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六・噛みつきたい、噛みつけない①
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突如来訪した、アルトハウゼン王国の国王陛下──アルフォンス・アルトハウゼン。賓客をもてなすという大役から解放された翌日、リオールは精神的に疲弊していた。
それもそのはず。不在の父親代理として城の内部や街中を案内しただけでなく、酒を酌み交わす事態にまで陥ってしまった。
隣国の国王陛下なので晩餐会に招くのは当然かもしれないが、アルフォンスが興味を示した相手は、よりによって義兄であるレイン・グランケットだったのだ。αで独身ならば、年齢のそう離れていないレインに目をつけられても不思議ではない。
買い出しに行く前のレインと接触させてしまったことが、そもそもの間違いだった。レインに向けるアルフォンスの目が、一瞬だけ鋭くなったので、まさかと思い遠ざけた。すると、悪い予感が的中してしまった。胸糞の悪さを思い出す。
綺麗な髪の毛だとやたらと金髪を褒め、次に容姿を褒め、物腰の柔らかさや気品などを褒め、最後に口から飛び出した言葉は「独身かどうか」だった。愛想笑いをしながら答えるにも限度がある。
隙あらばレインに口説きに行くのではないかと、滞在したのは二日間だけだったが気が気ではなかった。いきなり現れた優男に、レインを掻っ攫われるわけにはいかない。虫唾が走る。
生まれ故郷であるグランハリストにいる限り、レインはいるかいないかわからないと国民に指摘されるほど存在感が薄いままだが、隣国のアルトハウゼンで国王と結婚すれば、王妃としての地位が確立されるだろう。慈悲深かったらしい実母の血を引いているからか、レインは自らが目立つよりも縁の下の力持ちだ。国が変わっても生活していけるだろう。
けれど、それだけはなにがなんでも避けたかった。離れ離れになりたくなかった。
だから、レインがどんな会話をしていたのか興味を示しても、アルフォンスとのやり取りは一切伝えるつもりはない。心が狭いと嘲笑われてもかまわない。自分の自尊心よりもレインが大事だ。
不幸中の幸いなのは、王妃が不在だったことだ。もしも、アルトハウゼン王国のアルフォンス国王が、未だ独身のレインに興味津々だと勘付かれてしまえば、本人の意思に関係なく婚姻関係を結ぶよう推薦することは目に見えている。今まで育てた恩を返せと言われてしまえば、従わないとも限らない。冗談ではない。
昼食の手作りカレーを食べてから、レインの顔色が優れなかったことが気がかりだったが、夜になって一緒に眠るときには普段通りに戻っていた。体調が悪かっただけだろうと、リオールは深く考えていなかった。
「アキ。レインはいないのか?」
街中にある王立図書館にて、少し古めの書物でも読み耽ろうと国家騎士団本部に立ち寄ると、どうやらお目当ての人物は不在のようだ。常駐しているのはアキ以外だと四番隊以下の者しかいない。その中で、顔見知りの隊員はアキのみ。外出する際は必ず三番隊以上の護衛をつけることが王妃との約束なので、出直すしかないだろう。踵を返そうとしたところ、アキに呼び止められた。
「あの子はヒートで休みになったよ。今まで通りなら、抑制剤の薬が効かないのは来月のはずなのに早まったみたい。リオールに任せようと呼びに行かせたんだけど、会わなかった?」
「いや、誰も来てない」
午前中は剣術の練習をするために護衛と共に出払っていたが、城からの使いはなかった。行き違いになっているかもしれないが。
「そっか、ごめんね。やっぱり、グウェンソードを使いに任命したのは間違いだったみたいだ。早く行ってあげて」
「助かる」
「グウェンソードのことは、僕がしっかり叱っておくから、会っても怒らないでね」
「わかった。じゃあまた」
本部を出るなり小走りをして、目と鼻の先にある城へと急いだ。グウェンソードに先手を取られた可能性は捨てきれない。本命はアキだということは周知の事実だが、根っからの遊び人なので油断はできない。隙あらば狙ってくるだろう。
三階にあるレインの部屋の前に到着すると、国家騎士団の団員二名が待機していた。βなのでフェロモンの影響は受けていないようだ。ヒートの都度、護衛をつけるのは万が一を避けるためだ。今、奇襲を受けてしまえば瞬時に対応できない。だから、ヒートのときだけは団員や侍従が交代で常駐している。
団員は、リオールの姿を目にするなり敬礼したので早速質問した。
「部屋には誰か来ているか?」
