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1話 妹に婚約者を奪われた

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「ど、どういうことですか……?」

「聞こえなかったの、姉さま? 私とハマチ様が婚約することになったの。アールカート家としては、私がハマチ様と一緒になっても問題はないし、お父様だって許してくれるはずよ」

「そ、そういうことではなくて……」


 私の婚約者の腕に見せびらかすように、自分の腕を絡めている妹。ノア・アールカートは目の前に立っていた。そして……私の婚約者であるはずの、ハマチ・ドリル公爵はそんな妹の行為を咎める気はないようだ。おかしい……絶対に間違っている。


「ハマチ様……? これは一体、どういうことでしょうか……?」

「ん? まあ、あれだ。私はお前の妹のノアを選んだ、ということになるかな」

「そ、そんな……!」

「済まないが事実なのだ」


 ハマチ様は冷静に、淡々とした口調で話していた。嘘でしょう? そんな身勝手なことが許されるわけがない。

「ごめんなさい、姉さま。嘘のように見えるかもしれないけれど、事実なのよね。まあ、自分に魅力がなかったと思って諦めてくれる?」

「ノア……! お父様やお母様がこんなことを許すわけが……」

「どうして? 同じアールカート家での婚約には違いないんだし、文句なんて出ないはずよ?」

「それは……」

「それに、ハマチ・ドリル公爵様にお父様達が逆らえるわけないでしょ?」


 それは確かに考えられた。アールカート家は伯爵家であり、ドリル家は公爵家になる。その差だけでも相当に離れているんだから、お父様達が抗議をしてくれる可能性は低い。

 ましてや、妹のノアとの婚約は成立しそうなのだから……単なる婚約破棄とは事情が異なっていた。

「済まないな、エイシャ。お前のことが嫌いになったわけではないのだが……まあ、そういうことだ」

「は、ハマチ様……」


 彼の言葉は最後まで淡々としたものだった。ノアに完全に手籠めにされてしまったのか、それは分からないけれど、彼の表情に私への愛情は一切感じられない。

「非常に残念ですが、納得する以外の道は用意されていないようですね……私はここで失礼させていただきます」

「それならば、入口まで使用人に案内させよう」

「結構です、ハマチ様のお力を借りなくても、自分の力で歩いて行けますので」

「そうか……それではな」

「失礼致します……」

「姉さま、そんなに悲しまなくてもいいんじゃないの~~? 別の人見つければいいじゃん~~! なんてね!」


 その後、部屋からは妹のノアの大笑いが聞こえて来た。私は自然と涙が零れている……こんな形で、ハマチ様と別れることになるなんて、誰が想像しただろうか?

 きっと、ハマチ様本人とノア以外は想像すらしていない事態でしょうね。もちろん、私自身も含めてね……。
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