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1巻
1-1
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「今、なんと仰いました? もう一度言っていただけますか?」
聖女ルイーゼは困惑した面持ちでニック王子に聞き直した。
まだそんなことを心配する年頃でもないのに、加齢で耳が衰えてしまったのだろうかと聴覚の不具合を疑ってしまう。
それほどまでに、彼の言葉は衝撃的だった。
間違いであってほしいというルイーゼの願いは、何度も聞き返されて、不愉快そうに椅子の上でふんぞり返るニックによって見事に打ち砕かれる。
「だからキミ、聖女やめていいよ」
聞き間違いではない。聴覚は大丈夫だったが、それで問題が解決したわけではなく――むしろより大きくなったと言える。
王国の外れにある『魔窟』。一見するとなんの変哲もない小さな洞窟だが、そこは魔物に力を与える根源である。放っておけば周辺の魔物は本来の力を取り戻し凶暴化してしまう。
それを防ぐために聖女と呼ばれる役職がこの国には存在している。
今代、封印の守り手である聖女の任を担っているのが彼女――ルイーゼだ。
聖女をやめていい。それはつまり後任を探せ、ということに他ならない。
聖女なくしてこの国は存続できないからだ。
「お言葉ですが、私はまだ任期を全うしていません。後任の選抜まであと三年ほどの猶予が――」
「後任など不要だ」
「……え?」
「僕は全部分かっているんだ。魔窟の封印なんて初めから必要なかったんだろ?」
「な、何を言っているんですか!」
ルイーゼは眉をひそめる。
幼さを残した顔立ちと、百五十をなんとか超えるかという上背に、女性らしさの感じられないすとんとした体形。顔立ちは整っているほうではあるが、痩せていてどことなく不健康な印象だ。
そんな彼女が睨んだところで、ニックは怯みもしない。
「これを見てもまだ虚勢を張れるのか?」
ルイーゼの足元に投げられたのは、聖女不要説を提唱する書籍の数々だった。
面白半分に揶揄するものから魔物による被害と聖女の因果関係の薄さを指摘したものまで。内容に多少の差異はあれど、どれも一貫して『聖女は必要ない』ことを声高に叫んでいた。
「国王陛下は、なんと仰ってますか」
「父上からは僕に一任すると許可を頂いている。ほら、委任状」
「よく見せてください!」
ぴらぴらと見せびらかされた書類には確かに国王陛下の判が押されていた。しかし、肝心の内容がここからでは分からない。しっかり確認しようと手を伸ばすが、騎士に阻まれてしまう。
「不敬だぞ。それ以上近付くんじゃない」
ニックも、騎士も、彼を取り巻く貴族も。まるでルイーゼが犯罪者であるかのように白い目を向けていた。
もちろん誰も口に出さないが、目は時に口よりも雄弁だ。
「祈りを止めれば、魔物が活性化して国が滅びてしまいます!」
強い口調でルイーゼは言い切った。
今、この国が平和を謳歌できているのは、ひとえに聖女の力あってのものだ。
ひとたび魔窟の封印が解ければ……どうなるかは火を見るよりも明らかである。
「ふん。足が震えているぞ。化けの皮が剥がれてきたな」
「……違っ、私は!」
慣れない場所にいきなり呼び出され、見知らぬ人々に――しかも全員が自分の存在を否定している――囲まれれば、誰だってこうなる。
そんなルイーゼの心境など誰も慮ってくれない。すべて、自分たちの都合のいいように解釈される。
「聖女の地位と名誉を失うことがそんなに怖いのか?」
(違う、そうじゃないのに……なんで信じてくれないの!)
祈りを怠ってはならない。
当たり前の話をしているだけなのに、誰もルイーゼの話を聞こうとはしない。
(どうすればみんな信じてくれるの?)
これだけの人数を納得させられるほどの弁を、短時間で思いつくはずがない。
偶発的に何かを閃いても、口達者な王子に論破されて終わりだ。
言いあぐねるルイーゼに、ニックは宣言した。
「この際だからはっきり言おう。ルイーゼ、聖女はただの無駄飯食らいだ。古き習わしを悪用して税金を搾り取り、自らを肥え太らせる――醜い豚だ」
「――え」
「この国で聖女を必要としている者など誰もいない。王族しかり、貴族しかり、国民しかりだ」
「……」
「何度でも言わせてもらおう。聖女など不要だ」
――音が、聞こえた。
あらゆる悩みを断ち切り、すべてを解放する心地よい音だ。
その音は――まあ要するに、ぷつん、という何かが切れる音だ。
それと共に、全員を満場一致で納得させる極上の案が、天からぽろりと零れ落ちた。
聖女の力を信じてもらえないなら、信じざるを得ない状況にすればいい。
「ふ、ふふ……あはははは」
「何がおかしい? 嘘がバレて気でも触れたか?」
「王子。聖女など不要と仰るなら、こういうのはどうでしょう?」
ルイーゼが提案したのは、一週間祈りを止めることだ。
「一週間で何も起きなければ、私はいさぎよく聖女をやめます」
しかし、どこかの時点で大きな変化――魔物が暴れ始める、など――が起これば王子は非を認め、ルイーゼに謝罪する。
普通であれば、ルイーゼの立場からこんな申し出はできない。だが――ニックが相手であれば話は別だ。彼はこういった戯れめいた賭け事が大好きだと風の噂で聞いたことがある。
予想通り、ニックは面白そうな表情を浮かべた。
「ほう――たった一週間でいいのか?」
「ええ」
「不正を働かないよう、その間は君の身柄を拘束させてもらう。構わないな?」
「もちろんです」
唇を歪めて笑うニックに、ルイーゼは冷笑を返した。
立場も境遇も違う二人だが、今、この瞬間だけは全く同じ考えに至っていた。
一週間後が楽しみだ、と――
二日目
ここスタングランド王国は、聖女が祈りを捧げることで災いから逃れ繁栄してきた。
聖女なくして、今日の隆盛はあり得なかっただろう。
しかし――現代になり、その存在を疑問視する声は多い。
あらゆる技術が発展した今日、聖女に存在意義はあるのだろうか?
仮に魔物がどれだけ暴れようと、屈強な冒険者や王国騎士がいれば国民に被害が及ぶとは考えられない。
建国黎明期。まだ国力も弱かった時代には、もしかしたら本当に必要だったのかもしれない。
しかしそれは封印の守り人としてではなく――偶像としてだ。
我々は神に守られた信徒。
聖女はそのために天から遣わされている。
人類は繁栄を約束されている。
魔物など恐れるなかれ――と。
だから聖女には男女問わず目を引くような、見目麗しい女性が必ず選ばれる。
結局のところ、祈りに封印の効果などないというのが最近の有力な説だ。
栄華を誇る現代において、聖女などという偶像はもはや不要なのだ。
▼
朝の過ごしかたは人それぞれだ。商人は品出し、農家は水撒き、冒険者は仕事の確保。
聖女はもちろん――――祈りだ。
「……」
ベッドから起き上がったルイーゼはするりと服を脱ぎ、清潔な布で身体を清めていく。
身体が汚れていると祈りの効果が薄れてしまう――なんてことはない。
言うなればこれは聖女流の精神統一だ。身体の汚れを拭い落としながら、人としてあって当然の邪念を払い落としていく。
役目を授けてくださった神への感謝と、連綿とこの国を守ってきた歴代の聖女への礼賛と、魔なる者への憐憫。
それらで頭を満たしてから、法衣――聖女の正装で、特別な効果はない――を着用する。
膝を折り、魔窟の方角に向かって頭を垂れてから、静かに両手を合わせ――
「って、違う違う! 祈っちゃダメ!」
――ようとしたところで、ルイーゼは我に返った。
昨日から数えて一週間、祈りを捧げないと誓ったのだ。
魔窟の脅威を人々に思い出してもらい、聖女の必要性を改めて説く。そうしなければ、この国は滅びてしまう。
腹立たしいニックへの意趣返しももちろんあるが、大枠の目的はそれだ。
そう決意したはずなのに、ぼんやりと目を覚ますと祈りを捧げようとしてしまった。昨日の夜も、入浴後の流れで危うく祈りそうになったところだというのに。
習慣というものの恐ろしさを、ルイーゼは改めて実感していた。
「まあ、七年も聖女やってたらこうなるよね」
ぽつりと独りごちる。かつてのルイーゼは男爵家の三女という微妙な位置に生まれたこともあり、両親から一切の期待を受けず漫然と日々を過ごしていた。そんな自分が突然聖女に選ばれ、早七年。時間というものの流れを実感してしまう。
「とにかく、聖女の祈りがちゃんと魔物を封じているって分かってもらうまでは祈らない、絶対!」
ルイーゼは両手を握り締め、決意を新たにした。
今、ルイーゼがいる場所は自室ではなく、貴族専用の牢だ。そのため、そこそこ室内は綺麗に整っている。てっきり普通の牢屋に入れられるのかと思っていたのだが、ニックの粋な計らいだろうか。
――否。絶対に違う。
まともに言葉を交わしたのは昨日が初めてだったが、性格はなんとなく掴めた。彼は自分が成り上がるためなら躊躇いなく他者を蹴落とすことができる人間だ。
聖女を馬鹿にしていたあの男が、そんな細かなことに気を回すとは思えない。
これはおそらく彼なりの嫌がらせだろう。
幽閉中はあえて丁重に扱い、祈りの無用さが確定すれば一気に貶める。それを見て愉悦に浸る顔が簡単に想像できてしまう。
聖女は代々、『継承の儀式』という特殊な方法で技を受け継いでいく。過去の聖女の記憶を追体験するもので、たった一週間で聖女として必要な技能を得ることができる。
面倒な修行は必要ないものの、代償として儀式の最中は耐え難いほどの苦痛に見舞われる。
その際、聖女の技とともに魔窟の基本的な知識も習得できる。
叩き込まれた知識によると、祈りを止めてから二十四時間が経つと、段階を経て魔窟は力を取り戻していく。
第一段階――魔物の増加。
第二段階――魔物の変化。
第三段階――魔物の強化。
第四段階――魔物の多様化。
第五段階――魔物の進化。
第六段階――災厄の時。
実際に第六段階になったのは、はじまりの聖女の時代にまで遡る。
それ以降、百年近くにわたり第一段階すら解けたことはない。
歴代の聖女たちが守り抜いてきたこの国を、ルイーゼは一時の感情で危険に晒そうとしている。先代の聖女がまだ存命であれば、杖で死ぬほど辛い折檻を受けるだろう。
しかし……どうしても許せなかった。
ニックのあの言葉は、命を賭してこの国を守ってきた聖女全員への侮辱だ。
ルイーゼ個人への悪口であれば、いくらでも聞き流せた。愛想が悪い、幸薄そうな顔をしている、動きが鈍い、胸が小さい。そんなことは言われ慣れているし、好きなだけ言わせておけばいい。
しかし……聖女が不要だと言われてはさすがに黙っていられなかった。それを認めてしまえば自分だけでなく、歴代の聖女たちが重ねてきた努力をも否定することになってしまう。
それだけは見過ごすことができなかった。
もちろん、ニックへの個人的な恨みもある。ほぼ初対面であそこまでこき下ろされても笑顔でいられるほど、ルイーゼは聖人ではない。
「見てなさい王子……絶対、後悔させてあげるわ!」
第六段階になれば取り返しのつかないことになる。
その前に祈りの重要性に気付いてもらわなければならない。
結局他人任せになることを歯がゆく思いながら、ルイーゼは願った。
「できるだけ早く気付いてもらえますように……」
▼
「王子、ニック王子」
「ん……」
「おはようございます。朝食のお時間でございます」
いつものように、ニックは執事の声で目を覚ました。
「あと五分……」
「王子、いい加減にしてください。これで三度目です」
「ああもう、分かった……」
執事に揺さぶられ、渋々……といった調子でニックはベッドから這い出た。
彼がこれほど眠気に襲われている原因は、ルイーゼだ。
彼女を牢に閉じ込めてから不正が行われないよう、ありとあらゆる手を尽くしていた。
ニックはあまり根を詰めて仕事をするような人間ではないが、これで自分の進退が決まるとなると話は別だ。
聖女の追放。
この成否で、彼が兄たちを出し抜いて王となるかが決まると言っても過言ではない。
「朝食後に教主様との面談です。長丁場になりそうですので、それ以外の予定は外してあります」
教会――聖女を信仰し、彼女にまつわる行事を取りまとめる役割も担う組織だ。聖女を政に利用しないため、王政からは独立している。
聖女のための管理組織――つまり、ルイーゼの活動はすべて教会を通して行われる。
それを完全に無視して彼女を直接呼び出し、追放を宣言した。
教会が激怒するのは当然だ。
これから何を言われるか……考えただけで胃の奥にズシリと重たい何かがのし掛かってくる。
しかし――ここで引く訳にはいかない。
(あの女一人を追放すれば相当な金が浮く。その功績をもってすれば、僕が王になることは十分に可能だ)
夢にまで見た王座への道筋。そこを突き進むには、教会の長である教主との会談は避けて通れない。
「見てろ無能女。一週間後、絶対にこの国から追い出してやる」
ニックにとっては多少危ない橋を渡ることになるが、だからこそやる価値がある。
(この案を出してくれた『あいつ』には、本当に感謝しなければならないな)
「聖女の監視役は?」
「ちょうど腕利きの騎士が国外任務から戻って参りましたので、彼を常駐させることにしました」
万が一おかしな行動をすれば即刻取り押さえ、そのまま裁判にかける。
おかしな行動をしなくても……その時はまた別の策を用意している。
聖女がどんな手を使おうと、追放を免れることは不可能だ。
「そういえば、ルイーゼが祈りを止めてからちょうど一日か」
ニックは窓の外から、のどかな街並みを見下ろした。
「何も起きるはずがない」
冒険者
この大陸には、冒険者と呼ばれる職業が存在している。
他大陸から人間が移住した当初は未開の地だらけだったことから、未踏破の道を冒険する凄腕集団――そういう意味で『冒険者』と名付けられたらしい。
だが現代においてはその雄々しい名前とは裏腹に、体のいい使いっ走りの代名詞となっている。
特に魔物の脅威がほとんどないこの国においては、余計にその意味合いが強い。
「さて――気合い入れていくか!」
「うん。今日こそいい依頼を取りたいね」
そんな冒険者を生業としている少年・エリックと、彼の相棒である少女・ピア。
二人は景気のいい声を掛け合いつつ、いつも通りギルドへと向かった。
冒険者の仕事内容は様々。魔物退治から引っ越しの手伝い、人探しや猫探しまで多岐に渡る。
なんの仕事が取れるかは、これから始まる争奪戦次第だ。
「本日の依頼を貼り出しまーす」
ギルド内で待機していた冒険者たちが、受付嬢の声で一斉に依頼板の前に殺到する。
「うおおおお!」
エリックたちも負けじと、果敢にその中に飛び込んでいく。
押し合いへし合いの末に手に入れた依頼書は――
「皿洗い……くそ、ハズレしか取れなかった!」
「ごめん、私は鉱石の運搬……」
依頼貼り出しは文字通り戦争だ。いかに割のいい依頼を一瞬で見極め、誰よりも早く手を伸ばすか。
この国で冒険者として生きていくならば、なんらかの特技を持っているよりも、割のいい依頼を受けるほうがよほど重要だ。
多くの依頼をこなせば階級が上がる。そうなれば割のいい仕事を別口で紹介してもらえるようにもなる。
しかし、冒険者を始めて一年の二人がそのレベルに届くはずもなく。
最低でもBランクに上がるまでは、こうして朝早くからの依頼争奪戦に参加する他ない。
「取れなかったよりはマシだと思おうぜ」
「う、うん……」
しょんぼりと項垂れる二人の傍らで、当たりの依頼を引いたパーティが勝利の雄叫びをあげている。
「よしっ! スライムいただき!」
スライム討伐は『脊髄反射で受けろ』なんて格言があるほど人気のある依頼だ。
畑の作物を食い散らかすせいで農業組合の連中が目の敵にしているため、常にいい値段で依頼が出ている。
畑の作物にとっては害獣そのものだが、冒険者にとっては実入りのいい、宝箱に等しい魔物だ。死ぬ間際に悪臭を放つ体液を放出するのが玉に瑕だが、そんなことは全く気にならない。
なんにせよ、かける労力に比べればとんでもなく割がいい『当たり』の一つだ。
「いいなぁ……」
羨んでも依頼が変わるはずもない。
とぼとぼと、エリックたちは指定された場所へと歩き始めた。
