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23.飛んで火に入るお嬢様

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 コーマスとの打ち合わせを終え、公務室を出る。どっと疲れが押し寄せてくる心地だった。ロドハルトでの公務、エクソシストとしての仕事、そして本来一番こなさねばならないはずであるエヴァイアンでの公務。気が休まる事を知らなかった。
 しかし久々に会ったコーマスは、どこか生気が戻っているようだった。最近はどうやら仮眠ではなく熟睡出来る時間が増えているらしい。ロドハルトとの国交関係をラチカが今はすべて請け負っているので、少しは負担が軽減しているのだろう。それなら、とくに嫌な気もしなかった。
 ひとまず朝食にしようと、食堂へ向かう。コーマスは公務室で食事をする、との事だった。

「ん?」

 窓の外で、舞う影。シャイネが、他の従者達に稽古をつけている姿だった。
 シャイネはエヴァイアンの従者の中では、まだまだ年少者だ。しかし出身がレヂェマシュトルという事もあって、武道の指導役もしている。朝早くから結構な事だ。
 ……彼は、少しずつ変わってきているのかもしれない。
 今まで十五年も一緒に居たというのに、あんな劣情をぶつけてきた事は今まで無かった。何に対して焦っているのか、ラチカには分からない。

「……ごはん」

 ひとまず、腹の虫に従う事にした。食堂へ歩みを進める。
 結局彼はあの後ラチカを抱かなかった。ただ、ラチカの胸部にしごかれて射精したに過ぎない。あの時はあんなシャイネを見られて満足はしていたが、いざ目覚めて冷静に考えると……顔が、ぼっと音を立てる勢いで熱くなる。
 やってしまった、とは思う。しかしそれに余る程の言い訳や弁解も出来る。だから、もう気にするのはやめよう。

「おはようございます、ラチカ様」

 食堂には、すでに何人かの使用人達が居た。彼らに挨拶を返しながら、専用の卓に着く。
 すでにあらかた用意されていたのか、すぐに料理が運ばれてきた。温かいスープから口に運び、ほんの少し舌を火傷させながらまた考え込む。
 ……バレる事は、きっと無いだろう。しかしもし、コーマス……そしてギャムシアに見つかってしまったら。以前から見つかってはならないとは思っていたものの、正直ここまで真剣に考えていなかった。しかしシャイネの精を飲んだ以上、いよいよ本気で引き返せなくなってきている気がする。もしかすると、シャイネと本当の意味での性交に及べないのは、ある意味運が助けてくれているという事なのだろうか。
 こんなにも、疼かせておきながら。

「お嬢様、零されてますわ」
「あ」

 ぼたぼたとこぼしたスープを、若い女使用人が拭いてくれた。必死で謝りながら、溜息を吐く。
 そろそろ本気で、一本芯を通した方がいいかもしれない。このままでは、どんどん堕落していく。
 ギャムシアを選ぶのが、一番早い道なのだろう。彼の手腕を持ってすれば、恐らくコーマスを納得させる事自体は可能なはずだ。ただ、シャイネは……きっと許さない。
 彼の許しが必須なわけではないが、どうしても蔑ろに出来ない。結局、十五年の情は厚くかけがえの無いものになっていて。

「ごちそうさま」
「あら、食欲が無いのですか」
「うん、ごめんね」

 どうも、むず痒い。
 食堂を出て、当ても無く歩く。ヴェリアナに話を聞いてもらいたいが、彼女は今実家に帰っていると兄は言っていた。どうせ年が明けてもまた帰るのに、とは思ったもののあえて何も言わずにおいた。
 ふと、窓の外にあるシャイネの部屋がある使用人寮が目に入る。シャイネは異性の主君であるラチカの部屋には入れないが、その逆は可能なはずだ。
 ……行ってみようか。時間で言えば、まだ彼は稽古から戻らないはずだ。

「……よし」

 この時間は従者含め使用人は皆寮から出ている。それでもちらほらうろついている使用人達の目を掻い潜りながら、どうにかシャイネの部屋に到達した。
 ノブを回すと、やはり鍵がかかっている。ポケットから鍵束を取り出し、いくつかある物からシャイネの部屋のものを取り出した。これは、エヴァイアンの一員として預けられているものだ。決してこういう時に使うためのものではないはずなのだが、仕方無い。
 ガチャリ、と極限にまで音を押さえてノブを回す。その瞬間広がった、匂い。シャイネの匂いだ。ごくり、と喉を鳴らしながら扉を慎重に閉める。
 シンプルで、とくに過多な装飾も何もない。最初に支給された家具をずっと使い続けているらしかった。給金は一体どうしているのだろうか。そう思ってテーブルを見ると、飲みかけの果実酒があるのが見えた。もしやと思いゴミ置きを見ると、酒の瓶が多い。確かに彼は上戸ではあるが、好きなのかどうかは知らなかった。
 周囲を見渡す。とくに面白そうなものは何も無い。いや、人の部屋に忍び込んで何を言っているのだという話ではあるのだが。
 ひとまず、ベッドに腰かける。部屋に置いているものの中でも、一番シャイネの匂いが強い、

「……いい匂い」

 ふと、シーツに鼻を近づけて嗅ぐ。彼の、昨日の時の……密接した瞬間の、匂い。
 駄目だ、下半身がじゅわりと熱を持つ。口内に、昨日のシャイネの精の匂いが蘇る。

「シャイネ」

 体が、呼んでいる。彼の事を、彼の精を。
 熱く、火照りだす体。口の中に唾液が溜まりだす。そして、ぬかるみだした。

「……は、あ」

 胸いっぱいにシーツの匂いを吸い込む。そのまま、ベッドに寝そべった。彼の香りが、ふわりと浮き上がる。そのまま抱きしめられる内に、右手は動き出した。
 下着の上から、そっと敏感な個所をなぞる。陰核に指が触れた途端、全身が波打った。ギャムシアの口戯に踊らされたあの時とは違う、しかし似たような快感に悶えながら、ラチカは唇を噛みしめた。

