兄さん覗き見好きなんだね?

かぎのえみずる

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第二部 視線

第三十三話 惚気

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 一つだけ。たった一つだけ最後にオーナーは嫌がらせをしてやろうとした。
 次の日の夜、温泉を先に出ればオーナーは枯葉にスマホから電話をかけて、柚が来る前に用件を話す。

「枯葉、よう元気?」
『……何ですか』
 吐息混じりの声は、多分今まで眠っていた声だろう。
『兄さんに変なことしないでくださいね』
「柚ちゃんね、オレがいいって、やっぱり。大人のオレに惹かれるって、枯葉の愚痴ばかり聞いちゃってさぁ……お前さん嫌われてるね?」
 一世一代の大演技、さぁ演技力と嘘よ、今こそ発揮するのだとオーナーは自分を奮い立たせた。
 これで壊れたらそれは愉快傑作。帰って枯葉に冷たくされた悲しむ柚を慰めてから頂いてあげよう。

 これでもしも本人から聞いた話でもない話を信じるようであればそれまでの仲だ。
 だがもしも、本当に好いているなら――。

『兄さんは僕のですよ、オーナーは気付いてないでしょうが、兄さんね。僕にだけは自分からキスをするんですよ、それが証拠です』
 枯葉の携帯越しからの声には苛立ちと自信が満ちていた。
 言われるまで気付かなかった、柚とはキスをしているが、確かに柚は一度たりとも自分からキスをしたことがない。

 なるほど、これは完敗だ。潔いほど確かな証拠がある。
 オーナーは一気に笑いたくなり、爆笑すると電話を切る。

 温泉から戻ってきた柚に気付けば、オーナーは今日もその卵肌を味わおうか。





 抱いた後に柚からとんでもない言葉を聞いて、オーナーは咽せた。
「アンタは快楽責めするかと思った、この三日間」
「ちょっとぉ、オレそんなイメージ?」
「うん。普通、アレは使わない……」

 柚は、あれ、と側にあったフェザーを指さす。
 先ほどあれで沢山擽られ、啼きすぎて喉が痛い柚であった。

「それか、もしくは監禁かなっておもった……」
「大人ですからねぇ、理性はあるわけよ、嫌でも。あとは、なんつか、かなわねーなぁって。枯葉は判るンだよ、枯葉からは。柚ちゃん、どーしてあいつ好きなの」

 こんな話題をふるほどに、柚の気を引きたい自分自身へオーナーは自嘲気味に笑いながら、柚の頭を撫でた。
 柚はぱちりと瞬きをすると、笑って心から思い人が愛しそうな笑顔を浮かべた。

「具体的な理由があるなら、それはオレにとっては恋じゃないよ。本能的に、ああ、もう好きだな……って、思ったよ。枯葉のことは……」
「理由じゃねーの?」
「一箇所すきな所見つけたら、全部好きになっていった……」

 オーナーは柚を見つめ、成る程、と納得した。
 確かに柚に対しては一箇所の好みであった、最初は。
 そこからどんどん、支配していきたい箇所が増えていき、最終的には全部が欲しくなった。
 その衝動と似ているのならば、自分にとっていつか恋や愛を語るのは夢ではないのかもしれない、相手は柚ではないだろうが、と思案するとオーナーは嘆息をついた。

(お伽噺を、認めるしかないか。壊せなかった、壊す勇気もなかった)
(だってあまりにもクリスタルみたいに綺麗だったから)
(勿体なくなった……大人の茶々で壊すには)

 二日目はそんな惚気を聞いて終わった。

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