31 / 35
第二部 視線
第三十一話 お伽噺を目にしたい
しおりを挟む
後日駅で待ち合わせし、枯葉がわざと見立てたださいプリントシャツを着ながら、旅行鞄一つ持って柚はオーナーを待つ。
駅は店に近い最寄り駅を選び、それならばと柚も頷いた。
暑くて喉を潤わせたく、買った炭酸のジュースを手元にいつもの癖でややふってしまう。
開ける頃に、そういえばこれは炭酸だったと気付き、乱雑にした罰を受け手元が濡れる。
勿体ないので、手首やらを少しだけ舐めると、その頃にオーナーが着てむっとした顔をしていた。
いつものオーナーであれば、「馬鹿だねぇ」といいつつ爆笑し指さしそうではあるのに、オーナーはハンカチを使って柚の手元を拭く。
「子供じゃねーんだからさぁ柚ちゃん。いや、子供より厄介。色気ふりまくなよ」
「色気?」
「ザーメン顔にかけられたときと同じような舐めかただった」
「なっ……!!」
柚が口をぱくぱくして不機嫌そうにすればようやくオーナーは笑って、自分の車へと柚を案内し、共にオーナーが懇意にする旅館へ向かった。
予約がいつも埋まり一年は待たなければならないほどの旅館であるのに関わらず、それを柚に考えさせないオーナーのエスコートは女性であれば……柚でなければ、うっとりしていたかもしれない。
旅館に着くなり、待ち受けていたのはセックスではなく、オーナーは膝の上に柚を載せ、じゃれるだけであった。
「……即物的だと思ってた」
「オレだって癒やされたいときくらいあるよ。それに三日はくれるなら、逃げないだろ、柚ちゃんは」
「……正直、アンタが何をしたいか判らないんだ」
「簡単だよ、オレの願いはいつだって、簡単」
今まで誰かに願うことなどなかった――愛したいなど。枯葉と柚の関係を壊したい。二人が愛し合えば愛し合うほど、自分を否定される感覚で憎らしい。
愛されることには慣れすぎて、嫌われることも慣れすぎて、結果へらへら笑い続けるオーナーの出来上がりだ。
本気にするだけ無駄だと考えて生きてきた、人の愛に一生を左右されるなどあほらしいとさえ思っている。
しかし、この警戒心が高い柑橘類は、何かを乱してくる。大げさに言えば価値観を壊してさえくれそうな存在ではある気はする。
今も愛を馬鹿だと笑う自分に、疑いを持たせてくるものだから存在はでかい。
まったく困ったガキだと、オーナーは笑う。
「お伽噺を現実で見るか壊すかしたいだけだ」
「演劇でもみれば……?」
「柚ちゃん、オレにとってはあの覗き場も、演劇みたいなものだよ」
心にも思ってないことを告げれば、可愛らしい高校生らしいことをいう柚にキスでもしようとするオーナーであった。
壊せば満足なのか、真実の愛とやらを目の前にすれば満足なのか、答えはこの期間に出そうではある。
期待と寂しさと動揺に、オーナーは複雑だった。
駅は店に近い最寄り駅を選び、それならばと柚も頷いた。
暑くて喉を潤わせたく、買った炭酸のジュースを手元にいつもの癖でややふってしまう。
開ける頃に、そういえばこれは炭酸だったと気付き、乱雑にした罰を受け手元が濡れる。
勿体ないので、手首やらを少しだけ舐めると、その頃にオーナーが着てむっとした顔をしていた。
いつものオーナーであれば、「馬鹿だねぇ」といいつつ爆笑し指さしそうではあるのに、オーナーはハンカチを使って柚の手元を拭く。
「子供じゃねーんだからさぁ柚ちゃん。いや、子供より厄介。色気ふりまくなよ」
「色気?」
「ザーメン顔にかけられたときと同じような舐めかただった」
「なっ……!!」
柚が口をぱくぱくして不機嫌そうにすればようやくオーナーは笑って、自分の車へと柚を案内し、共にオーナーが懇意にする旅館へ向かった。
予約がいつも埋まり一年は待たなければならないほどの旅館であるのに関わらず、それを柚に考えさせないオーナーのエスコートは女性であれば……柚でなければ、うっとりしていたかもしれない。
旅館に着くなり、待ち受けていたのはセックスではなく、オーナーは膝の上に柚を載せ、じゃれるだけであった。
「……即物的だと思ってた」
「オレだって癒やされたいときくらいあるよ。それに三日はくれるなら、逃げないだろ、柚ちゃんは」
「……正直、アンタが何をしたいか判らないんだ」
「簡単だよ、オレの願いはいつだって、簡単」
今まで誰かに願うことなどなかった――愛したいなど。枯葉と柚の関係を壊したい。二人が愛し合えば愛し合うほど、自分を否定される感覚で憎らしい。
愛されることには慣れすぎて、嫌われることも慣れすぎて、結果へらへら笑い続けるオーナーの出来上がりだ。
本気にするだけ無駄だと考えて生きてきた、人の愛に一生を左右されるなどあほらしいとさえ思っている。
しかし、この警戒心が高い柑橘類は、何かを乱してくる。大げさに言えば価値観を壊してさえくれそうな存在ではある気はする。
今も愛を馬鹿だと笑う自分に、疑いを持たせてくるものだから存在はでかい。
まったく困ったガキだと、オーナーは笑う。
「お伽噺を現実で見るか壊すかしたいだけだ」
「演劇でもみれば……?」
「柚ちゃん、オレにとってはあの覗き場も、演劇みたいなものだよ」
心にも思ってないことを告げれば、可愛らしい高校生らしいことをいう柚にキスでもしようとするオーナーであった。
壊せば満足なのか、真実の愛とやらを目の前にすれば満足なのか、答えはこの期間に出そうではある。
期待と寂しさと動揺に、オーナーは複雑だった。
10
あなたにおすすめの小説
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
たとえば、俺が幸せになってもいいのなら
夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語―――
父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。
弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。
助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる