剣と魔法のゲーム世界に閉じ込められた私は、オリジナル格闘ジョブ【11拳(イレブンフィスト)】でクリア目指して勝ち上がる

五月雨前線

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第1章 アラーテ立志編

第14話:アサシンプレイヤー

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「そんな……」

「嘘やろ……」

 リストとコヤは同時に言い、顔を歪めた。
 私は右手で口を覆い、左手を固く握りしめた。
 他のプレイヤーを殺す、アサシンプレイヤーが実在していたなんて……。

 ここ1週間の間に、MSO内のSNS『Z』の中でたまに話題に上がっていたのが、アサシンプレイヤーだった。
 アサシンプレイヤーは文字通り、他のプレイヤーを暗殺して命を奪ってしまう、とんでもないプレイヤーのことを指す。

 もう1つの人生をテーマに掲げているMSOの中では、現実世界で出来ることは基本的に全て出来る。
 悪いこと……それこそ、現実世界だと犯罪行為に該当する行為だって出来てしまうのだ。その中でも殺人は、データリセット前のMSOでは意外と頻繁に起きていた。

 勿論、MSOの全てのエリア内で殺人を行えるわけではない。殺人が可能なエリアは、3つあるエリアの内のダンジョンエリアのみだ。
 加えて、そもそも殺人を行うのはハードルが高い。
 いくら『もう1つの人生』がテーマとはいえ、MSO内でぽんぽん殺人を行われると秩序が保てない。ゲームの趣旨が変わってしまう。

 まさか……データリセット後のMSOで、ハードルの高い殺人行為をわざわざしてまで、他のプレイヤーの命を奪うプレイヤーがいるなんて。

「……許せない」

 自然と私の口から声が漏れ出ていた。
 腸が煮えくり返るほどの強い怒りを感じる。
 何で? どうしてそんなことをするの? 他のプレイヤーを殺して、命を奪って、何が楽しいの?
 何で……?

「そこまでじゃ」

 ぽん、と私の左肩に手が置かれた。振り返る。ジージが険しい表情を浮かべていた。

「怒りの感情に支配されたら人間は負ける。怒りの感情をコントロールしてこそ真の強者じゃ」

「ジージ……」

 ジージは悲しみに暮れる男性の元へすたすたと歩み寄り、姿勢を低くした。

「お主の仇はわしらが必ず討つ。そのアサシンプレイヤーの特徴を教えてくれんかの」

「うっ……ううう……あいつは、まるで闇と同化するような、真っ黒な装備を身に纏っていた……きっとブラックマーダーシリーズだ……ジョブは闇騎士だろう……あいつは恐らくダンジョン攻略なんて眼中にない……他のプレイヤーを殺すためだけに装備や武器を整え、スキルを構成してダンジョンに潜ってる……! 狂ってる……!」

「……そうか」

 ジージは低い声で言い、私に視線を向けた。私は小さく頷きを返した。

 やはり、ジョブは闇騎士か。

 闇騎士。【剣】に分類されるジョブの1つ。
 闇、とついている通り、闇属性や毒属性の攻撃、さらに即死攻撃など、どことなくダークな雰囲気の攻撃を得意とするジョブだ。
 当たりジョブである聖騎士と名前が似ていることから比較されることが多く、外れジョブと揶揄されることも多い一方、一部のプレイヤーからは熱狂的な支持を得ているジョブだ。

 支持を得ている理由は、ダークな雰囲気の攻撃の存在。そして……殺人のハードルの低下だ。
 闇騎士のみ、殺人を目的としたスキル攻撃を習得出来る。さらに闇騎士専用の防具や武器を装備することで、よりスムーズに殺人を行える仕様になっているのだ。

 この仕様に対して批判の声を上げているプレイヤーは多いが、運営からの回答は「テーマに即したゲーム作りを行なっている」の一点張りで、使用が変更されることはなかった。
 とはいえ、殺人を目的としたスキル攻撃の習得、さらに専用の防具や武器を手に入れることはけっこう難しい。はっきり言ってめんどくさいのだ。
 だから、データリセット後のMSOで、わざわざそんなことをするプレイヤーはいないと信じていたのに……。

「ブラックマーダーシリーズは作成難易度がそこそこ高かったはず。そのプレイヤーは、悪い意味で、かなりMSOをやり込んでいると考えた方がいいだろうね」

 リストはそう言い、男性に歩み寄った。

「そのアサシンプレイヤーについて、他にも何か特徴はありませんでしたか? どんな些細なことでも構いません」

「そうだな……恐ろしく動きが早かった。俺たちのレベルは大体45くらいで、決して低くはなかったはずなんだが……あの野郎のレベルは60、いや70はあるかもしれない」

 私たちだって、けっこう真面目にレベル上げをして、やっとレベル50に到達したくらいなのに……。
 そのアサシンプレイヤーは、私たちよりもさらに高い負荷でレベル上げを行なったのだろうか。
 何のために? 殺人の成功確率を上げるため? ……もしそうなのだとしたら、狂ってるとしか言いようがない。

「僕たちはこれからヨルムンガルドダンジョンに侵入する。故にそのアサシンプレイヤーと遭遇する可能性がある。万が一そのプレイヤーに遭遇した場合、どうするかを事前に皆で話し合っておきたい」

「お、おい! さっきの俺の言葉を忘れたのか! 引き返せと言っただろ!」

 リストの言葉を聞いた男性が立ち上がり、悲痛な面持ちで叫んだ。

「お主の言葉を忘れたわけではない。じゃが、わしらが引き返すことは決してない」

 ジージはそう言い、私たち3人に視線を向けた。意思を確認しているように見えた。私、リスト、コヤは大きく頷きを返す。

「何でだよ! あいつは常軌を逸してる! あまりにも危険だ! 死にたいのか!」

「死にたいわけではない。じゃが、わしらがここで引き下がってそのプレイヤーを放置すれば、さらなる被害が出ると思わんか? わしらがそのプレイヤーを始末する、と言ってるのじゃよ」

 ジージが冷たい声で告げる。はっ、と男性が大きく息を呑んだ。
 ……やっぱり、そうだよね。
 ジージがはっきり言葉にしてくれたことで、私の中で意志が固まった。

 他のプレイヤーを殺す。命を奪う。そんなアサシンプレイヤーを野放しには出来ない。
 もしここでアサシンプレイヤーを放置すれば、それに触発されてさらなる第2、第3のアサシンプレイヤーが出現してもおかしくない。
 私たちが、今ここで殺るしかないんだ。
 
「まさか……プレイヤーキルモードであいつを殺すつもりか?」

「それ以外なかろう」

 ジージは冷静に言葉を返す。
 プレイヤーキルモードは、ダンジョンエリアで他のプレイヤーが自分を殺そうとしているとシステムが判断した際に発動するモードだ。
 分かりやすく言えば、殺し合いのモードだ。普段モンスターとの戦闘の際と同じように、そのプレイヤーと戦うことが出来るようになる。

 先にHPを削り切った方が勝ち。ルール無用、何でもありというとんでもないモードだ。
 データリセット前は、プレイヤーキルモードは一種の娯楽のような意味合いだったが、データリセット後では意味合いが180度変わる。
 HPがゼロになる=死。命の奪い合い。生きるか死ぬかの勝負に様変わりしてしまったのだ。

「なんじゃその顔は。仇打ちを望んでおらんのか?」

「い、いや、そういうわけじゃないが……いいのか?」

「構わん。誰かがやらなければならないことじゃ」

「そうか……こんな状況で仇打ちを頼むのは本当に心苦しいんだが、よろしく頼む。俺はもう色々とショックを受けてしまって、しばらく戦えそうにない」

「わしらに任せて、お主はゆっくり休むのじゃ」

「……ありがとう。本当にありがとう」

 男性とジージは固く握手を交わした。

「どうか、よろしく頼む」

 次いで男性は、私たち3人に深々とお辞儀をした。私も小さくお辞儀をして返す。

「あ、そうだ」

 男性は呟き、左手の人差し指を動かした。ウィンドウを操作しているのだろう。
 程なくして、男性の右手の掌の上にアイテムが出現した。あれは、ワープクリスタルだ。

「仇打ちのせめてものお礼として、これを受け取ってもらいたい」

「駄目じゃ。そんな貴重なアイテムは受け取れん。お主自身のために使うべきじゃ」

「いいや、受け取って欲しい。何も対価を払わずに仇打ちをお願いするのは胸が痛いんだ」

「ううむ……しかし……」

「ジージ、折角だから受け取ろうよ」

 迷っている様子のジージに私は声をかけた。私の声かけで気が変わったのか、ジージは男性からワープクリスタルを受け取った。

「仇打ちを頼んだ自分がこんなことを言うのはおかしいが……どうか、ご武運を」

 男性はそう言い残し、とぼとぼと立ち去っていった。

「……絶対に許さへん。アサシンプレイヤーは必ずウチらがぶっ殺したる」

 コヤが低い声で言った。額に微かに欠陥が浮き出ている。よほど怒りを感じているのだろう。

「仮にアサシンプレイヤーに遭遇し、交戦してとどめを刺す瞬間が訪れた場合、最後のとどめはわしが刺す。いいな?」

「え、ジージ、駄目だよそんなこと」

 リストがそう言ったが、ジージは首を振って返した。

「未来ある若者の手を汚させるわけにはいかん。こういうことは年寄りがやると相場が決まってるんじゃ。とどめは必ずわしが刺す。これは決定事項じゃ」

 有無を言わさない口調。反論する気にはなれなかった。

「では、行くとするかのう。アサシンプレイヤーが潜む、魔境のヨルムンガルドダンジョンに」

 ジージの言葉とともに、私たち4人は金色のゲートを通り抜けた。空気が変わった。

 こうして、私たちストロングホープの、ヨルムンガルドダンジョン攻略が始まった。
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