へ入るなど余計に被害を出すだけだ。
眉根を寄せたアスレイは不満気な顔を隠しもせず、何とか立ち上がる。
こんな事故を自分とオリオンがいるにも関わらず、防げなかった事が悔やまれてならない。
しかも、件の"王子様"と一晩だなんて。不安が過ぎる。
容姿だけは同じ片割れが、近衛隊長らしい顔で頷いた。
「エリオスなら大丈夫だ」
「どこから来るんですか。その自信は」
「身を呈して弟を守った。それじゃあ評価にあたらないか?」
深い深いため息を吐いて、振り返る。
そこには、ジッと黙ったまま目に沢山の涙を溜めるノアリスとマルクがいた。
余計に小さく見える肩を両手に抱いてやって、歩みを促した。
「帰りましょう」
「レオンハルト王子とリオおじさんは?大丈夫なの?」
マルクが背伸びをするように、白衣を掴んだ。
自身の心ごと落ち着けるように、癖毛の髪を撫でてやる。
「大丈夫ですよ。ちゃんと話も出来ました。私たちは日が暮れる前に帰らないと」
「……置いてっちゃうの?」
「違います。助けを呼びに降りるんですよ」
今度はノアリスが、白衣に縋り付く。
ぎゅっと抱きついて、我慢できずに涙を零した。
「お、おれがっ……おれのせいだっ……」
「反省してるなら私からは何も無いですよ……エリオスには後で叱られて下さいね?」
エリオスの部分だけは、ノアリスの耳元でその名前を囁いてやる。
目をぐしぐし擦って、赤くなった目のまま何度も頷いた。
丘の上の気配が消えてから、脱力するようにエリオスの口元から掌は離れた。
レオンハルトは短く息を詰めて、痛みに耐えるよう天を仰ぐ。
呼吸と声が混ざっているような、不可思議な音。
経験則がないから、どれ程の傷なのかエリオスは検討がつかない。
だが、いつも飄々としている整った顔が、青ざめて見えて、胸が引き絞られたように苦しかった。
「ち、血が出てる。っ枝も……ど、どうすれば」
気が動転したエリオスは、レオンハルトの腕の周りを見つめて、携帯していた手ぬぐいを取り出す。
手が震えて、呼吸の仕方さえわからなくなっていた。
「う…ぐっ」
おっかなびっくり傷口の周りを優しく押さえるが、こんな腕から枝が飛び出した状態の処置なんて知るわけが無い。
戦や血なまぐさいことと、無縁に生きてきたエリオスだ。
ただ転んで擦りむいたのとは訳が違う。
半泣き状態で「どうしよう」を繰り返した。
「大丈夫だから、落ち着いて」
「ごめん、ほんとにごめんっ……でも、こんなっ……ぐっうぅ」
「泣かないで、だいじょうぶ……大丈夫」
ほろほろと流れてしまう涙を、レオンハルトは枝が刺さっていない方の腕(だが擦り傷はいくつもある)を持ち上げて、指先で雫を払った。
十五も年下の男に、慰められるなんて恥ずかしいことだ。だけど、自分のせいで傷だらけになったなんて、胸が苦しくてたまらない。
こんな大きな傷も、エリオスは見たことが無いのだ。ビックリして、へたりこんでしまった。
「戦場だったら、こんなのかすり傷ですから」
「でも痛い、だろうがっ……俺なんか助けたから」
「助けるに決まってます!んっぐ……でもほんと無茶しましたね」
自身が発した大きな声が傷口に響いたんだろう。眉をくっと寄せた。
それにまたエリオスは焦って、傷のない逞しい胸元。シワの寄ったシャツを掴む。
「ノアがまさか落ちると思わなくて、無我夢中で」
「貴方は何度私をヒヤヒヤさせるんですか……怪我は?ちょっと、擦り傷があります」
ちょっぴりできた頬と腕の擦り傷に、自分が怪我をしたみたいに眉を潜める。
傷口を避けて、労わるようそこに触れた。
しゃくりあげていた呼吸が落ち着くまで、レオンハルトは繰り返し慰める。
「もう、平気だ」
「……ではリオ。少しの間目を瞑っていてくれますか?」
「なんで?」
「枝を抜くので」
枝を抜く……どうやって?
「傷口を見るの慣れていないでしょう?怖がらせたくないですから」
「自分で出来るのかよ」
「やるしかないです……綺麗な枝なわけないですからね、悪い物が入ってしまいますから」
さ、目を瞑って?と言う優しい声に首を振る。
目をつぶってその見ていない間に、どうにかなってしまうのではと、怖かった。
ずっと不安そうな顔のままでいるエリオス。
それに、仕方ないなとやんわり笑ったレオンハルトは、枝に自身の手を添える。
追いかけて、エリオスも震える手で一緒に掴んだ。
「俺が抜く」
「怖いでしょ?」
「俺がやる。だって手、震えてるぞ」
力を入れるのも苦しいのだろう。もしかしたら、腕だけじゃなくて打ち付けた体が痛いのかもしれない。
自分を助けるために一緒に落ちてくれたレオンハルトに、これ以上無理はさせられない。
挑むようにその枝を強く見つめた。
そんなエリオスに「ふふっ」っと小さく笑ったレオンハルトは、自身の手を枝から退けた。
「見たところ真っ直ぐ刺さっています。なので一思いに抜いて下さいね」
「うん」
「抜けたらその手ぬぐいで、強く抑えてください」
「……うん」
木が鬱蒼と茂るこの山の中では、陽の光が極端に入りにくい。
もたもたしていると、若干差し込んでいる夕日の光さえ途絶えてしまう。
慣れないエリオスに頼る方が怖いだろうが、動揺することなく指示を出してくれるレオンハルト。
身を預けてくれる。それにちゃんと応えたい。
意を決して、傷口を睨みつけた。
「っ抜くぞ」
「お願いします」
枝をぎゅっと掴み直して、反対の手は傷口の横に手を添えて……一気に引き抜いた。
枝は言った通り真っ直ぐ入っていて、刺さっていた先端が赤く染まっているのに目眩がするも、何とか耐える。
枝を放り投げて視界から飛ばし、手ぬぐいをグッと患部に押し付ける。
時間としてはあっという間の出来事だが、傷に触れられたレオンハルトは大層傷みがあっただろう。
でも、エリオスを思ってか呻き声一つ漏らさない。
「で、できた?ちゃんと出来たか?」
「上手です。全然痛くなかったですよ」
爽やかな顔でこちらをみるが、信じられる訳ない。
(自分の腕に突き刺さってたら、わーわー騒ぐ自信がある。それこそ、兄さん達が見たら貧血でぶっ倒れてるだろ)
押さえ込んだ腕は、ドクドクと脈打っているようにも感じる。
ほのかに熱を感じて、恐る恐る指に隙間を作って覗き込むと、綺麗な赤が見えた。
「わっ、血が、」
「大丈夫。押さえていれば止まりますから……このまま強く押さえて」
レオンハルトはエリオスの手ごと抑え込む。
居住まいを正すように、座り直したレオンハルトにつられて背中を厚い胸板に預ける。
時折なんとも優しい声で何度も「大丈夫、大丈夫」と囁かれて、なんとか気持ちを整えるエリオスなのであった。
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