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Final Moon 15
しおりを挟む朱羽と沙紀さんが来た。朱羽からこっそりと充電がされているスマホを渡された。
沙紀さんは当主専門らしい。
「あれ、お料理遅いですね。ちょっと見てきます」
沙紀さんがそう言って引き返そうとするから、あたしも下に降りた。
沙紀さんと一緒は心強い。
そう思いながら厨房につくと、そこにはイライラしたシゲさんがいた。
「まだ帰って来ないの!?」
一体何事かと沙紀さんと聞いてみると、今日は当主が中華を食べたいと言われていたのに、材料と調味料が不足していて完成出来ないようだ。
「ありえないわ……。こんな初歩的ミス……」
メイドのひとりを買い物に行かせたが、まだ戻ってこないとのこと。
形になっているのは、とろみのない麻婆豆腐だそうだが、片栗粉がないらしい。
「代用出来る小麦粉は?」
「それが、小麦粉落としてしまったらしくて、すべてないの。それで買いに行かせたら、三十分は帰って来ない」
シゲさんはため息をついて項垂れた。
「ジャガイモはありますか?」
あたしは言った。
「ジャガイモ?」
「はい。片栗粉もデンプンで作られているので、ジャガイモをすり下ろせばとろみが出ます」
「ジャガイモはあるけど……」
片栗粉や小麦粉なんていつも、うちに揃っているわけではない。そんな時にジャガイモがあれば代用する。……ネットサマサマだけれど。
「シゲさん、とろみでました!」
ベテランさんに近く、調理補助を任せられているらしいメイドが声を上げる。
「あと形になっているものは? このキャベツは?」
「豚肉とのオイスターソース炒めの予定なのに、豚肉とオイスターソースがない。午前中まであったのに、他の材料や調味料も……」
どうも、急になくなったのが故意的な気がする。
犯人が一体なにをしたいのかよくわからないが、これは嫌がらせだろう。
「当主はオイスターソース炒めが好きなのにオイスターがない。ウスターソースで代用出来ればいいのに、味が違うし……。ちゃんと在庫を調べておくのが基本でしょう!?」
怒りの矛先を向けられたのは、壷を割ってくれた三人だ。
あたしは、充電が半分のスマホで調べた。
「ウスターソースがあるんでしたよね? 味の素と味噌あります? あ、蜂蜜でもいいようです」
「は!?」
「困った時はネットに頼りましょう。色々な知恵を貸してくれます」
沙紀さんがあたしの指示に従って、ウスターソースをお水で薄め、味噌と味の素を少しずついれて作ってみてくれた。
「ふふ、これならいけそう」
「ご当主に、それでお出しするなど!」
シゲさんは頭を抱えた。
「シゲさん。買い物から帰ってこないのなら、仕方ないじゃないですか。そうだ、あたしが作ったことにして下さい。それなら問題ないでしょう?」
「あなたが、作る?」
「はい」
一人暮らし歴が長いあたしと、
「私も手伝います」
たくさんの弟達を育てたらしい沙紀さん。
「在庫があるもので、それ以外に気に入って下さるものを作るのみ」
ありもので素早く作るのは慣れている。
これはまさしくあたしに出来ることだ。
誰も手伝ってくれなくても、沙紀さんがいる。
だからどこまでも頑張れる気がした。
材料があるのは、トマト、ジャガイモ、カボチャ、人参、ショウガ、卵とネギとレモン、ご飯、調味料は砂糖と醤油とウスターソース。
さあなにをしようか、どんな中華が出来るかと考えていたら、後ろで音とシゲさんの怒声。
「豆腐はこれで終わりなのよ!?」
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
どうやら、麻婆豆腐にしようと取っておいた豆腐を、メイドが落としてしまったらしい。
そうなれば、麻婆豆腐から豆腐を抜いた、挽肉と野菜のみじん切りの具しかない。
「中華……」
あたしはふと、当主が咳をしていたのを思い出す。
「シゲさん、今まで当主はどんなものをお召し上がりに?」
怒れるシゲさんから聞き出したものは、やけに刺激が強いものだ。
「なにか理由あってなんですか?」
「奥様より、ご当主が刺激がある方が元気が出るといわれて」
あたしは沙紀さんと顔を見合わせた。
「当主は、かなり咳き込んでらっしゃいます。そんな刺激物ばかり食べていたら、咳がさらに酷くなりませんか!?」
「しかし……」
沙紀さんが厳しい口調で言った。
「シゲさん。私達はこちらの住人の健康を預かる身です。身体に悪いものは悪いと、提案しなければ。幾ら、この屋敷の長が言おうとも。それで倒れられたりしたら、シゲさん達メイドが責任を取れるんですか!?」
「さ……吾川さん、完全な中華はやめます。いつもそんなお料理なら、気道が疲れてしまうわ。だったら、お腹にも優しく体力がつけれるものを」
別のメイドが飛出して、抗議を始める。
「シゲさんを差し置いて、この生意気な!」
それを受けた沙紀さんが、即座に言う。
「言われるがまましか出来ない輩は黙れ!」
皆が絶句する間、あたしはスマホを取り出し思った料理が出来るか調べた。
「いけそう! まずカボチャを剥くわ」
よし、厨房にはレンジもある。
あたしは、スマホの画面を沙紀さんに見せた。
「ご当主はかぼちゃの煮ものが苦手で……」
「煮物にしなければいいでしょう? かぼちゃはβ-カロテンが粘膜にきくから、風邪をひきにくくします。冬至のお野菜なんだし、かぼちゃかぼちゃしなければいいのでは?」
沙紀さんとかぼちゃの種と綿をとり、小さく切る。
その手慣れた切り方、かなり彼女はお料理が上手と見た。
耐熱皿を用意させた沙紀さんはきったかぼちゃをチンをして、調味料を入れて潰して練ってくれている間に、あたしは沸騰させただし汁にみりんと醤油を混ぜながら、麻婆豆腐になれない麻婆の具を温める。この中には、既にオイスターソースの代わりになる味噌とウスターソースと味の素が入ってしまっている。
味を見ながら味を濃くしていき、沙紀さんが潰して伸ばしてくれたかぼちゃあんで包む。
「すみません、シゲさん。揚げるので油の準備を」
沙紀さんと手のひら大の団子を作り、惚けたようにしていたシゲさんを使って用意した油で揚げて貰う。
その間に、すったショウガを、醤油とみりんを加えただし汁にいれ、揚げたそれを皿によそって上からかける。とろみが足りない分はジャガイモをすって。
量が結構あるから、シゲさんにひとつ味見をして貰って、大丈夫だとお墨付きを貰った。
「缶詰、なにかありませんか!?」
するとさすがは財閥、ツナ以外に、カニとホタテの高級缶詰があった。
「ごま油はありますか?」
「あ、あります……」
「だったら、人参を千切りしてお湯で湯がいて。それをツナと一緒にごま油で和えて、レモンと酢を隠し味にして下さい」
あたしは、ぼうっと突っ立っていた壷を壊した三人に言った。
「え、わ、私達も?」
「当然!! あなた達がやるの! 突っ立ってないで、忙しいのわかるでしょう。はい、やる!」
メイド達はあたふたと材料をとり、そこに沙紀さんが入ってくれた。
「味覇(ウエイパー)が少しだけあったわ!」
棚の奥から見つけたらしく、シゲさんが歓喜の声を出す。
味覇とは、半練状の中華スープの素とでも言えばいいだろうか。これひとつにエキスが詰まっていて伸ばして使うのだが、如何せん量が少ない。
「すみません、それあたしに使わせて下さい。あっさりとしたスープを作って頂きたいんですが、コンソメの素かなにかありますか?」
あたしは卵を割りながら聞く。
「固形なら」
「でしたらそれを溶かして、トマトとキャベツでスープを作って下さい」
「わかったわ。ミホ、マミ。トマトの皮むきを手伝って」
「「わかりました」」
沢山の卵をシャカシャカと箸で混ぜながら、ひとり手があいたメイドを見つけて、ネギを切ってもらい、缶詰のホタテとカニを細かくほぐして貰う。
そしてそれを卵と合体させ、少し擦ったショウガをいれる。
「すみません! ご飯を丸く深めの皿によそって下さい!」
味覇、醤油、ごま油、醤油、酒、砂糖を水で混ぜる。
昔一度だけ作った天津飯。
うまくいくかわからないけれど、柔らかでとろとろのところをはふはふと食べて貰えれば嬉しい。
とにかくもあまりに材料が少なすぎる中で、即席なんちゃって中華で、本当のものからはかけ離れているかもしれないが、幸いにも栄養価の高いものが残っている。
いつも材料費を削って生活し、僅かな時間でちゃちゃっと作れるようになった時、冷蔵庫の在庫を見ながらネットで調べる簡単料理ばかり作っていたのが、役に立ったみたい。
簡単だけれど、手は抜いていない。
朱羽、専務、そしてご当主。
少しでも、疲れた身体を癒やせますように。
「天津いきます!! 出来ているものから運んで下さい!!」
「「「わかりました!!」」」
なんだろうね、切羽詰まった中で皆で働くと、一体感が出たというのか。
本当に嫌なことばかりしかされなかったメイド達だけれど、笑顔で返事をされると、喧嘩していなくてよかったなあなんて思ってしまうんだ。
耐えたからこそ、この瞬間が嬉しい。
「よ~し、とろとろ卵にな~れ~っ!!」
どうだっ!!
凝ったら懲りすぎるこのA型、実はふわふわ卵と黄金チャーハンは何度も練習していたのだ。
「うわあ、陽菜ちゃん美味しそう! 上手!! これはプロだよ!!」
戻って来た沙紀さんに褒められ、あたしは得意満面。
「えへへ。あとはあんをかけて……っと、とろみ忘れていた」
その時、声がした。
「遅くなりました。もう聞いて下さいよ、すべてあの新入りのせいで……」
「はい、スープ運ぶ!!」
シゲさんにお盆を押っつけられ、あたしのせいにしようとしたらしいメイドが、状況を把握出来ずにおかしな声を上げていた。
落とされた袋から片栗粉が見える。
「よかった~、これで完璧!」
とろっとろのあんを作り終えて、すべての天津飯を持ってあたしは沙紀さんと一緒に二階に上がった。
二階食堂――。
静寂な中で、カチャカチャという音だけが広がる。
……おい、感想は? 皆で一生懸命作ったんだよ?
所要時間十五分弱で。
あたし史上最短の複数料理だ。
「お味はいかがでしょうか」
沙紀さんがにっこりしながら聞いた。
朱羽はなぜか真っ赤な顔で目をうるうるさせている。
どうした?
「ははは。いや……なかなかの腕前で。シェフが変わったかな?」
わざとあたしを見る専務。
「いいえ、私が作りました」
シゲさんが前に出て、頭を下げた。
「申し訳ありません、ご当主。トラブルがあり、仰られていたものを作ることが出来なく……」
シゲさんは、あたしを庇おうとしてくれたんだ。
シゲさんがすべて味見をしてOKを出したとはいえ、すべての責任を負おうと。ああ、当主は気難しい顔をして、料理をじっと見ているから。
「すみません、あたしが作りました。お口に合わずにすみませんでした」
あたしは素直に謝った。
材料がないからとか、時間がないから、など言い訳にしか過ぎないことはわかっている。決められた条件で出来ないのは、顧客の信用を得られないのと同じ事。
悔しいけれど。
「いや……、これはなにかな」
「へ?」
当主は、ひとつだけしか残っていない、かぼちゃあんを揚げたものを、箸で突いていた。
それをずっと考えていたのかよ!
「芋でもなさそうだが……」
「あ、かぼちゃです」
「かぼちゃ?」
当主がさらに厳しい顔で言った。
「はい。ご当主はかぼちゃをあまり召し上がらないとお聞きしました。かぼちゃは栄養素がたくさんある、冬至の食物。違う形で是非召し上がって頂きたいと。風邪の予防になりますし、さきほども咳が辛そうだったので、体力をつけて欲しいと思いまして」
「………」
「シゲさんから、当主が召し上がられていたものが刺激の強いものばかりであったことを聞き、ちょっと不安を感じました。確かに元気は出るでしょうけれど、胃腸が悲鳴を上げるのではと。さらにカロチンの栄養素も少ないでしょうから、差し出がましくも少しでも身体にいいものをと、作らせて頂きました」
場はしーんと静まり返っている。
え、おかしなことを言ったかしら。
「当主のためだそうです」
専務が笑った。
「専……渉さんも朱羽……さんもお疲れでしたので、少しでも元気になって頂ければ、作った甲斐があります」
「陽菜」
朱羽があたしを見た。
「凄く美味しかった」
ふわりと、誰もが魅了されるその笑みで言われると、本当は飛び上がってやったー!と叫びたいけれど、そこを堪えて、ちょっと気取る。
「ありがとうございます」
「シゲ。やらせたのか、彼女に」
やばい、当主の声は固い。
お口に合わなかったんだ!
シゲさんが深々と頭を下げた。
「申し訳ありません」
「あたしの方こそ、申し訳ありませんでした!!」
「いや……ふたりとも謝る必要がない。確かさっき陽菜さんはここに来た。それから作ったのか? こんなに?」
「は、はい。あたしだけではなく、皆で作りました。初めてのことなのに、皆不平を言わずに協力してやって下さったから、なんとかこれ以上お待たせすることなくお持ちすることが出来ました」
「協力……うちの使用人が、か?」
「はい」
当主は深く考え込む。
「陽菜さんは調理師か栄養士か医者の資格があるのか?」
「いいえ、とんでもない」
「ではなぜここまで出来る?」
「スマホです」
「は?」
「困った時のスマホ様です」
「なんだね、それは」
思い切り、奇妙なものを見る顔をされた。
「スマホでネットを見るんです」
「どちらも意味がわからない」
そこからあたしの説明が始まった。こんなこと、顧客に説明していたから慣れているけれど、まさか財閥の当主に説明する日が来ようとは。
「……と、こういうものです。これはあたしより、朱羽さんの方が得意です」
「なんと。そうなのか」
「……陽菜より、というのは語弊があるでしょうが、そういうように見れるものを作るのが好きです」
「……む。作る、と。では今居るシークレットムーンは、そういうことをする会社なのか?」
いまさらかよ!
まあ、興味も無かったんだろうけれど。
「はい。陽菜がスマホで見ていたこういうページを作ったり、もっと機械を便利にするプログラムを作ったり」
「お前、そういうことが出来るのか!?」
「はい、一応は」
当主は考え込み、そして専務を見た。
「お前も知っていたのか」
「はい。シークレットムーンを統括してますから、なにをしているのかは把握しています。月代さんの専門分野に特出した会社です。今は、こうして見るだけではなく、スマホに聞けば声で教えてくれる時代です」
「な……」
もしかすると、シークレットムーンの優位会社の忍月コーポレーションのトップは、機械の仕組みについて、そして朱羽の勤める会社について、詳しいことはなにも知らないのではないだろうか。
スマホを知っていても、電話以外に出来る機能を知らなかったのではないだろうか。だとすれば、パソコンに限ってはどう進化しているのか、わからない……とか?
「ご当主。お孫さんに教わってみたらいかがでしょう」
もっと、当主との会話を。
「朱羽さんも渉さんも詳しいですし、私や沙紀……吾川さんもお教えすることが出来ます。よろしければ、四人でいかがですか?」
「ふ、ふむ……」
お、拒絶しない?
朱羽と専務は嫌そうな顔をしているけれど、大切なのは当主と同じ場所で同じ空気を吸うということで、あとの説明なんてあたしと沙紀さんがしていればいいんだし。
もっと、孫のことを知って貰わないと。
「ご当主。温かいものをお持ちしますか?」
シゲさんの声に、当主は軽く頭を横に振った。
「いいや。冷めたのが気にならない。シゲのも美味いが、中々に陽菜さんのも美味い。お前達の分もあるのか?」
「はい、大目に作っております」
「ならばよかった。正直胃も疲れていたから、このとろとろが美味いなあ。ショウガも身体が温かくなる」
……もしかすると、当主に必要だったのは身体に優しい料理ではなくて、孫のことを知れる場所ではなかったのだろうか。
欲しかったのは、普通の家族……?
嬉しそうに、美味しいと連呼する当主。
年老いてひとの情に目覚めたのだろうか。
……朱羽達の心情を考えたら、当主の自分勝手な心境の変化に、なんとも複雑になってしまった。
「本当に申し訳ありませんでした!!」
シゲさんが深々と頭を下げて謝罪する。
それは、あたしを外に拉致させ、夕食が駄目になるのもすべてあたしが裏で暗躍していたせいにしようとしていたメイド達の陰謀が、露見したからだ。
そこまであたしは、生意気で妬ましい存在であったらしい。
メイドの一部は歯っ欠け男に頼み(美幸夫人のせいにして)、
一部はあたしを外に出すための意地悪をして(裏で笑ってたんだよ、きっと)、
一部は使う食料をゴミに捨て(ゴミを捨てているのは、あたし見ていたのに)、
一部は買い物に時間をかけて間に合わなくさせて(しかもシゲさんが頼んだものは完璧じゃなかったみたい)。
その計画が狂ったのは、あたしが早い段階で外から戻ってきたからのようだ。
いないはずのあたしが居て、しかもあるもので料理をしていたなんて、誰も予想することも、あたしのせいにすることも出来ずに、シゲさんに怒られる羽目となった。
あの時、シゲさんとともに厨房に居たメイド達は、シゲさんに怒られる前に、あたしの袖を引いて、意地悪をしたことを頭を下げて謝ってくれた。
――ありがとうございます。黙っててくれて。だけど、良心の呵責を感じるから、告発させて下さい。
あたしに謝り、それを暴露した上で、それ以外のメイドと共にシゲさんに怒られている。あたしが慌てて止めるほどに。
……この世には、生まれながらの悪人はいないと思うんだ。
確かそれは性悪説と言ったっけ。その反対の性善説をとるほど、人々があたしにしてくれたものは、善良だけではなかったから、その中間。
人間はどこか歪で不足して、不完全な存在だと思うんだ。
だからこそ、自分のないことをするひとを嫉み、僻む。
他者を寄せ付けない完璧な人間はいないから、誠意と真心で全身全霊で頑張れば、通じるものだと思う。通じない人間はいない。
それはメイドも、美幸夫人も、当主も。
ベストを尽くせばなんとかなる。
別に料理を買って出たのは、メイド達に尊敬されようとしたわけでも、料理に自信があったわけでもない。
やはりそこは連帯責任、出来ることは全力で協力したいと思ったからだ。
その自覚に欠けていたメイド達に、なにか訴えかけることは出来たらしい。まあ、至極必死だったからね、凄い形相して料理をしていたと思うけど。
シゲさん曰く、こうして殊勝な態度で一同がまとまるのは、初めてのことらしい。
――それだけ、一番の新人のあなたが必死にしていることを、やろうとしなかった自分の未熟さに、各々思うところがあったのかしらね。
もうひとりのベテランさんのタエさんがいない。
――あのひと、いつも気づいたらいなくなるの。まあ持病もあるから無理は出来ないのだけれど、古参だから扱いづらい。
沙紀さんを含めて皆で食べる夕飯。
かぼちゃ揚げがなぜか半分近くなくなってしまい、ひとりふたつずつしか食べられなくなったアクシデントもあったけれど、シゲさんに宣言された。
――陽菜さんを認めます。
誰もに拍手された。
くたくたになって、ようやくあたしは、この屋敷の入り口を入れた気がする。権力を振りかざさなければひとはわかりあえると、理解できないことはないという、自信をつけられた気がする。
心を開いて貰えたからあたしは聞けるんだ。
「ねぇ、美幸夫人のことを教えて貰いたいの」
忘れてはいけない、夫人の情報収集に。
沙紀さんでも聞けなかった、夫人の隠されたものを。
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