簡単に運命と言わないで――二人のアルファに囲まれて――

かぎのえみずる

文字の大きさ
22 / 27
長内編

第二十二話 好意的な闇医者


 病院を一軒一軒回るも、なかなか薬は手に入らなかった。
 まじかよ、と病院のロビーで項垂れているとお爺さんが声をかけてくれた。
「どうしたね、坊や」
「坊やって年じゃないですよ、欲しい薬が手に入らないんです」
「いったいどうして欲しいんだね」
「僕、オメガで……運命のアルファが二人いるんですが、今一人選ばなきゃいけない薬を使われてて。元に戻す薬がないと、一人しか選べない」
「本来、番とは一人ずつだよ。坊やは欲張りなんだね」
 ほっほっほ、とお爺さんは笑うと、持っていた杖を支えにして僕の顔をのぞき込む。
「どちらか選べないのかい?」
 恋をしているのは椿だけれど、雪道さんはほっとけない。ほっとけないしあの人は危うい。何かの弾みで消えてしまいそうな気配がする、淡い人なんだ。
 だからこそ、あの人にも努力するというチャンスをきちんと手にして欲しかった。
 酷く後悔していた顔が忘れられないから――それを恋というのなら、僕は雪道さんも好きなんだと思う。
「選んだらきっと、どちらも傷つくよ」
「そのせいで坊やに石を投げられても?」
「僕は頑丈だよ! それにね、石を投げられたらその二人が守ってくれる」
「……素敵なアルファと知り合ったんだね、宜しい」
 お爺さんは僕に指先だけでちょちょいと手招きすると、一緒にきなさいと告げた。
 怪しい行為はお断りなんだけれど、お爺さんは何となく信じられそうだった。
 僕は言うとおりお爺さんについていくと、そこは個人医院の病院で閑散としている。
 お爺さんは大きな声で「おおい」と病院だというのに中の診察室に声をかける。
 すると、中から男性が出てきた。眼鏡の男性は髪がボサボサで、ひげは生やしっぱなしの少し不格好なひとだった。白衣だけは新品のように綺麗な、黒髪の人。
 男はひげをかきながら、お爺さんと親しげに会話する。
「爺ちゃんどうしたんだよ、お客さん連れてきてくれたの?」
「ああ。少々事情があってな、お前の好きそうな人だよ。坊やこの人にお願いをしてごらん、きっと欲しい薬なんだって用意してくれる」
「え、本当ですか?」
「ああ、ただし内密にな? ここは何せ、堂々としてるがあいつは闇医者というやつだ。オメガに肩入れしすぎたあまりに、医師免許を剥奪されたんだよ」
「爺ちゃん勝手にばらさないでよ。何の薬が欲しいんだ?」
「ええと、番を勝手に解消される薬の治療薬……」
「ああ、なるほど。だから君からはフェロモンが溢れているんだね」
 納得納得と口ずさみながら男は、おいでと手招きした。
「診察しよう、ただし費用は高いぞ」
「絶対にその薬が手に入るなら、幾らでも出すさ!」
「威勢がいいところが俺の番に似てるから、八割はおまけしてあげよう」




 お爺さんの紹介で闇医者の先生から診察を受ければ、闇医者は少し興奮していた。
 性的にではなく、研究対象として興奮していたようだった。
「番が二人、か。きっとその二人は兄弟だから、遺伝子的な問題かもな」
 興味津々と言った眼差しに、僕はぶすくれて先生のおでこを叩いた。
「あいたっ」
「動物でも見るような目はやめてよ。僕たちは真剣なんだよ」
「事情も分かった。欲しい薬も分かった。さぁあとはおじさんの好奇心につきあってほしいな?」
「何? 何かまだ必要なものでも……」
「どっちのことが好きなの? おじさんには二人って人数選ぶの、なかなかしんどいと思うんだよね。どうして片方だけじゃだめなんだい?」
「しんどいってどうして?」
「だって婚姻届でまずもめるだろ。そのうち一人は認知された愛人状態なわけだ。それにどちらかが我慢できるかできないか想像は、君にだけはできると思う」

 先生の言葉は真っ当だ、確かにどちらかを選ばなければいけない日がそのうちにくるんだと思う。
 問題の先延ばしに、先生には見えていて今は解決するチャンスだよって教えてくれているんだろうね。
 それでも僕は二人を選びたい。

「二人ともさ、拗ねるときにね、唇を尖らせるんだよ」
「うん、それが?」
「それがね、可愛いんだ。可愛いって思うようになったってことは、惚れてきたってことでしょ。好きでもないやつの幼い動作見たって、きもって思うじゃん」
「覚悟はできているんだね」
「認めるよ、僕は二人が好きだ」
 甘い空気になったとしても、もう逃げたくはないくらいには。
 僕が笑うと先生は処方箋を出してくれて、こっそり耳打ちをした。

「そのうち健康診断で三人ともおいで。それで今回薬代はちゃらにしてあげよう、素敵な純愛を聞けたお礼だ」
「とかいって、体質がどうなってるか気になってるだけでしょ?」
「ばれたか」
 僕らは笑い合い、和やかな空気で診察を終え、最後にお爺さんにお礼を告げて頭を下げた。
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

出来損ないのオメガは貴公子アルファに愛され尽くす エデンの王子様

冬之ゆたんぽ
BL
旧題:エデンの王子様~ぼろぼろアルファを救ったら、貴公子に成長して求愛してくる~ 二次性徴が始まり、オメガと判定されたら収容される、全寮制学園型施設『エデン』。そこで全校のオメガたちを虜にした〝王子様〟キャラクターであるレオンは、卒業後のダンスパーティーで至上のアルファに見初められる。「踊ってください、私の王子様」と言って跪くアルファに、レオンは全てを悟る。〝この美丈夫は立派な見た目と違い、王子様を求めるお姫様志望なのだ〟と。それが、初恋の女の子――誤認識であり実際は少年――の成長した姿だと知らずに。 ■受けが誤解したまま進んでいきますが、攻めの中身は普通にアルファです。 ■表情の薄い黒騎士アルファ(攻め)×ハンサム王子様オメガ(受け)

恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。

めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。 その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。 ⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる ⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない ※全四話、予約投稿済み。 本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。 ※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 様々な形での応援ありがとうございます!

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。 ※画像はpicrewさんよりお借りしました。 Xアカウント(@wawawa_o_o_)

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。