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居なくなる人だーれだ

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 もう二ケ月経つのかな。オレ、誠って奴と心霊スポットに凸したんすよ。
 あの日、丁度休みの日だったんで誠と亮二でオレんちに集まって呑もうって話になったんすけど。亮二の奴がハライタかなんかおこしたっつって、来なかったんすよね。
 仕方ないから二人で呑み始めたんすけど、一人いないっつう事もあって、盛り上がらないんすよ。暇つぶしに何か動画でも見ようやって事になってあさっている内に心霊スポ凸動画っていうのが偶々おススメに出てきたんすよ。
 大の男が何人かでギャアギャア騒いでるんすよね。くっだらねえなと想いながらも何となく流してたら誠が、
「おい、この近くにも心スポあったよな」っつったんすよ。
 んなもんあったっけ? って思ったんすけど、
「ほら、菱山公園の裏ってに山あんだろ。あの奥上がってくとお堂があってさ、落武者の霊が出るとか婆さんが出るとか噂聞いたぜ。知らねえか?」って言ってきたんでオレも、
「何か聞いた気もするな。それがどうしたんだよ」っつたんすよ。 
 したら、奴が「いや、暇だからよ。今から行ってみねえか」って言うんすよね。
 正直冗談じゃねえって想いましたよ。もう夜中の二時過ぎてんすよ。酒も入ってたし面倒くせえ。
 菱山公園が近いっつったって歩いて二十分くらいはかかるし、そこから山ん中入んでしょ。嫌だなと想ってたらあいつ、
「何だ、てめえ怖いのか」って言ってきやがった。
そう言われたらこっちも黙ってらんないっすよ。
「怖いわけねえだろ。良いよ、行くぞ」つっちゃったんすよね。
 二人連れだって菱山公園まで歩いて行って、そこから山ん中入ったんすよ。
 辺りは真っ暗でね、薄っすら月明りしかない。仕方ないんでスマホの灯かり辿りながら歩きだしたんす。ぶっちゃけ途中で充電きれたらやべえっすよね。
 で、誠の方が先行ってたんすよ。そしたら途中から、
「おい、コッチだよ。コッチ」って前の方から聞こえてくるすよね。
 まあ、真っ暗だし、灯かりも頼りないから誘導してくれてんのかなと思ったんすけど、ずっと言ってんすよね。
「おい、こっちだよ。コッチ、コッチだ」
 前の右の方からですからね聞こえてくるんですよ。流石にやべえなって想って、言いすぎじゃねえかと想って言ってやったんすよ。
「わかったって、もういいよ。そう何度も言わなくたって道は一本道なんだから迷わねって」 
 そう言ったらあいつ、
「あ? あんだよ? 何がうるせえって?」言ってきたんすけど。それ、左側から聞こえるんすよ。でも、さっきからずっと右から声は聞こえてたんすよ。変だなと想ってたらすぐ右の耳元で、
「おい、コッチだよ、コッチ。お前聞こえてるんだろ? コッチだよ」
 明らかにすぐ傍で聞こえてるんすよ。で、誠の奴は、
「おい、どうしたんだよ。何かあったのか? ははは、ビビっちまったのかよ。情けねえ」
 なんっつってんすよ。でもそれではっきりしたんすよ。今、右から聞こえてる声は誠の奴じゃねえって。流石にやべえと想ってたら、どんどんヒートしてって、
「おい、コッチ。コッチ見ろよ。おい、コッチだよ。コッチだよ。コッチコッチコッチコッチコッチコッチコッチコッチコッチコッチコッチコッチ……」
「う、わああああああああ」
 たまらずオレ、思わず声をあげてその声とは逆に逃げたんすよ。そしたら突然、ふっと身体が浮いたかと想うと突然ストンって身体が転がったんす。
 オレ、余りに驚いて気が付かない内に山の斜面の方に逃げてそのまま転がり落ちたみたいなんすよね。
 下まで落ちたら体中ぶつけて傷だらけになったんす、でもどうにか意識はあって上の方をみあげたら、
「おい、大丈夫か」って誠が声上げてるんすよ。でもオレはそっち見て声も上げられなかったんす。いや、痛くてとか怪我したとかでじゃないっすよ。
 月の灯かりに照らされて誠の姿がぼんやり見えたんすけどね、その横に誰か立ってるんす。誰かっていうか、なんっつうんすかね。真っ白い人の影みたいなの。
 真っ暗なんすけど横顔だっていうのは分かるんすよ。見てるんすよ。そいつ誠を見てるんすよ。ヤベえって、誠に逃げろって言いたかったんすけど、声も上げられなかったんす。
 そしたらその白い奴が誠にドンドン近づいて行ってスッと誠の身体ん中に入ったんす。
 それから……記憶が無くって、気づいたら病院に居たんす。
 オレの事は朝、山歩きの爺さんが見つけてくれて救急車呼んでくれたらしいんすけどね。
 親とか皆心配してすぐに駆け付けてくれて、亮二もハライタ治ったらすぐに見舞いにきてくれたんす。
 でも、オレはまず誠の事が心配だったんで、聞いたんすよ。あんな事があったしね。連絡とろうとしたんすけど、あいつスマホでメッセ送っても電話しようとしても出ないんすよ。
 まあ、自分が心スポ誘ったせいでこんなことになったから責められると想ってんのかなって。別にオレはあいつのせいだと想ってないし、純粋にどうなってるか聞きたいってだけだったんすけど。
 だから、亮二にまず聞いたのは誠はどうしてるってことだったんす。あいつ何て言ったと想います?
「誠って誰の事だ?」何て言うんすよ。ふざけるなって話っす。オレら三人中学の頃からの付き合いで進学先変わっても仕事もってからも、何かに付けてつるむ仲だったんすよ。
 冗談にしたって笑えねえってそう言ったんすけど頑なに知らねえって言うんすよ。
「いい加減にしろよ。じゃあ、これは誰だと想うんだ」
 ってオレスマホ取り出してね、前に三人一緒に撮った写真を探そうとしたんです。
 でも、ねえんすよ。カメラロールを探してもねえんすよ。それどころかメッセージアプリの中にもアドレス帳にも入れていた筈のあいつの連絡先が入ってないんすよ。ついにオレ、
「おい、お前マジで誠の事覚えてないのかよ」って詰め寄ったんす。
 けど、亮二は覚えがないって言うんす。それからオレはあいつに話したんすよ。今までの誠との話。それから、そもそも心霊スポットに行くことになった日の話。
 あの日だって三人で呑むことになってお前がハライタになったから来なかったんじゃないかって。
 そしたら、確かにオレと呑む事になってたのは覚えているけど、二人だけの筈だ。誠なんて知らないっていうんす。
 それ聞いてオレどうしていいか分からなくなってたら、亮二が、
「わかった。じゃあ、とりあえずオレもその心霊スポットといわれる場所に様子を見に行ってくるよ」っつってくれたんすよ。あれから時間が経ってるし行っても誠がいるとは思えないんすけど、それで少しでも安心させようとしてくれたんすかね。
 所が、その後亮二と連絡が付かなくなったんすよ。誠と同じようにメッセも電話もかからない。
 ようやく退院してオレ誠の家にいってみたんす。あいつは一人暮らししててアパート住まいなんですけど、その部屋別な人が住んでるんすよ。一応、その部屋の住人に話を聞いたんすけど、昔からそこに住んでるって言うんすよ。おかしいっすよね。
 とりあえず、仕方がないんで今度は亮二んちへ行ったんすよ。亮二は実家住まいなんす。
 何度か遊びに行って知ってます。家族にも会ったことあるんす。だから、間違いない筈なんす。でも、行ったら、無かったんす。
 あいつの家があった場所に知らない人の家が建ってるんすよ。しかも、その家。昨日今日建ったもんじゃないっぽい。でも、明らかにあいつの家と違う。
 オレ驚いて実家に帰って中学の卒業アルバム見たんす。
 そしたら、誠も亮二も載ってなかったんす。で、スマホを確認したら誠だけじゃなくて亮二の連絡先も消えてたんす。
 それから何人かの同級生に聞いたけど、誰も二人の記憶が無いんすよ。どうなってんすかこれ、オレの頭がおかしくなったんでしょうか。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 
 
 佐竹文雄からはそんな話を聞かされていた筈だ。彼は会社の後輩だったのだが、突然入院した。理由は何故か夜中に近所の山へ行った挙句に斜面から落ちてけがをした為だという。
 彼とは机が隣り合っており、昼食休憩の時にも話をする仲だったので、退院してから事情を聞いたのだ。
 妙な話をするなと想ったが、その時は特に気にも留めなかった。
 でも、ある日を境にまた彼が会社に来なくなった。
 それどころか私の隣になった彼の机が無くなっていた。退職したのだろうか。そうであれば会社側から伝えられるはずだが、いつまでたっても何もない。
 しびれを切らして上司に聞いてみた。
「佐竹文雄君は辞めたんですか?」所が返って来た言葉は驚くべきものだった。
「佐竹文雄って誰の事?」
 まるで彼の事を知らないとでもいう様な表情。そんな筈はないと想い、周りの同僚にも聞いてみたが誰もそんな人物は知らないという。
 出勤名簿も見たが、彼の欄は以前から無かった様に消えていた。これは恐怖だった。
 自分が記憶していた筈の人物を皆忘れてしまったのか。或いは私がありもしない記憶を捏造しているの。いずれにしても尋常じゃない状況だ。
 私は混乱しながらも、確かめようと想い彼から聞いていた自宅住所へ向かう。
 表札に出ているのは別人のもの。躊躇いながらもインタフォンを鳴らす。
 ピンポーン。
「はい」インタフォンからは聞き慣れぬ女性の声。
「すいません、あの……」
 私は用件を言おうと想いながら言葉を途切れさせる。
 出ない。尋ねようとしている彼の名前が出ない。私は誰の事を聞こうとしていたんだっけ。誰の何を尋ねようとしたんだっけ。私の無言に耐えられなくなったのか女性が言った。
「あの、何もないなら切りますよ」プツンとインタフォンが切れる。
「……。あれ?」
 言いながら私は辺りを見回した。ここはどこだろう?
 何で自分がこんなところに来たのか思い出せない。 
 私は首を傾げながら帰路につく為の道を探し始めた。
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