34 / 35
第二部 視線
第三十四話 解放、そして未来の確約
しおりを挟むここまで負けたら清々しい、オーナーは早めに帰ることを柚に提案すると、柚は素直に喜んだ。
戸惑いと喜びを見せ、朝食を食べるなり駅まで送り、あとは契約書を柚に手渡した。
オーナーは柚へ興味を失った顔で柚の顔を見ず、サングラスをかけ、一回だけ柚へ視線を送った。
「二人分ある、解雇のやつ。金も払わなくてイイ、首だよお前さんら。もう、あそこにはこなくていい。私物と給料は後日取りに来い」
「オーナー……」
「もうね、うんざりだなぁ、ガキの恋愛って。乳臭くてさあ。そんなものを長々とね、うちの客に見せるわけにはいかねーのよ、じゃあな元気で」
「オーナー……あの……お元気で。ソシャゲ課金しすぎないでくださいね」
「馬鹿、オレの本気はあんなもんじゃないよ、あれおもしれーもん。オレ、あのゲームで天下とったるわ」
柚は軽い足取りで、帰って行く。明日や未来の明るさを感じる、足取りである。
そんな足取りじゃ、まるで自分が悪の組織で、柚は囚われの姫のようではないかと笑いを堪えるオーナー。
お姫様は自力で悪の組織を説得し、脱出できたとはB級映画並みである。
いいや、映画にもなれない物語だな、とオーナーは柚がいなくなったのでサングラスを外した。
後ろ姿を車の中から見つめ、オーナーはそういえばこれ、心だけの問題で言えば初恋だったかもしれない、と失恋に気づき笑って二人の未来を祝福した。
*
柚は枯葉に電話をかける、たった1コールで枯葉は出てくる。
「枯葉! もう店、こなくていいって……!! 二人とも」
『え、違約金とかは……』
「とにかく、今から会いたい。家じゃなく、会いたい」
柚はふと、雑貨店が目に入り、待ち合わせ場所を告げると店へ入っていった。
待ち合わせまでまだ時間がある、店の中はカラフルにどぎついカーテンなどもあって、多国籍を感じる店内となっていた。ランプからキッチン用具まである。
雑貨店でとあるものを買い、待ち合わせた公園に向かうと枯葉はいた。
「兄さん……お帰りなさい」
「ただいま……――枯葉、あの、俺……」
「兄さん、まずは座りましょう。腰痛いでしょう?」
少しだけ言葉に冷たさを感じるものの、柚は小袋を枯葉に手渡す。
枯葉はハッと鼻で笑う。
「あいつとの旅行記念のお土産ですか」
違う、こんな嫌味を言いたいわけではない。
おかえりとか、お疲れ様とか疲れを労ってやりたいのに、オーナーに抱かれた柚を想うと嫉妬心で壊れそうな気配がした。
枯葉はこんな狂騒いつまで続くのだろうと内心思案していたが、先ほどの柚の電話が嘘でなければ……一抹の希望で、柚へ視線を向けた。
「違う、すぐそこの雑貨屋で買った。……枯葉、あの、な。俺、お前の人生が全部欲しいんだ……だから、これは今はこれが精一杯だけど、その約束、に。人生くれるなら、受け取って欲しい」
枯葉は目を白黒させ、驚くと包装をびりびりと破いた。
開ければ、中には指輪。どうみても、どう見ても安物だし、定番の形であるザ・シルバーアクセだけれど、……心から欲しかった確約だ。確約が形となったものだ。
店にももう囚われない、心も捧げてくれる約束をしてくれた。
畳みかけるように柚は枯葉の両手を握ると真剣な顔をして、枯葉へ告白する。
「枯葉、あの家をでて、一緒に暮らそう……? 三日じゃなくて、永遠をあげる。俺の一生でよければ、ずっと側にいて、ほしい」
「兄さん、あのね。それって普通、僕が言うところなんですよ……これだから、兄さんは!」
枯葉は指輪を受け取り、柚へ熱烈なキスを贈った。
普段かっこつける弟が、素を一瞬見せた表情だけで、無邪気に喜んでくれた。
すー、と落ち着かせようと深呼吸をしながら、胸一杯に柚の香りを嗅ぐ。
この人はもう自分だけの物だと実感し、嬉しくなる枯葉だった。
「兄さん、もう覗き見しないでくださいね? 僕だけ、僕だけを見つめてください」
「枯葉も、俺だけ見ていて……好きだ」
「僕もです、貴方を、愛してます」
二人は傍から見ればぎょっとするほどに、泣き崩れ、互いの肩をたたき合った。
色んなことがあった、無理矢理身体を暴いたり、兄と地獄のような状況で結ばれたり、柚を信じられない期間もあったりした。
それでも柚はたったひとつだけ、自覚してからは行動として残してくれていた。
キスだけは、キスだけは柚からしてくれるのは枯葉だけだと。
たった一つ、それさえあれば枯葉は愚かだと誰かから罵られようと、柚に惚れ込んでいられた。惚れたままでいられたのだ。
柚自身もそれを判っているからこそ、唇は安売りしなかった。
枯葉にとってあの店は地獄に感じた、最初の頃は柚を手に入れるには良い場所だと思っていたのだが、オーナーの存在により揺らいだ。
しかして、結果的に良かったのかもしれない。
心から大事なのだと、実感できたし、柚から一番世界で欲しかったモノを貰えた!
枯葉と柚は笑い合い、枯葉は柚に指輪を嵌めて貰った。
こんなときでさえ、兄の顔をするからずるいので「柚」と名を呼ぶと、柚は心から嬉しげに笑った。
覗き見から始まった物語はこれでお終い。
これから先はただの、よくあるありふれた恋愛の物語へと、変化するであろう。
よくあるおちのないそれはそれは幸せに暮らしましたとさで、終わる物語として――。
少しだけ非日常みのあるお話はこれで一件落着、ハッピーエンドの証としては、二人の年頃の少年らしくはしゃいで笑い合う姿かな。
終
10
あなたにおすすめの小説
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
ある日、人気俳優の弟になりました。2
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
【完結】我が兄は生徒会長である!
tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。
名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。
そんな彼には「推し」がいる。
それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。
実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。
終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。
本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。
(番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる