兄さん覗き見好きなんだね?

かぎのえみずる

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第二部 視線

第三十四話 解放、そして未来の確約

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 ここまで負けたら清々しい、オーナーは早めに帰ることを柚に提案すると、柚は素直に喜んだ。
 戸惑いと喜びを見せ、朝食を食べるなり駅まで送り、あとは契約書を柚に手渡した。
 オーナーは柚へ興味を失った顔で柚の顔を見ず、サングラスをかけ、一回だけ柚へ視線を送った。

「二人分ある、解雇のやつ。金も払わなくてイイ、首だよお前さんら。もう、あそこにはこなくていい。私物と給料は後日取りに来い」
「オーナー……」
「もうね、うんざりだなぁ、ガキの恋愛って。乳臭くてさあ。そんなものを長々とね、うちの客に見せるわけにはいかねーのよ、じゃあな元気で」
「オーナー……あの……お元気で。ソシャゲ課金しすぎないでくださいね」
「馬鹿、オレの本気はあんなもんじゃないよ、あれおもしれーもん。オレ、あのゲームで天下とったるわ」

 柚は軽い足取りで、帰って行く。明日や未来の明るさを感じる、足取りである。
 そんな足取りじゃ、まるで自分が悪の組織で、柚は囚われの姫のようではないかと笑いを堪えるオーナー。
 お姫様は自力で悪の組織を説得し、脱出できたとはB級映画並みである。
 いいや、映画にもなれない物語だな、とオーナーは柚がいなくなったのでサングラスを外した。
 後ろ姿を車の中から見つめ、オーナーはそういえばこれ、心だけの問題で言えば初恋だったかもしれない、と失恋に気づき笑って二人の未来を祝福した。




 柚は枯葉に電話をかける、たった1コールで枯葉は出てくる。

「枯葉! もう店、こなくていいって……!! 二人とも」
『え、違約金とかは……』
「とにかく、今から会いたい。家じゃなく、会いたい」

 柚はふと、雑貨店が目に入り、待ち合わせ場所を告げると店へ入っていった。
 待ち合わせまでまだ時間がある、店の中はカラフルにどぎついカーテンなどもあって、多国籍を感じる店内となっていた。ランプからキッチン用具まである。
 雑貨店でとあるものを買い、待ち合わせた公園に向かうと枯葉はいた。

「兄さん……お帰りなさい」
「ただいま……――枯葉、あの、俺……」
「兄さん、まずは座りましょう。腰痛いでしょう?」

 少しだけ言葉に冷たさを感じるものの、柚は小袋を枯葉に手渡す。
 枯葉はハッと鼻で笑う。

「あいつとの旅行記念のお土産ですか」
 違う、こんな嫌味を言いたいわけではない。
 おかえりとか、お疲れ様とか疲れを労ってやりたいのに、オーナーに抱かれた柚を想うと嫉妬心で壊れそうな気配がした。
 枯葉はこんな狂騒いつまで続くのだろうと内心思案していたが、先ほどの柚の電話が嘘でなければ……一抹の希望で、柚へ視線を向けた。
「違う、すぐそこの雑貨屋で買った。……枯葉、あの、な。俺、お前の人生が全部欲しいんだ……だから、これは今はこれが精一杯だけど、その約束、に。人生くれるなら、受け取って欲しい」

 枯葉は目を白黒させ、驚くと包装をびりびりと破いた。
 開ければ、中には指輪。どうみても、どう見ても安物だし、定番の形であるザ・シルバーアクセだけれど、……心から欲しかった確約だ。確約が形となったものだ。

 店にももう囚われない、心も捧げてくれる約束をしてくれた。
 畳みかけるように柚は枯葉の両手を握ると真剣な顔をして、枯葉へ告白する。

「枯葉、あの家をでて、一緒に暮らそう……? 三日じゃなくて、永遠をあげる。俺の一生でよければ、ずっと側にいて、ほしい」
「兄さん、あのね。それって普通、僕が言うところなんですよ……これだから、兄さんは!」

 枯葉は指輪を受け取り、柚へ熱烈なキスを贈った。
 普段かっこつける弟が、素を一瞬見せた表情だけで、無邪気に喜んでくれた。
 すー、と落ち着かせようと深呼吸をしながら、胸一杯に柚の香りを嗅ぐ。
 この人はもう自分だけの物だと実感し、嬉しくなる枯葉だった。

「兄さん、もう覗き見しないでくださいね? 僕だけ、僕だけを見つめてください」
「枯葉も、俺だけ見ていて……好きだ」
「僕もです、貴方を、愛してます」

 二人は傍から見ればぎょっとするほどに、泣き崩れ、互いの肩をたたき合った。
 色んなことがあった、無理矢理身体を暴いたり、兄と地獄のような状況で結ばれたり、柚を信じられない期間もあったりした。
 それでも柚はたったひとつだけ、自覚してからは行動として残してくれていた。
 キスだけは、キスだけは柚からしてくれるのは枯葉だけだと。
 たった一つ、それさえあれば枯葉は愚かだと誰かから罵られようと、柚に惚れ込んでいられた。惚れたままでいられたのだ。
 柚自身もそれを判っているからこそ、唇は安売りしなかった。
 枯葉にとってあの店は地獄に感じた、最初の頃は柚を手に入れるには良い場所だと思っていたのだが、オーナーの存在により揺らいだ。
 しかして、結果的に良かったのかもしれない。

 心から大事なのだと、実感できたし、柚から一番世界で欲しかったモノを貰えた!
 枯葉と柚は笑い合い、枯葉は柚に指輪を嵌めて貰った。
 こんなときでさえ、兄の顔をするからずるいので「柚」と名を呼ぶと、柚は心から嬉しげに笑った。


 覗き見から始まった物語はこれでお終い。
 これから先はただの、よくあるありふれた恋愛の物語へと、変化するであろう。
 よくあるおちのないそれはそれは幸せに暮らしましたとさで、終わる物語として――。
 少しだけ非日常みのあるお話はこれで一件落着、ハッピーエンドの証としては、二人の年頃の少年らしくはしゃいで笑い合う姿かな。



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