剣と魔法のゲーム世界に閉じ込められた私は、オリジナル格闘ジョブ【11拳(イレブンフィスト)】でクリア目指して勝ち上がる

五月雨前線

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第2章 ヨルムンガルドダンジョン攻略編

第26話:VSアビスタイタン その3

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「ぐもおおおおおおおおお!?」

 宙を舞うアビスタイタンの叫びには、明らかに動揺の色が含まれていた。
 数秒後、アビスタイタンの巨体が勢いよく地面に叩きつけられた。どおおおん、という轟音とともに、砂埃が舞い散る。

「ぐううおおお……」

 地面に横たわるアビスタイタンは呻き、ばたばたと腕や足を動かしている。すぐに起き上がるようには見えない。
 アビスタイタンの腕から両手を離した私は、確信した。
 スタン状態だ。私のスキル攻撃で、アビスタイタンを一時的に行動不能のスタン状態に陥れることが出来た。隙を作れたんだ。

「チャンスです!! 全員一斉攻撃!!」

 キュードの気合いの込もった叫びが戦場に轟く。瞬間、スタン状態のアビスタイタンに巨大な氷の槍と巨大な火球が激突した。

「アラーテさんが千載一遇のチャンスを作ってくれました!! 全火力を総動員してアビスタイタンを叩いてください!!」

 キュードは続けて叫ぶ。そして、さらなる魔法攻撃がアビスタイタンに浴びせられる。
 瞬時に周囲を見渡す。幸運にもキラースライムの姿は見当たらない。これなら、アビスタイタンへの攻撃に集中出来る。

『ファイアフィスト!!!!!』

 先程の余韻が冷めぬ中、私は渾身のスキル攻撃を繰り出した。紅蓮の炎を纏った拳がアビスタイタンの体にめり込む。

「せいやあああっ!!!」

 前蹴りからのワンツースリーパンチ。ジャブ、ストレートからの下段回し蹴り。私は無我夢中で攻撃を叩き込んだ。
 アビスタイタンがこんなに隙を晒してくれる機会は早々ないだろう。いや、もしかしたら最初で最後のチャンスかもしれない。だからこそ、少しでも多くダメージを与えたかった。

『アイアンフィスト!!!!!』

 さらにスキル攻撃を放つ。鋼鉄の拳がアビスタイタンの体に衝突する。どどん、というこれまでとは違うヒット音。クリティカルヒットだ。
 ものすごい数のヒット音が私の鼓膜を揺さぶる。私以外の7人のプレイヤーも、アビスタイタンに全力でスキル攻撃を放っているのだろう。とんでもない音の連鎖だ。

『ファイアフィスト!!!!!』

 私も負けじとスキル攻撃を放つ。炎を纏った拳が命中するも、やけど状態を引き起こすまでには至らない。
 これだけ一斉に攻撃してるんだから倒れてよ、という願いを胸に攻撃を叩き込んでいた刹那、「下がって!!!」というリストの叫び声が響いた。

「ぐううもああああああああ!!!!!」

 刹那、アビスタイタンは巨体に似合わない俊敏な動作で起き上がり、同時に2本の斧を勢いよく振り回した。
 リストの叫び声に反応して後退していなければ、今の攻撃を喰らっていたかもしれない。そう思うと背筋に冷たいものが走った。

「アラーテ、お前は天才だなっ!!!」

「わわっ!?」

 フィンの声が聞こえたと思ったら、突然髪をわしゃわしゃと乱暴に撫でられた。

「あの化け物を投げ飛ばしてスタン状態を作り出すなんて、信じられないぜ! さすがオリジナルジョブの持ち主だな!」

「ちょ、ちょっと、フィン……」

 褒めてくれるのは嬉しいけど髪わしゃわしゃするのはやめてよ! 女の子にとって髪型はめちゃくちゃ大事なものなんだから!

「フィンさん、許可なく髪を触るのは絶対駄目です。デリカシーに欠けていますよ」

 いつの間にか近くにいたアヤが、私が思っていたことを口にしてくれた。ありがたい!

「おっとすまねえ、ついテンションが上がっちまった」

「全く……しかしアラーテさん、本当にすごいですね。私は合気道に詳しくないので、何が起きたのか全く分かりませんでしたよ。あれは、その、何かの技をかけたという認識でいいんですか?」

 アヤに問われ、私は先程の状況を思い返した。

「うーん……一応四方投げって技を意識してやってみたんだけど、正直無我夢中だったからよく分からない、かな。スタン状態を引き起こせたのは奇跡だよ」

「そうなんですね! すごいです! あれは……」

「2人とも、その話の続きは戦いが終わってからだ。あの化け物はまだやる気満々みたいだからな」

 先程とは打って変わったフィンの低い声が聞こえ、私は慌ててファイティングポーズをとる。目の前では、アビスタイタンが何やら頭を抱え、地団駄を踏んでいた。衝撃で地面が揺れている。

「あれは……怒り状態へ移行する兆候でしょうか」

「恐らくな」

 アヤの呟きに、武器を構えながらフィンは言葉を返す。

「アラーテ、今の内にHPとSPを回復しておけ。アビスタイタンが怒り状態になったら、恐らくもっと厳しい戦いになる」

「うん、分かった」

 フィンに言われ、私はウィンドウを開いた。自分では全く気付いてなかったが、HPが半分ほど減少していた。ハイポーションを惜しげもなく使用し、HPとSPを全快させる。

「ぐううううもおおおおおあああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 その時、アビスタイタンが咆哮を轟かせた。今までと明らかに咆哮が違う。ジージとキュードが魔法攻撃を浴びせようとしたが、アビスタイタンは後ろに大きくジャンプしてそれを回避した。

