剣と魔法のゲーム世界に閉じ込められた私は、オリジナル格闘ジョブ【11拳(イレブンフィスト)】でクリア目指して勝ち上がる

五月雨前線

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第2章 ヨルムンガルドダンジョン攻略編

第20話:ムードメーカー

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 不意を突かれたコヤは、それでもなんとか盾で攻撃を受け止めた。

「何なん!? 倒したんやなかったの!?」

 コヤは叫びながら、ダークナイトが放つ連撃をなんとか盾で捌いている。
 ……くそっ、どうして、デビルボックスといいダークナイトといい、MSO初心者のコヤばかり狙うんだ!!

「ふざけんなお前らぁぁぁっっ!!!」

 怒りを迸らせながら、私は猛然とダークナイトに襲いかかった。
 右前蹴りからのワンツーパンチ、左回し蹴り。私が放った攻撃はダークナイトにクリーンヒットした。ダークナイトは体を痙攣させ、再び地面に倒れ込んだ。
 先程とは異なり、ダークナイトは瞬時に消滅した。ちゃんと倒しきった証拠だ。どっと疲労を感じた私は、その場に座り込んだ。

「はあ……はあ……」

 右の拳を左手でさすりながら、私は乱れた息を整える。

「皆、大丈夫か!」

 後方に陣取っていたジージが私たちの元へ駆け寄ってきた。

「大丈夫やで……倒したと思うたら急に攻撃されたから、びっくりしたでほんまに……」

 地面に座り込むコヤは、ジージに力ない笑みを向ける。

「突然のことで反応が遅れてしまった……申し訳ない……まさかダークナイトが死んだふりで攻撃を仕掛けてくるとはのう……」

「完全に油断してたよ……これもデータの書き換えの影響かな……」

 そう続けるジージとリストの表情は暗い。
 MSOのモンスターの中には、稀に先程のダークナイトのように死んだふりをしてプレイヤーを騙し、攻撃を仕掛ける厄介なモンスターが存在する。
 といっても、瞬時に消滅するかしないかで倒しきったかは容易に判別出来るし、そもそも死んだふりを仕掛けてくるモンスターは少ない。私の記憶では、ダークナイトは死んだふりを仕掛けるようなモンスターじゃなかった。

 だから、油断してしまった。MSO初心者のコヤを、またしても危険に晒してしまった。さっきデビルボックスに襲われた時に、同じ轍は踏まないと決めたのに……。

 疲労、そしてコヤを危険に晒してしまった自分への怒りと悔しさで頭がいっぱいになり、私は思わず黙り込んでしまった。
 恐らくリストとジージも私と同じ気持ちになったのだろう。重い静寂が私たちを包み込む。その静寂を破ったのは、ストロングホープのムードメーカー、コヤだった。

「ちょ、3人ともどないしたん? 雰囲気がお通夜みたいになっとるやん。Aランクモンスターを初めて倒せてんから、もっと喜ぼうや」

「ごめんコヤ、僕たちはまたコヤを……」

「まさか、またウチを危険に晒した、とかでへこんどるん? やめてえや! 暗い気持ちになってもええことなんて何もあらへんやん! あ、ウチもさっきデビルボックスに襲われた時はちょっぴりヘコんでたけど、まあそれはええねん!」

「コヤ……」

 コヤの明るい、いや明るすぎる声が、ダンジョンの中に響く。

「とにかく切り替え! 切り替えよ! このダンジョンのモンスターが死んだふりをしてくるって分かったんやからそれでええやん! 収穫やん! ほら、明るく行こうや! スマイルスマイル! 」

 コヤはやや早口でまくしたて、両方の人差し指を頬に当ててにこっと笑って見せた。
 あ、やばい、その仕草めっちゃかわいい。

「そうじゃな、コヤがそう言ってくれとるし、切り替えるとするかのう」

「うん。まだまだ先は長いしね」

 暗かったリストとジージの表情に、光が差したように見えた。
 このパーティーにコヤがいてよかった、と私は心から思った。コヤは天性のムードメーカーだ。今の言動は、真似して出来るものじゃない。

 コヤのおかげで、暗くなりかけた雰囲気を立て直すことに成功した私たちは、次のフロアへ通じる階段探しを開始した。
 先程と同様に苦戦するかと思われたが、幸運にもすぐ近くに階段があったため、労せずして次のフロアへ辿り着くことが出来た。

「あと何回階段を上がったら、ボスがおる最終エリアに行けるんかな?」

 階段を上がった直後、コヤが周囲を警戒しながら口を開いた。

「記憶では、ヨルムンガルドダンジョンの第1層のフロアの数は6個か7個だったはずじゃが……データの書き換えがあるからのう、データリセット前の情報はあまり当てにしない方が良いじゃろうて」

 ジージが言葉を返す。こうしている間にも、ジージのMPは少しずつ回復しているのだから、天性特性のMP自動回復は本当に強力な特性だ。

「ゴールが見えへんのはなかなか難儀やなぁ……あ、せや、Z! Zを見たらええやん! Zでダンジョンの情報収集をしようや!」

 名案とばかりにコヤは明るく言ったが、リストは足を動かしながら首を振って返す。

「残念だけど、Zの情報は信用しない方がいいと思う。僕は逐一Zをチェックしてるけど、タイムラインには真偽不明の情報や明らかな誤情報がけっこう流れてるからね。Zに正しい情報が載ってない、とまでは言わないけど、Zはなるべく信用せず、自分で見聞きした情報を信じた方がいいよ」

