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第4章:ふたりの想い、消えゆく笑顔
174話
しおりを挟む眼鏡越しに大きく瞳が開かれると、殺気を含んだ表情で睨んでくる。
単純なのか、馬鹿なのか面白いくらいに挑発に乗ってくる奴だと思った。
(それだけ俺に対して素直に感情が出せるなら、言いたいことを直接言いにくればいいものを…)
不満をぶつけてくる訳でもなく、文句を言ってくる訳でもなく、ただ睨んでくるだけなのが一番面倒くさい。
言う勇気がないのなら最初から感情を出さないでほしい。
はっきり言って目障りだ。
睨んでくる呉橋から視線を逸らすと、背中に呉橋の視線を感じながら前を歩く七瀬に続くように歩き始めた。
門から屋敷の入り口までは大体100メートルと言った所だろう。
龍司の手を引きながら、後ろを振り返ることなく歩みを進める七瀬は、どうやら呉橋の殺気の含んだ視線には気づいてないらしい。
屋敷の外観と同じ白のインターロッキングが敷き詰められた地面には、一切の土汚れがない。
綺麗に手入れが行き届いている証だ。
周りを見渡せば、一般住宅では見られないようなイルカのオブジェが飾られた噴水が設置されていて、規模の大きさに驚きつつ噴水を見上げる。
20m近くはあるだろう大きさは、住宅に設置するには大きすぎる噴水だ。
そして、中央にあるイルカのオブジェの高さは10m程だろうか。
水面から飛び跳ねた神秘的なイルカの姿をそのまま再現したような噴水の美しさに、感心さえしてしまう。
漸く屋敷の玄関にたどり着いたようで、七瀬は持っていた鞄からカードキーを取り出し、玄関扉の隣のすぐ傍に取り付けられている機器にカードキーをスライドさせる。
ピピ!と短い解除音が鳴り、扉が開いた。
「どうぞ、お入りください!龍司様」
扉を押さえ、龍司に屋敷の中に入るように促して来た七瀬に相槌を打って中に入る。
玄関に足を踏み入れれば、お洒落で凝った造りをした屋敷内の内装が視界に映った。
呉橋に屋敷に来ない様に言っていたことを考えると、今屋敷の中には龍司と七瀬以外誰もいないのだろう。
少しだけひんやりする屋敷内に人の気配はしない。
玄関先に用意されたスリッパを履いて、先を歩く七瀬の後を付いていく。
長い廊下を歩いていくと、20畳程の広いダイニングの部屋へたどり着いた。
部屋は余計なものは置いておらず、綺麗で広々と片付いた部屋だ。
はたから見れば整理されていて綺麗だと感じるが、違う目線から見れば殺風景にも見える。
部屋は1階から3階まで吹き抜けになっていて、3階の天井にはシャンデリアが備え付けてあり、七瀬が好きそうなこだわりのある家だと思った。
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