「いいえ、レイン様おひとりです!」
「わかった、ご苦労。グウェンソードがもし来たら、アキが呼んでいたと伝えてくれ」
「承知しました!」
それもそのはず。不在の父親代理として城の内部や街中を案内しただけでなく、酒を酌み交わす事態にまで陥ってしまった。
隣国の国王陛下なので晩餐会に招くのは当然かもしれないが、アルフォンスが興味を示した相手は、よりによって義兄であるレイン・グランケットだったのだ。αで独身ならば、年齢のそう離れていないレインに目をつけられても不思議ではない。
買い出しに行く前のレインと接触させてしまったことが、そもそもの間違いだった。レインに向けるアルフォンスの目が、一瞬だけ鋭くなったので、まさかと思い遠ざけた。すると、悪い予感が的中してしまった。胸糞の悪さを思い出す。
綺麗な髪の毛だとやたらと金髪を褒め、次に容姿を褒め、物腰の柔らかさや気品などを褒め、最後に口から飛び出した言葉は「独身かどうか」だった。愛想笑いをしながら答えるにも限度がある。
隙あらばレインに口説きに行くのではないかと、滞在したのは二日間だけだったが気が気ではなかった。いきなり現れた優男に、レインを掻っ攫われるわけにはいかない。虫唾が走る。
生まれ故郷であるグランハリストにいる限り、レインはいるかいないかわからないと国民に指摘されるほど存在感が薄いままだが、隣国のアルトハウゼンで国王と結婚すれば、王妃としての地位が確立されるだろう。慈悲深かったらしい実母の血を引いているからか、レインは自らが目立つよりも縁の下の力持ちだ。国が変わっても生活していけるだろう。
けれど、それだけはなにがなんでも避けたかった。離れ離れになりたくなかった。
だから、レインがどんな会話をしていたのか興味を示しても、アルフォンスとのやり取りは一切伝えるつもりはない。心が狭いと嘲笑われてもかまわない。自分の自尊心よりもレインが大事だ。
不幸中の幸いなのは、王妃が不在だったことだ。もしも、アルトハウゼン王国のアルフォンス国王が、未だ独身のレインに興味津々だと勘付かれてしまえば、本人の意思に関係なく婚姻関係を結ぶよう推薦することは目に見えている。今まで育てた恩を返せと言われてしまえば、従わないとも限らない。冗談ではない。
昼食の手作りカレーを食べてから、レインの顔色が優れなかったことが気がかりだったが、夜になって一緒に眠るときには普段通りに戻っていた。体調が悪かっただけだろうと、リオールは深く考えていなかった。
「アキ。レインはいないのか?」
街中にある王立図書館にて、少し古めの書物でも読み耽ろうと国家騎士団本部に立ち寄ると、どうやらお目当ての人物は不在のようだ。常駐しているのはアキ以外だと四番隊以下の者しかいない。その中で、顔見知りの隊員はアキのみ。外出する際は必ず三番隊以上の護衛をつけることが王妃との約束なので、出直すしかないだろう。踵を返そうとしたところ、アキに呼び止められた。
「あの子はヒートで休みになったよ。今まで通りなら、抑制剤の薬が効かないのは来月のはずなのに早まったみたい。リオールに任せようと呼びに行かせたんだけど、会わなかった?」
「いや、誰も来てない」
午前中は剣術の練習をするために護衛と共に出払っていたが、城からの使いはなかった。行き違いになっているかもしれないが。
「そっか、ごめんね。やっぱり、グウェンソードを使いに任命したのは間違いだったみたいだ。早く行ってあげて」
「助かる」
「グウェンソードのことは、僕がしっかり叱っておくから、会っても怒らないでね」
「わかった。じゃあまた」
本部を出るなり小走りをして、目と鼻の先にある城へと急いだ。グウェンソードに先手を取られた可能性は捨てきれない。本命はアキだということは周知の事実だが、根っからの遊び人なので油断はできない。隙あらば狙ってくるだろう。
三階にあるレインの部屋の前に到着すると、国家騎士団の団員二名が待機していた。βなのでフェロモンの影響は受けていないようだ。ヒートの都度、護衛をつけるのは万が一を避けるためだ。今、奇襲を受けてしまえば瞬時に対応できない。だから、ヒートのときだけは団員や侍従が交代で常駐している。
団員は、リオールの姿を目にするなり敬礼したので早速質問した。
「部屋には誰か来ているか?」
「いいえ、レイン様おひとりです!」
「わかった、ご苦労。グウェンソードがもし来たら、アキが呼んでいたと伝えてくれ」
「承知しました!」
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