12 / 32
七・小さな騒動とレインのさらなる受難②
しおりを挟む
「だ、大丈夫!?」
剣を放り投げたレインは、慌てて弟のもとまで駆け寄った。こんなつもりではなかった。怪我の有無をすぐさま確認しようとした。
「……平気だ」
その時。なにかが地面に落ちる音がした。リオールの足元には、真っ二つに割れた白いなにかが転がっている。釣られるまま視線を向けると、そこにあったのは白い仮面だった。
「……リオール!!」
慌てたレインがリオールを背後に隠そうとしたが、第二王子の素顔が公衆の面前に曝されてしまった。
「キャアアア!! ど、どうして、どうしてあなたがそこにいるのよォ!? 誰か、ねえ誰か来て頂戴!!」
早々に見つかってしまい、王妃は悲鳴を上げた。リオールの舌打ちが響く。
こうなってしまえば仕方がない。レインは、すぐさま二階席で憤慨している王妃に向かって跪き、忠誠心をアピールした。アピールは早ければ早いほどいい。
王妃のもとに駆けつけた隊員の中にはリグジェットの姿もあり、レインを見るなり苦笑いしている。
「早く、あの試験官を捕まえなさい! 王位継承権の持つ者が紛れていながら、見抜けなかったなんて情けない!」
「待ってください母上! これは俺が勝手に――」
「黙りなさい! あなたも後で説教よ!」
リオールは、王妃に直談判しようとしたが一蹴されてしまった。これ以上続けても、火に油を注ぐだけだと気づいたらしく、リオールはそれ以上なにもいうことはなかった。
会場にいる他の入団希望者や、実技試験官も固唾を飲んで重苦しい空気の中、見守っている。
国王が視察で不在にしている今、位が一番高いのは王妃だ。第二王子であるリオールが静止を促しても、聞く耳を持つものはいない。
跪いていたレインは、同僚であるルーンとルーカスに両脇を固められた。すまんと耳打ちされたので、小さく首を振ると、会場外へと連行されていく。
「レ──いや、ラザ!」
「……おれは大丈夫だよ」
心配かけさせまいと、横を通り過ぎる際に、一言だけ告げて振り向かずに歩いた。
そして、王妃の前に跪いて素直に処分を聞いたところ、三か月の謹慎処分を言い渡された。解雇にならないだけよかったと安堵するべきか、三か月もの間、弟を護衛できないことを悔やむべきか、今のレインには判断できない。やはり、リオールに嫌われるのを覚悟で止めるべきだっただろうかと考えが至るも、なにが正解かわからずにいた。
ひとまず、ことの顛末と王妃から下された処分を伝える必要があるので、国家騎士団の本部へと向かった。重い足取りのままアキに事情を説明していると、騒動を耳にして駆けつけたらしきグウェンソードが、ノックもせずに飛び込んでくる。
「アキさんアキさん! レイン、いやラザが処分されたって!? あ、いた!」
「こら。扉はちゃんとノックしなさいって、いつも言ってるだろう?」
「すんませーん」
胸にはパン屋の袋や他にも使いを頼まれたらしく、大量の荷物を抱えていた。机の上にどさっと一気に降ろすと、グウェンソードからとある情報が飛び出した。
「レイン。こんなときになんだが、街の外れで、ラクセルに似た青年の目撃情報が入ったぞ」
「えっ、本当!?」
ラクセルが乗っていた馬車が、崖から転落するという事故に遭ってしまい、死亡届が受理されて五年。現場には、命を落とした馬と、顔が判別できない男の遺体があっただけで、弟は見つかっていないのだが、近辺では血の臭いに釣られた獣が出るため、食い荒らされたのだろうというのが専門家の見解だった。
しかしレインは、弟が死んだとはどうしても思えず、未だに探し続けていた。目撃情報は何度か舞い込んでいても、有力な情報は何一つ掴めていない。駆けつけるたびに「今度こそ、ラクセルかもしれない」そう意気込むも、毎度不発に終わってしまう。それでも、自分の手で探し出したかった。
「顔なじみの果物屋のおばちゃんの証言だから、今回は五分五分ってところだな」
「わかった、ちょっと行ってくる!」
すぐさま私服に着替え、レインは一目散に街へと繰り出した。今日は入団試験で出払っているので、護衛はいない。レインは場数を踏んでいるので一人で出歩くことも多かった。
(ラクセルだといいな……!)