「あー、しんどいぃ」
エリックが取った依頼――皿洗いを済ませ、鉱石を二人がかりで運んでいく。
依頼者がギルドから最も離れた南西側だったので、報酬を時間で割るととんでもなく低賃金の仕事だ。できることなら受けたくないが、生きるためには働くしかない。
「ったく、西にもギルド支部作れっての」
王都のギルドは東に集中していて、それ以外の地区にはない。これにはれっきとした理由がある。
東門を出た先にある洞窟。
魔窟と呼ばれるそこを中心に、災厄は姿を現すという古い言い伝えがある。
万が一の事態にすぐ対処できるよう、ギルドはもとより騎士の施設や治療所など、東地区には戦闘関連の施設が集中している。
いにしえの時代からの名残なのだが――エリックはこの一年を通して人間を脅かすような魔物を見たことがない。
無害なスライムはもとより、悪戯しかしないゴブリン、怖がりのオーク。
一つ目のギガンテスが振るう腕に当たれば無事では済まないが、常に目をこすり続けていて、見当違いの方向を攻撃するため避けるまでもない。
昔の魔物は強く、そして種類も多かったと聞く。今、魔物たちの数が少なく弱いのは、聖女が祈りを捧げているためだ。
祈りのおかげで魔物はほぼ無力化され――スタングランド王国は平和を謳歌している。
エリックがまだ子供の頃、祖父に聞かされたおとぎ話だが、もちろん彼は信じていない。
国民の大半がそうであるように、エリックも聖女否定派だ。
「はっ。なーにが聖女だよ。苦労ばっかりさせやがって」
もちろん聖女の存在と、彼がいい依頼を取れないことは全くの無関係だ。
要するに単なる愚痴であり、八つ当たりに過ぎないが、彼のように自身の不満を聖女にぶつける輩は多い。
しかし、彼の相棒は違っていた。
「ちょっと、聖女様の悪口はやめてよね」
ピアはこのご時世では珍しく、聖女を信仰していた。そのため、エリックが聖女に言いがかりをつけるたび、こうして眉をひそめて彼を睨むのだ。
「へいへい。悪うござんした」
適当に話を区切り、エリックは再び重い足取りで鉱石を運んだ。
夕方になり、ようやく仕事を終えて今日の稼ぎを手に入れる。
なんとか二人で食い繋げられる程度の小銭だ。
これがスライム退治なら遅くとも昼には終わり、稼ぎもずっと多い。
昼からもう一度依頼を受けることも、身体を休めることも思いのままだ。
「帰るか。メシ食って明日に備えねえと」
二人で宿に足を向けようと振り返ると、一組のパーティがギルドの扉を開いた。
「……あれ。スライム退治を受けてたヤツじゃないか?」
当たりの依頼を引いてはしゃいでいた二人組のパーティ。彼らの身体はぬめぬめとした液体で照り輝いていた。離れていても漂ってくる異臭――間違いなく、スライムの粘液の臭いだ。
「スライム退治のあと、また討伐依頼に出たのか?」
「エリック。二回はあり得ないよ」
いわゆる実入りのおいしい魔物討伐依頼は、パーティで一日一度という制限がある。
二度目の依頼で薬草採取などを受け、そこで運悪くスライムに粘液をかけられた……考えられるのはその辺りしかない。
「ど、どうされたんですか?」
ギルドの受付嬢がただならぬ様子の二人に事情を聞く。
なんとなく気になり、エリックはその会話に耳をそば立てた。
「……スライムが」
「スライムが?」
「とんでもなく、たくさんいました」
「……えーと」
受付嬢は返答に困っている。
応援ありがとうございます!
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1/6 hotに取り上げて頂きました!
ありがとうございます!
*お知らせは近況ボードにて。
*第一部完結済み。
異世界あるあるのよく有るチート物です。
携帯で書いていて、作者も携帯でヨコ読みで見ているため、改行など読みやすくするために頻繁に使っています。
逆に読みにくかったらごめんなさい。
ストーリーはゆっくりめです。
温かい目で見守っていただけると嬉しいです。
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