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第一章
幕間1 エリアスは考える④
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ハインリヒ様の執事長が今の時間にいそうな、館にある執務室の隣室に置いてある魔法陣の数字を書き込む。
あ、ちょっと魔法陣を雑に書き過ぎた。転移するまでに視界が微妙に揺れている。
ここにいるだろう、という見当は当たっていた。
転移すると、執事長のベネディクトが、部屋に置いてある小さな机で、書類を精査している最中だった。
「おや、エリアス様。どうなされましたか」
さすが、ハインリヒ様の執事長。全然動じないね。
「ハインリヒ様が、サラディーヌ様と一緒に、当分の間塔に籠るそうだよ。取り敢えず数着でいいから着替えの手配を頼めるかな。あと、魔狼の返り血を大量に浴びたから、今着られるように、ガウンを持っていきたい」
「それはそれは。かしこまりました。少々お待ち下さい」
「あと、転移魔法陣を塔の最上階に設置した。数字は…これね」
杖を呼び出して、空間に数字を書き込む。
しばらくすると数字はユラリと空間に揺蕩って消失した。
侍従長が了解の印に頷いて、別の部屋に移動していく。ガウンを取りにいってくれたんだろう。
いちいち説明しなくても、最良の働きをしてくれる執事長は、世間にはそんなにいないよな。有能で何よりだ。というよりも、ハインリヒ様自身が有能過ぎるから、無能は勝手に淘汰されちゃうんだけど。何せ、俺たちに出来ることは全て、ハインリヒ様には出来るけど、その逆は不可能なことが多い。
便宜上、公爵家の館、とは言っているが、どう見ても、誰が見ても、ここは城です。
正確には、公務や社交の場は石造りの頑健な城のほうで行われ、城壁の内側に建てられた館が居住区となっている。
難攻不落の城として、内外に有名な城だった。
この国に存在する四大公爵家の頂点、筆頭公爵家と呼ばれるザフィーア公爵家の住まいなのだから当然だ。
「ガウンをお持ち致しました」
「ありがとう。それじゃ戻るね」
去ろうとすると、ベネディクトが、手をちょっとだけ伸ばして引っ込めた。
感情を表わさない彼には、とても珍しい動作だった。
「……サラディーヌ様は…」
…ああ、そうか。彼は。カリンメテオール様を、この世界から逃がした一人だった―――
「ご無事に成長なさってたよ。俺が到着した時には、気を失ってしまわれてたけど。母君譲りの美しい黒髪だった」
初めて見るベネディクトの微笑が、得難い価値のあるものだと思える。
早く、こっちの居室を使えるように出来るといいんだけどな。
あ、ちょっと魔法陣を雑に書き過ぎた。転移するまでに視界が微妙に揺れている。
ここにいるだろう、という見当は当たっていた。
転移すると、執事長のベネディクトが、部屋に置いてある小さな机で、書類を精査している最中だった。
「おや、エリアス様。どうなされましたか」
さすが、ハインリヒ様の執事長。全然動じないね。
「ハインリヒ様が、サラディーヌ様と一緒に、当分の間塔に籠るそうだよ。取り敢えず数着でいいから着替えの手配を頼めるかな。あと、魔狼の返り血を大量に浴びたから、今着られるように、ガウンを持っていきたい」
「それはそれは。かしこまりました。少々お待ち下さい」
「あと、転移魔法陣を塔の最上階に設置した。数字は…これね」
杖を呼び出して、空間に数字を書き込む。
しばらくすると数字はユラリと空間に揺蕩って消失した。
侍従長が了解の印に頷いて、別の部屋に移動していく。ガウンを取りにいってくれたんだろう。
いちいち説明しなくても、最良の働きをしてくれる執事長は、世間にはそんなにいないよな。有能で何よりだ。というよりも、ハインリヒ様自身が有能過ぎるから、無能は勝手に淘汰されちゃうんだけど。何せ、俺たちに出来ることは全て、ハインリヒ様には出来るけど、その逆は不可能なことが多い。
便宜上、公爵家の館、とは言っているが、どう見ても、誰が見ても、ここは城です。
正確には、公務や社交の場は石造りの頑健な城のほうで行われ、城壁の内側に建てられた館が居住区となっている。
難攻不落の城として、内外に有名な城だった。
この国に存在する四大公爵家の頂点、筆頭公爵家と呼ばれるザフィーア公爵家の住まいなのだから当然だ。
「ガウンをお持ち致しました」
「ありがとう。それじゃ戻るね」
去ろうとすると、ベネディクトが、手をちょっとだけ伸ばして引っ込めた。
感情を表わさない彼には、とても珍しい動作だった。
「……サラディーヌ様は…」
…ああ、そうか。彼は。カリンメテオール様を、この世界から逃がした一人だった―――
「ご無事に成長なさってたよ。俺が到着した時には、気を失ってしまわれてたけど。母君譲りの美しい黒髪だった」
初めて見るベネディクトの微笑が、得難い価値のあるものだと思える。
早く、こっちの居室を使えるように出来るといいんだけどな。
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