 アビスタイタンの見た目が、大きく変化している。黒かった肌はところどころ赤く輝き、至る所から蒸気が噴出している。
 真っ白だった3つの目は、今や鮮血の如く赤く染まっており、頭から生えている角がより長く、大きくなっていた。
 間違いない。怒り状態だ。

 怒り状態。それは、モンスターが一定量のダメージを負った際に移行する特殊な状態。通常状態と比べてより凶暴になり、行動が変化する。つまり、さらに危険になるということだ。
 怒り状態になるまでダメージを与えられたという喜びと、さっきのチャンスで倒しきれなかった悔しさが同時に私の心の中で渦巻く。

「ぐううああああああああああああ!!!!!」

 アビスタイタンが天高く咆哮を轟かせると、虚空から斧が2本出現し、空いていた2本の腕に握られた。装備する斧の数を倍増させたアビスタイタンの周りに無数の魔法陣が展開し、キラースライムが召喚される。

「来るぞ! アラーテ、この後はどうする! さっきの作戦をもう一度やればいいのか!」

 フィンが緊張した面持ちで叫ぶ。正直、さっきの作戦がもう一度通用するかは分からない。でも、行動の指針は決めておくに越したことはない。

「取り敢えずさっきと同じような感じでよろしく!」

「よっしゃ分かった!」

「了解です!」

 フィンとアヤの返答を背に、私は駆け出した。
 アビスタイタンが怒り状態に突入した影響か、ただでさえ多かったキラースライムの数がますます多くなってる。とんでもない数だ。

「ぎゅあああああっ!!!」

「邪魔しないで、よっ!!!」

 回避最優先で突っ込みつつ、どうしても避けきれない時はキラースライムをぶん殴りながら突き進む。

「ぐううううもああああああああ!!!!!」

「やばっ!!!」

 どうにかこうにかアビスタイタンの目の前まで迫ったところで、突然アビスタイタンはくるっと振り返り、真っ赤な目で私を睨みつけた。そして、4本の斧で勢いよく攻撃を仕掛けてくる。
 怒り状態のせいか、攻撃の精度は正直さっきよりも低い。とはいえ斧の数が倍増したこと、さらに攻撃速度が上がっていることで、結果的にさっきよりも恐怖は増していた。

「ぐううううああああああああ!!!!!」

「ちょ、しつこいって!!!」

 斧の攻撃をかわしきったと思ったのに、アビスタイタンはしつこく私を追いかけてくる。先程スタン状態に陥れた私を恨んでいるのだろうか。
 いくら走っても、振り切ることが出来ない。キュードとジージの魔法攻撃が絶え間なくヒットしているはずなのに、追跡の手が緩まることはない。

「ぐっ……やばい……スタミナが……!」

 レベル上げを重ねてステータスが向上しているとはいえ、スタミナは有限だ。さらに斧の攻撃を回避するために神経を集中させていることが、余計にスタミナの消費を促進させる。

「あっ……」

 突然、本当に突然、疲労によって足がもつれた。動きが乱れ、私はもんどりうって地面に倒れ込む。
 まずい、転んじゃった、早く立ち上がらないと攻撃を喰らう。殺されてしまう。立て、早く立て……!

「アラーテに手ぇ出さんとってよ!」

 その時、コヤの明るい叫び声が響いた。次いで、ぱん、と何かが破裂する音が聞こえる。

「ぐもおあああああああああ!?」

 アビスタイタンの叫びには、何やら困惑の色が含まれていた。慌てて私が体勢を立て直し、視線を向けると、アビスタイタンの顔の周りに白い煙が立ち込め、視界を奪っていた。
 あれは、催涙玉の煙だ。

「アラーテ!!」

 コヤが私の元へ駆け寄ってきた。防具は汚れ、コヤの額には汗が滲んでいる。

「コヤ……! もしかして、コヤが催涙玉を投げてくれたの?」

「せやで! アラーテがピンチやと思て、いてもたってもいられなんだから!」

 コヤが笑みを浮かべながら返す。
 催涙玉は、上手くヒットさせれば一定時間モンスターの視界を奪い、隙を作れるとても強力なアイテムだ。
 とはいえ、催涙玉を狙った位置にピンポイントで投げ込むのは意外と難しく、モンスターに気付かれて跳ね返されることも多いため、MSOではそこまで使用率が高くないアイテムだったりする。

「本当にありがとう。おかげで助かったよ。すごいね、正確にアビスタイタンの顔めがけて投げ込むなんて……」

「ウチはちっさい頃から野球をやってたって言うたやん? せやさかい上手く投げられたんやないかな。そんなことより、これからどうしたらええと思う?」

 コヤは言い、アビスタイタンに視線を向けた。
 視界を奪われたアビスタイタンは、闇雲に4本の斧を振り回している。無茶苦茶な攻撃だが、威力がすさまじいため近寄りがたい。さらに、大量のキラースライムが蔓延っているため、アビスタイタンへの接近が困難になっている。
 アビスタイタンへの魔法攻撃は継続的に行われているものの、それだけで倒せるほど甘くはないだろう。

「なんとかもう1回、さっきみたいに隙を作って、集中攻撃を加えたいよね」

「アラーテがさっきのやつをもう1回やるのはどうなん?」

「うーん……」

 先程の様子からして、アビスタイタンは私をマークしているようだ。もう一度アクアフィストで隙を作るのは難しいような気がする。

「難しいかも。多分私はマークされちゃってるから」

「分かった。なら、代わりにウチが隙を作る」

「え?」

 予想外の返答に驚く私の前で、コヤは自陣満々に言い放った。

「ウチが、必ず隙を作ってみせるで」
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