エロゲ世界に転生したが、俺は平凡な青春を過ごしたい。

1部：1年生

第7話

気づけばもう梅雨の季節。時間の経過が早いな、なんて思う今日この頃。

(あれ隣に住んでる斉藤さんじゃね。びっちゃびちゃに濡れてるけど)

帰り道の途中にあるカフェの軒先で、雨宿りをしている隣人の斉藤さんを発見した。斉藤さんは白シャツを着てて、今めっちゃ下着が透けてカフェの前を通る色んな人から視線を受けまくってた。さすがに斉藤さんも少し恥ずかしがっていたが、隠す気はないようだ。

(シャツ濡れたらブラも透けるよな…薄ピンクのレース系か。なんか普通だな)

さすがに若い子が下着透けてる上で、こんなに通行人からじろじろ見られながら雨が止むの待ってるなんて可哀想すぎる。今日の降水確率は60%で夕方からはずっと雨が降るって天気予報で言ってたから止むことはなかった気がする。

(まあ家も隣だし、傘貸すくらいならエロゲ展開も起こんないだろ。もうラッキースケベは怒ってるわけだし。さすがにないだろ)

とりあえず、通行人の視線から救うべく斉藤さんに話しかける。

「あの、斉藤さん。よかったら一緒に帰りませんか」

「和樹くんじゃん！！いいの！？私大学に傘置いてきちゃって、雨に降られてこんなことになっちゃって…一緒に帰ってくれるの本当に感謝！」

なんで雨予報だったのに大学に傘置いてきたのか謎すぎる。帰る時は降ってなかったから置いてきたんだろうけど、折りたたみくらい持っとけばいいのに。いや、折りたたみを置いてきたのか？推測をいろいろしてみたけどなんで傘を置いてきたのか意味不明だ。ていうか、パソコンとか大丈夫なんだろうか。そっちの方が俺的には心配だ。

「本当に助かるー！てか由奈って呼んで、って言ってるじゃん！」

「濡れたまんまだと冷えると思うんで、早く傘ん中入ってください」

相合傘なんて小学生のとき以来―とか言って斉藤さんは俺の傘の中に入ってきた。一応これ以上濡れて、風邪をひかれてもなんかいやなので斉藤さん側に傘を傾けてた。そのせいで俺は濡れるけど、カバンの中の濡れて困るものとかはビニールに入れて保護しているし大丈夫だろって思う。

「和樹くんってやっぱ優しい」

「え、なんでですか」

歩き始めて突然そう言われた。なんか攻略ポイントあったか？俺的には何もポイントを稼いでないと思ってるんだけど。

「だってー、まず由奈の歩く速度に合わせてくれてるじゃん。それに由奈が濡れないように傘傾けてくれてるせいで、和樹くんの肩とかカバン濡れちゃってるじゃん。それに車が通った時に水跳ねないようになのか危ないからかわかんないけど、車道側歩いてくれてるじゃん。前付き合ってた彼氏、こんなに気利かなかったー」

(やばい、無意識でやってたことが好意的に受け止められている！！)

「それはきっと前の彼氏さんが斉藤さ、由奈さんに合わなかっただけですよ」

斉藤さんと呼ぼうとしたらめっちゃガン見されて、思わずまた名前呼びしてしまった。こうしてポイント稼ぎまくっているせいで、めちゃくちゃ斉藤さんからの好感度が上がっているにきっと違いない。俺はなんも狙ってないんだけどな。どうしてなんだ。

「えーそんなことないよー。やっぱ和樹くんはいい男だなー」

褒められるのは嬉しいが、エロゲキャラに褒められてもそういう展開になる気しかなくてあんまり嬉しい気分になれない。ようやく住んでいるマンションについて、ほっと一息ついた。

(道中に車が来て轢かれそうになって抱きしめたりする、みたいな展開起きなくて良かった)

俺は相合傘だけする、というミッションを終えホッと息をつく。

「じゃあ、これで。雨に濡れて体冷えちゃってると思うんで、風邪とか気をつけてくださいね。ゆっくりお風呂とかにつかってよく寝てくださいね」

「え、和樹くん、心までイケメンなの。やぱ」

エントランスでも傘の水気をきったが、改めてバサバサして水気を取る。ついでにちょっとびしょびしょになったカバンの水気を払う。鍵を出して家に入ろうと思うと、さっきからずっとカバンをガサゴソと漁り続けている斉藤さんが気になった。これは、もしかしてがあるパターン？

「え、やば、鍵落とした…？」

俺は聞こえなかったふりをして、家に入ろうとした。だってこの世界はエロゲ展開が当たり前なんだから、絶対家泊めてってなるやつじゃん！！

「ね、ねぇ和樹くん…一晩だけ和樹くん家に泊めてくれない？由奈にできることだったら何でもするから！ご飯とか作れるし！…それに和樹くんならえっちなお願いも聞くよ？」

「えっちなお願いとかそういうのは一切いらないんで大丈夫です。一晩だけならどうぞ」

びしょ濡れで困り顔の女子大生を放置して、家に帰るなんておっさんの俺には到底できることじゃなかった。