剣と魔法のゲーム世界に閉じ込められた私は、オリジナル格闘ジョブ【11拳(イレブンフィスト)】でクリア目指して勝ち上がる

五月雨前線

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第2章 ヨルムンガルドダンジョン攻略編

第27話:VSアビスタイタン その4

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「え? 隙を作るって、どういう……」

「ぐううもおああああああ!!!!!」

 私が声を出した瞬間、アビスタイタンの咆哮が轟いた。アビスタイタンの顔の周りに立ち込めていた白い煙の量は、先程よりも明らかに減少している。

「時間があれへん。催涙玉の効果が完全に切れる前に突っ込む必要があんねん。今からウチが突っ込む。アラーテはウチを援護したってな」

「でも……」

「ウチを信じてや」

 コヤはいつになく真剣な表情を浮かべて言った。私とコヤの視線が交錯する。
 恐らく私たちの中で、最もMSOのプレイ経験が浅いであろうコヤの発言。許容しないのが普通だと思う。そんなことは分かってる。

 でも……コヤは、私の常識に囚われない発想を持ち合わせ、それを行動に移す能力を持ってる。以前レベル上げのためにメタスラを狩った時に、それを学んだ。
 信じよう。コヤを、私の大切なパーティーメンバーのことを。

「分かった! そこまで言うからには何とかしてもらうからね! ほら、行くよ!」

 私は言い、猛然とアビスタイタンめがけて走り出した。

「そう言うてくれると信じとったで! アラーテはひたすらキラースライムを攻撃してや! ウチがアビスタイタンに接近出来るようにしてほしいねんで!」

「おっけー! せりゃああああっ!!!」

 コヤの指示に従い、私は目の前のキラースライムを次々と蹴散らした。コヤの進路が開けさえすれば、キラースライムを倒し切らなくても構わない。そう思うと少しだけ気が楽になる。
 正拳突き、中段蹴り。タックルを受け止めてからの回し蹴り。勢い任せに、私はコヤと一緒に突き進んだ。

 本当は、コヤとしっかり話し合った上で、作戦を他の皆と共有したかった。しかしモタモタしている内に催涙玉の効果が切れたら隙が潰れてしまう。今ここで突っ込む選択が正しいと信じたかった。

「ぐもああ……ぐあああ……」

 なんとかキラースライムの包囲網を突破し、私とコヤはアビスタイタンの目の前に辿り着いた。催涙玉の効果が僅かに残っているのか、アビスタイタンは足を止め、顔の周りを煩わしそうに手で払っていた。
 この間にも、キュードとジージの魔法攻撃が断続的にヒットしているにも関わらず、アビスタイタンが意に介しているようには見えない。Sランクモンスターの底力ということだろうか。

「よっしゃ、間に合った……これで作戦が実行出来るわ……!」

 コヤは自身ありげに言い、素早くウィンドウを操作して自身の盾をアイテムボックスに収納させた。最初はウィンドウの操作も覚束なかったのに、今やすっかり慣れてるなぁ……って、ちょっと!?

「コヤ!? 何で盾をしまってるの!?」

「何でって、邪魔やからに決まっとるがな」

 コヤは事もなげに言い、さらに剣を鞘に収納した。戦いにおいて必須ともいえる剣と盾を収納する意味が分からず、混乱する私にコヤは「ウチが作る隙を無駄にせんといてな!」と明るく叫んだ。
 そして、コヤは全速力でアビスタイタンに駆け寄り、勢いよくアビスタイタンの体によじ登った。

「え!?」

「このどアホ! たいがいにしてや! ウチがお仕置きしたんで!」

「ぐもおおああああああああ!?!?」

 プレイヤーが自分の体によじ登るという、前代未聞の行動にさしものアビスタイタンも驚いたのか、混乱の色を含んだ叫び声をあげている。
 コヤは小型のナイフを出現させ、アビスタイタンの体に突き刺した。アビスタイタンが咆哮をあげ、コヤを振り落とそうと体を激しく揺れ動かすも、コヤは必死にしがみついて決して振り落とされない。

「その程度じゃウチは振り落とされへんねん!」

 コヤは叫び、上手く体勢を変えながら何度もナイフでアビスタイタンの体を傷つける。あの状況でしがみ続けられるのは普通じゃない。コヤの天性の身体能力の高さ故だろうか。

「ぐうもおおおおおおおおおお!!!!!」

 振り落とされないコヤにしびれを切らしたのか、アビスタイタンは斧を振り上げ、コヤめがけて振り下ろす。コヤは寸前で斧を回避した。コヤに命中しなかった斧は、代わりにアビスタイタンに命中し、深く体を抉った。

