公爵様は幼馴染に夢中のようですので別れましょう

カミツドリ

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35話 壊れたマグロ 1

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「マグロ殿、レミーラ嬢の気持ちはしっかりと伝わっているか? また、変な勘違いはしていないか……?」

「し、シグレ王子殿下……そんな……」


 マグロ様はがっくりと肩を落としていた。認めたくはないけれど、シグレ様の前でそれを口にするわけにはいかないといった表情だった。私の言葉によって、彼が肩を落としているとなると多少の罪悪感は出ているけれど……これはマグロ様の為にも、絶対に必要なことだったのだ。

 肩を落としているマグロ様を前にして、シグレ様が私の方向に顔を向けた。


「レミーラ嬢、よく自分の本音をハッキリと言えたな。その度胸は尊敬に値するよ」

「いえ、シグレ様……当然のことをしたまでです……」


 マグロ様に余計な期待を持たせていたのは、ある意味では私のせいだと言えるだろう。私はその期待を完全に絶つ義務があったのだ。それをマグロ様にしっかりと伝えられたと思う。私はある種の達成感を感じていた。


「レミーラ……本当に……」


「はい、マグロ様……私のことは完全に忘れて、新たな人生を歩んでください」


 マグロ様はまだ女々しい口調と視線を私に向けていた……いい加減、自分の立場を分かってほしい。こんなマグロ様の姿は本当に見たくないのだから。婚約解消になったとはいえ……元婚約者に求める女性の理想としては、自分の信じた道を罪悪感なく進んで欲しいということだ。

 そんな理想像にも近い想いを私はマグロ様に願っていた。まあ、シエナ令嬢とネルファ王女殿下の二人の妻を抱えることになるのだから、苦労は絶えないだろうけれど……まあそこは自業自得ということで。


「そ、そんな……こんなことが……!」


 もしかたら、今までのマグロ様の人生の中で初めて思い通りにいかなかった出来事なのかもしれない。それはそれで甘すぎるとは思うけれど……彼の性格を考慮すれば、否定できるものではないわね。

「レミーラ……! 僕は本当に君のことを……お願いだから戻って来てくれよ……!」

「申し訳ありませんが、マグロ様。できません……マグロ様は新しい人生を歩んでください」

「う、うわぁぁぁぁぁ……!!」


 マグロ様は私の誕生日パーティーの席だということを忘れて、情けなく泣き叫んでいた。シグレ様やルック兄さま、駆けつけたドレーク兄さまは頭を抱えてるようだ。


「シグレ王子殿下……本当に許可をいただけるのでしたら……彼はあまりにも醜い」

「醜いということは否定出来ないが……流石に斬り捨てることは許可できないな。済まない」

「いえ、とんでもないことでございます……」

「マグロ様……」

「レミーラ……うわぁぁぁぁぁ……!!」


 周囲から誰も助けの手を伸ばす人は居ない……これがマグロ様の人徳を表すバロメーターなんだろうと納得した。

 マグロ様はこの日初めて自分の立ち位置というものを理解することになるだろう。私はそのように思っていた。
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