「そうなんや……残念やな……」

 コヤはがっくりと肩を落とした。

 リストの言っていることは、残念ながら事実だ。
 現実世界のSNSで誤情報が出回ることがあるように、MSO内のSNS『Z』内にも誤情報はけっこう多い。
 デスゲームと化しているMSOの中で、わざわざ誤情報を流すなんて正気の沙汰とは思えないが、アサシンプレイヤーといい、悪い意味で常識の範疇を超えたプレイヤーが一定数存在するのだろう。嫌な話だなぁ。

「む」

 ジージが呟き、ぴたりと足を止めた。視線は横の通路に注がれている。

「ジージ、どうしたの?」

「宝箱じゃ。そして宝箱の前にモンスターが一体。恐らく【パープルスライム】じゃろうて」

 私の問いかけに、ジージは小さな声で返した。状況を察した私たちは、そろりそろりと動いて通路の奥を覗き込む。
 ジージの言葉通り、薄暗い通路の奥に赤い宝箱が鎮座していた。そしてその手前には、向こう側を向いている紫色のスライム状のモンスターが佇んでいる。
 ジージに言われなければ、私たちは宝箱を見逃していただろう。さっすがジージ、頼りになるぅ!

「うう、宝箱はもう懲り懲りやで……」

 コヤは顔をしかめながら小声で言った。

「大丈夫だよコヤ、あの宝箱がデビルボックスの可能性は低いと僕は思う」

「何でやねん」

「さっきと違って、宝箱の前にモンスターがいるでしょ? もしあの宝箱がデビルボックスなら、ゲームのプログラム的に、デビルボックスの前にモンスターは配置しないと思うんだよね。プレイヤーを警戒させないために」

 リストがややメタ的な考察を披露した。
 そういうメタ的な考察や予想が意外と当たることを、ゲームオタクの私は知っている。多分リストの予想は当たってるに違いない。

「ほおお……? んー、なるほど、なんとなく分かった気がするわ!」

 えへへ、とコヤは笑った。多分絶対分かってなさそうだけど、かわいいからよし!

「よし、ではわしが……」

「待ってジージ、私とコヤが仕留めるよ」

 杖を構えたジージを私は手で制した。
 たしか、パープルスライムはCランクモンスターだったはず。加えてCランクモンスターの中でもかなり弱い部類のモンスターだったはずだ。
 そんなパープルスライムにジージの魔法攻撃を使うのは勿体ない。不意打ち出来そうだし、私とコヤで仕留められると判断した。

「そうだね、アラーテとコヤに倒してもらおう」

「了解じゃ。毒攻撃にはくれぐれも気をつけるのじゃぞ」

 リストとジージの言葉に私は頷きを返し、コヤと一緒にゆっくりパープルスライムに近づく。
 パープルスライムは私とコヤの接近に全く気付いていないようで、後ろを向いてぼーっとしているようだ。
 私は拳を、コヤは剣を構え、パープルスライムめがけて同時に通常攻撃を繰り出した。

「ゆゆわああっ!?」

 パープルスライムの驚きの声と、どどん、というクリティカルヒットの音が同時に響いた。
 今のように背後から不意打ち出来た場合、クリティカルヒットが発生する確率が上昇する仕様になっている。

 その攻撃で撃破、とはならなかったが、虚を突かれて混乱しているパープルスライムに私が容赦なく追撃を浴びせると、パープルスライムはあっけなく消滅した。

「さっきのダークナイトに比べて、随分弱いモンスターやなぁ」

「まあCランクモンスターだからね。さあ、宝箱を開けよう」

 私は目の前の宝箱に視線を向けた。赤い宝箱は微動だにしない。
 多分デビルボックスじゃないと思うけど、コヤが見ているわけだし、念には念を入れよう。
 ということで、私はウィンドウを操作してノーマルストーンを発現させ、宝箱めがけてぶん投げた。どうん、という音ともにノーマルストーンが宝箱に激突する。

「よし、これは確定で宝箱だね」

「え、何で分かるん?」

「これがデビルボックスだったら、ノーマルストーンをぶつけると、ぴくっ、って動く仕様になってるんだよ。さっきコヤが襲われた時はそれを失念してたんだけどね」

「なるほど……じゃあこれは宝箱なんやね! ウチ、宝箱開けるの初めてやで! なんかワクワクするわ!」

 俄にコヤのテンションが上がった。気持ちは分かる。私もMSOを始めたばかりの頃、初めて宝箱を開けた時は興奮したもんなぁ。

「コヤ、開けてみなよ。軽く手を触れると開く仕様になってるから」

「分かったわ、よーし……」

 コヤは恐る恐る宝箱に歩み寄り、右手でそっと宝箱に触れた。瞬間、ゆっくりと宝箱が開き、中から紅に染まった一対の剣が出現した。
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