剣と魔法のゲーム世界に閉じ込められた私は、オリジナル格闘ジョブ【11拳(イレブンフィスト)】でクリア目指して勝ち上がる

五月雨前線

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第2章 ヨルムンガルドダンジョン攻略編

第15話:嵐の前の静けさ

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「噂には聞いてたけど、めちゃくちゃおっきいなぁ……」

 前方にそびえ立つ山脈を目にして、コヤは言葉を漏らした。

 MSOのダンジョンは、基本的に第1層→セーフティエリア→第2層→セーフティエリア→最終層という構成になっている。
 ダンジョンを陥落させるためには、最終層の最深部で待ち構えるダンジョンボスを討伐する必要があるのだが、その最終層に辿り着くまでにまず第1層、第2層を突破する必要がある。

 Zを見ている限り、この仕様はデータリセット後も変わっていない。そしてヨルムンガルドダンジョンの第1層は、巨大な山脈群の中に位置しているのだ。

「コヤは初めてのダンジョン攻略だもんね。緊張してる?」

「そりゃ緊張するで。ダンジョンはアクティブエリアよりも危険なんやろ?」

 私の問いにコヤは言葉を返した。少し顔が強張っているように見える。

「まあ危険っちゃ危険だけど……4人で協力すれば絶対大丈夫だよ。それにコヤのジョブは強力な聖騎士なんだから、もっと自信持ったほうがいいと思う」

「まあそうやね! ウチとアラーテのコンビは天下無敵やさかい!」

 コヤは元気よく言い、えへへ、と笑った。
 ああその笑顔、かわいいなぁ。
 実は私も少し緊張してたんだけど、コヤの笑顔を見てなんだか緊張が解れたかも。

「早速お出迎えじゃ」

 その時、ジージが低い声で言った。私は構えを取り、コヤも剣と盾を構える。

 山の中へ続いている一本道を塞ぐように、一体のモンスターが佇んでいた。
 巨大な灰色のタコのようなモンスターだ。高さは3メートル程で、8本の触手をうねうねと動かしている。
 目と思わしき部分には小さな黒い球体がくっついており、私たちをじっと睨みつけているように見えた。

 Bランクモンスター【デスオクトパス】だ。
 私たちを通せんぼするように道を塞いでいる。戦いは避けられないだろう。

「いくよ!」

 リストが叫ぶと、私たちは瞬時に基本陣形を展開した。
 前衛の真ん中にリスト。リストの右後ろにコヤ、左後ろに私。
 そして最後方にジージ。
 これが、私たちストロングホープが編み出した戦いの基本陣形だ。

『ファイアブラスト』

 ジージの声が聞こえたと思った瞬間、ぼっ、という音とともに幾つもの火球が出現、勢いよくデスオクトパスの元へ飛んでいった。

「しゅっ!!」

 デスオクトパスは鋭く息を吐き、素早く体を動かしてジージの放った魔法攻撃を回避した。
 回避されるのは想定内。目的は、回避の隙に前衛の3人がデスオクトパスとの距離を詰めることにある。

「うおおおおお!!!」

 リストは叫びながら、いの一番に突っ込んだ。リストを迎撃せんとデスオクトパスは複数の触手を突き出して攻撃を加えたが、リストは巨大な盾で攻撃をがっちりと受け止める。

 攻撃を受け止められ、デスオクトパスに少しだけ隙が生じた。チャンスだ。

「せりゃあああっ!!」

「うらああああっ!!」

 隙を見逃さず、私とコヤは一気に距離を詰めて突っ込み、私は全力の回し蹴りを、コヤは突きからの斬り上げを放った。

「しゅうう……!!」

 私とコヤの通常攻撃をまともに喰らい、デスオクトパスは苛立たしげに息を吐いた。
 ぶるるる、とデスオクトパスが体を震わせたのを見て、私とコヤは瞬時にその場から飛び退いた。

「しゅううあああああああ!!!!!」

 瞬間、デスオクトパスは8本の触手を勢いよく薙ぎ払い、回転攻撃を繰り出した。もし欲張ってあそこに居座っていれば、ダメージを負っていたかもしれない。

 デスオクトパスの猛烈な回転攻撃は続いている。
 近接アタッカーにとっては近寄りがたい状況だが、敵がその場に留まっている故に遠距離アタッカーにとっては絶好の攻撃チャンスだ。

『ホーリーウィンド』

 再びジージの声。白く輝く暴風が巻き起こり、暴れるデスオクトパスを包み込んだ。
 ががが、という鈍い音が響く。ジージの風属性の魔法攻撃が着実にダメージを与えている合図だ。

 暴風が止み、デスオクトパスは魔法攻撃から解放された。しかしその隙に、私とコヤはデスオクトパスの背後に回り込んでいた。

「ふんっ!」

「はっ!」

 コヤは勢いよく剣を振り下ろし、私は正拳突きを繰り出した。聖騎士と11拳の攻撃がクリーンヒットし、どどん、という通常とは違うヒット音が響く。
 恐らく私とコヤのどちらかの攻撃がクリティカルヒットになったのだろう。
 デスオクトパスは苦しげに体を震わせ、動きが鈍ったところを最後はリストが冷静に槍で突き、とどめを刺した。

 デスオクトパスが倒れ込み、巨体が瞬時に消滅する。
 私はリザルトを確認するべく、ウィンドウを操作した。

【デスオクトパス×1 を撃破
 EXPとGがパーティーメンバー:リスト、コヤ、ジージと均等に分配されます
EXP:423 G:518 を獲得】

「ふう……」

 私は息を吐き、構えを解いた。

「うおおお! やったやん! ダンジョンエリアで初めてモンスター倒せたやん!」

「うん。Bランクモンスターを難なく倒すことが出来たね。コヤ、いい動きだったよ」

「ほんまに!? やったー!!」

 コヤは顔を綻ばせ、全力でガッツポーズをした。

「ジージ、魔法攻撃ありがと。いい攻撃だったよ。さすが賢者だね」

 私がジージに声をかけると、「褒められるようなことは何もしておらん」とジージは返した。

「わしは遠くからサポートをしただけじゃからのう」

「そっか。ダンジョンエリアで初めて戦ったわけだけど、どうだった? 取り敢えずこのままの作戦でいいと思う?」

「うむ。基本の方針で進めて問題ないじゃろうて」

 ジージの言葉に、私、リスト、コヤは揃って頷きを返した。

 ジージは天性特性でMP自動回復を授かっており、MPを消費しても一定の割合で回復する。そんなジージがMP切れを恐れて魔法攻撃の使用を控えるのは少し勿体ない。
 反対に、ジージ以外の3人には当然SP自動回復なんて特性はない。SPを回復するアイテムを一応購入してはいるものの、数に限りがあるためスキル攻撃の無駄撃ちは避けたい。
 よって、ジージは温存を考えず魔法攻撃を使い、残りの3人は出しどころを見極めながらスキル攻撃を使う。これが、話し合いの末に行き着いた、私たちストロングホープの基本戦術だった。

 デスオクトパス撃破で勢いづいた私たちは、その後エンカウントした複数のモンスターを難なく撃破した。
 今日に至るまでの2週間、ひたすらレベル上げをしながらパーティーで戦うための特訓を重ねてきたことが決して無駄ではなかったと分かり、私はなんだか嬉しくなった。

「うわ……ここから洞窟に入るんやな……」

 モンスターを倒しながら先に進み、やがて巨大な洞窟の入り口に行き着いたところでコヤはさも嫌そうに言った。

 ダンジョン攻略をする上で、洞窟の中に入ることは避けられない。洞窟の中はモンスターが蔓延る広大な迷路と化しており、その中を突き進んで中継地点のセーフティエリアを目指していくしかないのだ。

「うん。え、何? 大丈夫? もしかして、暗いところ苦手?」

 私の問いにコヤは首を振って返した。

「ちゃうで。洞窟の中は、今までよりも戦いづらそうだなと思うただけや」

「あー……まあね……」

 コヤの不安を増長させるようなことはしたくないが、嘘をつくわけにはいかないのでどうしてもこういう反応になってしまう。

 洞窟に至るまでの道のりは、はっきり言って前座のようなものだ。洞窟の中に足を踏み入れてこそ、真のダンジョン攻略が始まると言っても過言ではない。

「戦いにくいのはモンスターも同じじゃ。恐れることはない。今まで通りのことをやればいいのじゃ」

 返答に困る私の代わりにジージが声をかけてくれた。

 ジージはどんな時でも冷静で、落ち着いているように見える。元自衛隊所属、さらに人生経験の長さ故だろうか。パーティー内にそういう人がいてくれるのは本当にありがたい。
 ダンジョン攻略中に、パーティーの統率が取れなくなって混乱し、そのままゲームオーバーというのはよく聞く話だが、ジージがいてくれる限りそんなことにはならないという根拠のない自信があった。

「まあたしかになぁ。暗い気持ちでいてもしゃあないから、明るくいくことにするわ。よーし、頑張るで!」

 コヤは剣を持っている方の腕をぐるぐる回して言った。
 
 そして私たちは、洞窟の中に足を踏み入れた。洞窟の壁には等間隔にたいまつが設置されているため、視界は確保されている。
 
「……静かだね」

 先頭を進むリストが呟いた。

 たしかに静かだ。モンスターの鳴き声や他のプレイヤーの声は一切聞こえてこない。

「嵐の前の静けさ、というやつじゃろうて。最大限の警」

「あ! 宝箱や!」

 ジージの言葉を、コヤの明るい声が遮った。そしてコヤは脇の細い道へ入っていく。

「コヤ、ちょっと待って!」

「へーきへーき、宝箱の中身を回収するだけやって!」

 私が声をかけるも、コヤはそう言って右手を上げて返した。コヤの背中越しに、道の奥に宝箱が設置されているのが見えた。

 なにか、嫌な予感がする。コヤが宝箱に触れようとしたその刹那、がたん、と宝箱が揺れた。

「コヤっ!!!!!」

 私の叫びと同時に、茶色の宝箱は勢いよく跳ね上がり、箱を大きく開けて、ギョロリとした目と鋭い牙を見せつけながらコヤに襲いかかった。

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