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二・三歳と五か月のある日①
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くだらない噂話に、くだらない自尊心。大人たちはみな一様に顔色を窺い、背後にいる国王に媚びへつらう。同年代の子供までもがそんな雰囲気を感じ取り、遠巻きに観察される。リオールは、国王の実子で王位継承権を持っているゆえに、常に注目されてきた。プライバシーは生まれ落ちた日から存在しない。
侍女という立場だったリオールの実母が、形勢逆転を果たして国王に見初められ、王妃の座に就いた。異例だ。父親は金色に近い色素の薄い銀髪、母親はウェーブのかかった赤毛。けれど、結婚から一年後に生まれた子供は、烏の濡れ羽色を持って生まれた。髪の色が両親と違うだけで、家系には黒髪も存在するし面影もあるのだが、妾腹の子だと散々陰口を叩かれた。
三歳と五ヶ月なので、悪口すべてを把握していたわけではない。けれど逐一メモに取り、図書館にこもって辞書で調べると、そこにはちゃんと意味が載っている。将来、一国を背負うからと、二歳の誕生日から家庭教師がつくようになったため、世間一般の三歳児よりも賢いと自負している。
(バカとはつるまない)
人と関わるのは面倒だ。リオールが学んだのは、人目を避けて極力独りでいることだった。護衛は振り切ると母親からこっぴどく叱られるため、いないものとして扱っている。
「おーいリオール……様。子供用の剣を借りてきたから、今日こそ稽古するぞ」
「………………」
「また無視か」
赤い髪を後ろに束ねている少年が、中庭のベンチで読書しているリオールに話しかけた。今日で三日目だ。王族は、いつでもどこでも命を狙われかねないから、少しでも強くなれと熱血漢のごとく力説してくる。名前はグウェンソード。十三歳になったばかりだが、背は百六十センチを越えているので、百センチに満たないリオールよりもかなり高い。背は高くても笑みを浮かべているので威圧感はない。
グウェンソードの両親は、国家騎士団として働いているため息子も近くで生活していた。あちらこちら自由に出入りを許されており、こうして独りでいるリオールをよく気にかけていた。王子と騎士団の息子という立場だが、人懐こいグウェンソードは一緒に遊びたいようだ。
「グウェンソード、うるさい」
「やっと口を開いたな。本ばかり読んでたってだめだぞ。男は、まず体力をつけるんだ」
「興味ない」
「いいからほら立った立った! 絶対役に立つし、柔軟な今のうちに鍛錬するとより吸収されるから、騙されたと思ってやってみろよ」
読んでいた本を奪われ、代わりに剣を渡されてしまった。プラスチック製の玩具だ。リオールを護衛している大人が、一瞬だけ止めようと動いたが、グウェンソードが目配せをすると諦めたようだ。
グウェンソードは、王子であるリオールに対して敬語を使わない。王子の「兄」兼「友人」という立場でいたいという理由らしいが、そのことがグウェンソードの両親にばれると、こっぴどく叱られるというのにやめようとはしない。不自然に特別扱いしてこないので、変わった人間だと思いながらもそのままにしていた。
仕方なく指示された通りに素振りをはじめると、グウェンソードとリオールの元に誰かが近づいてきた。また口うるさい国王のおべっか使いかと辟易しそうになったところ、その場にいたのは見知らぬ二人連れだった。
背の高い金髪に青い眸の少年は、しっかりとした身なりをしており、リオールが着用しているものに似た、フリルのついたシルク素材のブラウスに、滑らかで肌触りのよいビロード生地のズボンを着用していた。手を繋いでいるリオールと背格好の変わらない、これまた金髪で金目の幼子も同様だ。
「こんにちは。ねえ、なにやってるの?」
「ああ、レインとラクセルか。王子に剣術を教えようとしてた」
背の高い方はレイン、低い方はラクセルというらしい。今まで一度も見たことがないので、グウェンソードの陰に隠れて警戒していると、そんなリオールにお構いなしのラクセルが距離を縮めてきた。
「え、いいな、ぼくもぼくも!」
「こらラクセル。今は王子様の時間なんだから、わがままいっちゃだめだよ」
「えー。じゃあ、クッキーちょうだい」
「これはグウェンソードにあげる分だったけど……しょうがないなー」
太めの藁で編まれた小さめのバスケットには、キッチンペーパーに包まれたなにかが詰まっていた。レインに咎められ、頬を膨らませて拗ねたラクセルは、さきほどまでリオールが温めていたベンチに座った。自分の場所を取られてしまい、思わずムッとしてしまうと、勘違いしたのかレインが近寄ってきた。
「王子にもあげるよ」
「………………」
「もしかして、話せないの?」
「………………」
無言で佇んでいると首を傾げられてしまう。面倒だなと溜め息を吐いてその場から立ち去ろうとすると、グウェンソードが振り向き背中を押されてしまった。
「ちゃんと喋れるよ。ほら、平気だからレインとラクセルに挨拶しな」
「なんでおれが!」
「王子、かわいい声してるんだね」
「なっ…………!」
予想外の反応に開いた口が塞がらなかった。見るからにグウェンソードよりも小さいのに、声変わりしていない年齢の相手から「かわいい声」と指摘されてしまい、戦意を喪失する。どうやら、陰口を叩くような連中とは違うようだ。しばらく観察してみることにした。
「俺にもくれよ、クッキー」
「うん、いいよ」
バスケットから歪な形をした焦げ茶色の物体を取り出すと、グウェンソードはなんの躊躇いもなく口に放り込んだ。ぼりぼりと咀嚼音がしている。命を狙われる心配がないから、こんな得体の知れないものでも平気で口にするのだろうかと、俄かに信じられなかった。茫然と立っていると、更に勘違いをしたレインが、グウェンソードにしたように、リオールの口元にも持ってきた。いきなり食べさせようとしたので、咄嗟に手を払いのけてしまった。クッキーが地面に落ちると、真っ二つに割れた。
「お、おにいちゃんのクッキーが……!」
両目に涙を浮かべたラクセルに非難されてしまい、自分が悪いのだと責められているようで気分が悪かった。もとはといえば、欲しいとすら言ってないのに押しつけようとしたレインだ。ムスッとしていると、レインはめげずにもう一枚取り出した。
「ごめんごめん、いきなりでびっくりしちゃったよね。ほら、半分食べて見せるから、それなら大丈夫でしょ?」
(なにが大丈夫なんだ……)
歪な形をしているクッキーを半分に割ってレインは口にすると、笑顔で食べて見せた。残りの部分を再度、口元に運ばれた。困惑するも三人から視線を一身に受けているため、仕方なく口を開くと思いきって齧りついた。なんの変哲もないチョコクッキーのようだ。美味しくもないし不味くもない。
「どうかな? ぼくが作ったんだよ、これ。試作品は何度も失敗してるけど、今日は上手くできたんだ!」
嬉しそうに微笑んでくるレインに、味の感想を素直に告げていいものか悩んだ。グウェンソードやラクセルは「うまいうまい」というだけで、アドバイスをする気がないらしい。それならばと正直に伝えることにした。
「あんまりおいしくない。中央部分は柔らかいのに、周りは異様に硬いし……ちょっと苦い」
他の二人はうまいうまいとぼりぼり食べ進めるので、嫌われてもいいやとリオールは開き直った。どうせ自分とは今後とも接点はないだろうと、高を括っていた。
しかしレインの反応は予想通り――とはいかなかった。
「えへへ、ちゃんと言ってくれてありがとう。また作るから、食べてくれる?」
きっと気分を悪くするだろうと決めつけていたのに、嬉しそうな笑みを浮かべて礼を告げるので度肝を抜かれてしまった。ポケットから小さな手帳を取り出し、鉛筆で熱心に書き留めていた。その姿にデジャブを感じてしまう。たったそれだけのことなのに絆されそうになり、リオールはハッとした。これではだめだと首を振ってリセットしようとした。
「…………べ、べつにかまわない」
「やったー。王子に美味しいって喜んでもらえるように、ぼく頑張るよ」
「…………リオールでいい」
「え?」
「だから、リオールと呼んでもいい!」
「……うん! よろしくね、リオール!」
レインは先ほどよりも柔らかい表情になり、弾けんばかりの笑顔をみせた。少し年上の少年は、真っ直ぐに自身の感情を伝えてくる。微笑みを崩さぬまま、今度は右手を差し出されてしまい戸惑った。年代の近い子供から握手を求められたことはない。いつも掌を見せて来るのは、国王の腰ぎんちゃくだ。
一挙手一投足がこんなにも気になる相手はいない。グウェンソードは十歳離れているので、食えない人間だということは理解している。レインのような純真さは持ち合わせていない。
その点レインのことは、どこの誰かも知らないのに、すんなり受け入れてしまっているので不思議だった。王子とは呼んでくれているが、王制には興味がないのか、それともとてつもなく無知なのか。恰好は王族と変わらないのに心配になった。
身動き取れずにいると、いつまでたっても手を差し出されたままになりそうなので、おずおずと手を重ねてみれば、温かい掌にぎゅっと握られた。なんとも言えない気持ちを味わっていると、我関せずと傍観していたグウェンソードは、これ見よがしに揶揄してきた。
「ヒュウ~珍しいな。天岩戸で有名な、あのリオールが、初対面なのに心を開くなんてな」
「べ、別に開いてない!!」
またまた照れるなよ、とニヤニヤほくそ笑まれ、リオールは罰が悪そうに唇をへの字に曲げた。
「アマノイワト?」
「ああ、異国の言葉で、照れ屋ってことだ」
聞き覚えがなかったのかレインがおうむ返しすると、年長であるグウェンソードは誇らしげに意味を説明した。リオールは前にもからかわれたので覚えている。照れ屋だと言われたので反論しようとするも、それまで黙ってクッキーを食べていたラクセルも、アマノイワトと舌足らずながらに繰り返すようになってしまった。居心地が悪くなる。
からかっちゃだめだよ、とレインが気づかって弟に対して咎めるも、誰かの真似をしたい年頃ゆえにやめることはない。これだから幼児は嫌いなんだと、自分のことを棚に上げて溜め息を吐いたリオールは、突然、三人に背を向けて歩き出した。
「…………部屋に帰る!」
「あ、待って行かないで!」
けれどレインの静止の声を無視してさっさと城内に戻ると、一階にある図書館で時間を潰すことにした。無言でリオールの後ろをついてくるのは、護衛である国家騎士団の二人。子供たちの姿はない。
レインとラクセルの正体を調べたかったが、次にグウェンソードと遭遇した際に問い詰めればいいかと深くは考えなかった。気を取り直して剣術のことでも調べようかと書物を物色することにした。
侍女という立場だったリオールの実母が、形勢逆転を果たして国王に見初められ、王妃の座に就いた。異例だ。父親は金色に近い色素の薄い銀髪、母親はウェーブのかかった赤毛。けれど、結婚から一年後に生まれた子供は、烏の濡れ羽色を持って生まれた。髪の色が両親と違うだけで、家系には黒髪も存在するし面影もあるのだが、妾腹の子だと散々陰口を叩かれた。
三歳と五ヶ月なので、悪口すべてを把握していたわけではない。けれど逐一メモに取り、図書館にこもって辞書で調べると、そこにはちゃんと意味が載っている。将来、一国を背負うからと、二歳の誕生日から家庭教師がつくようになったため、世間一般の三歳児よりも賢いと自負している。
(バカとはつるまない)
人と関わるのは面倒だ。リオールが学んだのは、人目を避けて極力独りでいることだった。護衛は振り切ると母親からこっぴどく叱られるため、いないものとして扱っている。
「おーいリオール……様。子供用の剣を借りてきたから、今日こそ稽古するぞ」
「………………」
「また無視か」
赤い髪を後ろに束ねている少年が、中庭のベンチで読書しているリオールに話しかけた。今日で三日目だ。王族は、いつでもどこでも命を狙われかねないから、少しでも強くなれと熱血漢のごとく力説してくる。名前はグウェンソード。十三歳になったばかりだが、背は百六十センチを越えているので、百センチに満たないリオールよりもかなり高い。背は高くても笑みを浮かべているので威圧感はない。
グウェンソードの両親は、国家騎士団として働いているため息子も近くで生活していた。あちらこちら自由に出入りを許されており、こうして独りでいるリオールをよく気にかけていた。王子と騎士団の息子という立場だが、人懐こいグウェンソードは一緒に遊びたいようだ。
「グウェンソード、うるさい」
「やっと口を開いたな。本ばかり読んでたってだめだぞ。男は、まず体力をつけるんだ」
「興味ない」
「いいからほら立った立った! 絶対役に立つし、柔軟な今のうちに鍛錬するとより吸収されるから、騙されたと思ってやってみろよ」
読んでいた本を奪われ、代わりに剣を渡されてしまった。プラスチック製の玩具だ。リオールを護衛している大人が、一瞬だけ止めようと動いたが、グウェンソードが目配せをすると諦めたようだ。
グウェンソードは、王子であるリオールに対して敬語を使わない。王子の「兄」兼「友人」という立場でいたいという理由らしいが、そのことがグウェンソードの両親にばれると、こっぴどく叱られるというのにやめようとはしない。不自然に特別扱いしてこないので、変わった人間だと思いながらもそのままにしていた。
仕方なく指示された通りに素振りをはじめると、グウェンソードとリオールの元に誰かが近づいてきた。また口うるさい国王のおべっか使いかと辟易しそうになったところ、その場にいたのは見知らぬ二人連れだった。
背の高い金髪に青い眸の少年は、しっかりとした身なりをしており、リオールが着用しているものに似た、フリルのついたシルク素材のブラウスに、滑らかで肌触りのよいビロード生地のズボンを着用していた。手を繋いでいるリオールと背格好の変わらない、これまた金髪で金目の幼子も同様だ。
「こんにちは。ねえ、なにやってるの?」
「ああ、レインとラクセルか。王子に剣術を教えようとしてた」
背の高い方はレイン、低い方はラクセルというらしい。今まで一度も見たことがないので、グウェンソードの陰に隠れて警戒していると、そんなリオールにお構いなしのラクセルが距離を縮めてきた。
「え、いいな、ぼくもぼくも!」
「こらラクセル。今は王子様の時間なんだから、わがままいっちゃだめだよ」
「えー。じゃあ、クッキーちょうだい」
「これはグウェンソードにあげる分だったけど……しょうがないなー」
太めの藁で編まれた小さめのバスケットには、キッチンペーパーに包まれたなにかが詰まっていた。レインに咎められ、頬を膨らませて拗ねたラクセルは、さきほどまでリオールが温めていたベンチに座った。自分の場所を取られてしまい、思わずムッとしてしまうと、勘違いしたのかレインが近寄ってきた。
「王子にもあげるよ」
「………………」
「もしかして、話せないの?」
「………………」
無言で佇んでいると首を傾げられてしまう。面倒だなと溜め息を吐いてその場から立ち去ろうとすると、グウェンソードが振り向き背中を押されてしまった。
「ちゃんと喋れるよ。ほら、平気だからレインとラクセルに挨拶しな」
「なんでおれが!」
「王子、かわいい声してるんだね」
「なっ…………!」
予想外の反応に開いた口が塞がらなかった。見るからにグウェンソードよりも小さいのに、声変わりしていない年齢の相手から「かわいい声」と指摘されてしまい、戦意を喪失する。どうやら、陰口を叩くような連中とは違うようだ。しばらく観察してみることにした。
「俺にもくれよ、クッキー」
「うん、いいよ」
バスケットから歪な形をした焦げ茶色の物体を取り出すと、グウェンソードはなんの躊躇いもなく口に放り込んだ。ぼりぼりと咀嚼音がしている。命を狙われる心配がないから、こんな得体の知れないものでも平気で口にするのだろうかと、俄かに信じられなかった。茫然と立っていると、更に勘違いをしたレインが、グウェンソードにしたように、リオールの口元にも持ってきた。いきなり食べさせようとしたので、咄嗟に手を払いのけてしまった。クッキーが地面に落ちると、真っ二つに割れた。
「お、おにいちゃんのクッキーが……!」
両目に涙を浮かべたラクセルに非難されてしまい、自分が悪いのだと責められているようで気分が悪かった。もとはといえば、欲しいとすら言ってないのに押しつけようとしたレインだ。ムスッとしていると、レインはめげずにもう一枚取り出した。
「ごめんごめん、いきなりでびっくりしちゃったよね。ほら、半分食べて見せるから、それなら大丈夫でしょ?」
(なにが大丈夫なんだ……)
歪な形をしているクッキーを半分に割ってレインは口にすると、笑顔で食べて見せた。残りの部分を再度、口元に運ばれた。困惑するも三人から視線を一身に受けているため、仕方なく口を開くと思いきって齧りついた。なんの変哲もないチョコクッキーのようだ。美味しくもないし不味くもない。
「どうかな? ぼくが作ったんだよ、これ。試作品は何度も失敗してるけど、今日は上手くできたんだ!」
嬉しそうに微笑んでくるレインに、味の感想を素直に告げていいものか悩んだ。グウェンソードやラクセルは「うまいうまい」というだけで、アドバイスをする気がないらしい。それならばと正直に伝えることにした。
「あんまりおいしくない。中央部分は柔らかいのに、周りは異様に硬いし……ちょっと苦い」
他の二人はうまいうまいとぼりぼり食べ進めるので、嫌われてもいいやとリオールは開き直った。どうせ自分とは今後とも接点はないだろうと、高を括っていた。
しかしレインの反応は予想通り――とはいかなかった。
「えへへ、ちゃんと言ってくれてありがとう。また作るから、食べてくれる?」
きっと気分を悪くするだろうと決めつけていたのに、嬉しそうな笑みを浮かべて礼を告げるので度肝を抜かれてしまった。ポケットから小さな手帳を取り出し、鉛筆で熱心に書き留めていた。その姿にデジャブを感じてしまう。たったそれだけのことなのに絆されそうになり、リオールはハッとした。これではだめだと首を振ってリセットしようとした。
「…………べ、べつにかまわない」
「やったー。王子に美味しいって喜んでもらえるように、ぼく頑張るよ」
「…………リオールでいい」
「え?」
「だから、リオールと呼んでもいい!」
「……うん! よろしくね、リオール!」
レインは先ほどよりも柔らかい表情になり、弾けんばかりの笑顔をみせた。少し年上の少年は、真っ直ぐに自身の感情を伝えてくる。微笑みを崩さぬまま、今度は右手を差し出されてしまい戸惑った。年代の近い子供から握手を求められたことはない。いつも掌を見せて来るのは、国王の腰ぎんちゃくだ。
一挙手一投足がこんなにも気になる相手はいない。グウェンソードは十歳離れているので、食えない人間だということは理解している。レインのような純真さは持ち合わせていない。
その点レインのことは、どこの誰かも知らないのに、すんなり受け入れてしまっているので不思議だった。王子とは呼んでくれているが、王制には興味がないのか、それともとてつもなく無知なのか。恰好は王族と変わらないのに心配になった。
身動き取れずにいると、いつまでたっても手を差し出されたままになりそうなので、おずおずと手を重ねてみれば、温かい掌にぎゅっと握られた。なんとも言えない気持ちを味わっていると、我関せずと傍観していたグウェンソードは、これ見よがしに揶揄してきた。
「ヒュウ~珍しいな。天岩戸で有名な、あのリオールが、初対面なのに心を開くなんてな」
「べ、別に開いてない!!」
またまた照れるなよ、とニヤニヤほくそ笑まれ、リオールは罰が悪そうに唇をへの字に曲げた。
「アマノイワト?」
「ああ、異国の言葉で、照れ屋ってことだ」
聞き覚えがなかったのかレインがおうむ返しすると、年長であるグウェンソードは誇らしげに意味を説明した。リオールは前にもからかわれたので覚えている。照れ屋だと言われたので反論しようとするも、それまで黙ってクッキーを食べていたラクセルも、アマノイワトと舌足らずながらに繰り返すようになってしまった。居心地が悪くなる。
からかっちゃだめだよ、とレインが気づかって弟に対して咎めるも、誰かの真似をしたい年頃ゆえにやめることはない。これだから幼児は嫌いなんだと、自分のことを棚に上げて溜め息を吐いたリオールは、突然、三人に背を向けて歩き出した。
「…………部屋に帰る!」
「あ、待って行かないで!」
けれどレインの静止の声を無視してさっさと城内に戻ると、一階にある図書館で時間を潰すことにした。無言でリオールの後ろをついてくるのは、護衛である国家騎士団の二人。子供たちの姿はない。
レインとラクセルの正体を調べたかったが、次にグウェンソードと遭遇した際に問い詰めればいいかと深くは考えなかった。気を取り直して剣術のことでも調べようかと書物を物色することにした。
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