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奪われたファーストキス
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「んっ、んんっ……はっ……はぁっ、はぁっ」
「お前……キス下手だな。鼻で息しないと苦しいだろ」
ちゅっと音を立てて、碧はようやく唇を離した。解放された波音は、思いきり息を吸い込んだ。碧の口調は、波音の下手さに呆れた感じだが、その顔は少し嬉しそうだった。嫌がられているというのに、なぜ喜べるのだろう。
「だ、だって……したことないっ」
「……え」
「結局……私のファーストキスっ……奪ったじゃないですかぁ……!」
「は? 嘘だろ……お前いくつだよ?」
「に、二十四ですっ」
碧も、これが波音のファーストキスだとはさすがに思っていなかったらしい。目を瞬かせ、動揺している。泣き出した波音の手をそっと放し、シャツの中からも手を引き抜いた。
「その……悪かった」
いくら強引で不遜な碧でも、謝ることができるのだ。そのことに驚いて、波音は僅かな間だけ泣き止んだ。ほとんど力の入らない手で、碧の胸をぺちっと叩く。
「か、返してくださいー! 私の、ふ、ファーストキス……」
「いや、それは無理だろ……。さすがにキスまで未経験とは思ってなかった。っていうか、海岸の件も含めれば、どっちにしても相手は俺になってたし」
「あれはっ……カウント外、です! 碧さんも、言ったじゃ、ひっく……ないですか」
「前言撤回だ。お前の初めての男は俺ってことにしておけ」
「ひっ、ひどい!」
どこまでも身勝手な考え方。そもそも、碧は女性をなんだと思っているのか。納得のいかない波音がすすり泣きを始めると、碧は波音の頭と頬を、宥めるように撫でた。
せめてもの償いのつもりだろう。それなのに、波音の心臓はドキドキと鳴るのだから、うるさくて仕方がない。
「だ、誰にでも、こういうこと、するんですか?」
「……別に。ただ、さっきは、ちょっとムラッときたからというか……」
「馬鹿っ! 変態っ! やっぱり、誰でもいいんじゃないですか!」
「ちがっ……違う! 俺だって、襲う相手くらい選ぶに決まってるだろ!」
力一杯に否定され、波音はびくっと肩を揺らして黙った。碧はなぜ、焦っているのか。
(私だから、ちょっかいを出したってこと……?)
遊び人だと思われたくないのか、海色の瞳が熱を帯びたまま波音を見つめる。その必死さを考えれば、確かに嘘ではないようだ。波音は静かに頷いた。
「襲おうとしたことは……謝る。今日はもうこのまま寝るか?」
「……はい」
「分かった。風呂は明日入ればいい。ゆっくり休め」
碧は波音の上から退き、薄手の毛布を掛けてくれた。その表情から、今何を思っているのか読み取ることはできなかったが、碧は優しく波音の頭に触れて、一階へと去って行く。
襲ってきた時とは比べものにならない、壊れ物を扱うような触れ方に、波音はもう一度、胸をときめかせた。
(おかしい……おかしい! 襲われかけたのに……!)
きっと今は、感情が暴れて混乱しているせいで、心臓の制御がうまくできていないのだ。波音はそう思うことにし、毛布を深く被り、膝を抱えて丸くなった。
「お前……キス下手だな。鼻で息しないと苦しいだろ」
ちゅっと音を立てて、碧はようやく唇を離した。解放された波音は、思いきり息を吸い込んだ。碧の口調は、波音の下手さに呆れた感じだが、その顔は少し嬉しそうだった。嫌がられているというのに、なぜ喜べるのだろう。
「だ、だって……したことないっ」
「……え」
「結局……私のファーストキスっ……奪ったじゃないですかぁ……!」
「は? 嘘だろ……お前いくつだよ?」
「に、二十四ですっ」
碧も、これが波音のファーストキスだとはさすがに思っていなかったらしい。目を瞬かせ、動揺している。泣き出した波音の手をそっと放し、シャツの中からも手を引き抜いた。
「その……悪かった」
いくら強引で不遜な碧でも、謝ることができるのだ。そのことに驚いて、波音は僅かな間だけ泣き止んだ。ほとんど力の入らない手で、碧の胸をぺちっと叩く。
「か、返してくださいー! 私の、ふ、ファーストキス……」
「いや、それは無理だろ……。さすがにキスまで未経験とは思ってなかった。っていうか、海岸の件も含めれば、どっちにしても相手は俺になってたし」
「あれはっ……カウント外、です! 碧さんも、言ったじゃ、ひっく……ないですか」
「前言撤回だ。お前の初めての男は俺ってことにしておけ」
「ひっ、ひどい!」
どこまでも身勝手な考え方。そもそも、碧は女性をなんだと思っているのか。納得のいかない波音がすすり泣きを始めると、碧は波音の頭と頬を、宥めるように撫でた。
せめてもの償いのつもりだろう。それなのに、波音の心臓はドキドキと鳴るのだから、うるさくて仕方がない。
「だ、誰にでも、こういうこと、するんですか?」
「……別に。ただ、さっきは、ちょっとムラッときたからというか……」
「馬鹿っ! 変態っ! やっぱり、誰でもいいんじゃないですか!」
「ちがっ……違う! 俺だって、襲う相手くらい選ぶに決まってるだろ!」
力一杯に否定され、波音はびくっと肩を揺らして黙った。碧はなぜ、焦っているのか。
(私だから、ちょっかいを出したってこと……?)
遊び人だと思われたくないのか、海色の瞳が熱を帯びたまま波音を見つめる。その必死さを考えれば、確かに嘘ではないようだ。波音は静かに頷いた。
「襲おうとしたことは……謝る。今日はもうこのまま寝るか?」
「……はい」
「分かった。風呂は明日入ればいい。ゆっくり休め」
碧は波音の上から退き、薄手の毛布を掛けてくれた。その表情から、今何を思っているのか読み取ることはできなかったが、碧は優しく波音の頭に触れて、一階へと去って行く。
襲ってきた時とは比べものにならない、壊れ物を扱うような触れ方に、波音はもう一度、胸をときめかせた。
(おかしい……おかしい! 襲われかけたのに……!)
きっと今は、感情が暴れて混乱しているせいで、心臓の制御がうまくできていないのだ。波音はそう思うことにし、毛布を深く被り、膝を抱えて丸くなった。
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