【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第一部――第六章 朧月を閉じこめたプラネタリウムに、三人の勇者

第三十五話 訪れた安堵

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 穏やかな風の中に揺られる感覚。風の中に身を投じているのかと思い眼を開けば、何てことはない、ただ窓が開いていて己の居る室内に風が吹雪いているだけだった。
 柔らかなベッドは心地良いが、何処か慣れない。寝返りを打つ。
 陽炎は眼をゆっくりと開いて、ぼうっとしていた。
 ぼうっとする時間は好きだった。何も考えず、何も思わず、ただ時が過ぎるのも感じず、呆けていれば良いだけだから。


「……起きました? それとも起きてないのなら、目覚めのキス……は、小生の柄じゃないので出来ず申し訳ない」
「……誰だ」


 誰かの声が、すぐ隣から聞こえた。恐らく自分が動いたのに気づき、此方を見たら偶々自分が起きてる姿を見つけたのだろう。
 ぼんやりとする視界はきっと眼鏡がないからだろうと思って眼鏡を探していると、その声の主が己の眼鏡をしていたらしく、はい、と渡して、相手は片眼鏡をかける。
 視界がはっきりすると、視界に入ってくるのは、片眼鏡をかけた白を基調とした学者風服装の糸目。白い髪の毛で、白い髪の毛の長さは柘榴と同じくらいで。優雅で落ち着いた振る舞いは、鴉座を思い出して、何処か胸が痛み、吐き気が一気に押し寄せる。
 それに気づいたのか、それとも元から表情が出にくいのか、相手は鴉座と違って、一切笑みを浮かべるようなことはしなかった。
 それが唯一、彼と鴉座が違うのだと思える瞬間で、陽炎には救いだった。


「……とりあえず、お疲れ様でした、と言っておきましょう。ですがね、陽炎どの、君、無知のまま星座は作ってはいけませんよ。ちゃんとどんな星があって、どうすればどういう星座が出来るのか勉強してからお作りなさい」

 その言葉は身に染みるほど痛い言葉だったが、こうして痛い目にあってすぐに言われなければきっと自分は何か否定の言葉を言って素直に受け止められなかっただろう。
 相手は淡々と言葉を続ける。


「今回のことは、君の無謀さが産んだことだ。周りが救おうとしていた環境に感謝し、真っ当に生きるように。プラネタリウムを手放すか手放さないか、それは大犬座どのの言うとおり自由なんだから」
「……――自由」
「そう、自由。君はね、少し道具に頼りすぎたんだ。さて、そんな道具から生まれた小生ですが、どんな星座か知りたい? 属性も?」

 糸目は表情を笑みに変えることはなく、無表情で問いかけた。
 その無表情が何処か心地良いので、こくりと頷いたら、頭を撫でられた。

 そこで、嗚呼自分は助かったのだと実感でき安堵し、泣けてきて体が微震するのを押さえられなかった。恐怖が幾つも脳裏に蘇り、もう二度と水は飲めないのではと思うほどの嘔吐感を感じながらも、此処に自分が生きていることを実感し、相手が「周りが救おうとしていた環境」というものに心から喜び、感謝した。

(――有難う、有難う有難う、皆、皆……!)

 それを見守りながら、やはり淡々と相手は名乗る。

「小生は、わし座。あの三人に対抗するために作られた、愛属性の、大犬座どのから言わせれば男色野郎だそうです」

 大犬座の物言いを思い出して、陽炎は吹き出し声を出して笑おうとしたが、声が出ず、咽せた。

「あまり、無理をして笑わなくて良いですよ。君は長時間、嘔吐、豪飲、嘔吐、豪飲の繰り返しをされ続け、身体も精神もずたぼろだ。君が安心できて、小生にとっても良かったと思える人物を呼んでこよう。きっと、安心する」

 そう言うと鷲座は立ち上がり、一度ぺこりとお辞儀をすると、部屋から出て少し部屋の外から五月蠅い声達が聞こえて、暫く争う声が聞こえたかと思えば、柘榴が入ってきた。


「随分とまぁ、見ない間に病弱少年ーって感じが似合うようになったなぁ」
「馬鹿。お前のが年下なんだから、お前が少年だろうが」

 強気で返答すると、柘榴はははっと嬉しそうに笑い、それからその場に、背をドアに預けて座り込んで、頭を抱え込む。
 それにどうした、と聞くような野暮なことはしない。
 陽炎は、以前柘榴が言っていた言葉を思い出す。


  ――昔プラネタリウムで自滅した馬鹿を救いたかったのに救えなかった。その罪滅ぼし代わりを、あんたに求めてるんさぁ。
 ――そ、代理。あんたは、もしも事前にあれがどういうものか知っていて救えていたら、こうなっただろうなっていうおいらの、希望。
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