逸る気持ちを抑えられず、息急き駆けて到着すると、果物屋の周辺で聞き込みを開始した。
「金髪の青年を目撃した方はいませんか?」
胸ポケットから取り出したのは、十三歳の誕生日に描いたラクセルの人物画だ。小さく折りたたみ、肌身離さず持ち歩いている。似顔絵を見せて回ると、一人の恰幅のいい女性が真後ろの方角を指した。
「ああ、それはわたしだよ。その似顔絵に雰囲気が似た子なら、庭園の方角へ歩いて行ったよ」
「ありがとうございます!」
笑顔でお礼を告げてからまた走ると、薔薇が咲き誇る庭園に辿り着く。ベンチでは文庫本を読んだり、サンドイッチを食べている親子がいたりと様々だ。
似顔絵を握りしめながら隈なく探すと、金髪頭の青年を発見した。胸の鼓動が早くなった。
「…………ラクセル?」
「…………はい?」
しかし、振り向いた青年は、五年間探し続けている弟ではなかった。どことなく似ているが、目の前に佇む青年の頬にはそばかすがある。ラクセルには一つもない。おまけに眸の色も金色ではなく黒だ。
「…………ごめんなさい、間違えました」
肩を落として謝ると、金髪の青年は不思議そうに歩き出す。その背中を茫然と見送りながら、今回もだめだったかと肩を落とした。
国家騎士団を三か月も謹慎にされてしまえば、レインにはやることがない。ほぼ毎日、欠かさずクッキーを焼いているのはラクセルにいつ再会してもいいようにだし、成人の近いリオールと今でも一緒に寝ているのは守りたいからだ。
それなのに、今の自分は一体なにをやっているのだろうか。
不審者として通報されかねないので、目的もなく適当に歩いていると、花を切り売りしている老夫婦の姿が視界に入った。そういえば、先月は多忙を極めていたので一度も現場に立ち寄れなかった。月に一度は必ず足を運ぶようにしていたのに、一か月も経ってしまったので久しぶりに顔を出すことにした。
ポケットに財布を入れていたので、赤いチューリップを一本購入すると、早速そのまま街外れの滑落現場へと急いだ。
剣を放り投げたレインは、慌てて弟のもとまで駆け寄った。こんなつもりではなかった。怪我の有無をすぐさま確認しようとした。
「……平気だ」
その時。なにかが地面に落ちる音がした。リオールの足元には、真っ二つに割れた白いなにかが転がっている。釣られるまま視線を向けると、そこにあったのは白い仮面だった。
「……リオール!!」
慌てたレインがリオールを背後に隠そうとしたが、第二王子の素顔が公衆の面前に曝されてしまった。
「キャアアア!! ど、どうして、どうしてあなたがそこにいるのよォ!? 誰か、ねえ誰か来て頂戴!!」
早々に見つかってしまい、王妃は悲鳴を上げた。リオールの舌打ちが響く。
こうなってしまえば仕方がない。レインは、すぐさま二階席で憤慨している王妃に向かって跪き、忠誠心をアピールした。アピールは早ければ早いほどいい。
王妃のもとに駆けつけた隊員の中にはリグジェットの姿もあり、レインを見るなり苦笑いしている。
「早く、あの試験官を捕まえなさい! 王位継承権の持つ者が紛れていながら、見抜けなかったなんて情けない!」
「待ってください母上! これは俺が勝手に――」
「黙りなさい! あなたも後で説教よ!」
リオールは、王妃に直談判しようとしたが一蹴されてしまった。これ以上続けても、火に油を注ぐだけだと気づいたらしく、リオールはそれ以上なにもいうことはなかった。
会場にいる他の入団希望者や、実技試験官も固唾を飲んで重苦しい空気の中、見守っている。
国王が視察で不在にしている今、位が一番高いのは王妃だ。第二王子であるリオールが静止を促しても、聞く耳を持つものはいない。
跪いていたレインは、同僚であるルーンとルーカスに両脇を固められた。すまんと耳打ちされたので、小さく首を振ると、会場外へと連行されていく。
「レ──いや、ラザ!」
「……おれは大丈夫だよ」
心配かけさせまいと、横を通り過ぎる際に、一言だけ告げて振り向かずに歩いた。
そして、王妃の前に跪いて素直に処分を聞いたところ、三か月の謹慎処分を言い渡された。解雇にならないだけよかったと安堵するべきか、三か月もの間、弟を護衛できないことを悔やむべきか、今のレインには判断できない。やはり、リオールに嫌われるのを覚悟で止めるべきだっただろうかと考えが至るも、なにが正解かわからずにいた。
ひとまず、ことの顛末と王妃から下された処分を伝える必要があるので、国家騎士団の本部へと向かった。重い足取りのままアキに事情を説明していると、騒動を耳にして駆けつけたらしきグウェンソードが、ノックもせずに飛び込んでくる。
「アキさんアキさん! レイン、いやラザが処分されたって!? あ、いた!」
「こら。扉はちゃんとノックしなさいって、いつも言ってるだろう?」
「すんませーん」
胸にはパン屋の袋や他にも使いを頼まれたらしく、大量の荷物を抱えていた。机の上にどさっと一気に降ろすと、グウェンソードからとある情報が飛び出した。
「レイン。こんなときになんだが、街の外れで、ラクセルに似た青年の目撃情報が入ったぞ」
「えっ、本当!?」
ラクセルが乗っていた馬車が、崖から転落するという事故に遭ってしまい、死亡届が受理されて五年。現場には、命を落とした馬と、顔が判別できない男の遺体があっただけで、弟は見つかっていないのだが、近辺では血の臭いに釣られた獣が出るため、食い荒らされたのだろうというのが専門家の見解だった。
しかしレインは、弟が死んだとはどうしても思えず、未だに探し続けていた。目撃情報は何度か舞い込んでいても、有力な情報は何一つ掴めていない。駆けつけるたびに「今度こそ、ラクセルかもしれない」そう意気込むも、毎度不発に終わってしまう。それでも、自分の手で探し出したかった。
「顔なじみの果物屋のおばちゃんの証言だから、今回は五分五分ってところだな」
「わかった、ちょっと行ってくる!」
すぐさま私服に着替え、レインは一目散に街へと繰り出した。今日は入団試験で出払っているので、護衛はいない。レインは場数を踏んでいるので一人で出歩くことも多かった。
(ラクセルだといいな……!)