「ぐううぎゅあああああああああああ!!!!!」

「はっ、どれだけ図体がでかくても、頭が馬鹿じゃ意味ないってことやな!」

 アビスタイタンの苦痛に満ちた叫びにコヤは言葉を被せ、さらに攻撃を加える。
 私はアビスタイタンにスキル攻撃を加えながら、コヤの作戦が見事的中したことに気付き、興奮やら何やらによる体温の上昇を感じていた。コヤの頑張りを無駄にしないよう、全力でスキル攻撃をぶち込む。

 アビスタイタンにしがみつき、零距離から攻撃を加えるというコヤの奇想天外な作戦のおかげで、アビスタイタンはコヤの対応に追われた。故に厄介な斧の攻撃も、新たなキラースライムの召喚も止まり、隙が生まれたのだ。

『ファイアフィスト!!!!!』

 もう何度目か分からないスキル攻撃をぶち込む。紅蓮の炎を纏った拳が命中した刹那、ぼっ、という音ともに、アビスタイタンの巨躯に纏わりつくように炎のオブジェクトが出現した。
 やった、やけど状態だ。遂にアビスタイタンをやけど状態にすることが出来たんだ。

「コヤさんが作ってくれた貴重なチャンスです!! ここで一気に仕留めましょう!!」

 キュードの叫びが遠くから聞こえる。それに対し、おうっ、と呼応するような複数の声が重なった。
 申し訳ないけど私は攻撃に集中している故に、声を返す余裕はない。

「はっ!! せりゃっ!! せりゃあああああっ!!」

 自分を鼓舞するように叫びながら、私はひたすら連撃を叩き込む。
 正直体力は限界に近い。MSOの戦いにおいて、体の芯のスタミナの消耗はポーションを飲んでも完全には回復出来ない。
 しんどい。めちゃくちゃしんどい。拳が痛い。肺が痛い。全身が痛い。今すぐ寝っ転がって休みたい。眠りたい。

 限界に近い私を突き動かしているのは、絶対に勝つという強い意志、そして体を張って隙を作ってくれているコヤに対して報いるという強い思いだ。

『アイアンフィスト!!!!!』

 絶叫し、私は鋼鉄の拳を叩き込む。クリーンヒットするも、まだアビスタイタンは倒れない。

「ぐ……ぐもおおお……!!」

 アビスタイタンの発する声が弱々しくなっている。きっと弱っているチャンスだ。あと一押し、頑張れ私、頑張れ!

『ファイアフィスト!!!!!』

 炎を纏った拳を叩き込む。私たちの攻撃に伴う、ものすごい量のヒット音が私の鼓膜を揺さぶる。まるで嵐のようだ。
 コヤが必死にアビスタイタンを引きつけているおかげで、新たにキラースライムが召喚されなくなったため、既存のキラースライムは全て倒し尽くされ、全員がアビスタイタンに攻撃出来るようになっているのだろう。

「とっととくたばれおらああああああああっ!!!!!」

 気合い、怒り、その他諸々あらゆる感情を込めて、私は渾身の正拳突きを放った。どん、という鈍い音が響いたその時、ずっと揺らがなかったアビスタイタンの体が揺らいだ。次いでアビスタイタンが片膝をつく。

「ぐ……ぐもお……」

 アビスタイタンの口から苦しげな声が漏れ出る。膝をついた巨体が、斧が、少しずつ消滅していくのを見て、私は渾身のガッツポーズをした。
 やった!! とうとうアビスタイタンを倒したんだ!!

「うおおお、遂にやったやん! いやあ、ウチが……」

「ぐうもおおおおああああああああああああ!!!!!」

 勝利を確信したコヤが声を上げた刹那、アビスタイタンは鼓膜が破れるほどの咆哮を轟かせ、同時に、まだ消滅せずに残っている拳でコヤめがけて全力のパンチを放った。
 ものすごい勢いのパンチだった。コヤに避けられ、自傷することを一切恐れていない攻撃。まさに、最後のあがき。ずっと纏わりついていたコヤへの恨みが爆発したのだろうか。

 それでも、万全の状態のコヤなら避けられただろう。しかし、たった1人でアビスタイタンの体に張り付き、しがみつき、体力の限界を迎えていたであろうコヤが攻撃を回避することは出来なかった。

 どん、という重い音が戦場に響く。
 コヤの小さな体が、アビスタイタンに殴られた衝撃によって思い切り地面に叩きつけられた。

「コヤっっっっ!!!!!!!!!!!」

 私は絶叫し、コヤの元へ全力で駆け寄った。

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