「っシャイネの、ばかぁ……!」

 何故自分が、ここまで掻き立てられねばならないのか。すべて、彼が。彼の想いが、行為が。すべてラチカを誘き寄せている。
 ただの主従、幼馴染だったはずなのに。

「ん、ふっ……あ、ああぁ……っ」

 脳内が白く染まりだし、ひたすらラチカの右手が陰核を布越しに虐め続ける。左手は、旨の膨らみを無意識に揉みしだいていた。それでも、シャイネに愛撫される時とは比べものにはならない。
 もし、シャイネが……この、ラチカの秘所に触れてしまったら。そう考えるだけで、愛液の分泌は加速した。

「ふぅっ、はふ、あんっ、ああ……」

 声は抑えても漏れる。しかしきっと聞こえはしない。
 ワンピースの前留めボタンを開き、乳房を露呈させる。ぷるっ、と弾んで出てきた乳房を左手で鷲掴みながら、ラチカはシーツをくわえた。

「ふーっ。ふーっ……」

 ああ、こんなにも脳内がしびれる。いい匂いだ。
 乳房を揉み上げながら、突起が膨らんでいくのを感じる。昨日シャイネにされたように先端を指先でこするも、昨日程の快感はやってこない。それが非常に、もどかしい。

「んんっ……」

 下着の中に、指を滑らせる。完全に愛液にまみれた秘所を、簡単に指は潜っていった。

「ひぅっ……!」

 自慰をしたことが一切無いかと言えば、嘘になる。それこそヴェリアナと出会った時、彼女の像を思い描いては勝手に体が動いていた時はあった。今思えば、やはりあれは……熱烈な、初恋だった。
 しかし今回は、あの時のようなあやふやな想像ではない。実際、こうやって……より想像を明確にするものがある。

「や、はあん……」

 少しずつ、昇ってきている。体が熱い。脳内の白みが、より濃度を増していく。
 ああ、今だ。

「あぅっ!」

 男のように、射精する事はない。しかし、それでも確かに……これは、達したと言える。
 動悸が止まない。しかし、一気に体の中の熱が冷めていくのを感じた。我ながら切り替えが早い、と思っていた……その、瞬間だった。ドアノブの、音。

「!!」

 勢いよく、扉が開く。そこには、険しい顔をしてナイフを構えたシャイネが居た。しかし彼は飛び起きたラチカを見ると、目を大きく見開かせる。

「おっ、お嬢様!?」

 ああ終わったな、と思った。血の気が一気に引いていく。
 シャイネは周囲を見渡すと、急いで扉を閉めた。そして、駆け寄ってくる。

「い、一体何を? というより、何故俺の部屋に?」
「そ、そのー、そのー」

 さすがに無意識で向かっていたとは言えず口をもにょもにょと動かすしかなく。シャイネは深い溜息を吐き、ラチカの肩を押した。ばふっ、と弾力性の高い音を立ててラチカの体は倒れ込む。シャイネはそのままラチカの右手を掴んだ。視線を、ふやけた指へと持っていく。彼はヤケになったかのように、ラチカの股の間に片膝を割り込ませた。彼の膝がラチカの秘所を乱暴に圧し、ぐぢゅりと音を立てる。

「――っ!!」

 声にならない、悲鳴。シャイネは勢いに任せ、口付けてきた。ぢゅる、ぢゅ、と粘着質な音が響く。

「ぅ、ふぅんっ……んっ」

 舌をしっかりねじ込まれ、絡めとられる。先程の絶頂のせいで体力を失っているのか、碌に抵抗も出来ない。
 何度か舌を吸い上げると満足したのか、シャイネは唇を離した。そのまま、手をさらけ出されたラチカの膨らみに持っていく。そのまま鷲掴んだ。

「ああっ、やっ、シャイネっ」
「何でこんな格好なんですかっ……くそっ」

 シャイネの舌が伸びてきた。そのまま唾液たっぷりに、ラチカの胸元を嘗め回す。先程とは全然違う快感に、目の奥がちかちかした。

「やぁん、シャイネ、駄目っ気持ちいいっ……」
「声は抑えてください、いっぱい食べさせて頂きますからっ」

 その言葉の通りに、シャイネは先端を口でしっかりと含んだ。一瞬の力強さに泣きそうになるも、すぐにそれは快感によるものだと思い知る。シャイネはラチカのボタンを全部外し切ると、両方の乳房を両手で一気に鷲掴む。息が荒い中、シャイネはぼたぼたと唾液をラチカの唾液に零した。それを伸ばすように、舌を這わせる。

「お嬢様、俺の匂い嗅いで……おひとりでっ……?」

 まさにその通りなのだが、恥ずかしすぎて頷けない。しかしシャイネは察したようで、微笑むとラチカの耳元に唇を近づけた。

「お嬢様、本当に愛おしいです。どんどん俺のところへ堕ちてきてくれて」

 言っている意味が分からなかったが、シャイネは未だ手を止めない。快感を揉み上げながら、シャイネはずっと耳元でささやいてくる。

「柔らかい……無理です、お嬢様……こんな姿見せられたら……はぁ、気持ちいい……柔らかすぎる……」

 確かに、存在は感じている。今のシャイネがとんでもなく興奮状態にあるのは、てっきり分かっている。熱い息が首に何度も当たってきて、こそばゆい。しかしそれ以上に、欲していた。実際、愛液は再び分泌を始めている。
 これなら、今度こそ。
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