逸る気持ちを抑えられず、息急き駆けて到着すると、果物屋の周辺で聞き込みを開始した。
「金髪の青年を目撃した方はいませんか?」
胸ポケットから取り出したのは、十三歳の誕生日に描いたラクセルの人物画だ。小さく折りたたみ、肌身離さず持ち歩いている。似顔絵を見せて回ると、一人の恰幅のいい女性が真後ろの方角を指した。
「ああ、それはわたしだよ。その似顔絵に雰囲気が似た子なら、庭園の方角へ歩いて行ったよ」
「ありがとうございます!」
笑顔でお礼を告げてからまた走ると、薔薇が咲き誇る庭園に辿り着く。ベンチでは文庫本を読んだり、サンドイッチを食べている親子がいたりと様々だ。
似顔絵を握りしめながら隈なく探すと、金髪頭の青年を発見した。胸の鼓動が早くなった。
「…………ラクセル?」
「…………はい?」
しかし、振り向いた青年は、五年間探し続けている弟ではなかった。どことなく似ているが、目の前に佇む青年の頬にはそばかすがある。ラクセルには一つもない。おまけに眸の色も金色ではなく黒だ。
「…………ごめんなさい、間違えました」
肩を落として謝ると、金髪の青年は不思議そうに歩き出す。その背中を茫然と見送りながら、今回もだめだったかと肩を落とした。
国家騎士団を三か月も謹慎にされてしまえば、レインにはやることがない。ほぼ毎日、欠かさずクッキーを焼いているのはラクセルにいつ再会してもいいようにだし、成人の近いリオールと今でも一緒に寝ているのは守りたいからだ。
それなのに、今の自分は一体なにをやっているのだろうか。
不審者として通報されかねないので、目的もなく適当に歩いていると、花を切り売りしている老夫婦の姿が視界に入った。そういえば、先月は多忙を極めていたので一度も現場に立ち寄れなかった。月に一度は必ず足を運ぶようにしていたのに、一か月も経ってしまったので久しぶりに顔を出すことにした。
ポケットに財布を入れていたので、赤いチューリップを一本購入すると、早速そのまま街外れの滑落現場へと急いだ。
10
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
貧乏子爵のオメガ令息は、王子妃候補になりたくない
こたま 療養中
BL
山あいの田舎で、子爵とは名ばかりの殆ど農家な仲良し一家で育ったラリー。男オメガで貧乏子爵。このまま実家で生きていくつもりであったが。王から未婚の貴族オメガにはすべからく王子妃候補の選定のため王宮に集うようお達しが出た。行きたくないしお金も無い。辞退するよう手紙を書いたのに、近くに遠征している騎士団が帰る時、迎えに行って一緒に連れていくと連絡があった。断れないの?高貴なお嬢様にイジメられない?不安だらけのラリーを迎えに来たのは美丈夫な騎士のニールだった。
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―
なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。
――はずだった。
目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。
時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。
愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。
これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。
「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、
年上αの騎士と本物の愛を掴みます。
全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。
愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます
まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。
するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。
初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。
しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。
でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。
執着系α×天然Ω
年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。
Rシーンは※付けます
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
Xアカウント(@wawawa_o_o_)
オメガはオメガらしく生きろなんて耐えられない
子犬一 はぁて
BL
「オメガはオメガらしく生きろ」
家を追われオメガ寮で育ったΩは、見合いの席で名家の年上αに身請けされる。
無骨だが優しく、Ωとしてではなく一人の人間として扱ってくれる彼に初めて恋をした。
しかし幸せな日々は突然終わり、二人は別れることになる。
5年後、雪の夜。彼と再会する。
「もう離さない」
再び抱きしめられたら、僕はもうこの人の傍にいることが自分の幸せなんだと気づいた。
彼は温かい手のひらを持つ人だった。
身分差×年上アルファ×溺愛再会BL短編。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる