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本章
6 にかっと笑う
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「アレン~。剣と体術の稽古お願いします~」
上目使いでこちらを見てくるアクアオッジ家長女を見て、副団長アレンは大きく空を仰いでため息をついた。
くぅ。誤魔化しきれんかったとカーラはしょんぼりする。鍛錬場に置いてあるベンチまで移動だ、移動。
「はぁ~。最近は魔王が復活したとかで魔物の森も活性化しちゃって何やら不穏なのよ?い~い?危ないことには手を出さないこと!万が一何かあったらスキルの力で思いっきり!全速力で!逃げなさい!いいわね!?」
何度も真剣で手合わせしていれば、カーラの【スキルツリー】のおおもとが何なのかは分からないまでも、【身体強化】がカーラのスキルの一つであることは間違いなかった。派生しやすいスキルである【身体強化】はレベルで差異はあるものの、効果が分かりやすいせいか一般にはよく知られているスキルである。つまりアレンはスキルで脚力を強化して逃げろと言っているのだ。
「分かりました~」
過保護だなあ、と思いつつ、ソードラックからカーラの身長に合わせて鍛えられた稽古用の真剣を抜き、手に取る。稽古用といっても片刃のちゃんとした片手剣である。【身体強化】スキルがなければとてもじゃないけれど十歳の女の子が扱える重さの剣じゃなかった。
剣を持った途端カーラの顔つきが変わった。真剣を手に取るときはちゃんと心構えをしなさい、という父の教育の賜物であった。何より真剣を持つと心が凪ぐし、世界が静まり返る。
そんなカーラの変化を好ましく思いながら、アレンは自らの両刃剣をゆっくりと抜く。シュルンという手入れの行き届いた金属音が微かにして、抜き身の剣を持った二人が自然に向かい合った。
先に仕掛けたのはいつものようにカーラだった。
彼女は誰に学ぶともなく、対する相手の筋肉の加重によって次にどう動くかが見えていた。
太刀筋が横腹を薙いだかと思われたが、その軌道は充分予期出来るものだったのかアレンは剣で受け止める。金属同士のぶつかり合う音がして、彼女の横薙ぎは初動であっけなく阻まれてしまう。
カーラはにかっと笑った。
筋肉の僅かな動きを先読みする術は既に真剣稽古をする者たちには伝えてある。
止められるのは予想の範囲内。
身長差のせいで上段にかぶれないから、繰り出す剣技のバリエーションは限られる。剣の長さの違いもあり、剣の届く距離まで大人より余分に相手の懐に入らねばならない。
なので、剣と剣とがぶつかり合った箇所を支点として、カーラは宙を飛んだ。
素早くアレンの背後に回り、剣を繰り出すつもりだったが、さすがの副団長。その手までも読んでいて、剣と剣とを支点にしたカーラの動きも予測し、大きい図体を物ともせずくるりと軸足を替えると、彼女の着地予測地点に身体を向け体勢を整える。
「あーっもう!アレンて全然引っ掛からないよねっ」
軽やかに着地したカーラが残念そうに言う。同時に剣を地面に突き刺して、これ以上剣での勝負は無駄とばかりに体術の型を取った。
「筋肉の動きを見て先んじろって言ったのはカーラ嬢よぉっ!」
カーラの動きを汲み取って剣を鞘に納めると、彼女に指南したのと同じ体術の型を取る。
間髪置かず接近してそのまま下段、中段と踏み込み拳を打ち込むと、カーラが嬉しそうにアレンの拳を受け止めた。
アレンは密かに驚嘆する。
昨日までは後ずさってたのに、このアタシの重い拳を今日は全く動かず受け止めるなんて!スキルレベルが上がってる!?それにしてもスキルレベルの上がる速度が速すぎない!?
アレンのスキルは【体術スキル】であり、【身体強化】も派生している。騎士同士の体術ではアレンは負け知らずだった。
アレンの中段はカーラの頭部上段。それを物ともせず受け止めたカーラはそのままアレンの片手拳を掴んで離さない。
「どっせーい!」
一声上げながらものすごい怪力でアレンの身体を持ち上げ宙に浮かせると、地面に放り投げた。
宙を飛ぶのは今度はアレンの番だった。放り投げられて地面に叩き付けられるかと思いきや、身体をすかさず反転させ着地する。
――とそこで拍手が巻き起こった。いつの間にか走り込みを止めて騎士団の皆がギャラリーと化していた。
上目使いでこちらを見てくるアクアオッジ家長女を見て、副団長アレンは大きく空を仰いでため息をついた。
くぅ。誤魔化しきれんかったとカーラはしょんぼりする。鍛錬場に置いてあるベンチまで移動だ、移動。
「はぁ~。最近は魔王が復活したとかで魔物の森も活性化しちゃって何やら不穏なのよ?い~い?危ないことには手を出さないこと!万が一何かあったらスキルの力で思いっきり!全速力で!逃げなさい!いいわね!?」
何度も真剣で手合わせしていれば、カーラの【スキルツリー】のおおもとが何なのかは分からないまでも、【身体強化】がカーラのスキルの一つであることは間違いなかった。派生しやすいスキルである【身体強化】はレベルで差異はあるものの、効果が分かりやすいせいか一般にはよく知られているスキルである。つまりアレンはスキルで脚力を強化して逃げろと言っているのだ。
「分かりました~」
過保護だなあ、と思いつつ、ソードラックからカーラの身長に合わせて鍛えられた稽古用の真剣を抜き、手に取る。稽古用といっても片刃のちゃんとした片手剣である。【身体強化】スキルがなければとてもじゃないけれど十歳の女の子が扱える重さの剣じゃなかった。
剣を持った途端カーラの顔つきが変わった。真剣を手に取るときはちゃんと心構えをしなさい、という父の教育の賜物であった。何より真剣を持つと心が凪ぐし、世界が静まり返る。
そんなカーラの変化を好ましく思いながら、アレンは自らの両刃剣をゆっくりと抜く。シュルンという手入れの行き届いた金属音が微かにして、抜き身の剣を持った二人が自然に向かい合った。
先に仕掛けたのはいつものようにカーラだった。
彼女は誰に学ぶともなく、対する相手の筋肉の加重によって次にどう動くかが見えていた。
太刀筋が横腹を薙いだかと思われたが、その軌道は充分予期出来るものだったのかアレンは剣で受け止める。金属同士のぶつかり合う音がして、彼女の横薙ぎは初動であっけなく阻まれてしまう。
カーラはにかっと笑った。
筋肉の僅かな動きを先読みする術は既に真剣稽古をする者たちには伝えてある。
止められるのは予想の範囲内。
身長差のせいで上段にかぶれないから、繰り出す剣技のバリエーションは限られる。剣の長さの違いもあり、剣の届く距離まで大人より余分に相手の懐に入らねばならない。
なので、剣と剣とがぶつかり合った箇所を支点として、カーラは宙を飛んだ。
素早くアレンの背後に回り、剣を繰り出すつもりだったが、さすがの副団長。その手までも読んでいて、剣と剣とを支点にしたカーラの動きも予測し、大きい図体を物ともせずくるりと軸足を替えると、彼女の着地予測地点に身体を向け体勢を整える。
「あーっもう!アレンて全然引っ掛からないよねっ」
軽やかに着地したカーラが残念そうに言う。同時に剣を地面に突き刺して、これ以上剣での勝負は無駄とばかりに体術の型を取った。
「筋肉の動きを見て先んじろって言ったのはカーラ嬢よぉっ!」
カーラの動きを汲み取って剣を鞘に納めると、彼女に指南したのと同じ体術の型を取る。
間髪置かず接近してそのまま下段、中段と踏み込み拳を打ち込むと、カーラが嬉しそうにアレンの拳を受け止めた。
アレンは密かに驚嘆する。
昨日までは後ずさってたのに、このアタシの重い拳を今日は全く動かず受け止めるなんて!スキルレベルが上がってる!?それにしてもスキルレベルの上がる速度が速すぎない!?
アレンのスキルは【体術スキル】であり、【身体強化】も派生している。騎士同士の体術ではアレンは負け知らずだった。
アレンの中段はカーラの頭部上段。それを物ともせず受け止めたカーラはそのままアレンの片手拳を掴んで離さない。
「どっせーい!」
一声上げながらものすごい怪力でアレンの身体を持ち上げ宙に浮かせると、地面に放り投げた。
宙を飛ぶのは今度はアレンの番だった。放り投げられて地面に叩き付けられるかと思いきや、身体をすかさず反転させ着地する。
――とそこで拍手が巻き起こった。いつの間にか走り込みを止めて騎士団の皆がギャラリーと化していた。
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