妹と元婚約者が婚約発表をするようなので、現場に乗り込んでみることにしました

2話 家族

「お父様……ノアとハマチ様の婚約の話、ご存知でしたよね？」

「済まない、エイシャ……私としても、ハマチ・ドリル公爵の提案を受けざるを得なかったのだ……」

「お父様……」


　私はアールカートの屋敷に戻り、お父様から話を聞いていた。ノアの言っていた通り、お父様は伯爵でしかないので公爵には逆らえないというのが本音らしい。

　その辺りは私も予想していたけれど、やはりこうなってしまうのね……。

　まあ、お父様に連絡してすぐに覆るような婚約では、ノアがあそこまで自信満々なはずはないからね。ノアは昔から可愛らしく振舞うのが得意だった。実際、姉の私から見ても可愛いのだけれど、お父様やお母様の愛情を歪んで理解してしまったのか、わがままに育ったように思える。

　その最たるものが、今回の一件ね……。まさか、私の婚約者であるハマチ・ドリル公爵を取られるなんて思ってもみなかったわ……。

「エイシャ、本当に申し訳ない。その穴埋めというわけではないが、今度のパーティーに出席出来るようにはしておいた」

「えっ、どういう意味ですか、お父様？」


　お父様の言っている言葉の内容がよく分からなかったのだ。え、どういうことかしら……？


「つ、つまりだな……そのパーティーで新しい相手を見つけて……」

「お父様、私はハマチ様に婚約破棄をされた直後なのですよ？　止めてください……」

「あ……す、済まない」

「いえ……」


　お父様は良かれと思って言ったことなのだろうけれど、流石にデリカシーがなさすぎるわ。


「大変だったわね、エイシャ」

「お母様……」


　そんな時、お父様の部屋に現れたのはお母様だった。私と視線を合わせるなり、いきなり抱きしめてくれる。


「あなたは何も間違ったことはしていないわ。よく我慢してくれたわね……ありがとう」

「お母様……ううっ」


　ハマチ・ドリル公爵の前で感情を爆発していたらどうなっていたか……アールカート家の立場が悪くなっていたかもしれない。それを察知して、お母様は私に礼を言ったのだと思う。私は思わず涙がこぼれてしまった。

「パーティーについては、あなたの気分が晴れた時に出席してくれれば良いわ。でも、前に踏み出す勇気と気力も養って欲しいの。パーティーへの出席というのは、その足掛かりに十分なるでしょう？」

「はい……分かりました、お母様」

「うむ、私の言葉足らずで申し訳ない。お前が出たいと思った時で構わないので、出席を考えてくれるか？」

「畏まりました、お父様……」


　お父様もお母様も、完全に私の味方ではいてくれない。二人の立場を考えれば仕方ないのかもしれないけれど。でも、進むべき道はちゃんと示してくれている。私は二人に感謝し、1日でも早く前に進めるように努力することを決意した。